異世界から来た勇者達
現代世界から伝説の勇者がやってくる。
彼らは神々を選び、アカナの世界で優遇されて産まれてくる。
時に厳しい異世界に住む住人を小馬鹿にし、文明に入り込み、彼らの問題に遊び半分に介入する。
それは大陸に住む者と、辺境に住む者。
お互いの問題と軋みの狭間で、与えられている奇跡の力で圧倒する。
およそ80年前
この"世界"は混乱と混沌の最中にあった。
王族達は競うように外洋に乗り出て香辛料をはじめとする様々な貿易を始めると、神々の信仰を捨て、やがて富ばかりを追うようになった。
しかし貿易は巨万の富ばかりではなく、同時にぺステと言う未知の瘴気を呼び込む結果となってしまった。
ぺステは商人と共に入ってくると、瞬く間に大陸全土を覆い、身体の発熱と共に不気味な黒点を浮かびあがらせて人々を死に至らしめた。
パニックになった王族達は次々に神々の改宗を始め、神官達もぺステの原因究明と治療に心血を注ぐようになった。
数年後、アカナ教の熱心な星読みの研究により『ぺステの流行は、マザーアカナの神罰である』と公式に声明し、これを大々的に謝罪した。
王族達はこれに感銘し、富裕層を中心に私財をアカナ教に捧げて大女神アカナに許しをこう事が流行した。
やがてぺステの大流行は高止まりした後、緩やかに減少傾向に転じ、アカナ教の神官達は民衆の信仰をさらに集めて力をつけた。
莫大な富と名声と信仰を集めたアカナ教は、他の神々からは禁忌とも言われた『他の神々に反して人の子としてマザーアカナを赦し、和解する』と言う私欲に走り、ミネラウル城にある破壊された塔の再建築を始めた。
マザーアカナは全知全能でありながら、冷酷かつ気まぐれで、その力と暴虐さは人間にはかり知る事も出来ないのだが…。
アカナ教の繁栄と暴走は他の神々を信仰する神官達や貿易で財を成した王族に恐怖を与え『渇きの王』と伝説の勇者の侵攻する大義名分の助けになってしまった。
『渇きの王』率いる異世界から召喚された勇者達は卓越した知識と並外れた力で大陸を支配し、王権や神罰に抑圧されていた農民や奴隷階級に武器を与え奮起させた。
彼らは軍勢となり、タントリノを陥落させるとギアーテ王国を孤立させ、メルポ王国(現 メルポ公国)に侵攻した。
事態を重く見たアカナの神官達はマザーアカナから神託を聞き、伝説の勇者の1人を捕らえると本格的な分析を行なった。
分析の結果、伝説の勇者は鏡を持ち、まるで胎児の臍の緒のように外界と繋がっている事が分かった。
神官達はその”繋がり”を、神話になぞらえて『外界に繋がる川』と名付け、様々な術士や賢者達を用いてこれを外界と切り離した。死を恐れず、強くなって戻ってくる伝説の勇者達・・・外界の川を断ち切った所でその勇猛さは変わらないと思っていたのだが・・・
─────
アカナ大陸における60年前。
陥落したプレリオール城。
アクティブログイン数35000アカウント。
その様々なプレイヤーが最後のダンジョンの攻略に乗り出し、プレリオールの森はスマホと魔光で光り、空から突入せんとアークウィッチに扮したアカウントが空を飛んで塔を包囲し、アカナ教に仕える魔族や造られたモンスター達と空中戦を繰り広げていた。
16時45分。
プレリオールの塔に最初の突破口が開けられ最上級プレイヤーや古参プレイヤー、便乗野良プレイヤーが突入した。
