サクトルとヴェルク
シムラのミネラウル城攻略から数週間前。
メルポ王国領サストテール山脈、ペルムの森。
そこではセラ魔法学院の生徒達が渇きの王来襲に備えて軍事訓練を行っていた。
学院の生徒は灰色のローブにクラス別の赤い帯を下げ、2学年を意味する金の2つの羽根をあしらった冠を頭に嵌めていた。
教員は羽根を全面にあしらった金の王冠を付けており、赤のサーコートの上から呪文の書かれた緑のコルセットを付けていた。
腰には学院の紋章が書かれた銀の杖を下げ、時にそれは魔力の剣にもなり、弓にもなったという。
「みんな!訓練通り3列になり、横に広がって進軍するんだ!伝説の勇者の目撃情報も出ている!気をつけろよ!!」
「ハァ…ハァ…どこまで歩くんだ…?ローブが重いんだが」
魔法学院2学生のサクトルが、同じクラスのヴェルクに聞いた。
「わからない!きっと先生の考えがあっての事だろう!」
先を歩くヴェルクがサクトルに魔法の杖を差し出して倒木から引き上げる。
ペルムの森はサストテールから吹き下ろす冷たい霧と、人間を寄せ付けぬトウヒの巨木がはるか上に伸びていていた。
地面には腐葉土と苔が水気を帯びてローブを濡らし、皮靴が水を含んで身体を支える杖に力が入った。
ヴェルクは農夫の家の出で魔法の杖を“杖として”使い。
サクトルは代々の魔導師の家の出で、息を切らせながらも魔石の付いた杖を丁寧に布で巻いて両手で持っていた。
魔石は鉱物の種類によっては紫外線によって劣化し、様々な木を削りだして作る魔法の杖は湿気の影響を受けた。
それは1学生の最初に学ぶ基本中の基本だが、ヴェルクはお構いなしで杖の先端で背中を掻いたり、学院の掃除の時間中に雑巾を先端に付けて有効利用していた。
「ヴェルク?杖をそんな風に使ったらバチが当たるぞ?そればかりじゃない。この間は雨に濡れたローブを杖に吊るして干していたね。『セラ魔法学院の杖』はスプルースか松でできているんだ。あまり負荷をかけると曲がってしまうし、投擲魔法の精度が悪くなるぞ?」
「へーい」
ヴェルクの横を、同じく杖に布を巻いた生徒が通る。
その生徒もヴェルクを一瞥して何か言いたげに去り、サクトルはそれを察してさりげなく他の生徒からヴェルクを見えないように工夫した。
家柄や血筋こそ揶揄ったりはしないが、思う所はあるようだ。
「いいじゃないか。杖は杖として存在しているんだから。僕らは杖を杖として使う権利がある。この魔法の杖だって本来は人を支える為に生まれてきたんだから、そうやって使って貰って本望という物だよ」
「そうかなぁ・・」
「そうさ!僕は農民の出だから言えるんだ。最低限の物を最大限に使うように教わってきた。そうした方が効率が良いよ!」
「そうか」
もう何を言ってもダメだとサクトルは思う。
ヴェルクは杖を使ってズンズン歩き、他の生徒達を抜かして行ってしまった。
───
「フワーーー!!」
「太陽を見るとホッとするなぁ!」
深い森を抜けた先は巨大な湖だった。
霧が薄霧になり、爽やかな風が熱った身体を冷ましてくれる。
「隊列を乱すなよ!遠足じゃないんだぞ!」
「「「はい!先生!!」」」
気が緩んだ束の間、生徒達は気持ちを引き締めて槍のように杖を構える。
「あ!」
霧が抜け、サクトルが湖の異変に気付く。
ヴェルクは既に気付いていて杖をしゃくって話した。
湖の砂浜の周りに170cmくらいの木が飛び石のように植っていた。
2本の太い根と、高く挙げた2本の太い枝は腕のようで、ちょうど人の頭の位置には口のような穴の窩が開いている。
他にも馬を模した物や、子ども連れを模したような物もある・・。
それらが動く訳でもなく、ひたすら湖の周辺に植っているのだ。
先生が解説する。
「マヒィンがいるな。樹木の巨人エントの子供とも言われている樹のモンスターだ」
「襲ってくるのですか??」
「動きも鈍く、弱みにつけこむ下等種族だ。迷い込んだ人を見ると動き出し、惑わすと言う」
先生は何か思いついたのか手を叩いて指揮した。
「そうだ!ちょうどいい!みんな!今日は、あれを伝説の勇者と見立てて訓練をする!横隊の準備ー!!」
「は、はい!横隊の準備ー!!」
「横隊の準備ー!!」
生徒達がテキパキと横2列で整列を始め、魔法の杖の布を外す。
どの生徒の杖も真新しく、本来なら3学年でようやく
