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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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人を動かすと言うこと

ツェトリ村に転機が訪れる。


アーニャはガンロからゲームを教わり、それはやがてリクとの関わり方に作用する。

それは一つのパーティーメンバーとして『神官』がどういった立ち回りをしなくてはならないのかと言う授業であった。

「・・ふむ。揺れが強くなった。水脈が近い・・。」

クルスとメメルが宝玉の付いた振りペンデュラムを掘り進めた穴にかざす。


ペンデュラムは忙しく揺れて、石が青く光りだした。


「大丈夫かね?クルス?」

「あぁ。このまま掘り進めれば水脈だ!」


「うむ。皆のもの!ツェトリが水の都になる日が近い!!!子らの明日のため、ツェトリの明日のために水路を築こうぞ!!!!」

「「「おーーー!!!」」


ガンロの号令のもと、深く掘られた頭上で男達が声を上げた。


「勇者召喚の儀に間に合いそうですねーー!」

アーニャがガンロを梯子から引き上げながら言う

「そうだねアーニャ。水が引かれて麦の生産が上がれば皆が裕福に暮らしていける。皆が裕福になれば冒険者を雇って、モンスターに怯えることも無くなるのじゃ。さあ、土を切り拓き水を呼ぼう!」

村の男達が頷き、穴を掘る班と麦畑を作る班に別れる。

召喚された勇者がツェトリ村に来るかは完全なる未知ではあるが、村人達は必死になって村の発展のために鍬を入れた。



「アーニャ、皆を励ますのじゃ!」

「わかりましたガンロ様!みんなーー!!歌うよー!!メメルー!!」

「えぇえええ!!私も!?」

アーニャは砂埃の付いた服をポンポンと叩くと、〒の字の先端に鐘が付いたエルデを鳴らしながら歌い出した。

メメルも顔を真っ赤にしながら両手を曲げたり、空に手を広げながら踊った。

これは伝統的な踊りであり、麦の発芽を願った踊りなのだ。


「♪大地を打って、耕し♪

♪大地を打って、耕した♪」

アーニャの歌やステップに合わせて男達が鍬を入れる。



「先祖代々。大地を打って、耕した♪

光りある大地の神アルマ。アナカの威光よ♪

私は大地を打って耕す♪

私はアカナの寵愛を受けて肥す♪」


「大地を打って、耕し♪

♪大地を打って耕した♪

祖父や祖母、大地を打って、耕した♪♪

光りある大地の神アルマ。アカナの威光よ♪

私は大地を打って耕す♪

私はアカナの寵愛を受けて耕す♪」



「大地を打って、耕し♪・・」


ガンロとクルスは腰をかけて、アーニャが声を張り上げながらエルデを打ち鳴らすのを眺めていた。

メメルは恥ずかしそうにアーニャを見ながら、発芽する麦を再現する。

「メメル!もっと美味しそうな麦を想像して踊ってー!」

