神崎陸の降臨
ガンロ司祭をはじめ。世界中の魔導士や神官達が祈る中、ついに神崎陸が召喚される。
『異世界にいきたい』そんな彼の強い願望は成就し、やがて異世界ならではの壁にぶち当たる事になるのだった。
『※※※リク!君を待っている!今すぐこちらの世界に行こう!※※※』
「うわー!うっぜ!またでた!」
「どうしたの?」
「変なフレンド申請!・・よし!2キル!!」
僕はVRゲームで『ガンデッドオンライン』に興じていた。
因みに、今話しているのはこのゲームで知り合った白人女兵士『ノノコ』さんだ。
僕はサングラスをした黒人男兵士。
ノノコさんは常にゲーム内の休憩所に居て、僕が学校をサボった時も居たので驚いた事があった・・。
プロフィールには何も書かれておらず、フレンドは誰もいない・・。
僕もノノコさんと戦いには行くけど・・なんとなくフレンドとかチームとか、そういうの苦手なんだろうなとフレンド申請はしていなかった。
「リク君!あそこの物陰に敵がいる!まっすぐ向かってくる!」
「わかった!ノノコさん!援護をお願い!」
舞台は巨大なコンテナボックスやタイヤが積み上がる港だ。
きっとさっきの銃撃戦を聞きつけて駆けつけたのだろう。
僕はスコップを持つとコンテナと積み上がったコイルテーブルの物陰に隠れ、ノノコさんが逆の方向にハンドガンを撃つ。
敵はミニレーダーで他の敵とやり合って居ると勘違いし、銃声の音から敵の背面をついたと勘違いするはずだ。
タッタッタッタ!
僕は足音が近づいた瞬間、コイルテーブルの中にスモークグレネードを置いて自分の姿を消した。
「ぐわ!煙!?ぎゃああ!」
「キル!」
僕はスコップを敵の胸に突き刺すと、すぐに伏せて他の敵をやり過ごす。
そしてスモークが切れた瞬間、敵の背中が僕の前に現れた!!
「いただき!」
「うん?・・あ!!!」
「うわー!!」
僕は敵3人の背面に向かってフルオートで薙ぎ払った!
「おめでとう!!リク!君の隊のグレードが上がったぞ!」
「おめでとう!!ノノコ!君の隊のグレードが上がったぞ!」
「ありがとうございます!」
僕は兵舎のあるキャンプ場で、髭の生やした最高司令官(NPC)から勲章を貰った。
その瞬間、目の前に『軍曹』の称号が浮かび上がり、トータルリザルトとゲットした武器の一覧が現れた。
「リク!新しい武器やアクセサリーはアイテムボックスに入っているから確認するように!君の活躍が鉄の蓋を押し上げる事に繋がるのだ!精進するように!」
「ノノコ!新しい───────」
最高司令官はいつものようにレベルアップのセリフを言うとキャンプに戻って行った。
重複して言うのは、僕らがフレンドでは無いからだ。
「リク君!アイテムの見せ合いっ子しよう?」
「うん!」
僕らは休憩所を歩いて、『いつものところ』を目指した。
忍者のような格好で固めた10人組や、シリアルキラーのようなプレイヤーが会話したり決闘を申し込んだりしている。
時折り、1人行動のプレイヤーがしゃがんだりジャンプしながら無駄な妨害行為を楽しんでいる・・。
こういう奴って日常でもボッチなんだろうな。
「じゃあ、ここに置こうか!」
銃を磨く女性兵士(NPC)のテーブルにアイテムボックスをドカッと置くと、さっそく中身を調べてみた。
「さてさて、何が出るかな〜!」
僕が箱を開けて、丁寧に収納された武器を取り出す。
「私はコブラドットサイト!ウッドストック!あっ、熱感知式の毒ガスが入ってる!」
「僕は・・おぉ!ラッキー!!20式小銃だ!」
「すごーい!!しかもSSSランク!」
僕らは夢中になりながら銃をカスタムし、重複したものを交換して調節した。
空は僕らを祝福するように対空砲がポンポンと破裂し、誰かの放った曳光弾が光の柱を形成した。
さっそくゲットした武器を試してみたいけど、ノノコさんのカスタムが終わりそうに無いので空を見ながら待つことにした。
『※※※リク!君を待っている!今すぐこちらの世界に行こう!※※※』
「うわ!!・・もう!」
「なに?また申請?スパム?」
「うん。いつもの!」
ノノコさんがドットサイトが付いたライフルを覗き込む。
しかし、何を察したのかボソリと言った。
「その人とフレンドしたいなら、自由でいいからね。」
ドッ!パパパパン!!
