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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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神官の教え

「って、ガンロ様!どうやって駒を動かすのですか!?」


「念ずるのだ!精神の乱れは駒の士気の低下になり、ダルチに影響される。自分の行動に自信をもちなさい!」


「えーーっ!」


アーニャの動揺を感じ取ったのか装甲兵が押されて遣られ始める。

遣られた駒は活力を失い、透明になってフッと消える。

おそらくボードの中に落ちたのだろう。


「アーニャ?1つの装甲兵の駒が遣られると言うことは、それだけ大軍の防衛力が落ちると言うことだ。

大将は兵士を温存させたり、冷酷無慈悲な命令を下す事もある。地の利を使い、敵を欺き、そして時に大胆さも必要になり、個々の特性を見出す。よく考えて駒を動かしなさい!」


「は、はい」

アーニャは耳を掻きながら次の一手を考えていた。


そうこうしている間にも、アーニャ側の装甲兵が遣られ足軽が敗走する。

敗走した足軽も、ボードの外に逃げ出すと力を失ってカラカラと転がった・・。


「き、騎士よ!前へー!!」

アーニャが言うと、装甲兵の間に混じって騎士達が入り込む・・。

しかし、あまり戦力になっている実感はなく、装甲兵に囲まれて肝心の機動力を生かしきれていない。


そして

「あーーー!!!」

「もらった!!騎士よ!!二手に別れよ!!」


ガンロはすぐさま後方に控えていた騎士を素早く回り込ませると、アーニャの軍勢を包囲した。

包囲した騎士に気を取られた兵団は、迎撃する兵士と、王のいる塚を防御する兵士が入り乱れ完全にパニックになっていた。


その最中、確実にガンロの兵団が取り囲んで兵士達の外側を削ってゆく・・。

取り囲まれた兵士達は、攻撃できぬまま内部に押し込められる。


「わわわわわ!!」

アーニャもパニックになり、尻尾で棚にある小さなアカナの像を割ってしまう。




そこからは完全にガンロの独壇場が続いた・・。

動けるアーニャの兵団は全滅し、魔導士達が塚の高台から魔法を解き放ちながら『王』を防衛する・・。


魔法はガンロの装甲兵団に十分なダメージを与えらえず、一定数の魔法を放つと消えてしまう・・。


「魔法で体力を使い果たして餓死したのだ。」

「はわわわわ・・。」


アーニャは風前の灯火になった陣を見ていた・・。

やがてガンロの兵団が王を見つけ、担ぎ上げ、塚から引き摺り下ろす・・。

そして神官のいる本陣まで運ぶと、あっけなく首をはねた。



魔光石の光がジリジリと揺れ。

セレナイトの窓が風でカタカタと鳴った・・。



「アーニャ?どうする?続けるかね?」

「・・・・もう一回・・・・。」

「ん?」

「もう一回!やらせてください!!」

「おおおお。よしきた!」


それからアーニャとガンロは夜が深けるまでダルチをプレイし続けた・・。

史実なら、ここで神官を打ち負かして『王』はパパヌンド王国へ進軍する筈なのだ(※後に滅ぼされ、取り戻し。現在はイメルダ領ナニス王国の一部になる)



ガンロがパイプにタバコの葉をつめ、熱した火搔き棒で火をつける。


アーニャは全身の毛を逆立て、ガンロの顔をチラチラ伺いながら駒を進めた。


「きゃーー!負けた!!」

「ホッホッホッホ!!」

「まだまだー!!」


攻めると包囲されて各個撃破され、守ると包囲される・・。


いつしかアーニャの隠し爪が飛び出し、ガリガリと机を削る。

頭をポカポカ殴りながらアーニャは考えた・・。


ガンロが指示をだす。

「装甲兵、前進!!戦車、巨人よ!包囲せよ!」


足の早い戦車と巨人が、アーニャの塚を瞬く間に包囲する。

そして、いつものようにガンロの装甲兵が前進する・・。

(まず、ガンロ様の装甲兵が前進してくる。それを迎え撃つとガンロ様の包囲が始まる。まずはそこをなんとかしなくちゃ。)


「装甲兵、進め!」

アーニャも迎えうつ。

しかし、装甲兵と足軽の足並みが乱れてしまい足軽を置いて装甲兵が前進する!



「あっ!!いけない!」

アーニャは3回目の勝負の時と同じミスをしてしまい、あわてて足軽を進めようとする・・。

が、何を思ったのか

「装甲兵!撤退!!」

の指示を出した。


「おぉう!!アーニャ?装甲兵を撤退させるのか?」

「3回目の時と逆の指示を出してみました!あらら!?」


しかし指示をそのままにしたために、装甲・足軽師団が塚まで後退して登り始める・・。


そこへ追いかけてきたガンロの装甲兵が塚までやってきた。

追跡する事に集中していたせいで、装甲兵団が孤立している!