攻撃魔法や防御魔法の授業を始める為、2学年の彼らは杖を使うことをあまりしてこなかった。
これも渇きの王侵攻の時代によるものだろう。
「えっ!?聞いてなかった!何かやるの!?」
サクトルが慌ててヴェルクに聞く。
「横隊だ!校庭でやっただろう!?攻撃魔法の準備だ!!」
「あ、そっか!」
「前隊!!前へーーー!!」
先生が杖を高く上げて前進を指揮する。
横隊の前にはクラスの班長が同じように杖を上げて、先生の指示の伝達を行い。
横2列にズラリと杖を槍のように構えた生徒達が並んで歩き出した。
残りの生徒達も森を抜け、ついに全軍団がマヒィン達の居る湖に顔を出した。
「止まれーー!!距離!200フィート!光属性魔法の用意!!」
「光魔法の用意!!」
「光魔法の用意!」
ヴェルクも杖をマヒィンの一体に向け、光魔法であるライトニングアローの準備をする。
サクトルは後方の列なので中腰で杖を構え、ヴェルクを見守る。
「魔法詠唱!!」
「詠唱!!」
「詠唱!!」
「全能なるマザーアカナよ!!」
「我らを照らす大いなる光よ!」
「我の祖先と光の叡智よ・・!」
魔法詠唱はそれぞれで、アカナ教を信仰していない者も光属性魔法を放った。
光属性魔法は風などの影響を受けにくく、回避も難しいからなのだが、それぞれ信仰している神があるので、それを司る神や精霊を信仰している者はそれに応じて威力が高かった。
杖の先端が輝き、準備が出来る。
「放てーーー!!!!!」
生徒達の杖から閃光が走り、複数のライトニングアローが放たれる。
杖の先から火花しか出ない者、数名の生徒は自分の杖から放たれた衝撃で後ろによろめいて倒れ、後方に控えていた生徒は彼らに目もくれずに前へ出た。
戦場では例え仲間が倒れても気にしてはいけないのだ。
サクトルが立ち上がり、ヴェルクが控える。
「魔法詠唱!!!」
「詠唱ー!!」
「詠唱ーー!!!」
「大いなるマザーアカナよ!!その曇りなき栄光で悪を貫け!!!」
サクトルの杖が輝く。
「放てーーーー!!!!!」
杖が大きく光り、二の腕にズシリとくる衝撃波と共にライトニングアローが放たれた!
しかしサクトルの放ったライトニングアローは狙ったマヒィンの前方で分光して消えてしまい、他の生徒の放った物もマヒィンの前に土煙をあげて刺さるか大きく外れて当たらないかで、まともに当てる事もできなかった。
「魔法詠唱!!!」
「詠唱ー!!」
「詠唱ーー!!!」
サクトルは悔しがるも、すぐに控えてヴェルクが出る。
ヴェルクは小さく呪文を言い
「放てーーーー!!!!!」
辺りからライトニングアローの閃光が輝く中でヴェルクもズドンと魔法を放った。
「攻撃やめい!!!」
「攻撃やめ!!」
「攻撃やめーー!!」
攻撃が終わり、槍のように構えた杖を解除してしゃがむ。
先生や生徒達はマヒィンに近づくと、刺さったライトニングアローを見て得点を付けた。
「これは、アーシアの放った矢だな!?」
「は、はい!私のです!!」
「うむ!フォームも良かったぞ。2組に5点!!」
「あ、あ、ありがとうございますっ!」
アーシアは照れくさそうに丸眼鏡を直すと、周りから拍手を受けて赤面した。
「これはアボク!そうだな?」
「はい!先生!!」
「頭に命中している!!4組に7点!!」
「オッシャ!!」
アボクは得意げに杖を挙げると拍手に応える。
「む・・?これは・・」
先生はマヒィンの足元の焦げ付きを見た。
「・・これはヴェルクだな?」
「はい先生」
「この魔法はなんだね?」
「ファイヤーアローです・・」
先生が口を開こうとした矢先ヴェルクは言い訳をする。
「だって相手はマヒィンですよ!?ライトニングアローよりファイヤアローの方が効く────」
「命令に背いたなヴェルク?」
「だって───」
「だってどうしたヴェルク。効果的だから命令に背いた。そうだな??」
「・・・・はい」
先生は生徒の横隊の前を歩くと説明した。
「君達は30人。マヒィンに命中したのは僅かに2人だ。距離はざっと200フィート、一番の命中制度と飛距離が出せるのはライトニングアローしか無い。だから私は指示したのだ。ヴェルク?」
「・・はい」
「相手の弱点魔法を見出したのは正しい。しかし、それはマヒィンだからだ・・。実際の相手は様々な魔法を駆使する伝説の勇者であることを忘れるな。
それに、ファイヤアローは3学生の生徒が中期に学ぶ難しい技だ。