僕は変な緊張感で唾を呑んだ。
何処かのフレンド同士の決闘をする音が遠くから聞こえた。
僕は何事もなかったように空を見つめる・・。
誰かとフレンドになると言うことはセッションするサーバー元が変わる可能性があり、それはノノコさんとの別れを意味する。
ノノコさんは僕の事をどう思って居るのだろうか・・?
残念な事にアバターの顔は表情を読み取る事はできない。
「いや、ウザイから消すよ」
僕はタクティカルベストからスマホを取り出すと、申請をしている画面を見た。
見ると、ロシア語と英語が混ざったような文字で『フォーリーズ(?)』と書かれ、何かの神殿のような物のデッサンが描かれていた。
評価もなく、レビューも無ければ、スクリーンショットもない。
ただただ、デッサン画の中で勝手にグルグル回って何かをダウンロードしている・・。
大丈夫だろうか。
「・・ユーザーじゃないや『フォーリーズ』?とか言うゲームみたいの招待みたい」
「フォーリーズ?あのクソ過疎ゲーのフォーリーズ??」
「知ってるの??」
「うん。私、ガチ勢だったから。2年くらい前かな。あんまり言うと年齢がバレるから言いたくないけど。」
「僕の本アカでも入れるかな?」
「・・今使っているアカウントから入らないの?」
「『オジサン』のだから」
「オジサン?」
「お母さんの再婚相手だよ。僕がオジサンにこのゲームがしたいって言ったらアカウントをくれたんだ。でないとこのゲームもプレイできない」
「・・・君、18歳未満なんだね。」
僕の小さなカミングアウトに、ノノコさんは拡張マガジンに弾丸を詰めながら聞く。
「やりたいの?」
僕はスマホの画面を見ていた。
データはそこまでかからないようで、あっと言う間にプレイできる環境になった。
あとは僕が『フォーリーズ』を選択すればゲームがプレイできる。
あとで試しにやってもいいかもしれない。
「今はノノコさんがいるし辞めておくよ。」
「それがいい』
「このゲームは何のゲーム?」
「課金システムがある中世をテーマにしたMMO RPGだよ」
「どんだけやったの?」
「うーん。どんだけやったかなぁー。確か、最初に神々を選ぶんだよね。初心者に優しくて、個々にスキルと攻撃力や防御力が上がった状態で始められるの。場合によってはチート級のスキルもある」
「へぇ」
「でもね・・」
「ん?」
「数ある神々の中で『マザー・アカナ』は絶対に選んじゃダメ」
「なんで?」
「マザー・アカナは玄人向き。難易度が格段に上がるの。本来ならゲームを一周した人がアイテムとレベルを引き継いだまま挑戦する最高難度だよ。
難度と引き換えに特殊なキーとスキルが手に入る。みんなマザー・アカナの世界を渡り歩く為にゲームをプレイするの」
「ふーん。ガンデットオンラインのソロプレイを『エクストリームハード』でやっている僕でも難しいかな?」
「ハッキリ言って難しいと思うよ?それに私でも辿りつけなかった。」
「途中で辞めたの?」
「うん。クソ運営が、最後の所でアイテムを無料で大量放出したのよ。
もうね、サイ悪。
これが古参メンバーや課金してた人達の逆鱗に触れて辞めていく人が多かったの。良かれと思ってやった事が完全に裏目に出たのね。そして運営は更なる過ちを犯す。いや、これは運営がやったのかわからないし、噂の域を超えていないんだけど────」
「なに?」
地平線の彼方で、大量のミサイルが撃ち出された。
ミサイルは上空を飛行している爆撃機の編隊を撃ち落とし、大爆発する。
爆発した破片がキラキラと降りそそぎ、休憩所を飾る。
ノノコさんの操作する兵士の口が機械的に動き『更なる過ち』を語る。
「はぁ!?」
僕はあまりのことに驚きの声を上げた。
そして言った。
「セッションを切れないようにした!?」
「そう。次のアプデでプレイヤーはセッションを切れないようになっていたの・・。ゲームを続けていたユーザーは、そのまま───」
「だって・・だって体はどうなったのさ!?そりゃ、意識はゲームにあるかもしれないけど、身体は寝てるんだからさ。おかしいだろ?」