その瞬間は動画配信サイトの『爆・攻略アカ』で生中継されており、新規ユーザーもここから参加した者も多かった。
装備も様々で伝説級の龍の鱗の鎧から、重課金の黄金の鎧。
古参で素早さと攻撃力に振り切ったビキニアーマーから、初参戦に新規ログインボーナスで貰える『はぐれ者の鎧』など様々だった。
そのパーティーが巨大な軍勢となり、4メートル角の巨大な通路を勝ち鬨あげて突き進む。
「破天斬!!!!」
「グォオオオオ!!」
ホールに潜んでいたゴーレムが瞬く間にプレイヤーに囲まれて撃破される。
プレイヤー達は恐るべきスピードで塔を守るモンスターや罠の対処法を編み出し、それを駆逐すると上階へ駆け上がった。
確かな手応えと、前人未到の塔にワクワクしながらプレイヤー同士が忙しなく会話する。
V CHAN:「あとラストまで突っ走りますよ!!」
るーるー:「パーティーメンバーの体力は大丈夫ですか??」
naco:「すごいですね。こんなに大人数でログインして一つのサーバーに一斉にセッションできるなんて・・このゲームどうなっているんですかね??」
jnon:「V CHANさん!!IRYYさん居ますかー??」
Irian:「みんな一度集まりましょう。各個撃破です!」
jnon:「ん?あれは?」
nako:「シムラさんじゃないですかー??」
すると、誰かが置いておいた『転送の紋様』からファストトラベルしてやってきた勇者がいた。
それは60年後の現在のアカナ平原にも『破格の強さ』を意味する“シムラリア”として名前が残るプレイヤーだ。
白銀の鎧を装備し、電雷の虎“ギバ”の皮衣を肩にかけ、携えている聖なるハルバードの突きも凄まじく、そこから発せられる雷撃はデフォルトでMPを消費しなかった。
シムラはこのゲームのサービス開始時から毎日のようにログインしてる古参プレイヤーであり、入念に吟味され鍛え上げられた武器や防具、錬金術と化学の粋を集めたアイテムは他の追随を許さなかった。
今では古参パーティーから枝分かれした複数のパーティー内を行き来して国籍を問わない巨大なコミュニティーを作り出し、シムラを筆頭にした伝説の勇者の大軍勢を創り出した。
このアカウント一斉ログインがギアーテ王国の包囲やメルポ公国ミネラウル城の陥落を可能にし、ゲームのコンプリート率を一気に押し上げるきっかけとなった。
彼らの目的はただ一つ。
最高難易度マザーアカナの挑戦と、そこで得られる『鍵』と『エイラタルデ』と言う特殊魔法だ。
彼らにとってそれが強化装備や魅力的なアイテムでなくとも、そこで得られる高みから見下ろす達成感と承認欲求は、この『死にゲー』と呼ばれた本ゲームの中で何物にも変えられない魅力的な物だった。
ケンジ:「遅かったじゃん!何してたんだよ?」
シムラ:「ちょっとアイテムマラソンしてた」
「嘘つけぇ!俺らが中腹まで行くまで体力温存してたんだろ?」
「正解。それで?進行状況は??」
write:「下階の敵は殆ど倒したよ。ドロップした要らないアイテムはコミュニティーで共有してる」
シムラ:「すごいのあった??」
「しょっぱいねー。私達が強すぎるのかもだけど・・私の使ってる『モルダ王の王杓』には勝てないよ」
ケンジ:「限界まで強化したアイテム使ってるからな」
「私たちの“元祖パーティー”はこのゲームで最強だからね。今も破られてないよ」
3人が話ながら通路を歩く。