魔導書を読んだだけの知識では勝てん。
君のミスは全隊のミスに繋がる。射程距離を見誤ったファイヤアローは失速し、敵に気付かれ、反撃がくるだろう。それも、こんな開けた場所じゃなくてだ。分かったな?ヴェルク。分かったな?みんな」
「「はい!!先生!!」」
「さぁ!!鍛錬だ!己の命中制度をあげよ!!」
「「「はい!!」」」
───────
夜のペルムの森。
月明かりに照らされた霧かかった森は静かで、時に枝の落ちる音がした。
ホホゥ。ホウ。と鳴くのはツリーフェアリーと言う古木に住む老人の妖精だ。
ホホゥ。ホホゥ。
老人の妖精は長い髭と福々しい顔で鳴く。
その先には『転送の羽根ペン』が地面に刺さっていた。
ホホゥ。ホウ。ホウ。
ツリーフェアリーが不思議そうに『転送の羽根ペン』を見る。
すると転送の羽根ペンは突然宙に浮いて輝き、それが砕ける頃にはヴェルクとサクトルが転送されていた。
「やった!大成功!!」
「ほ、、本当に来ちゃったよ、、、」
「転送の羽根ペン。帰りの分もちゃんと刺してきたろうね?」
「うん。部屋に刺して鍵をかけた…!ヴェルクも見ただろ?」
サクトルは辺りを警戒し、興奮しながら手の汗を拭った。
本来なら持ち出し禁止の父の書斎から持ってきた物だ。
「もしもバレたらどうしようヴェルク?」
「大丈夫さ、サクトル。僕らは予習をしているんだ…!何も悪い事なんかじゃないさ!さぁ、行こう!」
この日は満月であり、明るい月明かりが真っ直ぐ伸びたトウヒの巨木の下まで照らしてくれていた。
巨大な湖が満月を照らす鏡となって、青く明るく反射する。
その湖の岸に、先程はまで練習に使っていたマヒィン達が居た。
「あったあった!」
「ヴェルク?コイツら、こんな所に居たっけ?」
「ちょっとだけ動いたのかもな?マヒィンだって生き物だし」
見ると、放たれたライトニングアローの魔力が僅かに残り、鈍い光を発している物がチラホラあった。
もちろんアーシアやアボクの矢もしっかりと刺さっていて、サクトルは思わず下唇を噛んだ。
サクトルも同級生には負けたくないのだ・・。
ヴェルクとサクトルはマヒィンから離れると改めて杖を向けた。
「じゃあ、まず100フィートからだ。あたんなきゃ意味が無いからな!」
「うん!」
「大いなる光の叡智よ!ライトニングアロー!」
ヴェルクの杖から光の矢が一直線に放たれ、マヒィンの頭を掠める。
外した光の矢は湖の対岸の巨木に着弾すると、呆気なく壊れてしまった。
「むーー!!凄いのが出たのに!!」
「頭を狙うからだよ!僕だったら身体を狙う!」
「鎧があるし…致命傷にならなくてもか??」
「外して反撃されるよりはマシだろ?・・ふぅ!」
サクトルは息を吐くと気分を整えて詠唱した。
「全能なるマザーアカナよ!夜の闇に紛れた悪き魔物を貫きたまえ!!ライトニングアロー!!!!」
サクトルの杖の先端から閃光が出て、青い輪と共に光の矢が放たれた!
サクトルの光の矢はマヒィンの胸に命中し、たまらずマヒィンは動いた。
そして
「ガタガタガタ・・・パキパキパキ・・」
と言う、乾いた木が拉る(へしゃげる)音がしたと思いきやついにマヒィンは俯いたまま枯れてしまった。
「やった!!マヒィン撃破!!」
「ぼ、僕だって!!」
「えっ!」
ヴェルクはサクトルを待たずに杖を構えるとマヒィンに打ち込んだ。
しかし、魔法を使えば使うほど上手くいかず、それだけ焦った。
「分光してるよヴェルク。僕にも出来たんだ。落ち着いて」
「・・うん」
「精神を使うから難しいけど…冷静にならないとダメだよ」
「そうだね」
ヴェルクは空返事するばかりで魔法のフォームの練習に余念がない。
「ヴェルク!」
「なんだよ!」
ヴェルクはサクトルの目を見た。
その美しい緑色の瞳は月明かりに神秘的に光り、魔導師の血筋を是みよがしに感じさせるものだった。
「ヴェルク・・僕は君の味方だ。親友だ!」
サクトルは硬く握られた杖から解くように、ヴェルクの手を握った。
そこでようやくヴェルクは自分の器の小ささと、心の底で魔導師の血筋であるサクトルに対抗意識を燃やしている事に気がついた。
サクトルは単純に僕を心配し、アドバイスしてくれているのだ。それなのに僕はサクトルを疑ってかかり、己の思うままに魔法を使って空回りした。
先生のおっしゃった事すら、僕は自分の事のように考えていなかったんだ!