「おかしいね・・。だから噂の域を越えないのよ。あのゲームはAI達が運営の力を借りずに独自の文明を作り出しているとか・・異世界そのものって言う話もあるもん。・・とにかく、こんなオカルトなゲームはやらないことね。
もっとも・・私がそんなこと言うんじゃ、まだ異世界より今の世界の方が愛着があるってことなのだけど・・チートも大したスキルもないこの世界なのにね・・」
「・・・」
「さ!出来た!『ノノコカスタム』!!リク君、射撃場で試し撃ちしよう?こんな得体の知れないゲーム、データ食うだけだから捨てちゃいなよ!」
「うん」
ノノコさんはライフルを担ぐと射撃場にファストトラベルした。
僕はスマホをしまうとノノコさんについていく。
ゲームを終えて、現実に帰る。
ヘッドセットをしたままゲームの電源を切る。
こんな窮屈で退屈な世界なら、いっそフォーリーズの世界で暮らした方が楽しいかも知れない。
それが鏡と鏡を合わせたような得体の知れない、未知の異世界だとしても・・。
少なくとも現実世界よりはマシな気がする。
僕はヘッドセットの繋がっているコードを抜くと、現実逃避をするように被ったまま眠る事にした。
横には学生鞄、着ている服は中学のジャージだ。
なんでかって?
僕は夢という異世界に旅立つのだ。
異世界で寝巻きじゃ合わないだろ?
お母さんは帰ってこない・・きっと『オジサン』とデートして居るのだろう。
あぁ、異世界に行きたい・・。
異世界に行って仲間とビールを呑んで、モンスターを討伐して、夢を語りたい。
可愛いエルフの女の子や魔法使いをパーティーに入れて恋愛話に花を咲かせたい・・。
女神様と旅をするのもいいな・・。
『※※リク、君を待っている。来てくれるね?※※』
あれ?電源のコードを抜いた筈だ。
あぁ、Wi-Fiか・・。
せっかくだし、ゲームを覗いてみるか。
そのまま寝落ちしたっていいや。
僕はゲームを選択したまま目を閉じた。
トゥーールールーー。
ルルルーー。
アンデス民謡のような笛の音がする。
時刻は夜で、乾燥した砂漠にポツンと神殿がある。
タイトル画面はないらしい。
僕は学生鞄を持ったまま石の階段を登り、頂上にある木の扉を開ける。
もう、これが僕の夢の中なのかゲームのイベントなのかわからない。
奥の回廊を抜けると更に扉があり、その先に松明の灯りが灯った部屋に突き当たった。
奥には大理石の机が置かれ、ペルシャ絨毯を幾重にも重ねて着込んだような豪華な格好をした老人が座っていた。
「ようこそ。死すべき者よ。ワシは時空の預言者『ギヌア』 汝を異世界へ誘う者じゃ」
「こ、こんばんは」
預言者ギヌアはNPCだからか焦点のあっていない目で話す。
「汝、名前を聞こう」
聞いた瞬間、ジャージに入っていたスマホが鳴りディスプレイに名前の項目が出る。
もちろんスマホはゲーム内で使われている共通のデバイスだ。
写真を撮るとゲーム内でスクショとして撮影でき、ゲームを終了するときはスマホで操作するのだ。
名前。
面倒臭いから本名でいいや。
『神崎 陸』 と。
「カンザキ リク ふむ。」
ギヌアは羊皮紙に書き込む。
「出身地を聞こう。汝の出身地はどこじゃ?」
もう一度スマホが鳴り、ディスプレイに項目が出る。
しかし、項目には『ツェトリ』しかなく。
他は選べない。
昔はもっと沢山の選択肢があっかもしれないけどオワコンのゲームなら仕方がないか。
「ほぉ、ツェトリか。あそこは初心者にはピッタリじゃな。」
ギヌアは羊皮紙に書いていく。
「では聞こう。汝、信仰している神はいるか?」
僕はスマホを観る。
『戦いの神 メルル・ヴィアス(攻撃力+200)
大地の神 ミミエ・アルマ(防御力+800)
天空の神 クアラ・フフル(すばやさ+200)
水の神 キュラー・テティア(HP+1000+回復魔法)
深緑の神 マモー・ルルルガ (MP+500+状態異常回復率増)
叛逆の神 アーズ・イル(+毒+マヒ+眠り)』
なるほど、これがノノコさんが言ってた奴か。
僕はスマホを下にカーソルしながら見てゆく。
『時の神 シュクシャカ・ジカン(時を一定分止める。相手能力コピー)
全能の神 マザー・アカナ(ゲーム内キー使用可能。スキル『エイラタルデ』解放。+好感度。+ヒロイン。)』
お!マザー・アカナがあった!
