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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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ツェトリ村の日常

ツェトリ村の日常


ガンロ司祭の見習いアーニャ・クローラウス

リトルウィッチ族であり魔工師の メメル・パルクリア

そして 騎士を目指す カイル・コルツ



彼らは、いつものようにギアーテ王国タントリノへ買い物に出かける。

そこには渇きの王の脅威さえ忘れる平和で豊かな日常があった・・。


「今日はよろしくお願いしますアーニャ!」

「こんにちは、アーニャ」

「クーデリアさん、どうぞ!マーマレドさんはこちらへ!」

「ありがとう!」


村の広場で、アーニャがワゴンから手を差し伸べて出稼ぎに行く女性達を乗せてゆく。

快晴の南風。

今日はコルツやメメル達とタントリノに村の資材を買い物に行く日だ。

ガンロ司祭から金銭の入った袋をもらう。


「気を付けて行くのだぞ?」

「わかりました、ガンロ様!」

「アーニャ・・その。タバコの葉も・・」

「タバコはお体に悪いですよ!?」

「そこをなんとか・・」

「はぁ。わかりました。」


コルツは牛馬獣(ヌオ)の硬い革を板にして繋ぎ止めた『村の鎧』を着用し。

『村の剣』を(にらみ)ながら剣が真っ直ぐか見ていた。

メメルも先端にボンボンの付いた二股の帽子を被って水晶がついた杖を持っている。

おそらく2つの三つ編みが二股の中に収納されているのだろう。


アーニャは少しだけ自分の見習い服を伸ばすと、手を舐めて頭を梳かした。

ガンロ司祭が、そんなアーニャに麦わら帽子をかぶせる。


「コルツ君。メメルさん。アーニャをよろしく頼む。」

「わかりました!」

「いざとなれば俺の剣があるから大丈夫ですよ!」

「コルツの剣より、私の魔法の方が強いわよ!」

「お?言ったなメメル!」

「何よコルツ?リトルウィッチ族の力を信じなくて?」

「ぐぬぬ!モンスターが出たら、見てろよな!」


「それではガンロ様いってきます。さぁ、行くよみんな!ハイヤッ!!」

アーニャが手綱を叩くと2頭のヌオが走り出した。


ヌオは馬と牛を混ぜた強い脚力と機動力がある偶蹄類で、アカナ大陸を代表する労働力だ。


車輪は軽快に滑り出しワダチのできた道を走る。


アーニャの隣にメメルが乗り。

女性達をワゴンの真ん中に乗せてコルツが後ろを警戒する。


「どうどう!どうどう!!」

「アーニャ、大変そうね。」

「うん。この右のヌオは初めての遠出だから落ち着かないみたい!どうどうどう!!」

右のヌオの目が見開き、ブルブル息を吐いて落ち着きがない。


アーニャは慎重に左の手綱を叩きながら右の手綱を引く。

すると左のヌオが先導して、右のヌオがそれに続いた。

なんとか落ち着いたようで右の手綱を緩めて叩いた。

「人もヌオも同じね・・。二頭が同じ道を進まなければうまくいかない。ねえ、メメル?」

「なにか言いたそうねアーニャ。文句があるならコルツに言いなさいよ?私は私よ。」

「ふふふ。」


ワゴンは順調に草原を越えて、木彫りのドラゴンの人形を越えた。

木彫りのドラゴンは1ペクタルト(3キロ)ごとに配置されていてドラゴンとドラゴンの間は堀が掘られ、トゲの付いた柵が配置されていた。

これもメメルの師匠であるクルスの、リトルウィッチ族の知恵だ。

リトルウィッチ族はアイテム補助魔法とモンスターを操る事に長けていて、ツェトリやタントリノを歩くとその英知を見る事も難しくはない。

しかしそれは負の遺産も持ち合わせていて、時より嫌悪感を催した顔でリトルウィッチ族を語る者も少なくはないのだ・・。




「さぁ、ツェトリから出るぞー!」

「おー!」

コルツが言い、メメルとアーニャが声をあげた。

アーニャが手綱を緩めて軽く打ち込む。

ツェトリを出ると暫く草原が続き、小さな森を抜けて岸壁を下るのだ。

ワゴンはスピードに乗り、ヌオの呼吸に合わせてアーニャが手綱を打つ。

2頭の足並みを揃えながら、スピードを徐々に上げてゆくのだ。

クーデリアとマーマレドはバックを抱え、コルツが叫んだ。