そのレベルの違いに、誰もフレンドリーファイトを仕掛けてくるアカウントはおらず、苦労して制圧した通路であるにもかかわらず静かに道を開けた。
「シムラさんがログインしたぞ」
「うそだろ!?シムラさんだ!初めて見た!!」
「・・すげえ!いくら課金したんだろ?」
「誰か録画してる??」
アカウント達は口々にチャットし合い、シムラの鎧を見て驚き、課金した際の金額の算用をして更に驚いた。
すぐさまフレンド申請が来て、シムラはスマホを持つとにこやかに答えた。
───
「おのれ!渇きの王!!」
「こんなに暴れて、神罰を知れい!!」
「アカナの鉄槌よ!今ここに!!!」
アカナの神官達が龍戦車(亀の甲羅にドラゴンのデザインの車輪がついた戦車)を用いて火炎を噴いた。
亀の甲羅のドラゴンはシェルドラゴンと言い、オルオガーテよりさらに東南にあるガラン地方の『大石柱の森』に生息していた。
シェルドラゴンは天道説が主流であったアカナ教において大地を支えると言われる聖なるドラゴンであり、口を開けての火炎放射と蒸気を使った咆哮は異教徒や蛮族にトラウマを植えつけた。
そして特出すべき点はこれだった。
中堅アカウント:「ウォーターシュート!!」
Irian:「あっ!!水はダメだ!!!」
「「ウワーーーーー!!!」」
戦いの経験の少ないアカウントが水系の魔法を放った瞬間、火炎は更に燃え上がり大爆発を起こした。
この爆発に巻き込まれ複数のアカウントが撃破される。
新規アカウント:「うわ!!やられた!!」
新規アカウントB:「ちょっと勝ち目ないんで落ちまーす!」
アカウント達は死亡するとキラキラとした光の粒となって消えてゆく。
彼らは死亡すると、付近に設営した『クラーラさんのキャンプ』か教会にリスポーンとなる。
Irian:「魔工師の火炎放射は水をかけると燃え上がるんだ!!盾の耐久か防御魔法で対処しろ!!」
「今が勝機!!いけぇ!!」
「そこどいてもらっていいすか!?」
龍戦車が進撃し、勢い余ったアカウント達が撤退と進軍でぶつかり、混乱する。
「フレイルバリアー!!」
たまらずアカウント達が魔法を使い、複数の炎属性の魔法防御の傘が出来る。
「相手はフレイルバリヤーを展開したぞ!投てき!!」
ここぞとばかりに神官達はフレイルバリヤーの魔法を使う為に杖を翳したアカウントに『ハイフレア』と言う陶器を投げつけた。
この投てきアイテムはバリヤーを貫通すると、魔法防御を掻い潜って炸裂し、炎の渦を伴って熱した金属片を撒き散らした。
金属片は新規アカウントを一撃で葬り去り、中堅アカウントの行動を一時的に出来なくし、HPに持続的に大ダメージを与えた。
Irian:「うわ!ダメだ!やられた!!!」
炎による連続のダメージでIrianも力尽きる。
jnon:「バカ!!バリヤーなんて使ったら相手の思う壺だ!!盾を使え!!」
nako:「間違いは誰だってあります!暴言は禁止ですよ!!」
それを聞いて気分を害したのかIrianは
「やってらんねえ明日仕事なんで落ちます」
と言う最後のメッセージをメンバーに残した。
jnonの興奮は止まらない。
jnon:「まとまりがなさすぎるんだよお前ら!!防御と魔法攻撃だ!!」
フレイルバリヤーと盾の防御の間から杖が伸び、苦し紛れの『ライトニングアロー』が放たれる。
しかし龍戦車の装甲の前では歯が立たず、おかえしとばかりに猛烈な火炎放射が襲いかかった!