「ごめん…。マヒィンに囁かれた」
「きっとそうだと思ったよ!今も聴こえるかいヴェルク?」
「いや、聴こえない!…大丈夫だ!」
ヴェルクは杖を握るとマヒィンから100フィートほど離れて、槍のように魔法の杖を突き出した。
ホウ!と息を吐き。
「一筋の光りと夜露の闇!我が願いと共に貫け!!ライトニングアロー!!!!」
ヴェルクの杖から閃光が輝き、光の矢が雷のように放たれた。
しかし目視した光の矢も残像であり、見ればマヒィンの頭を貫通し、再び勢いをとり戻して湖の対岸に飛んで行ってしまった!
「うぉおおお!すごいすごい!!」
サクトルが驚きながらマヒィンに駆け寄り、ヴェルクも駆けた。
「すごいすごい!貫通してるよ!!これならアンデッドの鎧や硬い鱗も貫通する!」
「もっと…もっとやろう!」
───
2人は気の済むまでマヒィンを使ったライトニングアローの練習をした。
身体は汗ばみ、いつしかローブを脱いで、シャツの胸を開けた。
「はぁ、はぁ…」
「3体撃破した…!」
2人の吐息が湖に響く。
ヴェルクは杖を放り投げると草原に大の字に倒れ、サクトルも杖を抱いて横に倒れた。
水気を帯びた草が火照った身体を冷やし、魔法を自分の物とした確かな感触と達成感に2人は笑った。
「もう怖い者なんてないな!サクトル!」
「そうだね!ヴェルク!」
サクトルは不意に懐に入れていた『知力の林檎』思い出し、肩でゴシゴシと拭くとヴェルクに渡した。
ヴェルクは(どこから持ってきたんだ!?)と、驚いた顔をする。
「お父様の薬棚にあったのを盗んできた」
「本当かい!?」
「ん!」
サクトルは知力の林檎をガリリと齧ると、ヴェルクに渡す。
「あ、ありがとう。サクトルも控えめと見せかけて大胆な事するな…」
「まあね」
「これで同罪か!」
「そうだね!」
ヴェルクも残りを齧り、林檎の甘みと魔力の回復に顔がほころんだ。
その時だった・・!
「こんな所で何をしている!?」
「「せ、先生!!(やばい!!)」」
突然頭上から声がして見上げると、そこには杖に跨って空を飛んでいる先生が居た。
ヴェルクは慌てて知力の林檎を放り投げる。
「む!?ヴェルク!サクトル!!」
先生がフワリと降りると、2人は蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
「ごめんなさい先生!!」
「自主練習をしていました!」
「自主練だって!?」
「「はい!!」」
「まったく君達は!よく城門を抜け出してここまでこれたな。伝説の勇者の目撃情報が入った。おそらくペルムの森の湖の伝承を知っての事だろう。
君達は何で来たんだ?ヌオか?まさか杖で飛んできたんじゃあるまいな?」
ヴェルクが気まずそうにサクトルを見て。
サクトルは俯いてポツリと言った。
「・・・て、転送の羽根ペンのです」
「転送の羽根ペン!!」
先生はフラフラと立ちくらみのような動きをすると、手で両目を隠した。
「そんな高価な物をこんな近くで使うんじゃない!それに君達は2学生だ。もしも使い方を誤って、上半身だけ転送されたらどうする!?
それに、転送の羽根ペンは2本1組で1人乗りなのだぞ?まさかとは思うが、1本で来たんじゃあるまいな!?」
ヴェルクは気まずそうにサクトルを見た。
サクトルも苦しそうに、指を『1』にして先生に見せる。
「もう!君達は!!」
「「ごめんなさい!!」」
先生は呆れながら首を掻いた。
しかし、ふと2人の間から“何か”を確認して顔色を変えた。
「────っ!!伏せろ!!」
先生が2人に伏せるように言う。
その瞬間、マヒィン達が軋む音と葉を擦らせながらヨタヨタと動き出した!
「マヒィンが動いた・・!!」
ヴェルクが驚きながら囁く。
気付けばマヒィンの口は赤く光り、怒りの形相であることがわかる。
「・・ぼ、僕らが魔法を使って仲間を倒したからですか・・!?」
サクトルが心配になって先生に聞く。
「違うぞサクトル。何者かが強大な魔法を使ってフィールドを全体を荒らしているんだ。森に巣食う魔物は密猟者や開墾者には容赦はしない。見ろ、マヒィンが怒りで燃えている…!」
マヒィンは根っこの足をヨタヨタを動かしながら歩き、時に『大地の躍動』を唱えてお互いの攻撃力を高めていた。
3人はそれを伏せながら観察し、マヒィンが湖の辺りの1箇所に集中しているのを見た。
「マヒィンが湖の真ん中に集中してる…!」
「何かあるのかな…?」
ヴェルクとサクトルが話し、先生が言った。
「聞いた事がある。このペルムの森の湖には女神が住んでいて、エントの侵攻で沈んだ神殿があるのだと。
女神はその神殿に仕えた巫女であり、選ばれ者は、時にエントを討伐した伝説の斧を授けてくれると…」
先生が(待っていろ)とゼスチャーして伏せながら進んだ。
「キュォオッ!?」
「ヒュルヒュルヒュル!」
マヒィン達は何かを話し合いながら包囲するように取り囲む。
そこは湖に続く苔に覆われた石畳の道があり、まさに神殿の参道のようだった。
不意に石畳に紋様が浮かび上がり、青白く輝く門が現れる。
そして、カッと明るくなると1人の戦士が現れた!
