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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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アーニャのクエスト

ギアーテ王国 タントリノ


そこは外海の貿易と大量生産が主本の、華やかさのない無骨な港町だ。

「いこ!メメル!コルツ、早く案内して!」

「はいはい。」


武器屋では鉄を打ち鳴らす音が景気よく聞こえ、騎士達が連合軍を賛美する歌を高らかに唄っていた。


やはり初期の冒険者や駆け出しの仕事人が集う港町だからか、ギルドの外の壁にも様々なクエストの貼り紙が貼られ『自由の為に君は立ち上がれるか?』と言う兵士の募集ポスターも貼られていた。


「アーニャ、アカナ大平原にリビングアーマーが出るらしいぜ?報酬 10オルガ!」

「安っ!!なんでそんなに安いの?」

「さあ。犠牲者が少ないのか。道から外れているから

だろ?アーニャがホーリー系なら勝てるんじゃないか?」

「でも私、まだ癒し手の魔法しか出来ないよ?ホラ。」

アーニャが光の玉を作って見せる。

「おお、すげー!」

「コルツは魔法は使えるの?」


「使えないわよねえ?リトルウィッチ族の私の事をチビだ幻想使いだと馬鹿にしておいて、術を覚えるのは良くて?」

メメルがコルツに食ってかかる。

「魔法くらい覚えたって損はないだろ?」

「そうですとも?で?何を覚えたのかしら??」

「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール!!私のアイスボールとつくづく相性が悪いわね!」

「おうおう?勝負するか!?」

「いいわよ!?出して見なさいよ?」


「まぁまぁ、2人とも!!2頭のヌオが仲違いしたら前には進まないよ!」

アーニャが間に入って2人を止める。

「むむむむむ!!・・ん?」

コルツが何気なく壁を見ると一枚のクエストが貼ってあることに気が付いた。

「発信者・・アーニャ・クローラウス?アーニャ?どんなクエストを依頼したんだ?」

「あ!!それは・・!!」


「『依頼 石化の治療薬・石化に関する情報求む。 報酬金 5000オルガ』ご!!5000オルガ!?おいおい!!」

「アーニャ!!そんな大金持っているの!?」


メメルとコルツが顔を見合わせて驚いた。

5000オルガなどタンクリノの中級騎士の3ヶ月分の給料だ。


「5000オルガなんて、ガンロ様の病気が治るなら安いものだよ!」

「でもよう?そんな大金、どうやって集めるんだよ?さすがに払えないなんて言ったら・・」

「大丈夫!!なんとかするから!」

「・・アーニャ。私の顔を見て?」


メメルに顔を覗かれ、アーニャはメメルの顔を見た。

アーニャはメメルの顔を見ながら大きな髭を動かして口を震わせる・・。


「アーニャ?無茶なクエストを出すのは辞めなさい。リトルウィッチ族は心の迷いを見破るの・・。これが最善な選択ではないと言う事が分かるでしょう?あなたの瞳が言っているわ。」


「・・・私の毛皮を売るから・・本当だもん・・。」


アーニャの言葉にコルツもメメルも息を呑む。



「そうしたらアーニャが死んでしまうじゃない!ガンロ様もそんな事は望んでいないわ?でしょう?」


「・・・みんなには内緒にしていたけど、告知の夢を見たの・・。」


「「それで?」」

「ガンロ様の推測もあるけど・・私は、異世界から召喚された勇者『リク』と一緒にいて・・。

それで私は矢を受けて倒れているの。

『リク』は一生懸命、私に回復スキルを使っていて。

ただただ、自分の弱さや無力さを責めていた。


そして敵が攻めてきて、絶体絶命って感じだった。きっと私・・そこで殉死するんだよ。

だったら、敵の群勢に屍を晒すくらいなら毛皮になって使われた方がいいと思ったの。」


「夢はそれで終わりか?」

「うん。」


メメルは帽子を脱いでアーニャに語りかける。

「告知の夢は逃れられない運命であり、時の神シュクシャカ・ジカンが見せると伝え聞く。アーニャ?あなたの信仰しているアカナと言う女神は、教徒に残酷な最後を見せる無慈悲な神様?」