nako:「ヒーリングスポット!!みなさん!入って下さーい!」
アカウントnakoが青い魔法の泉を造り出し、負傷した新規アカウントが潜る。
HPがゆるやかに回復し、仲間を回復させるボーナスでnakoのMPが回復する。
銀のローブと星の頭飾りを付けた最上級魔法使いの格好をした『V CHAN』がNakoの特性を見て感心した。
V CHAN:「『MP回復付与』ですか。nakoさん『ラビの首飾り』を装備されているんですね?すごいな」
nako:「エスダーム王国(現エスダムンド)のダンジョンかスケルトンの亡戦士が持ってますよ?今度行ってみて下さい」
jnon:「なるほど。参考になるな。俺はいつも野良プレイだから」
V CHAN:「私も今のうちにマップにマークしとこ」
nako:「方鉛鉱ゴーレムを使うと簡単に手に入りますよ?」
V CHAN:「ガレナで生成するんですか?」
nako:「はい!硬度が柔らかい雑魚になりますが、たくさん生成できますし、場合によっては自動繁殖してくれますからね!」
V CHAN:「すごい!あなた、職業『勇者』なのに物知りですね!」
nako:「勇者は汎用性が高いですから!」
nakoとV CHANのハイレベルな会話に、そこに居た複数のアカウントが聞き耳を立てる。
流石に聞いてばかりでは悪いと思ったのか新規アカウントが提案した。
新規アカウント:「nako・・・さん??ちょっとやってみたい魔法があります!いいですか!?」
nako:「どんな魔法??」
新規アカウント:「イズールです!」
nako:「イズール!?あの最初に貰えるやつ??」
それは、このゲームをプレイするにおいて序盤に会得する魔法だった。
イズールは敵の手を狂わせ滑らせる魔法で、敵の回復アイテムの使用の失敗や武器のダメージ率やクリティカル率を低くする効果があった。
これに対抗したのが『ナイスキャッチ』であり、イズールを発明したパスケア・パレの時代より遥かに後であった。
いずれにしてもアイテム使用率とクリティカルの有無は、それからパーティーを結成するにおいて無価値同然となり、いつしかこれを会得したプレイヤーも早々に使わなくなる魔法だった。
新規アカウント:「神官達はアイテムを投てきしているだけです!!魔法が届けば投げてこられないかもしれません!!」
nako:「かなり初期の技だし、持ってきてないけど・・」
新規アカウント「僕が行きますよ!!最初に手に入る魔法ですからね。それしか持ってないですが」
nako:「やってみよう!他にもイズールの魔法を持っているプレイヤーはいませんか!?」
「私が・・」
「僕がいますよ!」
「俺も!」
新規プレイヤーは、新規ログインボーナスで貰える『はぐれ者の鎧』を装備していた。
鎧には緑青がふいて耐久は低いものの初期に手に入る装備としては申し分のない防御であった。
nako:「レベルがあまりにも違いすぎるけどよろしくね・・!」
新規プレイヤー:「大丈夫です!どうせこんな低レベルじゃ、ハイエナ(ハイレベルのプレイヤーの近くに行って経験値やアイテムを貰いに行く行為)するくらいしか取り柄がないですから・・!」
そうこうしているうちにも盾の耐久値がもたなくなり盾が破壊されて中堅アカウントが撃破され始める。
「うわーー!やられた!」
「これ無理ゲーじゃね?」
「シムラ、マジどこ行ったんだよ!」
亀戦車はやり返せない事を知り、粘り強く盾で防御するプレイヤーに執拗に火炎を吐き続けた。
nako:「アイツら中堅のプレイヤーを狙って私達に見向きもしない!!行こうみんな!!残る者は、新規サンを援護!!!」
新規プレイヤー:「「おーー!!」」
nako率いる盾の軍団が突出し、新規アカウント達がその影に隠れる。
龍戦車は突然の軍団の突出に驚き、火炎の手を緩めた。
nako:「いけえーー!!!とつげきーー!!!!」
「な!なんだ!!」
「ライトニングアロー!!」
神官達が伝説の勇者達の突撃に驚き、魔法を唱える。
nako:「させない!グラビティオール!!」
nakoが土属性魔法で素早くライニングアローの起動を変え壁に突き刺さった。
nako:「今だ!!」
新規アカウント達「「「イズール!!!!!」」」
新規アカウントが剣を翳して神官達にイズールを唱え、龍戦車ごと術に包まれる。
「「うわーー!」」
神官達は突然の術に叫び思い切り怯んだ。
「ば・・バカめ!!攻撃しろ!!ファイヤッ!!」
龍戦車が何事もなく火炎を吐き、イズールを唱えた新規プレイヤーを撃破してゆく。
nako:「ダメ!!一旦退却しよう!」
「させるか!!ハイフレア!!」
神官がハイフレアのアイテムを持ち、nakoに投げつける。
「・・あ!うわっ!」
しかし神官の投げたハイフレアは人差し指と中指で滑り、思いきり足下で炸裂した!