アーニャは、その隙を逃さなかった。


「あっ!!!みんな!!装甲兵に集中攻撃!!」

「ぬおお!?巨人よ!戦車よ!!塚の包囲を狭めよ!!足軽よ、加勢せよ!!」


ガンロの塚の包囲作戦が前倒しで始まり、アーニャの装甲兵団の撃滅作戦が進行する。

ガンロの戦車は塚の勾配に手こずり、巨人は迎え撃つアーニャの騎士達と魔導士の魔法で撃破されてゆく。

装甲兵と足軽がガンロの装甲兵を包み込み、加勢に加わったガンロの足軽を魔導士の魔法が降り注いだ!


「そのまま装甲兵を破壊しなさい!!」

アーニャがテーブルから身を乗り出して指示をする!

装甲兵団を撃破し、そのままの流れで足軽になだれ込む!

「ぐむむ!!魔導士達よ!騎士よ!加勢するのだ!!」

しかし、時すでに遅く・・。

神官を守っていた騎士達が行く頃には足軽が敗走。

アーニャ側の騎士達が戦車の機動力で散り散りになり、巨人が塚を登り始めた。


そこでアーニャは一気に勝負を仕掛けた!

「巨人と戦車はいいわ!!本陣!神官に突撃!!」

「な!!なんと!!」

装甲兵がハの字に開き、足軽を率いた王が突撃した!!

騎士の早馬が王を抜かして突撃し、追いかけてきたガンロの巨人と戦車を、蓋をするように装甲兵が包囲した!

突撃してきた王の軍勢に騎士と魔導士が逃げ出す・・そしてポツンと残された神官に騎士の一撃が振り下ろされた!!


「やったーーー!!!!」

駒達が大きく手を広げて喜び、アーニャはテーブルをバンバン叩きながら喜んだ!


「おおお!!遂にアーニャが勝った!」

「勝ちましたーー!!あははははは!!」

アーニャが右手をヒラヒラと上げて腰を振る、伝統的な小躍りをした。



「アーニャよくやった!!」

「はい!」


「分かったかね?兵士達の個性を活かして戦術を練る。アーニャは私との対局で無意識のうちにその力を発揮したのだ、わかるね?これはツェトリの村人の心を動かすことも・・・・ぐむ」

「ガンロ様に勝ったーー!ガンロ様に勝ったーー!!あははははは!!」

「むむむ。まぁ・・いいか。」


「あははははは!!」







アーニャが昨晩のことを思い出して微笑む・・。

その時、窓の外から僅かな音がするのを獣猫人の聴力がとらえた。


「その音は・・メメル?」

「ギクッ!!」


窓の外はすっかり暗くなり、外から入ろうか迷っているシークレットブーツの足音だけが聞こえた。


「え、えっと!街灯の灯りを点けていたら、アーニャの家まで来たのよ?」

「うん!どうぞ!分かってるよ!」


ドアを開けると恥ずかしそうにメメルが入ってきた。


「こんばんは、アーニャ!」

「こんばんは!メメル!・・くんくん。」

メメルが入った瞬間、アーニャは鼻をピクピクさせて何かの匂いを嗅ぐ。

メメルは恥ずかしそうに外の物陰からパイの入った窯を出した。


「・・これは。

クルス師匠が『余ったから、腐らすよりは持っていったほうがいい』って!」


「ありがとう!メメル!」


「ううううう!アーニャの嗅覚には恐れ入ったわ!」

「灯番の仕事は?」

「もう、終わらせたわよ!」


メメルは大きなパイ用の窯を持ってくると暖炉のフックに引っ掛けた。

「オオクチニシンのパイだよ!」

「やったー!!ニシン!ニシン!!ニシンのパーイ♪!ニシン!ニシン!!ニシンのパーイ♪!」 


アーニャはテーブルに座るとストクを両手に持って歌った。

パイはフツフツと蒸気を吐き出し、出来立てのように暖かくなる。


「もう!アーニャ、ガンロ司祭の前でもそんなことしているの!?お行儀が悪いったらありゃしないわ!」

「だってお腹ペコペコなんだもん!それにメメルが来て寂しくないし!嬉しいし!」

「あ、アーニャ・・。」


メメルは唇を噛みながら含み笑いをすると、アーニャの分の皿に大盛りにニシンのパイを盛ってテーブルに置いた。


パイにヒビが入り、オオクチニシンの巨大な頭がのぞく。

「わぁー!アカナ様、いただきまーす!」

「ちゃんと祈りなさいよ!」


アーニャはメルルの手を取って早口で祈ると、ニシンに口をつけようとした・・だが!

「うわぁあっ!!あっつ!」


パイの中のニシンが暴れ出し、皿の上で踊り出した!


「ちょちょちょちょ!!メメル!これはなに!?」

「オオクチニシンよ!」


「わかってるよ!!なんで内臓が無いのに動いてるの!!」

「腐らしてしまうから、生かしておいてるんだよ!」


「えええ!!」


アーニャは心底衝撃を受け、ストクで食べるのを躊躇った。

これは本当に私の知っている『パイ』なのかしら?