「いいぞーアーニャ!ふぉー!」

車輪は滑らかに進んでゆく。

途中に放置されたキャラバンがあり、その上に『←タントリノ・ツェトリ→』の看板があった。



「コルツ、今回はモンスターも出なさそうね!」

アーニャがマーマレドからレモン水の入った瓶を貰いながら言った。

コルクの栓を抜き、上に向けて豪快に飲む。



「あぁ!そうだな!ギルドからお金貰うの悪いな!」

「ぷはっ。大丈夫よ!依頼は依頼だから!ありがとうコルツ!」


「コルツー、お金貰ってるんだから何か歌でも歌いなさいよ?」

メメルが言う。

「はぁ!?うーむ。そうだな・・。」


コルツが腕組みをしながら考え、マーマレドとクーデリアがお互いを見る。


そして。

「私の父は♪大工さ〜♪それえ〜トントントン♪!アカナの慈愛の日も大工さ〜♪それえ〜トントントン!」


「ちょっとー!酒場で歌う曲じゃないのよ!?」

メメルの声をよそにコルツが歌う。


「大工のガキも大工さ〜それえ〜トントントン♪!!」

アーニャが笑い、メメルもオーダーした手前、仕方なく合いの手をいれた。

「ほら。みんなも歌って!!」

コルツがマーマレドやクーデリアを巻き添いにする。

「えーっ!?私達もですかぁ。」

「わ、私はちょっと!」

2人もしぶしぶ合いの手をいれる。


「ある日アカナが聞きつけた〜それえ〜「「トントントン♪」」」

「アカナは激怒しドラゴンを召喚した〜それえ〜「「トントントン♪」」




「わー、タントリノだぞー!」

しばらくすると木と木の間から赤いレンガの家々が一望できる広い湾が眼下に見えた。


これからワゴンは崖下にあるタントリノまで降りてゆく。


「アーニャ、頑張って。」

「うん!」

アーニャが舌舐めずりをしながら手綱を引く。

マーマレドが応援し、メメルがいざと言う時の為の補助ブレーキを握る。

アーニャは手綱を調整し、ヌオの心の乱れを汲み取りながら降りてゆく。

「さぁ、いい子ね!そのままゆっくり!」

ヌオの馬蹄が必死に地面を踏みしめながら下り、アーニャは深呼吸しながら手綱を叩く。


「あぁ、そこに見えるのはツェトリの修道女ではないか。ありがたや。ありがたや。」

「こんにちはー!」

崖にはいくつか踊り場みたいな広場があり、御者や冒険者がヌオの手入れをしていた。

やはり獣猫人は珍しいと見えて、アーニャを見ると婦人が控えめに手を振り。

真新しい鎧やローブを着た冒険者達が珍しそうに見ていた。


「装備が新しい。新人の冒険者ね。」

メメルがアーニャに言う。

「ツェトリに来てくれないかな?」

「そうね・・お抱えの冒険者になってくれたらねぇ。」


「ツェトリほど経験値上げに良い所はないのに?」

「ツェトリほど歯応えのない村は無いわよ。」


「でも、3食宿付き。可愛い女の子だっているのに?」

「3食の中に猫の毛が入ってるけどね。それに毛深くて獣臭い女の子なら思い当たる節はあるけど。可愛いさは未知数ね」


「え?私が獣臭い?」

「えぇ。すっごく。風下に来たら地獄ね。お風呂入ってるの?」


「んーー。私、濡れるのが苦手で。でもね?舌がブラシになってるからこまめに舐めているんだよ?ほら?」

「わ、ワオ。」


ようやく崖を下り終わり、畑を抜けると石畳で舗装されたタントリノのメインストリートに乗り上げた。


ヌオに乗ったタントリノの騎士達が三本の指を挙げてアーニャに挨拶する。

アーニャも胸に手を添えてマザー・アカナの加護があるようにお辞儀をした。

様々な家の家紋の旗を持った騎士達が優雅に通り過ぎ、だんだん賑やかになってゆく。

ギアーテ王国の首都とは比べものにならないくらい田舎だが、勇者の召喚が近いからか様々な服装をした人達が往来していた。



「うほー!都会だぁ!」

「コルツ、恥ずかしいからはしゃぐのやめなさい!」

メメルがコルツのはしゃぎぶりに注意する。


「石畳みは運転が楽ね!」

「アーニャ?私にも運転させて?」

「いいよー!」

アーニャに代わり、メメルが舗装された道でワゴンの操作を練習する。


「メメルなんてワゴンなんて運転しなくても魔法のホウキがあるじゃない?」

「乗れたら苦労しないわよ。まだ私は見習いなのっ!いつかワゴンなんて使わなくても運べる魔法のバックを作ってあげるわ!」

「ありがとうメメル!楽しみにしてる!