戦士は希少の赤い『百獣の毛皮』を着ていて、希少鉱物『アグニタイト』を使用した鎧は黒く輝いていた。
そして
「よっしゃ!伝説の斧ゲットォオ!!」
「───!!」
「────!!」
それが出現した瞬間、明らかなレベルの違いにサクトルとヴェルクは硬直した!
マヒィン達も動揺し、数体は怒りの炎を消して踵を返して逃げようとしている。
それはマヒィンそっちのけで誰かと会話していた。
「もしもし!?チャット繋がってる??ケンジだけどさぁ!!いや、簡単に取れたんだけど、女神が居たくらいでボスはいなかったぜ!?何かイベントあんのかなぁ??斧の破壊力を試してみたいぜ!」
己をケンジと呼ぶ伝説の勇者は『鏡』を忙しく指でなぞっていた。
まるで複数のマヒィンなんて、そもそも存在していないみたいに。
「せ、先生!相手は油断しています…!逃げましょう!」
ヴェルクが身体を出して先生に言う。
先生は手の平を見せて『待て』と指示をする。
そして『夜狼の笛』を口に咥えると。
2人にここから逃げるように合図した。
「ん?誰かがフィールドで『逃げる』を使った・・?」
ケンジが鏡から目を離すと、3人を見る。
先生は口に咥えた笛を吹いて、思い切り叫んだ!
「逃げろ!!ヴェルク!!サクトルーー!!」
戦闘は突然始まった・・!!
「おっ!!NPC発見!!!」
ケンジがマヒィンを吹き飛ばし、マントを翻しながら走ってきた!
「先生!!」
「私はいいから逃げろ!!!すぐにメルポの騎士がやってくる!!」
先生が杖を弓のように持って間髪入れずに射出する!
「ライトニングアロー!!」
鋭い閃光を伴った光の矢がケンジに当たり、展開されていた光属性防御魔法にブロックされる。
光の矢はケンジが差し出した手の前で止まり、バカにするように言った。
「光属性魔法か。相変わらず何の捻りもないネ」
「くっ!」
先生は杖を跨いで一気に跳躍すると、空中で杖で円を描き、複数の光の矢を出現させた
「流星光矢!!シャイン・シュティングスタ!!!」
無数の光の矢がケンジに放り注ぎ、たちまち見えなくなる。
それは大地の切れ目に湧く闇の使者を葬る為に造られた高速連射魔法であり、光属性の特性を最大限に利用した魔法であり、時にアンデットやゴーレムの再生能力を凌牙する破壊力を持ち、闇に乗じて忍び寄る悪魔に出現の余地を与えなかった。
「なかなかの攻撃力だねぇ。でも効かないよ。レベルが低すぎるんだ」
「な、、なに!?」
先生の放った光の矢が光属性防御魔法の結界に刺さる。
ケンジが斧を振ると、フルフルと力なく矢が抜けてしまった。
「光突剣!シャイン・トゥエル・キッカ!!」
先生は着地すると杖を縦に構えて詠唱し、杖を光属性の魔力の刺突剣に変身させた!
「貴様を聖なる光の魔法で完膚なきまでに破壊してくれる!!!」
「ふーん。あくまでこの光属性結界を破壊したいのね。別にいいよ。受けてやるよ」
舐められたものだ…!
ケンジは両手を広げてシャイン・トゥエル・キッカを受けるつもりだ!