「ギャアーーー!!」
「な!何をしている!!グワー!!」
炸裂したハイフレアは貯めておいたハイフレアに引火し、亀戦車の火炎を溜めている袋に引火した。
亀戦車は爆発し、神官達が炎に巻かれながら悶絶する。
「アカナ様ァアアアアア!!!」
nako:「よーし!!行こ!!みんなもMP温存してないで戦いなさいよ!!新規さんの方が頑張ってるでしょうが!」
アカウント:「いけいけーー!!」
nakoの苦言をよそに、突破口からアカウントが飛び出す。
その勢いで炎上した龍戦車と神官達が撃破され、次に控えていた工兵も敗走する。
斬られた神官は光の粒として消え、炎上した龍戦車も暫く燃えたエフェクトが残り、残骸となって消えてしまった。
「撮れ高だウェーイ!このまま進んで行くゥーーー!」
重課金した動画配信アカウントが二刀流で駆け出す。
そして敗走した工兵にトドメを刺すと経験値を得て走り出した。
伝説の勇者達が次の階層に駆け上がる。
「ここまで来たか…信仰心の無い哀れなデルマの子供達よ…ここから先は通しませんよ…覚悟されよ」
その階には『青の修道女』と言う魔修道女が立ちはだかった。
強い信仰と執念に燃えた青の修道女は大鎌を携え、全体攻撃を得意とした。
どこの技も一撃でプレイヤーを死に至らしめる技であるが、伝説の勇者達のゲームのやり込みはそれすら上回るのであった。
jnon:「ここは俺がいく!!不死鳥の爪!!!!」
「ギャアアアーーーー」
プレイヤーjnonの一撃で青の修道女が青い炎を燃やしながら消える。
衣類と鎌はそのまま残り、不気味に炎が燻って蠢いていた。
noko:「青の修道女は無限湧きです!!先を急ぎましょう!!新規プレイヤーさん!早く!」
そのチャンスを逃すまいと、新規プレイヤーが通り過ぎる。
jnon:「本当にnakoさんは新規プレイヤーに優しいな」
jnonはnakoの優しさに感心すると剣に巻いている包帯を締め直した。
nako:「jnonさん。ありがとう。新規さんに厳しいとコンテンツはオワコンになりますから・・」
───
「ここから先は通しません!!死んでもらいます!!」
次のフロアにはマルリン大司教(アルバースの先代)が立ちはだかり『信徒達の遺灰』を巻く。
空気を舞った『信徒達の遺灰』は人型になり『金の魔人』として5体召喚された!
「『異世界の切り離し』をするまで時間を稼いでくれ!頼んだぞ!」
筋肉隆々の金の羅漢は頷き、伝説の勇者達の前に立ちはだかる。
そしてスキル
『黄泉の開門』を発動させる。
「「「「「『黄泉の開門』!!」」」」」
jnon:「黄泉の開門が来るぞーー!!防御体勢!」
盾を装備しているアカウント達が慌てて盾を構える。
5体の放つ同時魔法は『黄泉の開門』の魔力特性を強化し、黄泉の世界へ通じる巨大な門が数秒長く開いた。
jnon:「くっ!!ホーリー系の盾でもこれはキツイ!」
開門された黄泉の国から強烈な黄金の光が照射され、アカウントが暴露する。
この神官達が繰り出す最高魔法は、アンデットモンスターや死肉や骨を使った兵器に深刻なダメージを与え、悪魔やデスメイジと言った闇系モンスターを防具ごと消し去ることも出来た。
光属性の防御魔法が最善ではあるが、迂闊に使ってしまうとMPの消費が物凄く、次の戦いにとっておきたい所だ。
mio:「あっ!ダメ!!耐久がもたない!!!」
プレイヤーmioの『真紅のカイトシールド』にヒビが入り、たまらずに叫ぶ!