「はぁあ!?美味しそうな麦ってなによ!?」

「もっとこう・・ウンパ!ウンパって!!」

「もーー!仕方ないわねーー!!」



アーニャが歌い、メメルが踊る。

やがて村の子供達も遠くで踊り出し、お婆さんが小さく手を打ってリズムを取った。


「『春の耕しの唄』ですか・・。村のみんなが一つになってゆく・・。アーニャも立派になりましたね」

「うむ。メメルもずいぶん打ち解けてきたようだ。成長したなぁ。」

ガンロは満足そうにパイプに火を付けた。

「クルスよ。そろそろ腰を据えんか?」

「僕ですか・・?」

「うむ。メメルも新しい土地を放浪するより、ここにいた方が良いと思うのだが・・。」

「す、少し・・考えさせて下さい・・。」


クルスは恥ずかしそうにボヤッと空間から消える。

ガンロは何もない空間を見ると、伝書鳩から貰った小さな手紙を取り出した。

伝書鳩の首飾りと、手紙の紙からしてバッカス司祭だろう。


『少々、力を借りたく候』


「むぅう。」

ガンロは困ったように眉毛を掻きながら魔法で返事を書く。

『いかがなされた?』

鳩が飛び立ち、驚くべきスピードで返ってくる。


『既に周知の事と候。取り急ぎ日程を聞きたく候』


ガンロはしばらく考え、すごく小さな文字で返事を書いた。

飛び立つ鳩を見上げて杖を突いて追いかける。


よく見ると、リンゴの木の下に置いてある果実の入った台車に見慣れたスキンヘッドが見え隠れする。

「んー、読めない・・『文字が小さすぎる候』っと。」

「バッカス司祭」

「うわーー!!!」

バッカスが飛び上がり台車を倒してしまった。

バッカスはガンロを認めると、すぐに涙を潤ませて叫んだ。




「うわーーー!!!ガンロ様ぁああああ!!!」

「おぉ、バッカスじゃな!!司祭が安易と叫んではいけない!民の信仰が薄れる!!!うわ!!酒臭い!!!」

「それが叫ばずにいられますか!!!呑まずにいられますかぁぁああああ!!!」



アーニャが悲鳴を聞いて、エルデを持ちながら駆けつける。

「ガンロ様!!あ!バッカス司祭!!」


「アーニャ!!アーニャでもいい!!どうかバッカスめをお助けをーー!!」

「ええええ!!!」



バッカスはアーニャから水を貰って一息つくと、ようやく事の顛末をポツリポツリと話だした。


話の内容はこうだった。

先の大戦の時のように書物に則り『勇者復活の儀の準備』を行おうとした。

勇者復活の儀は各国の国王が来るので、アカナ教の神官達は『勇者復活の儀』の為に勇者を先に召喚しておいて、ドラマティックに勇者の召喚を演出しようとしたのだ。


「そそれでぇええええ!!!勇者を召喚ようとしたのですがぁあああー!!うわーーん!!!勇者がぁああ!!勇者が召喚できないんですぅううう!!!僕は、様々な同盟国の神官や巫女、 司祭や魔導士にお願いしたのですがぁあああ!!!!渇きの王の討伐でそれどころじゃないってぇえええ!!!無いっってうわーーん!!!!」