見る限り好感度も上がるし、何か強いスキルが使えそうだし悪くない感じがするのだが。
『全能の神』と言うのは他の神々と違う印象を受ける。
ま、今日は神様選んで適当に進めて辞めよう。
そして明日、ノノコさんを驚かせてやろう。
僕はスマホで、マザー・アカナを選ぶ。
するとすぐに警告のメッセージが出た。
『※※最高難度です!よろしいですか?※※』
『はい』
「おぉ、おお!マザー・アカナじゃと!?」
ギヌアが羊皮紙に書くのを辞めて驚く。
「これは苦渋を好み、茨の道を進む者が選ぶとされる苦難の道!それを汝は選ぶと言うのか!?」
「はい。」
ガンデッドオンラインでも銃よりスコップを使うし、
剣で戦うRPGも面白そうだ。
僕は近接戦闘が得意なので、もしかしたら最弱武器でボスを倒せるかもしれない。
「承知したリクよ。
ワシには見える。汝がアカナより貰い受けた大いなる大地に平和をもたらすのを。
ワシには見える。汝が古より復活した邪悪な力を討ち滅ぼし、新たな光をもたらすのを。」
いつしか僕の足下に魔法陣が現れ、強烈な風が吹くエフェクトがかかった!
民謡のようなテーマ曲が大きく聞こえ、物語の始まりを何となく予感される。
「リクよ!マザー・アカナの加護があらん事を!希望の光を世界に灯せ!!」
その瞬間だった!
ガパン!!
「うわーーーーーー!!!!!!」
魔法陣がぽっかりと空間ができ、僕は空中に堕とされた!!
空と大地が変転し、僕はグルグルと回りながら落っこちる!!!
冷た風と暖かい風が交差し、内臓がヒュンとするような苦手な感覚が僕を支配した!
「うわぁああああああ!!!!わぁああああああ!!!!!!!!!」
雲を抜け、海が見え、一気に大地が迫る!!
「わぁああっ!!あーーーっ!!」
僕はその瞬間、ベッドから飛び起きて思い切り転げ落ちた!!
「ぐわ!あいて!!」
そして棚に頭をぶつけて、外国語が書かれた沢山の古い書物を落としてしまった・・!!
バタバタバタバタ!!
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
僕はズキズキと痛む頭を摩りながら、辺りを見回した。
「はぁ、はぁ、すげえオープニングだな。」
漆喰の壁、大雑把に作られたベッドなどの家具。
白い、かすみガラスのような窓からガタガタと荷台を轢く音と、馬のようなヒヒン!と言う鳴き声がした・・。
外で人が忙しく行き来しているようだ。
「ん?」
よく見たら、僕の服もジャージから麻の粗末な服に変わっていた。
スマホがポケットに入っている不自然さ以外はゲームらしさを感じないほどリアルだ・・。
というか、身体はまんま『僕』だし。
お香や書物、所々使われている木の匂いだってする。
小道具も手に取れるし、引き出しだって開く。
引き出しにはガラスの箱があり、中には砂糖を散りばめた飴が入っていた。
口に入れたら、ほのかに甘い・・。
MMO RPGなのに、この作り込みようは何だ?
よく分からない革製の靴を履き、ドアを開けて出てみる。
スマホを見るとメッセージが書かれていた。
『ヒロイン。アーニャ・クローラウスを探せ』そして、矢印が動いていた。
アーニャ・クローラウス。
どんな女の子だろう?
やっぱりゲームの女の子だから可愛いのだろうか?
ここがツェトリだろうか?
町と言うより村だ・・。
家を出ると、村の中央が石畳で、騎士の勇ましい像が空に剣を掲げている。
それ以外は土や草の道路が広がり、ときより砂埃の中でオバさんが買い物籠を頭に乗せながら歩いている・・。
家々は、白い石(石灰岩)に漆喰を塗った家がメインで、みんなNPCとは思えないほど動きに規則性がない。
例えば、あそこにいる男の子は馬車の荷台を開いて八百屋のような事をしているし、あそこの帽子を被ったおじさんはセメントを塗って石灰のブロックを積んでいる・・。
おっ!僕を見て帽子を取って挨拶した!