いよいよカイトシールドが破られ、mioをはじめとする後続の勇者達が一気に黄泉の光に晒された!
mioのライフが一気に削られ、遂に0になる。
mio:「出直してきます」
mio達が一斉に撃破されて空間ができたが、すぐに下のフロアから上がってきたアカウントに補填された。
jnon:「黄泉の開門が終わった!!いくぞ!いくぞ!!」
盾が下ろされ、攻撃力に特化したプレイヤーが飛び出す!
金の魔人は人差し指で素早く四角を描いて小さなバリヤーを形成してプレイヤーの攻撃を弾き、両手を組んで思い切り振り下ろしてプレイヤーを叩き殺すと、胸を張って腹から魔力の球を発射した。
「ウワー!」
その攻撃でプレイヤーは達は倒され、尽かさず魔人は口を開けると光属性ブレスの最高魔法『ゴッドブレス』を吐いた。
jnonは味方を盾にして素早くそれを交わすと、光の魔人の背中に回り込んで『閃光の抜刀』を放った。
ダメージは入るが致命傷には至らない。
jnon:「ブレス吐いてる時は身体がガラ空きになる!なんでも良いから叩き込め!!」
ヒキ:「僕、行きます!!」
ヒキが二刀流を構え新規プレイヤーにブレスを吐く金の魔人の両脇腹を切り裂いた!
「グォオオオオ!!」
クリティカルが入り金の魔人がダウンする。
金の魔人は持ち返すと、不思議な力で背面を正面に変えるとヒキに襲いかかった!
jnon:「そこだ!!!!剣技!『疾風斬』!!」
ヒキに気を取られた魔人に、jnonが湾曲した剣を振り下ろしながら電光石火の如く駆け抜け、金の魔人の後頭部を斬る。
金の魔人は雄叫びを上げながらキラキラと光る灰に戻った。
jnon:「しかし手強い奴だ!固いしな」
V CHAN:「確固撃破だよ!連帯魔法をやらせないで!!」
光の魔人は溶けるように消えると、別の光の魔人の前に出現して連帯魔法をやろうとする。
V CHANも素早くテレポートをすると光の魔人との間に割って入り、杖を振って『フレイルバリヤー』を展開して光の魔人を吹き飛ばした。
「くらえ!」
『夜露の槍』を装備した身軽そうなプレイヤーが倒れた光の魔人の胸を貫く。
光の魔人は胸に刺さった夜露の槍ごとプレイヤーを持ち上げ、至近距離で『ドラゴンブレス』を吐いた。
「ウワァー!!」
プレイヤーは瞬く間に燃え上がって撃破され、後ろから隙を突こうとしたjnonに素早く背面と正面を向き直ると、『疾風斬』を両腕で受け止め、腹から魔力の弾を出した!