「これは・・ぐむ・・」


アーニャが驚きのあまり口をポカンと開け、ガンロが困ったように髭を撫でる。

しかし、ガンロの決断は早かった。


「バッカス司祭、では聞くがどのように勇者に呼びかけるのだ??」

「ガンロ司祭!?それを聞くということは!!!?」

「長年の友であり、旧弟子が困っておるのだ手伝わない訳には行くまい?」


ガンロはバッカスに歩み寄ると蓄えたヒゲでもわかるように笑顔を見せた。


「で、ではすぐにヌオを手配します!!善は急げですな!ガンロ司祭!!ありがとうございますガンロ司祭!硬っ!!」

バッカスがガンロの肩を揉もうとした瞬間、あまりの硬さに驚く。


アーニャは泣きそうな顔をしながらガンロに駆け寄り肩に回復魔法を行った。

気休めではあるが、まるで氷が溶けるように患部に生命力を取り戻す・・。


「石化が進んでいるのですか・・ガンロ司祭!!」

「・・・うむ。」

「痛みますか!?」


バッカスの言葉にアーニャが尻尾を震わせながら

「ぐしっ!」

と言った。

そんなアーニャをガンロは優しく撫でる。


「痛みはない・・。ただ・・」

「ただ!?」

「心は常に温かいよ。皆の温かさ、アーニャの直向きさが私の石化した身体に活力を与えてくれる。生きる希望を与えてくれるのじゃ。」


「ガンロ様!!」

アーニャは喉をゴロゴロと鳴らし、ガンロは建設途中の風車を見た。

向こうではメメルとコルツが一生懸命踊り、クルスが戸惑いながら合いの手をいれている。

メメルに無理やり付き合わされているのだ・・。


「私が勇者を呼びに行こう・・。このマザー・アカナに祝福されし大地に希望をもたらそう。いくぞ、ガンロ司祭!!」

「はい!!馬車が来ました!」


やがて4頭のヌオに轢かれた翼の模様が描かれた高速馬車がやってきた。


ガンロとバッカスとアーニャが乗り込む。

「いかん!アーニャ!ツェトリに残るんだ!」

「私も行きます!」

「ダメじゃ!アーニャは皆を元気付けなければいけない!」

「私も行かせて下さい!ガンロ様に何かあったら・・・!」


「アーニャ・・。私は必ず戻ってくる。それまで留守を頼む・・いいね??」

「・・はい・・。」



「じゃあ、アーニャ!!ガンロ司祭は必ずや、このバッカスが連れて戻るぞ!!さあ、馬車を出すのだ!」

「はっ!!」


高速馬車が駆け出し、アーニャが見送る。


「アーニャ!!ツェトリは任せたぞ!!」

ガンロが窓を開けてアーニャに呼びかける。

「わかりました・・!わかりましたぁ!ガンロ様!」


アーニャが手を振り、馬車が風のように駆け抜ける。


「あっ!!!アーニャ!!!こんな 所にいた!!!」

「どうしたのコルツ?」

「わはははは!水だ!!水が沸き上がったぞー!!」

「え!?きゃああーー!!」


アーニャが見た瞬間、3メートルの水車の櫓をぶち抜いて水柱が上がった!

突然の水に水路を作っていた班が慌てて登る。


「きゃー!ガンロ様!!水です!水ですよ!!」

アーニャが叫ぶも、既に馬車はなく。


水柱を上げた水が第一水門まで一気に駆け降りる!!


「うぉおお!!みずだぁああああ!!ツェトリ念願の水だぞぉおお!!わははははは!!」

コルツがピョンピョン跳びながら水を追いかけるように走り出す!


メメルは慌てて杖に跨ると低空飛行でコルツを追いかけ、他の村人も歓声をあげて走り出した!

アーニャも尻尾を立てながら走る!


「わっ!水っ!!」

「水だ!すげぇ!」

水は舗装された水路を駆け抜け、建設したばかりの小さな橋で遊んでいたナイケガスタとスナイデが驚いた!

隣で座っていた吟遊詩人が即興で曲を紡ぎ出す!


「スナイデ!!ナイケガスタ!!溺れるから下がっていなさい!!」

「アーニャお姉ちゃん!!水が出たのーー!?」

「あはははは!!そうだよーー!!」


水は走る民衆を抜かすと第一関門の堰を満杯にし、溢れ出して、第二関門に向けて走り出した!途中の緩やかなカーブを駆け降り、ヌオに乗った赤い鎧のタントリノの騎士が突然の水に驚いた。

乗っていたヌオが驚き、前脚を上に上げる。


「うぉおおっ!!どうどう!!どうどう!!これはツェトリの湧き水ではないか!!遂にやりおったか!!」

タントリの騎士は剣を天に上げて神々に感謝を捧げた。



「うわ!水だ!」

冒険者の魔導士が驚く。


水は駆け出しの冒険者のパーティを抜かして、御者やキャラバン隊の行商人の歩みを止め、キキルと言う小型の鳥類が驚いて甲高い鳴き声をあげた。


その鳴き声に驚き、ここでバッカスが初めて車窓から外を見た。

「何事か!?」

バッカスが窓を開け、ギアーテ王国の御者が言う。


「バッカス様!!水です!ツェトリ村の村人が築いた水路に水が走っています!!」


「な、なんだって!?ガンロ司祭!!ガンロ司祭!!水です!!」

「バッカス?酒の飲み過ぎで水が飲みたいのじゃな?」

「ちっっがいますよ!!ガンロ司祭!外を見てください!!」

「うむ??おおおぅ!!」

「ガンロ様ー!!!!」


そこにはヌオの早馬に乗ったアーニャが居た!


「ガンロ様!!水ですよ!!私たちはやったのです!!」

「おおおお!!!!アーニャ!!しばらくの間、皆を頼んだぞーー!!!ツェトリに幸あれー!!」


馬車は水と並行するように走り出す!