メメルの性格上『腐らない。美味しそうなパイ』を考えたはずだ。


そして導き出された答えが『鮮度を保ち続ける食材』。

つまり『生きた状態で提供する』ことだった。

だとしたら、このパイだってパイに見える何かである可能性が高いし・・この伸びるものもチーズであるとも言い切れない・・。


「アーニャ?」

「ん?」

アーニャの疑念を感じ取ったのか、メメルが不安そうな顔をしながらストクで掬って口に運ぶ。

アーニャは何事もなかったかのように作り笑いをすると、ストクでニシンにトドメを刺して口に運んだ。


「美味しいよメメル。はむはむ」

「・・良かった!私、料理となると極端になるから心配だったのよね!」


「そ、そう?私は気にしなーい!」

「アーニャは少し、気にしなさい!」



メメルは笑顔を見せるもアーニャを観察しながら、まだ不安そうだ。

アーニャは頬にある大きな髭を大きく広げて『美味しさで綻ぶ顔』を必死に取り繕って食べてみせた。

ようやくメメルは安心したようで、ニシンにトドメを刺して口に運んだ。


キュポン!

メメルがコルクの栓を抜くと、葡萄ジュースをゴブレットに注いだ。


「はむはむはむ。ペロペロ。」

アーニャはニシンのパイをかきこむように平らげると皿を舐め、メメルに手渡す。


メメルが残りのパイを皿に盛る間、葡萄ジュースを一気呑みして、口髭についたジュースをペロリと舌なめずりした。





暖炉の炎が優しく揺らぐ。


「ふう。食べた食べた!ご馳走様、メメル!美味しかった!」

アーニャが腹を撫でながら立ち上がると、尻尾をあげて放屁をする。


メメルはアーニャの屁に驚き、あやうく葡萄ジュースを口から噴き出しそうになった。

人様の前で屁をするなど、人間はおろか、リトルウィッチ族においても驚きだったのだ。


「えっ!?う・・うん。それは良かった・・!」

メメルは驚きのあまり言葉を振り絞るのに必死だった。

そんなメメルをアーニャは心配する。


「どうしたの??」


「えっ!?どうしたの!?」

逆にどうしたの!?

メメルはいよいよアーニャがわからなくなる。

「その・・ガンロ司祭の前でも、アーニャはオナラをするの?」

「ん?」

メメルの心配そうな顔にアーニャは首を傾げる。


「するわけないじゃん(笑)」

「す、するわけないじゃん!!??」


「あはははは!」

アーニャは椅子に深く座ってコロコロと喉を鳴らして笑う。


メメルは頭を雷鳴で撃ち抜かれたような衝撃を受けた!

(ガンロ司祭の前ではオナラをしなくて、私の前ではする!?それはどういう事!?わからない!)


メメルはアーニャを見る。

しかし、アーニャの目には何も敵意がない!


「アーニャにはつくづく驚かされるわ。」


メメルはいよいよわからなくなり、人とリトルウィッチ族の違いは何かと考えた。

そしてその隔たりを、よくよく選んだ言葉で紡ぎ出す。


「ねぇアーニャ・・聞いて?少し言葉が悪いようだけど・・悪意では無いから聞いて欲しいの。」

「なに?」


「私ね・・アーニャがてっきり、ガンロ司祭がいなくなって・・その・・壊れてしまうと思っていたの。

あなたはあなたなりにガンロ司祭を救う道を考え、自分を犠牲にしてまで答えを導き出そうとした。それで・・その・・」


「ん?」

メメルは深呼吸するとミニスカートのポケットから首輪チョーカーを出す。

エメラルドカットの宝石が付き、内部に呪文が刻み込まれている。


「これは魔工具の『クリウの首輪』。」

「クリウの首輪!?」


天井の魔光石が光り、クリウの首輪と同調する・・。



「エルダの戦いの時代にリトルウィッチ族の魔工師が創り出したものよ。

指揮官がチョーカーをして、その部下達が指輪を付けるの。こうすると、指揮官と部下達は自由に行き来が出来る」


「この間の魔導書はこれを作るため?」


「そう。リトルウィッチ族は瞳を見ることで嘘を見破る。

しかし、同じ族同士では欺き方を見つけてしまう可能性があったの。だから・・自分が何時でも来れる脅威を部下に与え続けたのね」

「す、すごい」



アーニャはあらためて首輪に付いている宝石を見た。

宝石の先に、メメルの切なそうな顔が映り。

そっとアーニャの手の中に首輪を握らせる。


「アーニャ。このクリウの指輪と腕輪を預けます。

もしもアーニャが挫けそうになったり。心が砕けそうになったら指輪を私に渡して欲しい。

首輪は指輪の間を自由に行き来が出来るけど、指輪同士は出来ない。だから───────」


「ありがとう。大切にする。

でも、ガンロ様が石になって戻ってきたら・・それはそれで運命だと最近は思うの」


「えっ・・!」


「きっとガンロ様なら前に進み続ける。ツェトリに念願の水が来て、私が告知の夢を見た。ガンロ様は命に変えてでも、勇者をこの世界に呼び寄せる。わかるの私・・・ガンロ様はきっと・・」


「アーニャ!」



「ガンロ様は戻ってこない・・!!」




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