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台本の役目

 マイヨールの頬に朱が差した。

 少しばかり元気な声で


「字の読める者の分だけこさえるのが、ウチのやり方なんです。

 読めない連中に配ったところで、読めないんだから意味がないでしょう?

 連中には、私あたしが直接演技指導するんで、問題はありませんしね。

 つまり、――こりゃウチの劇団では、ですけども――台本なんてものは(あたし)と座長の分、併せて二冊作れば、ウチでは十分なんですよ。

 それを、あの禿団長と来たら、両方とも持って行きやがった……。

 もっとも(あたし)が書いたモノですから、(あたし)の頭の中には全部筋が入ってますし、役者も踊り子も全幕暗記してます。何の不都合もない」


「それにしちゃあ、ずいぶん慌てているようじゃないか」


 突き出していた手に何も渡されないと知ると、ブライトはその腕をさらに伸ばし、マイヨールの襟首を掴んで引き上げ、彼を強引に立ち上がらせた。


「そりゃ、こんなことになったら誰だって慌てもしましょうよ。今まで憶えたことと違うことを、急にやらなきゃならなくなったんですからね」


「『台本』と違う演技、か?」


「少しばかり。ま、大人の事情ってやつで」


 マイヨールは(あぶら)(あせ)をぬぐい、答える。


「どういう事ですか?」


 クレールはブライトへ向けて質問を投げた。


「この阿呆が書いた筋書きの通りの芝居は勅使の前で演るわけにはいかないってことに、どうやらこの阿呆も気付いてはいるらしいと言うことですよ、姫若。

 そんなことをしたら、手鎖じゃ済まない。火あぶり打ち首(ごく)(もん)(さら)し者になってもおかしくない。

 だからこの阿呆は慌てて筋を書き直した」

 ブライトの目玉が、マイヨールのそれを睨み付ける。

 彼は頬を引きつらせつつ、


「そんなに阿呆阿呆と繰り返さなくても……。

 大体、直したと言っても、それほど大きく変更した訳じゃありません。役者の衣裳やら振り付けやら、そのあたりを少しだけ、ね」


 右の人差し指と親指を重ね、一寸ばかりの隙間を作ると、愛想良い笑顔を頬の上に浮かべた。

 彼は胸を張って、声音を高くした。


「その少しの違いが踊り手には厄介なもですから、騒ぎ立てているってだけですよ。

 筋そのものは変わってません。ガップの皇弟殿下の書いたものと、実際の芝居とを見比べていただけば、それで原本と台本の突き合わせをしたのと同じ事です」


 だが言い終えると、急に背を丸めて、声を落として言葉を繋いだ。


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