「覚悟されよ!!うぉおおお!!」
──────
「ひっ!」
「ひぐっ!すごい魔力だ!」
2人は先生の言いつけどおり逃げ出していた。
月明かりが入る静かなトウヒの巨木の森の中に、先生の気迫と咆哮がこだまする。
先生が必死に魂を燃やしながら命を賭けた戦いをしているのだ。
その生々しさに2人は震え、町の方角を目指して逃亡した。
「こんなに離れてるのに、まだ先生の魔力を近くに感じる…!」
「激しく魔法を繰り出しているんだ!」
時に2人は木の根に躓き、手を繋ぎながら懸命に走った。
「ハァハァ・・!ちょっと休もう・・!!」
サクトルはすっかり息を切らして木の根に座り込んだ。
「情けないぞサクトル!!杖を使ってでも歩くんだ!!」
「そんな事、できる訳ないだろ!!」
───カッ!!───
「いぃっ!!」
「ぐっ!!」
大きな魔力の波動が2人を襲い、視界がフラッシュする。
───カッ!────
「く!!」
「いいいいい!」
───ア"ァ"ァッ!!────
「いいい!!!なんだこれ・・!」
「ぐぅうう!!」
そのフラッシュに先生の恐怖に満ちた顔が写る。
───ア"ァ"ァーーッ!!!!────
先生のよじれんばかりの恐怖の顔が頭いっぱいに響く。
「うわぁあもう!やめてくれ!!」
ヴェルクは木にもたれて頭を掻きむしり泣き出す。
「先生…先生!!」
サクトルは四つん這いになって泣き、嗚咽しながら言った。
「つ・・次は僕達かもしれないよヴェルク・・!!アイツの顔は遊ぶ為に殺戮する悪魔の顔だった。先生はリトククルのように痛ぶられているんだよ・・!!」
「例を出すのはよせサクトル・・!!先生はきっと戦っておられる!きっと勝っているはずさ!」
不意に頭を掻きむしったヴェルクの手にセラ魔法学院の王冠が当たる。
それはかつての先生の言葉。
農家生まれの問題児だったヴェルクに先生が王冠を被せた時の言葉だった。
───進学おめでとうヴェルク。魔導士たる者、常に冷静でいるのだ。気の昂りは時に魔力の不純物になる。錬金術のように濾過して蒸留した雑味の無い物の精製こそ錬金術師の腕の見せ所なのだよ。それは魔法とて同じ。ヴェルクよ、心を強く。感情的になってはいけないよ?────
「・・・分かりました先生…」
ヴェルクは涙と鼻水を袖で拭って呟いた。
サクトルは涙と恐怖で震えながらヴェルクを見上げた。
「サクトル。よく聞くんだ」
「え?」
サクトルの頬は冷たく、顔色も蒼白で死人のようだ。
「サクトル。『転送の羽根ペン』。これを使うんだ」
「あ、そっか・・!じゃあ、一緒に───」
「サクトル、サクトル。一緒になんていけるもんか・・!先生から聞いたろ?これは1人用なんだって。
僕はどこかに隠れているよ。先生が笛を吹いたのを見ただろう?きっとじきに騎士達が来てくれる。僕ならやり過ごせるさ・・!」
「そんな事出来るわけ────」
───ブツン────
「・・!!」
「・・・!!!」
サクトルとヴェルクが異変を感じ、同時に空を見上げた。
不気味な静寂の中に2人の吐息が響く。
まるで遠くで狩人の足音を聞いた鹿のように2人は精神を研ぎ澄まし、そしてサクトルは呟いた。
「先生の魔力が消えた・・」
パキン・・!
トウヒの枯枝が落ち、サクトルとヴェルクが反射的に杖を構える。
不気味な魔力が夜の闇に乗じて膨張するように感じ、それが駆け足にも迫っているようにも感じる。
「“アイツ”は確実に来る・・!感じる・・!」
「うん・・!あっ、いけないっ!」
ここでようやくサクトルは自分の杖に布を巻いていた事に気付く。
「ごめん!ヴェルク!杖に布を巻いたままだった!」
サクトルはしゃがむと急いで杖に巻いた布を取る。
不意にヴェルクを見ると無防備にも立ち上がり、湖の方角を見ていた。
「・・サクトル。君は転送の羽ペンを使うんだ。そして助けを呼んできてくれ」
「ヴェルクは!?ヴェルク!!」
「行け!!サクトル!!!」
「ヴェルクーー!!!」
ヴェルクが駆け出し、サクトルが叫んだ!
膨張するように広がるケンジの気迫。
その圧倒的なレベルの違いに怯えるようにサクトルは刺さった転送の羽根ペンを必死に頭に思い浮かべ願った・・!
───────
転送のペンが割れ。
サクトルは無事に自室に戻ってきた。
部屋のドアを割れんばかりに叩く音がする。
「サクトル!!サクトル!!居るのか!!サクトル!!」
「サクトル!?どうしたの??サクトル!!」
サクトルは悪夢から覚めたように気を取り戻すと部屋のドアを開けた。
「もう!居ないのかと思ったじゃない!!」
「サクトル??・・どうした?随分汚れているじゃないか!」
「お父様!お母様!!」
サクトルは両親を抱きしめる。
サクトルの母は魔法調香師のシンボルである月桂樹の刺繍された白い前掛けとシルクのブリオーを着ていた。
父は魔導士として錬成した調味料の卸売りをしていて、年季の入った杖を持ち、魔導士商人として麻のブリオーを着ていた。
メルポ王国は共働きが多く、領主や領主の居なくなった村でさえも、堅牢な城壁や武装が存在した。
それは水害などの天災や樹の巨人のエントから身を守る術であり、後にメルポの王族が失脚した後も治安を維持するのに役立った。
「お父様ごめんなさい!!僕、勝手に転送の羽根ペンを使いました!ヴェルクとペルムの森の湖で魔法の練習をしていました・・!」
「ああ、何という事・・!!」
「身体は無事か??」
「うん!お父様、怒らないの?」
「怒るものか!我が息子が無事だったんだ。今じゃ伝説の勇者が出たって騒ぎになっているよ!」
ボンッ!
