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第七話 ついに暴かれた真実

「ええ!? 先輩仕事辞めちゃうんですか!?」

「そうだ、浅沼後輩。俺は長年の夢だった地方に移り住んで悠々自適に暮らすのだ」


 長年の夢(先週思いついた)だけどな。


「そんなぁ、辞めないでくださいよ。あそこの部署、私をえっちぃ目で見てこないの先輩だけなんですよ?」

「なんだ? その自意識過剰な台詞、そんなことないだろ? 他にも──」


 会社での、今まで昼食時やら帰宅時やらの記憶が脳裏に蘇り、

『浅沼くん、今日どうだい? 僕がおごってあげるよ?』

『静香ちゃん、いいだろ? 今夜、俺に付き合ってよ』

『浅沼、今日もかわいいな。お?飯まだ? 一緒にどうだ?』

『うるせぇ!!! 行こう!!!』(どんっ!!)

 浅沼後輩を誘う上司や同僚連中の顔が頭に浮かぶ。なんだこれ、うちの部署やばくね?


「あー、ほれ、うん、まあ。────なんか、他にもいただろ? な? うん、いた」

「誰一人として、思いついてないじゃないですか!」

「いや、ほら。──あ! 守衛さん!」

「あの人、もう70歳超えてるんですが……多分、お孫さんよりも若いですよ。私」


 うちの会社、ホワイトだけどまさか社員は頭ピンクだとはな。

 浅沼後輩がまるで逆ハーレム物の主人公に見えてきたぞ。

 大体、浅沼後輩が美人なのはわかるが、ガツガツ行きすぎじゃないか? 所詮、浅沼後輩だぞ?


「所詮、浅沼後輩だぞ?」

「はぁ!? 先輩私のこと、いったいどう見てるんですか!」


 あ、しまった。最後だけつい声に出てしまった。

 なんとか誤魔化せねば。


「もちろん、最高に可愛い後輩だと思ってるよ。素直で気が利いていて、プフッ、やさしくてさ──」

「せめて笑わずに言えっ!!」

 

 棒読みプラス途中で吹き出してしまった俺に対して、浅沼後輩は敬語も忘れて焼いていたスルメを、俺の顔面にベチィと投げつけてきた。アツゥイ!


「浅沼さんだめですよ。食べ物を粗末にしたら」

「あっ、す、すいません。つい……」

「久仁雄くーん。俺の心配をしてよ」

「流石にさっきのはふみさんのほうが悪いです。だめですよ、からかったりしちゃ」


 投げつけられたスルメをもっしゃもっしゃと食いながら、久仁雄くんに甘えてみたが、たしなめられてしまった。

 いじけるぞ? 30のおっさんが年甲斐もなく、いじけてしまうぞ? いいのか?


「全くふみさんは……この前、リスナーさんから頂いた日本酒です。一緒に飲みましょう」

「わーい、おっさん日本酒大好きー」

「言ってることもやってることも、可愛くないですよ先輩」


 グダグダと話しながら、2回目にしてこの雰囲気になれつつある浅沼後輩も交えて、飲んでいるとチャイムが鳴った。


「あれ? 誰か来ました?」

「すみません。僕が五十嵐さんに頼み事をしたので、それだと思います」


 久仁雄くんがスマホを取って、アプリを立ち上げ、来客者の顔を確認していた。


「あ、五十嵐さんすみません。もう仕事ないと言いながら頼み事してしまって」


 スマホの向こうにいるであろう、五十嵐さんに向かって喋っているが久仁雄くんの声は聞こえても、五十嵐さんの声は聞こえない。

 そういう仕様らしい。


「今、開けますね」


 久仁雄くんがそう言ってからスマホを操作する。

 一拍置くとドアの開く音が聞こえた。


 それから、この部屋のドアがノックされ、「どうぞー」という、久仁雄くんの返事でドアが開かれた。

 そこには意外性もなんにもなく、もちろん五十嵐さんが立っていた。


「夜分遅くにお邪魔いたします。こちら頼まれていたものをプリントアウトしてきました」


 そう言ってペコリと頭を下げた。

 いつもの小豆色のジャージ姿で。


「……? ……! ……!?」

「どうした!? 浅沼後輩! 鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるぞ。マジでそんな顔するやつ初めて見たぞ!」

