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秘密の宝物

 目を輝かせるクレールを見、ブライトは大げさに首をがくりと落とした。


「ほれ、この通りの正直者だ。ウチの可愛い姫若さまはな、正直者が過ぎて、命がけで隠さなきゃならねぇ秘密でも、胸の内に納めておくのが苦手なお方なんだよ。

 そこが良いところなンだが、そうも言っちゃぁいられない」


 顔を伏せ、わざとらしい落胆の声を上げる。

 ブライトの目元と口元に浮かんでいる歪みを、嬉しげで優しい笑みと見たのはクレールだけだ。

 彼の、下から覗き込む角度で自分を(にら)む眼光は、シルヴィーには威圧以外の何物とも思えない。


「いいかね最高演技者(エトワール)

 俺にはね、あんたの口を無理矢理塞ごうなんて気は更々ないのさ。そんなことをしたら、俺が姫若に叱られちまうからね。

 でも確認はしないといけないンだ。解るかね?」


 低く小さな声が床を這い、足下から聞こえた気がした。シルヴィーの奥歯が鳴った。


「わたしの……勘違いでした。若様が姫様に見えたのは、わたしの思い違いです。わたし独りの……独り合点でした」


 ブライトが顔を上げた。破顔(はがん)していた。ただし、奇妙にこわばった笑顔だった。どこから見ても作り笑いだと解る顔だ。

 誰が見ても偽物とは解らない自然な笑顔を、平然と作ることができるこの男が、いかにもわざとらしく笑ってみせるのは、硬い笑顔を脅迫の道具として使うために他ならない。

 彼の思惑通り、シルヴィーは彼の怒りが収まっていないと感じていた。何もかも正直に言わなければ、どんな恐ろしい目に遭うか知れないと思いこんだ。


「まさかその勘違いをだれぞに話したりしたなんてコトは、しないだろうね?」


 問われて、彼女は小刻みに首を縦に振った。

 ブライトの笑顔が、一層硬質になった。


「もう一つ()かせてもらおうかね。大体、どうしてそんな()()()をしたンだね?」


 それこそが一番の問題点だった。

 確かにエル=クレール・ノアールは剣士としては細身で小柄だが、女性としてはむしろ大柄の部類に入ろう。

 背丈は同じ年頃の娘達よりもゆうに頭一つ分は高いし、肩幅も拳二つ分は広い。

 どちらかというと着やせする体型であり、また、男物の衣服では腰を締め付けたり胸を持ち上げたりすることがないが故に、胸元や腰回りの丸みは目立たない。

 実用性を重視するのが好みであるから、身につける物全般について、デザインはすこぶるシンプルな物ばかりとなる。いわゆる「女性らしい華やかな装飾」は、むしろ毛嫌いさえする。

 それでも、女性である。顔立ちは当然女性的だ。が、化粧気もなく髪型にも頓着しないものだから、柔らかい面立ちであってもまだ年若い「少年」であると主張すれば、皆納得する。


 だが、シルヴィーは女と見破った。

 それがブライトの気に入らなかった。

 クレールが女であり、そして四年も昔に死んだはずのミッドの公女であると他人に知れることは、彼女の身の安全のためにあってはならない。

 それになによりも、


『つまらない男物の布っ切れの下に、信じられねぇくらい可愛らしい()()()()()()()が隠れてるってぇことを、他の野郎に知られてたまるか』


 それは自分だけが知る秘密であり、宝でなくてはならない。

 不機嫌が募る。

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