車窓からのびたガンロの杖が光り、水を称えながらキラキラと光る。


水は蛇行しながら第二関門も通り過ぎた。

「どうどう!」

アーニャは古代人の古墳に登ると、ガンロ一行を見守った。



「ガンロ様・・!!勇者を・・リクを頼みます・・。」

アーニャはヌオから降りると胸に手を抑えて膝をすくめた。




───────




「それでは、今日のパンです。オーカナ家に幸せを。変わらぬ神の祝福を!」


「ありがとうございます。アーニャ。」

「アーニャお姉ちゃん!バイバイ!」

「バイバイ!また明日ね!」

アーニャが杖をふって2日分のパンを祝福し、村人に配給してゆく。


この教会の横のパン工房では、村人から徴収した麦を

硬貨や、パンや粥の原料にして配給していた。


パンや粥にする際に、アカナ教の神官達も麦を得られる仕組みになっており。

その見返りに、医療としての魔法と『祝福』を村民に与えるのである。


「疲れたぁああ。んんん!!」

「お疲れ様です。アーニャ」

「ありがとう!」

ひとしきりの祝福を終えて、パン屋の横にある柱で爪を研ぎながら伸びをした。


白装束のパン工房の職人達が竈門の火を消し、臼をひくラバ達を小屋に招き入れる。

太陽は西に沈みかけ、メルルとクルスが杖を光らせながら街灯に火を灯してゆく。


「アーニャ。あとはパンの仕込みだけだからお帰り?」

「ありがとうございます!それでは失礼します!あしたは・・」

「明日と明後日はマザー・アカナの安息日であったね?」

「えぇ!そうです!」

「大いなるマザー・アカナ。私たちも、パンの仕込みが終われば帰りましょう。」

「はい!」

パン職人が胸に手を当てるとアーニャと共にお辞儀をした。


アーニャは尻尾をピンと立てながら、パンの差し入れをカゴに入れて家路に着く。



「ガンロ様!!いま、帰りましたぁ!」

しかし、家の中に灯りはなく。

いつものテーブルの上には昨晩のやりかけだった『ダルチ』と言うボードゲームが西日に影を落として置かれていた。

明日が安息日だからか遠く離れた居酒屋で宴の声が聞こえる。


「ガンロ様・・。やっと対局できると思ったのに。物分かりが悪い見習いでごめんなさい・・」

アーニャは尻尾をシュンと下げると、ちょこんと椅子に座る。

ダルチ版には、さまざまな兵士達が置かれ。

討ち取った駒がボードの外に転がっている。


アーニャは、昨晩のガンロとのやりとりを思い出していた。




「アーニャ?ダルチを知っているかね?」

「いいえ。知りません」

「どれ、一つやってみようか!」

「えぇ!?やったことありませんよ!?相手になるかどうか・・」

「やり方は、これから教える!やってみなさい!」

ガンロは髭の奥でもわかるような無邪気な笑顔を見せ、アカナの像の台座として使っていた古びたボード版を引っ張り出した。

200マスある白黒のボードの下は引き出しになっており、ヌオでひく1人乗りの戦車や装甲歩兵、魔導士や騎士。

弓兵や足軽。

巨人の駒が無造作に収納されている・・。



「さぁ、主人が返って来たぞ?戦況を知らせよ」

ガンロが杖をかざすと、ボードの隅に

『アカナ大平原の戦い』の金色の文字が浮かび上がり、たちどころに駒たちが動き出した・・。

ボードが起伏し、『王』と書かれた他とは違うゴージャスな駒が、塚の起伏の頂点に鎮座し、その麓を騎士や魔導士たちが固めている。


「こ、これは何ですか??」

「先の大戦(エルダの戦い)を模して作られたボードゲームだ。魔工師はこれを用いて戦況を把握し、次の一手や戦術を研究していたようなのだ。この塚に居るのが『渇きの王』の将軍。そして迎え撃つのが『アカナ教』の神官達だ。これは実際に起きた史実を元に作られているボードゲームだ・・。こころして掛かるが良いアーニャ。」

「はい!!」


アーニャ側の渇きの王の軍勢に対し、ガンロ側の『神官』は横に並んだ陣形を築いていた。

前方には装甲兵と足軽が並び、その後ろを等間隔で巨人。

左右を騎士と戦車がいた。

神官の周りには魔導士だ。


「さぁ!ダルチの開始だ!!」

「にゃおー!!」

神官の装甲兵が剣を上げて前進した!

ガンロとアーニャの卓上の決戦が始まる!


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