表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレール・光の伝説:いにしえの【世界】  作者: 神光寺かをり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/160

当世流の化粧術

 知識勝負の劇作家であるマイヨールは、お城の中で退屈に過ごす人々の中で、男女とも厚化粧をすることが当たり前に行われているということを知っている。

 だから、勅使グラーヴ卿が顔を白く塗り、唇を真っ赤に描くことを不思議とは思わない。

 大体、彼自身役者の端くれであり、舞台に上がるときには、当たり前に白粉(おしろい)を叩き口紅(べに)を引くわけである。

 舞台の上だけではない。化ける必要があると思えば、頬紅を入れ、眉を描くことを(いと)わない。

 だからこそ、マイヨールはグラーヴ卿の化粧に違和感を覚えた。


『近頃の都の流行(はやり)は、私のような田舎者には到底理解できないねぇ』


 顔の造作も元の肌色もまるきり無視して、顔中に軽粉(水銀粉)をべったりと塗り、口の周りを辰砂(硫化水銀)で縁取る極端な化粧は、マイヨールの感覚では日常生活には見合わないものに思えた。

 神殿で儀式をする巫女であったり、薄暗い舞台に立つ役者や踊り子といった、神懸(かみが)かりの憑代(よりしろ)であれば、合点がゆく。

 だが、美しいが薄ら寒い顔つきは、この世で生きる人間を表すにはふさわしくない。

 あるいは、グラーヴ卿が実は(かんなぎ)の側面を持っているとでも言うのであれば、()に落ちなくはない。ただしそんな話は、少なくともマイヨールの耳には聞こえていないのではあるが。


『同じ「男とも女とも判らぬ」お人でも、クレールの若様とは大違いだ』


 楽屋に残してきた若様の、少し日焼けした顔を思い起こしたマイヨールは、思わずちいさな笑みをこぼした。


 作客席では、作り物じみて人形のそれにさえ見える硬い笑顔を浮かべ続けるグラーヴ卿の側で、厄介者のフレイドマル座長が(せわ)しなく足踏みをしていた。

 広い額が脂汗でテラテラと光っている。それでいて、薄っぺらな唇はかさかさに乾いているらしい。愛想笑いの合間に何度も舌で舐めていた。

 辺りを見回す目玉は、不安げに宙を泳いでいる。

 誰かを探しているのだ。自分を助けてくれる者を求めている。

 彼の空虚な視線が探し求め、探しあぐねている人物は


『この(あたし)、だろうねぇ』


 マイヨールは、自分の不始末の片を付けあぐねる頼りない「上役」に呆れ果てた。

 そしてふと、このまま出て行かずにいたら、あの禿はどうするだろうかと思った。

 まず間違いなく、フレイドマルの顔色は白粉まみれのグラーヴ卿と見まごうくらい蒼白(そうはく)になるだろう。

 足下には、緊張が流れさせる脂汗と恐怖が漏らさせる小便の混じった、薄汚い水たまりができるに違いない。


『大げさで見苦しい貧乏揺すりと身震いで、元々低い背丈をもっと磨り減らすがいいさ』


 いっそ虫けらほどの大きさになってしまええば、人を下に見てふんぞり返る真似もできなくなるだろう。そうして自分でこしらえた足下の汚水で溺れてしまえばいいのだ。

 そこ意地悪い笑みがマイヨールの顔面を覆った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