んんーー!!」


アーニャは運転の緊張から解放されて伸びをした。

上を向くと石造りの家と、その家の間から紐が通されギアーテ王国の旗が何枚も歓迎するように翻っていた。

たくさんの御者や商人が行きと帰りの二車線を往来し。

通り沿いには様々な露店が並び、時より肉や魚を焼くスパイシーな香りが鼻をくすぐった。


「アーニャ、ワゴン停めるの種屋さんの前でいいよねって!アーニャっ!」

「え?じゅるり!!」

「じゅるり!じゃないわよ!汚い!!」


いつしかアーニャの口からヨダレが出て運転席をひどく汚した。

「じゅるり。コルツー、お金ある?」

「えぇっ!?装備品を買いたいんだけど?まさかアーニャ、飯を奢ってくれとか言うんじゃ?」

「お願〜いコルツ〜!ギルドの報酬から引いてもいいけど・・」

「はぁあ!?」

「お願いします、アカナ様、コルツ様〜!帰りも一生懸命運転するからぁー!」

アーニャは涙とヨダレを垂らしながら肉球を重ねてコルツに祈りを捧げる。

「アーニャには教徒としてのプライドってもんはねーのかよ!」

「そんなのツェトリに置いてきたよ!ね?コルツ?一口だけでも頂戴ー?」

「しかたねーなー!」

「やったー!!」


アーニャ達はワゴンを種屋の前の路地に停めると、クーデリアとマーマレドはメイドの給仕の為に出発した。

メメルは『魔導の書』や魔道具を作るのに必要な部品を買いに行き。

アーニャは尻尾をピンと立てて屋台を・・

「アーニャ!!調達してから飯だぞ!?」

「えーっ!」

アーニャは尻尾を下げながらコルツと種屋で麦の種の入った袋とタバコの葉を買い。

肉屋で、なめし革につかうアシッドスライムの唾液を4樽と、欲望に負けてジャイアントモアの巨大な照り焼きを購入した。


「はむはむ!はむはむ!やっぱりジャイアントモアの肉は美味しいね!はむはむ。」

一通りワゴンに運び終えてアーニャが肉を食べる。


「ア、アーニャ?俺の分は?」

「あるから大丈夫だよ!はむはむ。」

「どこに?」

「ちょっと貸して?」

アーニャはコルツの剣を少しだけ抜くと、鞘にしまうパチン!と言う衝撃でジャイアントモアの骨を折った。

すると骨の中からプルプルしたゼラチン質の物が出てきた。

「ほら、骨の髄が残ってる!」

「アーニャ!てめぇ!今すぐジャイアントモアを吐き出せ!!!」

「きゃー!コルツに殺されりゅー!」

「何やってんの!?2人とも!恥ずかしいからやめなさい!」


そこへ積み重なった魔導書がやってきた。

「うわー!魔導書が喋った!」

「アーニャ、私よ!バカ!」

「ゴメンねメメル!背が低いから魔導書が喋ったのかと!」

「謝ってないで持って!まったくもう!」


アーニャが魔導書をワゴンに積みながら叫ぶ。

「それよりメメルー!コルツがジャイアントモアをよこせって!」

「はぁあ!?一口って約束じゃんかよ!」

「だから、一口!」

「えぇえっ!?俺が一口の方だったのかよ!!」

「そうだよ!!私はコルツの為にお願いしたの!一口だけでもお願いしますって!」

「アーニャ!!ゴルァ!!」

アーニャとコルツがメメルの持った魔導書の上で掴み合いの喧嘩を始める。

「きー!2人とも食べ物で喧嘩はやめなさい!魔導書を投げようとするな!」


と、まぁ。

なんやかんやあり・・。

とりあえず3人は魔導書をワゴンに積むと、軽く観光する事にした。




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