「え!? いや! ジャージって。しかも芋ジャー」

「? 私は帰宅したら、いつもこの格好ですが?」


 俺たちは見慣れたけど、初見の浅沼後輩は驚いたみたいだ。すごい顔芸だったぜ。


「なんというか、イメージが崩れました」

「細かいことは気にするなよ。それより五十嵐さんもせっかく来たんだし、飲んでいく?」


 五十嵐さんはちらりと久仁雄くんを見て、久仁雄くんがうなずいたのを確認したら、「いただきます」と言って、久仁雄くんと俺との間に座った。


「いつものでいい?」

「はい、私はそれ以外はあまり飲みませんので」


 俺はウォッカと世界一の飴を取り出して、ウォッカに飴を砕いて入れ軽く混ぜてから渡した。


「ありがとうございます。やはりこれですね。最初からお酒になっているやつは、あまり癖がなくていけません」


 五十嵐さんは匂いを嗅いで、黒くなりつつあるウォッカをなめるように飲み始めた。


「先輩、あれなんです? 黒くなっていってるんですけど」

「ああ、ウォッカにサルミアッキを混ぜたものだよ」

「サルミアッキってあの!?」


 サルミアッキといえば、世間一般で言う世界一まずい飴だ。


「そう、そのサルミアッキ。世界一のやつ。食ってみる?」

「いやですよ! さっきジュースで騙されたんですから!」

「一回食っとけば、話のネタになるぞ? それに、言うほどまずくないし」


 そう言いながら俺はサルミアッキを一個、口の中に入れてもぐもぐと食べ始めた。


「ひぇ、大丈夫なんですか?」

「うん、まずいぞ」

「……案外、平気そうですね。ちょっと気になってきました」


 一粒手に取って、クンクンと匂いを嗅いで、大した匂いもしないので平気そうだと首を傾げる。そうした後にぽいっと口の中へ入れた。

  

 うん、浅沼後輩のそういうなんでも試してみるとこ良いぞ、だが、こいつは慣れていないと、作ってる所には悪いがものすっごいきついぞ。

 ぶっちゃけ、俺も今口の中すごいことなっているが、味覚と感情を切り離して平然とした顔をしている。


 こいつには久仁雄くんも騙された。

 その久仁雄くんは渡されたプリントを見ていてこのやり取りは見ていない。久仁雄くんの集中力はすごいのだ。

 さすがに、止められるから読み始めたのを確認して行動したんだけどな。



 世界一まずいという前情報から、目の前で食べてみせ、まずいけど平気だよ?というハードルを下げてからの劇薬。


 目の前で口を押さえて、硬直し冷や汗をかきまくる浅沼後輩が結果だ。

 ゴムの匂いと塩化アンモニウムのダブルパンチだ。

 俺は予め用意していた、ティッシュにサルミアッキを吐き出して、「ふう、きつかった」と一息ついた。


 その横で「浅沼様、そこでこれを飲めば、さらに美味しいですよ」と言って、五十嵐さんがサルミアッキのウォッカ割を渡そうとしている。

 すごいぜ、五十嵐さん。とどめを刺す気だ。


 そう、五十嵐さんは浅沼後輩と違って、外見も行動も言動もクールビューティー。だが趣味嗜好に於いて残念美女なのだ。

 なぜ俺が浅沼後輩の残念美女に慣れているのかと言うと、五十嵐さんという前例がいたからなのだ! ついに! 暴かれた真実! 


 って? あれ? どうした浅沼後輩、俺の顔をがっちり掴んで。

 ま、まて口移しで渡そうとするな。

 覚悟してないと俺も厳しいんだ。

 やめろ、うら若き乙女がはしたない! んあーーー!

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[良い点] 面白い ダンジョンに関わってレベルがわかった後もこういう日常パートは続けてほしいです [気になる点] 万人受けしない味も継続して作り続ける人の業よ そしてネタで食べる、食べさせられる犠牲者…
[一言] マヨネーズどら焼きとかたこ焼き羊羹とか牛タンドロップとかみたいな「食べ物で遊んじゃいけません」を体現してるのよりよっぽど食べ物してると思うんよサルミアッキ
[良い点] この分だとそのうちカップヌ○ドルソーダとかも飲まされそう
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