「それは・・でも、マザー・アカナは試練を与える!マザー・アカナは知恵ある者を試すよ!」


「試練を与えて試しても。信じる者に悲惨な夢を見せたりはしない。確かに法典を見る限りマザー・アカナは神々の中でも抜きん出て荒ぶる神様だわ。でもアカナの試練を耐え抜き、克服した者を祝福して微笑んでくださる。

私もそう思うの。

アーニャは、どう思う?」


メメルに言われ、アーニャは満身創痍な顔でボソボソと語った。


「・・・マザー・アカナは微笑んでくださる。荒波を克服した人間に微笑みの虹をかけたように・・。凶作に苦しむ民に慰めの雨を降らせたように・・。私もそう思う・・」


「でしょう?だから、自分の身体を売って助けようだなんて、そんな悲しい事を言わないで!それはガンロ様やマザー・アカナだって望んではいない筈だわ!」


「アーニャ、その夢に俺は出なかったんだろ?やっぱり違う夢なんじゃないか?俺とメメルがついてる。魔法使いと騎士がアーニャを護っている。その事をわすれるなよ!」

「そ、そうよ!コルツの言う通り!」


「うん・・うん・・」

「1人でそこまで悩んでいたなんて・・気付いてあげられなくてごめんなさい。」

「アーニャ、チキン奢ってやるよ。元気だせ。」

コルツがアーニャの肩をポンとたたく。


「自分の毛皮を売るだなんて・・笑わせてくれるじゃない。」

身長の低いメメルが切なそうな顔をしてアーニャの胸に顔をうずめる。

アーニャはメメルの頭を抱きしめると優しく撫でた。


アーニャは今にも泣きそうな顔をしてコルツに言った。

「コルツ・・モア・・。」


「んん?何かして欲しいのか?」

「私、ジャイアントモアが・・食べたい!!」

「はぁあ!?さっき食ったじゃねーか!!」


「お腹いっぱいになれば、何か良いアイデアが思いつくかもしれない!」

アーニャは真っ直ぐな視線でコルツに言った。

食いしん坊だが、いたってアーニャは真面目なのだ。


「えーっ!ちょっ!えぇえ。」

「コルツ、アーニャのためよ!たらふく食べさせてあげなさい!」

「ぬぁー!わかったよ!買えばいいんだろ?買えば!」


コルツはしぶしぶジャイアントモアの売ってる屋台に歩いてゆく。

よほどジャイアントモアが美味しかったらしい。


「・・・アーニャ、これはいいわよね?」

「・・・」

メメルは帽子をかぶり直すとアーニャのクエストを剥がしてポケットにしまった。

「アーニャ、1人で悩む事ないんだよ?ガンロ様の病状は日に日に悪くなっているのは誰だって分かる。でも冒険者のミル姉さんも。クルス師匠や、村の皆だって聞いたり調べたりしているんだよ。吉報を待ちましょう?」

