公爵との会話
「はっきり言う。俺がおまえに縁談を持ち掛けた理由は、おまえが扱いやすそうな人間。これにつきる」
「はぁ……」
応接室に連れていかれ、紅茶を配膳した侍女が下がると、応接室にはグラトニー公爵と私、二人きり。
突如切り出された話題に、覇気のない返事をするしかない。私と縁談をすすめる理由としては納得が行く話だからだ。
「正直おまえに公爵夫人としての勤めに期待してないし、する必要はない。ただ俺の跡継ぎとなる子供を生んでくれればそれでいい」
グラトニー公爵の言い分としては、うっとおしい我儘な女の相手と、縁談の話に疲れ扱いやすく、家柄もそこそこな人間を探していたところに私を見つけた。
私なら公爵夫人という立場にくだらない自我を持たずにすむし、手は焼かないと踏んだようだった。
まぁ、その予測はあたりだ。
公爵夫人なんて興味ないし、子供を生むという役割さえ果たせば夫人としての勤めはやらなくていい。
その間の衣食住のすべては保証してくれるという。その代わり、公爵家に関わる内情に口だしされたりしても困るので、正式な結婚が済むまでは離れで暮らすらしいが……。
そんな好条件でいいんですか!と手を上げて喜びたくなる……。
というか。
「あの、できればずっと離れがいいんですけど」
「俺としてはありがたいのだが……いいのか?」
公爵は意外そうに目をまんまるくさせる。そんなに驚くことだろうか? 別に私には公爵夫人の仕事なんて荷が重いし、こんな根暗なデブに統括される家内って、公爵様の下で働いている使用人のプライドも傷つけられるだろう。
そもそも言うこと聞かなさそうだし。
「私のような大豚が本邸にいれば、公爵はいい笑い者ですし、私も居心地がよくありません。配慮してくださるというのなら離れで暮らさせてください」
グラトニー公爵は考え込む。思考する時、眉間に皺を寄せる姿まで絵になるな~と、イケメンに目の保養をしていると、すぐに答えが帰ってきた。
「おまえがそれでいいならそれでいい。ただ、必要な時だけは本邸に来てもらうことになる」
「必要最低限の来客対応ですよね?それくらいでいいならいいですよ」
お互い了承の上で離れに住まうことになった私たちは、グラトニー家本邸ではなく、離れに住むことに。生活に必要なものは予算内であれば好きに使っていいことになる。
その管理は家内の財務管理を担っているハイリーという、一番最初に私たちを出迎えてくれた執事に任せているとのことだった。こうしてお互いの顔合わせをしてこの日は別れた。
そしてこの日から、私の公爵家での生活が開始されるが……。
はっきり言ってしまえば、居住場所が変わっただけで、日常は伯爵家とそうたいして変わらなかった。