と言う音がして外が明るくなる。
敵が付近に出たことを知らせるオレンジの花火。
鎧が擦れる音とヌオの蹄の音。
そして人々の騒がしい声が聞こえる。
サクトルは反射的に両親の間を掻い潜ると、玄関のドアを開けようとした。
「何処に行こうと言うのだサクトル!?」
「ペルムの森に!!先生とヴェルクが居るんだ!」
「それはいけない!これ以上、僕の言うことを破らないでおくれ!」
「やめなさいサクトル!私が騎士に言っておくから・・!」
「でも・・!!」
「やめなさい!!今は戦いに慣れた騎士や一流の魔導士が湖に向かっている!我慢なさい!」
「・・・分かったよ・・お父様!」
「いざとなったら僕が行くから・・!サクトルは母さんを守るのだぞ・・!」
「・・うん・・!」
サクトルが食い入るように窓から外を見た。
町の中心のすり鉢上の台には巨大な篝火が置かれ、軽装歩兵となった町人や冒険者が松明に火を灯していた。
(いいか!?伝説の勇者を見つけても刺激したらいかん!)
(セラ魔法学院の教師が笛を鳴らしたらしい!行くぞ!!)
(軽装歩兵!!前へ!!)
軽装歩兵が2列になって歩き、その横をヌオに乗った騎士が駆けた。
───ヴェルクは大丈夫だろうか────
サクトルは何もできずに椅子に座ると、暖炉の薪に炭でヴェルクや先生の名を書いて投げ入れた。
火は大きく燃え、時にパチパチと爆ぜる。
サクトルの父は何度も外出し、城壁の門番や騎士にヴェルクや先生が帰ってきていないか聞きに行った。
母も外出用のマントルを常に身につけ、町の警鐘や花火が上がらないか常に窓から見張っていた。
────
鳥の囀りが聞こえ、サクトルは暖炉の前で目を覚ました。
気付けば火は消え、僅かに燃え残った薪にはヴェルクの名が残っていた・・。
「サクトル!」
「お父様!」
そこには疲弊した両親がいた。
ようやく明け方になって警戒態勢は解除されたらしい・・。
「いくぞサクトル」
「行くって・・?うん!!」
サクトルの父とサクトルはそのまま駆けるように家を飛び出した。
町の中央の篝火を片付ける人達を通り過ぎ、足止めを受けていた商人達のワゴンがなだれ込み、騎士達が兜を外して朝食を食べていた。
朝食の香りと、帰ってくる人々。
まるで朝と夜が入れ替わるように人々は忙しなく動き、ヴェルクや先生がそもそも存在していなかったのでは無いかと錯覚すら覚えた。
サクトルは人々の中からヴェルクが居るのではないかと探し、城壁を抜けて街道を逸れるとペルムの森を目指した。
「結局、伝説の勇者は見つからなかったらしい。先生は身体の一部が見つかった・・。サクトル、何処で何をしていたか教えてくれないか?」
「うん!こっちだよ!」
「あまり離れないようにな」
サクトルは逸る気持ちを抑えて木の根を跨ぐと湖に向かった。
どうやら軽装歩兵の集団はそのまま湖に沈んだ神殿の参道に向かったらしく、サクトルがヴェルクと離れた場所から捜索場所が離れていることに気付いた。
サストテールから吹きおろす風と、相変わらず霧かかる湖。
参道にはマヒィンの死骸が転がっているのか、複数の魔導士が調査していた・・。
先生の遺体は、そこから離れていない所でバラバラで見つかったらしい。
「ここで練習していたら伝説の勇者が参道から現れたんだ。。
名を”ケンジ“と言っていた。
それで先生が戦ってくれた・・僕らは先生に指示されて逃げ出したんだ」
「ふむ。僅かに魔力の波動を感じる。よほど撃ち込んだのだろうな・・ここで転送の羽根ペンを使わなかったのは正しいぞ。もしもサクトルが取り乱した状態でこれをヴェルク君と使っていたら・・2人は融合した状態で転送されていた事だろう」
「・・ごめんなさい」
「先生は戦いながら、君達から伝説の勇者を離そうとしていたんじゃないかな・・」
「・・・」
サクトルは涙を拭って気を取り直すと、昨晩の事を思い出しながら先に進んだ。
「・・・それで僕らは町の方へ駆け出して、ここでヴェルクに言われたんだ『助けを呼んできてくれ』って」
「ふむ」
サクトルの父は『調香師の方位磁石』を取り出した。
方位磁石の針が湖とも町とも違う方角を向く。
「ヴェルク君の匂いで間違い無いだろう。行こう」
「なんでヴェルクは、明後日の方向に走って行ったんだろう…」
「くっ!」
トウヒの幹に斜めに振り下ろされた刃の痕があった。
幸いな事に2本の巨木に受け止められ、ヴェルクに当たらなかったようだ。
向こうには刃の痕で地面が抉れている。
ヴェルクが幸運なのか、それとも…。
サクトルは嫌な想像が頭を過り、頭を振った。
まるで狩人が逃げるラビットを使って矢の練習をするように、逃げ惑うヴェルクにわざと外して遊んでいるんじゃなかろうか…!?