「うん。」

「さぁ、元気出してアーニャ?それじゃ、コルツの所にいこっか。」

「うん!」


アーニャは元気を取り戻し、尻尾を立てながらコルツの所に駆け出した。






「ここが『勇者召喚の儀』が行われる場所か・・。」

暫く街を散策していると教会の前に木でできた小上(こあがり)があり、祭壇のようなものが出来ていた。

ツェトリと違い見習いの弟子達や、修道女も多く。

大地の神ミミエ・アルマを信仰している巫女や、風の神クアラ・フフルを信仰している僧侶達が、慣れない大工道具を使って一生懸命祭壇を作っていた。


祭壇の中心には玉座のような朽ちた椅子が置かれ、黒いヒモがのびた王冠が置かれている。


「おぉ!そこにいるのはアーニャではないか!!」

「バッカス司祭!!」


バッカスが両手を広げて3人を歓迎する。


スキンヘッドに黒いアカナ教の礼拝服を着た姿は上級モンスターのようだが、内面は普通のオジサンだ。

「タンクリノへようこそ、アーニャ君!今日はガンロ司祭はいないのかい?」

「はい・・。石化の病気がちっとも良くならなくて・・。」

「そうか・・。今日は買い出しかい?」

「はい!村の物資を買いがてら観光に来ました。くんくん・・。」

「ん?」


「どうしたの?アーニャ?」

「どうした?アーニャ?」

コルツとメメルがアーニャを見る。

アーニャは鼻をピクピクさせながら時より口をポカンと開けた。

「くんくんくんくん・・・ポカン。くんくんくんくん・・・・。」



「どうしたんだアーニャ君?」

「しっ!アーニャが臭いを分析してる!!」

コルツがようやくアーニャの行動の意味を解説した瞬間、アーニャが大きな声で言った。


「この臭いは、黒タントリの麦焼酎「うわーー!アーニャ君!!!そうだ!祭壇を案内しよう!!チークダンスもしたいよな!さぁ!!」

バッカス司祭が慌てて右手でアーニャの口を押さえると、アーニャの手をとって踊り出した。


「もがもがっ、バッカス司祭!お酒は辞められたのでは無いのですか!?」

アーニャが手を退けながらモガモガ言った。


「いや!!とととと!とっくの昔に辞めたよ!?」

「バッカス司祭〜?アーニャの嗅覚はごまかせませんよ?」

「何言っているんだメメル君!?あぁ!そうだ!!

アーニャ君達にお土産があるんだった!!ちょっと取ってくるー!!自由に見てまわって構わないからー!」

バッカス司祭が慌てて教会の方に走って行き

(ツェトリの修道女がまいられた!何か気の利いた菓子を用意せよ!!)

と騒ぐのが聞こえた。



「これは・・なんだ?」

コルツが玉座に手を触れる。

玉座と言っても装飾は施されておらず。

背もたれや首にかけて、海綿のような不思議な素材のクッションが贅沢に使われていた。


そして座席の部分には遮光器のような物がついた冠が置かれており、なぜか玉座まで紐で繋がれている。


「はぁはぁ、不思議であろう?古代デルマ人の英知とも、機械の神オーガイの作り出した物とも言われている異世界の転送装置さ。先の大戦で我々を勝利に導いたのも、この装置で転送された勇者達だと伝えられている。」

バッカス司祭が頭の汗をぬぐいながら、メメルにお菓子の入った紙袋を渡した。


「その勇者達はどこへ?」

「わからん。いずれにせよ、大変な戦いであった事は確かだ。一連の戦いは記述に残しておらず。意図的に破棄されているのだ。おそらく・・」

「おそらく?」


バッカス司祭はベルベット生地の司祭服を撫でながらアーニャに目配せをした。

アーニャは耳をピンと立てて意味を汲み取る。

「ガンロ様・・なぜ?」


「それは私にもわからん。司祭になったのは最近なのでな。ただ、少しばかりの勇気があるなら聞いてみてほしい。」


メメルの持っている菓子の袋がクシュッと音を立てた。

3時を告げるチャイムが鳴らされ、教徒達が仕事を中断して祭壇に腰をかける。

それを見計らうように、水売りが飲み物を乗せた荷台を引いてやってきて広場が賑やかになった。


「『勇者召喚の儀』には、沢山の魔力が必要になる。魔力で玉座内の機構を動かし、異世界より勇者を呼び出すのだ。その様はまさに圧巻であろう。アーニャも顔を出すと良い。ガンロ司祭に『バッカスは禁酒は継続中である』と伝えてくれ。」


[バッカス司祭〜、聞きたい事があるんスけどぉー!]


「おぉう、今行くぞ!では、みんな!またな!」




バッカス司祭が振り向き様に手を振ると歩いて行ってしまった。


「俺たちも帰るか!ツェトリに来る頃には日が沈む!」

「うん!」

「コルツ、武器屋に行かなくていいの?」

「へん!どこかの猫娘のご機嫌に使っちまったよ!」

「・・・。」

アーニャは耳を伏せながら悲しい顔をする。

「大丈夫よコルツ!私が責任をもって村の剣を精錬しなおすから!アーニャも元気だしなさい!」


「うん・・ごめんねコルツ・・」

「お、おう。別に謝らなくてもいいけど。ごめんねアーニャ。元気になってくれて俺も嬉しい。」

アーニャがコルツの頬にキスをすると、尻尾を立てて先に歩きだした。

メメルがニヤッとしながらコルツを小突いてアーニャを追いかけた。


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