食べなさい
料理を作ったのは、軽薄そうな印象の若い男、食材の仕入れはさきほどの三つ編みの侍女だった。私は対面の席に侍女と料理人を座らせる。
まるで、これから捕食される動物のように縮こまっていた。
私は目の前にある皿を彼たちの前に差し出した。
「食べなさい」
「「え……?」」
カビの生えたパン。サラダとステーキ、スープを差し出した。ただ一言、そういうと二人は目を丸くさせた。
「……私、なにかおかしなことを言ったかしら?命令よ、食べなさい」
「そ……それは」
目の前に出された料理は到底食べられるものではない。誰の目にも見ても明らかなのに、そう言ってのけた私と目の前に差し出された料理を見比べる、飲み込みの悪い使用人たち。
「まさか、自分たちが食べられないものを私に出したの?この家の使用人はそんな非常識な仕事しかできない人間だったのかしら?そんなことはないわよね?」
「あ、あの……いや」
言い逃れをしようと、言い訳を探す2人の視線は宙をさまよっている。依然と顔は青いまま。ま、食べられないものを差し出したんだから、そうなるよね。
でも、私は許さないし、私を不愉快にさせた罪はここで支払ってもらう。
「私があなたたちの態度で、大人しくこんな料理を食べると思ったのかしら?それは甘い考えだと思わない?こんな露骨な嫌がらせ。私が我慢するわけないじゃない。……食べるまでここを離れることは許さないから」
侍女と料理人は涙を浮かばせる。まるで私が彼女たちを虐めているみたいじゃないか。心外だ。
丁度かえってきたブルーベルに事の経緯を話して、彼女たちが料理を食べ終わるまで見張ってもらう。その間にまともな食材で簡単に自分とブルーベル用のご飯を作り、腐ったご飯を食べようとする使用人たちの前で食べてやった。
ブルーベルは料理が不得意だし、伯爵家に住んでいた頃は自分でたまに作っていたので、これでも料理は得意なのだ。
私に腐った料理を提供した使用人たちが、出したご飯を食べ終わる頃、19時半だった時計の針は23時を指していた。