「む!サクトル!あれをみろ!」
「あっ!アーシア!」
そこには2組のアーシアが居た。
「お、おはようございます・・!いてもたってもいられなくて・・騎士さんから聞きました・・ヴェルク君の事・・」
アーシアの他にも生徒が居て、彼女らは1学年で習うペンヴュラムを垂らして、ヴェルクの向かった方角を割り出しているようだった。
「お!サクトルじゃねーか!おはよ!」
「おはよー」
「うぃーー!」
そこには4組のアボクが他の生徒と一緒にヴェルクの痕跡を探していた。
「アボク!!君たちも来ていたんだ!!」
サクトルは涙を浮かべながら言う。
「同じ学校なんだから当たり前だろ!?校長から許可は貰ってるぜ!先生方もくるってさ!」
「みんなで探そう!!私に続きたまえ!」
サクトル親子が先頭を歩き、他の生徒達が続く。
皆、学校で知り得た知識を最大限に利用してヴェルクを探しているのだ。
・・森に刻まれた刃の痕。
魔術を用いたのか、杖の刺し痕。
ヴェルク・・戻ってこい・・!!
ヴェルク・・戻ってこい!
サクトルはそう呟くと地面の痕跡を探す。
幹には血痕が混じり、僅かに血の臭いがする。
サクトルの鼓動と息遣いが早くなる。
その血の臭いは森を満たし、もはや道具を使わなくとも何処から臭いがするのかわかった。
「あ!!あれは!」
サクトルが見るそこにはヴェルクの杖が刺さっていた。
「ヴェルク!!!ヴェルクーー!!!!あああ!!そんな!!ヴェルク!!」
「ヴェルク君!!!」
「ヴェルク!!」
サクトルが走り、アーシアや他の生徒達も走る。
ヴェルクの杖には切断された腕。
両断された巨木と焦げた大地。
そしてその両断された巨木に寄りかかるようにヴェルクの亡骸があった。
ヴェルクは死してもなお杖のある方を見つめ、その両足と残されていたであろう左腕は原型を留めることなくズタズタに砕かれていた。
駆け寄ったサクトルがヴェルクを抱きしめ、森に慟哭が響き渡った。
「ああああああ!!!!ヴェルク!!!ヴェルクーー!!!!!!ごめんよ!!僕が逃げたばかりに!!助けに行かなかったばかりに!!!!うわーーーーー!!!!」
ヴェルクは紐の切れた操り人形のように力無くサクトルに寄りかかると、遂に杖を持って戦う事を辞めたように地面の虚無を見つめていた。
サクトルの父はそっとヴェルクの瞼を閉じると、まるでそのまま眠っているのではないかと錯覚さえ受けた。
暫くして執行官が駆けつけ、ヴェルクは死体袋に巻かれて運ばれた。
ヴェルクの両親も駆けつけ、サクトルはヴェルクの血を付けたまま、ただただヴェルクの傍に居続けた。
両親はサクトルに聞くことも、責めることもしなかった。
ヴェルクの家は城壁から少し離れた麦畑の区画にポツンとあり、漆喰と木の皮の瓦屋根の家で農民階級の一般的な家だった。
「みんな・・。家の息子を愛し、心配してくれてありがとう」
「少し家族だけにさせてください・・」
ヴェルクの両親は消え入るような声でそう言うと家に戻った。
生徒達はサクトルを見る・・。
「サクトル君。そろそろ休んだ方がいいわ?」
「これから渇きの王が本格的に来るって言うしな…」
アーシアとアボクがサクトルを心配する。
サクトルは抜け殻のようにポカンと2人を見ていて、その様はマヒィンのようだった。
「アーシア、アボク…」
「「なに?」」
しかし、サクトルの目には怒りの炎が燃えていた。
「僕に…僕に魔法を教えてくれ!!魔法が強くなる為だったら、どんな神様だって信仰する!!例え邪神イルだとしても!!ヴェルクの仇を打ちたいんだ!!!」
「・・うん。分かったわ・・!」
「力になるぜ、サクトル!一緒に強くなろう!!」
アーシアがサクトルの手を握り、その上をアボクが握る。
「俺も参加させてくれ!」
「黙っていられるかよ!」
アボクの仲間達も手に触れ、他の生徒達もそれに続く。
「私も!」
「私も参加します!」
「僕もやるぞ!」
「やらせてください!」
サクトルは泣きながら笑った。
仲間の心強さ、力強さに身体が震えた。
「みんな!みんなありがとう!!ヴェルクの仇を取ろう!!戦いの火を胸に灯そう!!!」
サクトルは深く誓い、魔法の杖を掲げた。




