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赤い髪のステラ  作者: ねむりにゃんこ
第五章 変身
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2 覚醒

 あまりに残酷なラルフの姿に、ステラは打ちひしがれていた。


 しかし、そんなステラの感傷を吹き飛ばす勢いで、シエルがバタバタと羽をバタつかせながら、大声で喚いた。


「ステラ、さあ、癒しの風を起こすでちよ。ラルフはオオカミのリーダーでち。死ぬわけがないでちよ。ギーッ、ギーッ、ギーッ」


「そうね。ラルフは死んだりしない」


 ステラは顔を上げて、涙を拭いた。

 

 悲しみに支配されたままでは、愛と癒しを起こすことはできない。

 シエルに勇気づけられて、ステラは、自分の中の悲しみの意識を、愛と癒しに変えようと、気持ちを集中した。


「ステラお姉ちゃん、ラルフお兄ちゃんを助けて」


 ステラは頷きながら、元気なラルフの姿を脳裏に蘇らせた。


 優しいラルフ、勇敢なラルフ、少しお茶目なラルフ。

 そのすべてが愛しかった。

 更にステラは、愛と癒しの星に生まれ変わった未来の地球を、頭に思い描いた。

 そこにラルフと一緒に生きている未来を。


 ―ラルフは必ず蘇る。


 ステラは、山の奥底の地球の源に意識を潜らせた。

 そこには、地球を守り育てる勇気と知恵があった。

 厳しさに育まれた、偉大なる山の勇気と知恵だ。


 ステラはその『偉大なる山の勇気と知恵』を掬い上げると、山を吹き渡る神聖なる青い風に乗せた。

 そして、手を高く掲げて天を仰ぎ、細く差し込む陽の光に腕輪をかざした。


「ラルフを救って、お願い」


 光を受けた透明な腕輪からは、虹色の光線が放射線状に広がった。

 そして、勇気と知恵を乗せた青色の風に、その虹色の光が溶けて山の中を吹き渡ったのだった。


 ゴーッ、ゴーッ、ゴーォォォォッ。


 木々が激しく揺れて、吹き渡る風の音が、山全体に地鳴りのように轟いた。


 ―怖い。


「木枯らしみたいでちね」


「ねえ、シエル、風の音が怪獣みたいで、ボク、怖いよ」


 落ち葉が空高く舞い上がる。


 ヒューヒュー、ビューーーーッ。


 猛り狂った聖なる風は、自由に、そして強く激しく、容赦なく山を駆け巡った。

 龍のように木々の間を縦横無尽に走り抜けて、山に積もり染み付いたすべてのものを、剥ぎ取っていったのだった。


 やがて風は止み、清らかな空気が山を覆った。


「フゥ、やっと風が止んだでち」


「清々しいわね。緑が輝いてるわ」


 光の粒が反射して、キラキラと空気が輝き、そしてそこに、今度は大きな愛と癒しが降り注いだ。


 愛と癒しによって、草木は芽吹き、蕾をつけ、そして、、、。


 ポンッ、ポンッ、ポンッ。


 蕾は一瞬にして、開花した。


 風によって、深緑の山は青色に変化し、そして次に、色とりどりの花の山へと変貌したのだった。


「ステラお姉ちゃん、すごいね、花がいっぱいだよ」


「ああ、なんて美しいのかちらね。あたちは幸福の青い鳥。ピロロロピロロロ、、、」


 シエルが木々の間を、気持ちよさそうに飛び回る。


 ステラは、そばに咲いていた白い花にそっと手を触れた。

 瞬間に、ハートアクティベーターがチャージされた。


 そして、、、。


 ―ん、、、? えっ、、、。

 

 突然、ステラの体に、引き裂かれるような痛みが走った。


「うっ、、、うぅぅ。何なの、、、?一体、、、」


 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 ステラは、あまりの痛みに絶叫した。

 体の中に新しい何かが湧き起こり、突き破ろうとしている。


 ステラは、自分の体に起こった変化に耐えきれず、地面をのたうち回った。


 ―一体何が起こっているの、、、?


 ステラは恐怖を感じた。


 ミシミシミシ、、、。

 バリバリバリッ。


 ついに、湧き起こった何かが体を突き破る。

 ステラの骨と筋肉が壊れる音が響いた。


「ぐぁっ、、、あぁぁぁっ」


 あまりの痛みに、ステラは意識を失った。


「ステラっ」


「ステラお姉ちゃんっ」


 シエルとブランには、しかしなすすべもない。

 ステラの変化は止まらない。


 ステラの体はひとまわり大きくなり、少女のような体つきから、大人の女性へと変貌していった。


 まるで(さなぎ)が蝶になるように、美しく、そして強く逞しい姿へと変わっていった。


 筋肉は隆起し、ステラはしなやかさと強さを備えた、逞しい肢体に生まれ変わったのだ。


「ステラお姉ちゃんっ」


「ステラ、大丈夫でちか」




「うっ、うぅぅ、、、」


 痛みから解放され、意識を取り戻したステラは、自分の体をマジマジと見つめた。

 

 ―すごい筋肉だわ。


 恐る恐る手で触れてみると、元々の華奢な体からは想像もつかないほど、肩や手足の筋肉が盛り上がって、がっしりとしている。


 ステラは立ち上がると、試しに今降りてきたばかりの急斜面を駆け上がり、また一足飛びで降りてきた。

 さっき四苦八苦したのが、嘘のように軽々だ。


 落ちていた石を拾い、握った手に力を込めると、石はグシャッと潰れた。


「ステラ、すごいでち、、、」

「ステラ姉ちゃんが、怪物になっちゃった」


 シエルとブランは唖然としてステラを見つめた。


 

読んでもらえてとてもうれしいです。

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