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ヴァーレンス・グラトニーという男

「グラトニー家との縁談だが、相手の合意もあって成立した。まずは婚約として……だが、おまえにはグラトニー家で暮らしてもらうことになった」

「は……?え?結婚ではなく、”婚約”ですよね?顔合わせすらしてないのに、嫁入り前の娘が男の家に移住するなんて……前代未聞では?」

「……すまない、抗議したのだが、結婚をすることは確定だし、結婚するまでの花嫁修行をさせるために、なるはやで進めたいとのことだ」


急すぎる。取り柄もなければ醜聞しかない、そこそこ貴族の目の上のたんこぶに縁談を持ち込んだこともそうだが、縁談が進んだとはいえ、嫁入り前の娘の居住は手順としてはあり得ない。


一般的には縁談の後に婚姻、結婚の日取りを決めてから嫁ぐことになる。その過程がないのがイレギュラーすぎるのだ。


絶対、これ裏があるよ。でも、断ることはできないし。


結局従うことしかできなくて、引っ越しの日取りは1週間後となった。



ヴァ―レンス・グラトニーはブレベリー王国ではその名を知らない者はいないほど、三重の意味で有名だった。


ひとつめは彼の容姿。彼自身、先天性のアルビノで髪の毛の色素はなく、肌の色も薄い。そして綺麗なルビーの瞳。さらりと流したロングヘアーに儚げな容姿は、多くの令嬢、婦人から注目を集める。


ふたつめは彼の地位。彼はこのブレベリー王国の宰相の地位についており、実質の王国ナンバー2であり、若くして家門を継ぐ当主である。跡継ぎ問題も相まって、多くの女性から注目を集めていた。


みっつめは彼の噂に関することだ。彼は今年で24歳になる。18で結婚することも珍しくないブレベリー王国では、20歳を超えた未婚者は珍しい。それが宰相になればなおさらだ。


彼の夫人の座を狙ってあらゆる縁談、令嬢たちが彼に注目するが、一向に特定の女性すら作らなった。不能、または女嫌いという話は有名な話だ。


そんな今注目の若手宰相が特定の女を作った。


――それがリーゼロッテ・アミュレット伯爵令嬢。


大豚令嬢と貴族社会から嗤われ者にされている女性だった。



ヴァーレンス・グラトニーは気が滅入っていた。目の前の書類の山は国営に関するあらゆる確認資料、サイドテーブルに置かれているのは、縁談の資料。


資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。資料。


目の前は仕事と縁談で埋め尽くされていった。


仕事はいい。自分の差配で国が良くなって行くのはやりがいがあるし、くだらない現実から目を背けられるから。


しかし、縁談は違う。人と毛色が違い、財力も地位もある人間だからだと女は無意味に自我をもって群がる。


親戚、家臣からは跡継ぎを早くつくれとせっつかれる。兄弟たちからは皮肉を言われる始末。


忙しい毎日に縁談の話まで加わればうんざりもしたくなる。


というか、貴族の女なんて騒ぐだけしか脳がなく、無駄に時間と金を浪費する馬鹿とすら思っていた。実際、彼の周りにはそういう人間ばっかりが寄ってきた。


しかし、いずれ跡継ぎ問題はどうにかしなければいけない。基本的には子供を生む能力とそこそこの家柄であればいいのだが、自我が強い女はごめん被った。


仕事の合間に、ヴァーレンスは縁談の資料にルビーの視線を走らせる。どれもこれも興味を惹く女がいない。ヴァーレンスはさらなる深いため息をついた。


(どうせ結婚するなら、うるさくない女がいい。こちらに干渉せず、跡継ぎを生むことだけ考えてくれて、無駄な自我を持たない……偉そうじゃない女がな)


頬杖をついて目ぼしい女がいない縁談の資料を纏めて暖炉に放り込んだ。


じわり、じわりと灰になって消えていく様を見ていると……。ふと、暖炉の中にあった一枚の紙に目が言った。気づいた時には資料は燃えていたが、はっきりと、名前は頭の中に残っていた。


「リーゼロッテ・アミュレット……あのアミュレット家の次女で、大豚令嬢か……。家柄はそこそこ。たしか、しばらく社交界に出ない引きこもりという話があったな」


リーゼロッテに関する情報を頭で整理する。


アミュレット領は宝飾、穀物栽培が盛んで現在では国内貴族の資産額は5本指に入る注目の家柄。けれど、爵位自体はそこそこ。


財力自体は目立った家系ではないが、財力というのはとても重要で。地位というのはさらに重要なものだ。


それに、リーゼロッテは引きこもりということから、他の令嬢と比べれば扱いやすそうなイメージがある。そして、自分には逆らうことは到底無理。でも、嫁としては十分な資格を持つわけで。


「……家臣たちには反対されそうだが、子供を生む機能は持っていればいいわけだから、俺としては好条件だな。……よし」


思い立ったが吉日。ヴァーレンスは思い立ったことを行動に移すべく、すぐにアミュレット伯爵に向けて書簡を書くことにした。


――リーゼロッテ・アミュレットに婚姻を申し込む旨のものだった。

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