6 正義の味方2
「まあそう言うわけで、着いて来ちゃったわけでちのよ」
シエルは町でのことを話し終えると、やれやれといった様子で、騎士を、ラルフとブランに紹介した。
「やあ、あんたがラルフか。で、そっちがブランだな。オレの名前はアッサム。でも町のみんなは騎士って呼んでるんだ。だからあんたたちも、騎士って呼んでくれていいぜ」
騎士はそう言うと、目出しマスクを取って、畏まって跪くようにして挨拶した。
「何回見ても、男前でちわねえ」
シエルは騎士のキリッと吊り上がった目を、うっとりと見つめると、ピロロロピロロロとご機嫌で歌っている。
「オレが仲間になったからにはもう大丈夫さ。ファイヤースターでもなんでも、オレが守ってやるよ。なんせオレは、正義の味方だからな」
騎士は調子に乗って、また目の前の見えない敵とでも、闘っているかのような身振りをした。
しかし、騎士の話を黙って聞いていたラルフが、ここで口を開いた。
「キミには申し訳ないが、ボクは人間が嫌いなんだ。身勝手で、傲慢で。ボクたち森の動物は、いつも人間たちに脅かされてきた。悪いが、ボクは仲間にはなれないよ」
「そうさ。ボクのお母さんも人間に殺された。人間は敵なんだ」
ブランも悔しそうに言った。
「なんだ、そうか。つまり、ラルフもブランもオレのことが恐いんだな?」
騎士のその言葉に、ラルフが即座に反応した。
ウウウゥゥゥーーーッ。
今にも飛びかかる勢いで、騎士を鋭い目で睨みつけると、ラルフは言った、
「なんだと?ボクはオオカミのリーダーだ。人間が恐くてリーダーなんかやっていられるかっ」
「わあぁっ、おっかねえ」
ラルフの剣幕に驚いて、騎士は地面を蹴って、頭上の木の枝に飛び移った。
「噛み殺されちゃたまんねえよ」
枝の上で騎士はブツブツと独り言を言っている。
「どっちにしろ、人間と仲間になるなんて、ボクはごめんだよ」
ラルフは騎士からプイッと顔を背けると、シエルに向かって、
「町は避けて、遠回りでも山の中を行こう。シエル、進行方向はどっちだ?」
と尋ねた。
シエルが答えるより先に、騎士が口を挟んだ。
「ちょっと待った。オレがいれば、町の中を通るなんて簡単なことさ。なんせオレは、あの町の正義の味方、騎士だからな。仲間にしてくれるなら、町のみんなにはオレがちゃんと頼んでやるさ。オオカミとクマも仲間だから通してやってくれってさ」
「なんだよ、偉そうに」
ブランが騎士に突っかかった。
しかしステラはその言葉を遮るように、
「そうね。町を突っ切って行けるなら、ずいぶん近道になるわ。ここは騎士の力を借りた方がいいかもしれないわね」
と言ってラルフの方を見た。
「なるほど。ステラはどうやら、キミが仲間に加わることに賛成のようだ」
ラルフはそう言うと、しかし騎士を見ながらさらに言葉を続けた。
「だが、人間の足では、ボクたちのスピードに着いてくることはできないよ。移動に時間がかかるのは困るんだ」
するとさっきとは打って変わって、ステラも顔を曇らせて、
「そうねえ。確かにラルフの言う通りだわ。町を通るのはいいとして、その後もまだ道のりは長いわ。ごめんなさい、騎士。わたしたちは、先を急いでいるの」
と、申し訳なさそうに言った。
しかし騎士は、全くそんなことは意に介さない。
「ステラ、言ったはずだぜ、オレは騎士として、日々訓練を積んでるって。スピードなら誰にも負けないぜ。動物たちにも、もちろん、オオカミにもね」
騎士はそう言うと、野生の動物のような素早い身のこなしで、すぐ側の木を登ったかと思うと、あっちの木からこっちの木へと次々に飛び移り、軽々と山を移動してみせた。
「すごいね。どこに行ったかわからなくなっちゃったよ」
ブランが目を丸くしている。
すると今度は、騎士は山の上の方から、ものすごいスピードで走り降りて来た。
「へへへっ、どんなもんだい。オレをなめてもらっちゃ困るぜ。この辺りの山は、オレの庭だからな。お手のものさ」
「なるほど。キミを少し見くびっていたようだ。じゃあこうしよう。みんなが賛成なら、ボクはキミが仲間に加わることには反対しない。だが、ボクはキミのことは信用しないよ。なぜなら、ボクは仲間を守りたいからね」
「おーし。じゃあ今日からオレも仲間ってことでいいよね。ね、ね、ね」
騎士はみんなの顔を見回してそう言うと、興奮して、ウヒョーッと声を上げた。
そしてまた木から木へと飛び移って、どこかに消えたかと思うと、全力で駆け戻ってきた。
「どこまでもお気楽でちわね」
シエルが呆れたように、騎士の上をグルグルと旋回した。
しかしブランは不安そうに、
「でもボクはやっぱり人間が恐いよ、ステラ」
とステラに向かって訴えた。
「ボクがついてるから大丈夫さ」
ラルフがそう言うと、ステラは、
「わたしには、そんなに悪い人とは思えないわ」
と言って、ブランに向かって微笑んだ。
こうして、何はともあれ、ファイヤースターを探す旅に、騎士が新たに加わることになったのだった。
読んでもらえてとてもうれしいです。
評価&感想いただけると泣いて喜びます。
そしてブックマークいただけましたら、、、
めっちゃ頑張ります!
どうぞよろしくお願いします^_^




