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踊り子

 いや、よく見ればそれは、小柄な「男の格好をした若い娘」だった。

 小さく丸い顔にうっすら白粉がのっている。唇にも少々くすんだ色の紅を引いていた。

 長い黒髪は後ろで丸く結いまとめ、それを黒い絹で包んであった。

 娘は、天空から目に見えぬ糸でぴぃんと吊されているような、あるいは、背筋に硬質な芯が一本通っているような、まっすぐな姿勢で立っている。

 背筋を伸ばして立ったまま、彼女は驚きに大きく目を見開いて、クレールを見ている。

 黒い瞳は、クレールの足下から頭のてっぺんまでを、何度も往復した。


「なにぞ、ご用か?」


 クレールは若い貴族の男性めいた口調と優しげにな声音でを問いかけると、娘は耳の先まで紅潮させ、その場に膝を折ってひれ伏した。


「お許しを。どうぞお許しを。若様のお姿がこの世のものとは思われずに、思わず見とれてしまいました」


 世辞や()()(つい)(しょう)の言葉をクレールはあまり好まない。だが目の前の娘の言葉には嫌悪感を感じなかった。正直な言葉で、へつらいのいやらしさがない。

 クレールはため息を一つはき出し、


「確かに私はよく『この世の人ではなく、化け物の同類だ』と言われる。『世の中のことを少しも理解していない、並の人間以下だ』とも」


 ちらりとブライトを見た。

 クレールらしからぬ、冗談めいた嫌みに、彼は苦笑いした。

 顔を上げた娘は、クレールの白い顔をじっと見、


「わたしは……本通りの酒屋さんに姫様のように美しくて、将軍様のように強い若君様が居て、こちらに向かってきていらっしゃるはずだから、その方をこの小屋へご案内するようにと……言いつけられたのです」


 クレールが「誰に?」と問う前に、ブライトが、


「ああ、旅一座の、マイヨールとか言う戯作者の使いかね?」


 これも努めて穏やかに訊いた。

 男装の娘は小刻みに幾度も頷き返した。


「その方は大変な大男を子供のようにあしらったと言うので、美しいとは言っても多分とてもお強そうな方だと思っておりました。

 私が顔を知らないと言ったら、マイヤーさんが、


『白銀色の亜麻のようにつややかな()(ぐし)だから、どこにいらしてもすぐ見つかる』


 と教えてくれたので、それできっとあなた様がそうだと思いまして。

 でもほんとうにそうかどうか解らなくて、お声をかけようかどうしようかと悩んでおりましたら、あなた様から急にこちらを向かれたので……ごめんなさい、とても驚いたのです。

 それにお顔が、考えていたのとは違っていましたし、足運びが上等の踊り子よりも美しくて……」


 しどろもどろに言う。赤い頬はますます赤くなり、最後にはとうとうのぼせて頭がふらつき始めた。

 あわててクレールが彼女の肩に手を伸ばした。支えようとしたのだ。

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