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大仕掛け

「回り舞台ってやつでございますよ、若様。

 そこの丸く並んだ柱が丸い床を支えてましてね。それぞれにに力自慢の道具方が取り付いて押しますと、舞台の上の丸い床がセットも役者も乗せたままぐるりと回るという(あん)(ばい)です。

 そうやって場面転換をすると、時間も場所もあっという間に飛び越えられるというダイナミックな仕掛けでございましてね」


 喜々としてマイヨールが答える。


「それからあっちのハンドルで道具幕……つまり背景を書いた布きれですが……それを上げたり下げたり。

 あっちのレバーでいろんなもの、太陽やら月やら、描き割りの群衆やら、そういう仕掛けを出したり引っ込めたり。

 言ってみたら、ここは劇場の心臓です。

 お客さんからはまるきり見えない地べたの下だが、ここが真っ当に動いてくれなきゃ、いくら役者や踊り子が舞台の上で頑張っても見栄えの良い芝居にはならない……逆もまたしかり、ですけどね」


「常設の大劇場ならまだしも、旅回り一座の掛け小屋にゃあっちゃならない小細工だ……」


 ブライトは立廻し柱の一本を軽く叩いた。


「仕掛けものをバラして運ぶのも大変だろう。荷物が増える」


 刺すような視線をマイヨールに投げる。


「ええ、大変ですよ」


 マイヨールは一瞬目を閉じた。いや、閉じる直前で瞼は止まった。

 針のように細くなった目は、柔和に笑っているとも、鋭く睨んでいるともつかぬ表情を作った。

 しかし彼の団栗眼はすぐに大きく見開かれた。円形に並ぶ柱の中央までひょいと跳び、そこに据えられた革張りの木箱に取り付く。

 木箱にはなにやら機関からくりが仕掛けられているらしい。マイヨールは二人の客に向かって尻を突き出す格好で前屈みにななり、箱のあちこちを押したり引いたりした。

 やがて小さな金属音と共に箱が開くと、マイヨールはゆっくりと中に手を突っ込み、羊皮紙の束を取り出して仰々しく掲げた。


 束には細い大麻の紐が十字に掛けられている。紐は束の上面中心で結び止められているが、そことは違う場所にももう一つ結び目があった。

 別の結び目には赤い(ろう)(ふう)(かん)された後が残っている。

 封蝋は真ん中が丸くへこんでいた。何者かの印影が刻まれている。

 暗がりに目を凝らしたクレールは、そこに見覚えのある紋章を見た。


 六芒の星の中で二匹のヘビが絡み合い、牙を剥いて睨み合う意匠。


 幼い頃にその印影を刻まれた(みつ)(ろう)で閉じられた書簡を目にしたことがあった。


 書簡は必ず父が開封し、目を通すと、一部は母に渡された。

 母は手渡された分を微笑みながら読んでいた。父は残った便箋に暗い視線を落とし込んでいた。

 (ごく)(まれ)に、彼女にも彼女宛の(いち)(よう)が分け与えられることがあった。そこには、年若い貴族の筆跡による優しく楽しい文面がある。


「父が母や自分に手紙のすべてを見せないということは、良くない便りは見せたくないからであろう」


 幼いクレール姫にもそれほどの想像はついた。


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