秘密を知る者
ブライト・ソードマンが笑っている。静かに、穏やかに、優しげに微笑んでいる。
「一つ、訊きたい」
彼の眼差しが、その笑顔の柔和さに反して、鋭く、険しいことに気付いたリゼッタ姉妹は、顔を強張らせ、背筋を伸ばした。
「あんた方、さっきうちの姫若様のことを生娘呼ばわりしたね。ちょいと口を滑らせた相手が俺だからまあ問題はないんだが……。
そのウチの姫若の『秘密』を、知っている阿呆はどれくらいいるものかね? とりあえず医者は省くとして、だがね」
柔らかい声音で聞きながら、ブライトは忙しなく指先を曲げ伸ばした。節くれ立った手指が拳の形になる度に、リゼッタ姉妹の背筋に冷たいものが走った。
「四人」
二人は声を揃えた。
「あんた方以外には、誰と、誰だね?」
「シルヴィーとおっかさん」
「おっかさん?」
「マダム・ルイゾン……ウチの一番の年寄りで、座長もマイヨール先生も頭が上がらない人です」
「その人はつまり、『その秘密』を他の誰にも言わないと『命がけ』で約束ができて、しかも他の誰にも知られないように抑えが効く人、ということかね?」
ブライトは重ねて問う。優しげな声だった。その穏やかさが、逆に恐ろしい。
「ええ、さようです」
「はい、決して」
リゼット姉妹は同時に、低く抑えた声で二つの言葉を絞り出した。
「そいつは良かった」
ブライトは笑みを大きくすると、病室のドアに背を向けた。
彼の姿が廊下の角を曲がって消えるまで、二人のエリーザベトは無言で直立したまま見送った。
その後、彼女たちが
「あの旦那、よっぽど姫様が大事と見えるねぇ。ありゃ、忠義ってやつとはちょいと違う気がするよ。……やっぱり惚れてるのかね?」
「そりゃぁ、あんな綺麗な姫様だ。旦那じゃなくたってベタ惚れだよ。あたしだってゾッコンだもの」
「あら、あんただけじゃないわよ。あたしだって、あのお方のためなら何だってしてみせるさ」
などとささやき遭っていた言葉は、さすがのブライトの耳にも届かなかった。
ブライト・ソードマンが旅館の彼にあてがわれたで村の役人と対峙したのは、それから小半時ほど後のことだ。
彼の部屋は、クレールのいる続き部屋のちょうど真下に当たる場所に合った。
こちらは続き部屋ではないが、やはりベッドと小机がある一人部屋である分は、最下等の雑魚寝部屋よりも数段上等だといえる。
役人が小さな木のテーブルの上に質の悪い紙の束を積み上げた。普段なれない書式に対する戸惑いがありありと見える筆跡で、細かくぎっしりと文字が書き込まれている。