あそこにいる背の低い変わった服の女の子は何だろう?
あ!僕を見て驚いた顔をした!
でかい赤毛の三つ編みが頭の両サイドから後ろに突き出て、ミニスカートを履いている。
魔女にしては、魔女らしくないし。
杖をもっているから、魔法は使うのだろう。
僕はいろいろな発見をしながら村を出て、草原を歩いた。
アーニャ・クローラウスはこの先にいる筈だ。
壊れた馬車に、誰かが寝ている後ろ姿が見える・・。
横には羊が一匹いて、どうやらペットのようだ。
「あっ・・!!」
スマホの画面に『完了』と出る・・。
僕は思わず絶句した。
サクッ。サクサク。
その人は、麻の袋に入ったクラッカーを食べていた。
ライオン!?ヒョウ!?
とにかく毛むくじゃらの服を着た獣が寝ながらクラッカーを食べている・・。
猫のような尖った耳に、サラサラした茶色くて肩までかかる髪。
そして胸・・。
「あなたが・・アーニャ?」
毛むくじゃらの女の子は大きな黄色い瞳で空を見ていた。
そして、毛の生えた口で歌い出す。
「
♪フンチャツカウーデ、ゲアゼ。(大地を打って、耕し)
♪フンチャツカウーデ、ゲーデル(大地を打って、耕した)
イーデ、エーデ、フンチャカウーデ、ゲーデル(祖父や祖母『*先祖代々』。大地を打って、耕した。)
セクティー、アルマ、アカナナセクティー(光りある大地の光アルマ。アナカの偉光よ。)
アヌ、フンチャカウーデ、ゲーデル♪(私は大地を打って耕します)
アヌ、アカナニヌ、ゲーデル♪(私はアカナの寵愛を受けて肥します)
」
「あ・・あっあぁあ・・。」
僕は言葉が出ないまま立ちすくみ、やがてヘナヘナと腰を抜かしてしまった。
アーニャはクラッカーを頬張る。
サクッ。サクサクッ。
「ニーデ、ガスパ。フフフフフ。」
アーニャが舌舐めずりをし、羊を撫でながら言う・・。
羊はメェエと愛おしそうに鳴いた。
に、日本語じゃねぇーー!!
僕が衝撃の展開に震えていると、アーニャが僕に手を差し伸べた。
「アーニャ!アーニャ・クローラウス!エ・ア・ムムド、リク?」
僕は呆然としたままアーニャの手をとり、力強く引き上げて起こしてもらう。
どうやら名前を聞いているようだ。
「神崎 陸です。」
「カンズアキ・・リク?」
「かんざき、りく。」
「カンザキ、リク!カンザキリク!!ココナ、ガスパー!ココナ!」
「ガ、ガスパー?」
「ウンウン!ガスパー!!」
アーニャが大きな目をパチパチしながら羊を持ち上げて差し出す。
時よりアーニャの口から牙が見え、それとは裏腹に笑顔である事がわかる。
「ガスパー!フフフフフ!!アハッ!フフフフフ!」
「アニャーーチカ!!!!」
「うわぁっ!」
「ワアァ!メメル!」
真後ろで甲高い声がして思わず飛び上がる!
さっき通りを歩いていた小さな女の子だ。
「アーニャチカ!!エ・ア・ムムド、リク!?エ・ア・アカナヌ、テテュリアク、アンガ?」
女の子は身長のわりに甲高くて大きな声を出した。
アーニャはすっかり押されてしまっている。
アーニャは絞り出すように女の子に言う。
「テテリアク、アンガ・・ノーノノ」
「ノーノ!!ガンロティア、プルーテオ!ふん!」
女の子は僕を覗き込みながら見る。
キッとした目で、少し垂れ目で、青い瞳にソバカスだらけの顔。
クセが強そうだ。
「メメル・パルクリア!エ・ア・ムムド──?」
メメルが聞こうとし、すぐにアーニャが助け舟を出す。
「カンザキ・リク!」
「カンザキリク!・・アヌダハイ。アヌダハイ。」
メメルはブーツで背伸びしながら僕の身長を調べる。
よく見たら、すごい厚底のブーツでどれほど彼女が身長で悩んでいるか察しがついた。