jnonは被弾するも、持ち前の防御力で何とか耐え、素早くローリングして危機を回避した。
jnon:「クソ!!学習しやがったか!!このパターンは使えないな!」
「『黄泉の導き』」
光の魔人が呪文を唱えながら両手を広げると、黄金に輝く大鎌を出現させた。
大鎌は両手の上で回転を始めると、徐々に速度を上げ始める。
他の光の魔人も素早く溶けてプレイヤーとの間合いを取ると『黄泉の導き』を始める。
nako:「これ、くらったらどうなるの!?」
V CHAN:「『黄泉の導き』は使用する魔法使いのレベルに応じて回転数が変わるの!攻撃できる人数が増えるし、威力が増す!」
jnon:「全員がこれを出したら…詰む!!」
「あー、コレ。詰んだわ。やめようかな?まじで」
動画配信アカウントが無責任な事を言ったのを皮切りに、数名のアカウントが言葉をかけずにログアウトを始める。
jnon:「なんだよ!碌に戦いもしないで敵前逃亡かよ!!」
jnonが苦言を言うも、確かにこのままのやられてしまえば経験値はおろか入手したアイテムも失う事になる。
しかし、ここまで来たからにはなんとか踏みとどまり、せめて次のボスで退却をしたかった。
──その時だった────
突然の白い霧。
黄金の魔人の首に一筋の光が漏れ、ポロンと取れると消滅を始めた。
jnon:「あ?なんだ!?」
他の黄金の魔人の首も脱落し、唸り声をあげながら消滅する。
その剣技を誰も目視する事ができず、それを使ったプレイヤーが静かに説明した。
「・・疾風斬。白霧の身くらましと併用すると、風のように早く動ける」
jnon:「いや、魔法と剣技を同時に使うなんて・・あっ!」
V CHAN:「うそぉ!」
ヒキ:「シムラ…!!」
「シムラさんだ!」
「シムラだ!」
シムラ:「やあ!」
他のプレイヤーも次々に反応し、生きる伝説となっていたシムラに驚く。
ケンジとwriteも後ろに続き、シムラの後ろに立った。
その様は、まさに専門サイトに掲載されているそれであり、jnonはこっそり撮影までしていた。
シムラ:「あらあら、俺がフレンド増やしてる間に随分少なくなったね」
V CHAN:「黄金の魔人が手強かったですからね。何人かは敵前逃亡しましたが」
シムラ:「もっと早く来てあげればよかった」
シムラはそう言いながらjnonの肩に触れる。
jnonは少しだけムッとしたが、レベルの違いの前では黙る事しかできなかった。
───────
マルリン大司教とホーリートロル、そしてメルポ王国(後のメルポ公国)の人質の王子が更に上の階層で話し合う。
5メートル近くあるホーリートロルは聖なる祝福と白い織物のケープと王冠を身につけているものの、体臭は臭くてメルポの王子は顔をしかめた。
彼は万が一、王族や元老院が神官を裏切り渇きの王に内通しないようにする為の保険だった。
王子は恐怖をゴクンと飲み殺すと、マルリン大司教に聞いた。
「──マルリン大司教、"異世界の切り離し”の件ですが、もしも元の世界から切り離したとて、相手側は捨て身の戦術で来やしないでしょうか?」
「どう言う事だ?」
「彼らはこの世界の最高峰の装備をしております、もしも彼らが命綱を切られたら、どのような行動をするのか・・。ただでさえ私達をダルチの駒のように斬り捨てるような輩です。
そんな軍勢の統制が切断されたら、どうなるか・・
窮鼠、猫を噛むと言いますし・・!」
「その鼠はこの足下の階下で束の間の勝利を喜んでいる。まるで肉に群がる鼠のようにな!肉に夢中になるばかりで大蛇の胃袋の中に居る事すら気付かない。彼らが異世界と言う帰り道があるから、勇敢で捨て身で、それでいて野蛮なのだ」
「天に聳えた・・・大蛇ですね」
「そうだ。他の神官も上階で切り離しの儀式をしている!ギアーテには『嵐の騎馬団』や『地の底の竜騎兵』が塔の発煙による合図を待っている」
「渇きの王に勝てる・・!?」
「そうだ・・!だから食い止めるのだ!!アカナに愛されしトロルよ!!」
「仰せのままに…!!!我が力、光の導き手であらせられる大女神様の為に!!!!」
トロルは両手を差し出すと、神官達に鋼鉄の拘束具を付けるように指示した。
鋼鉄の拘束具は大人5人でようやく運べる重さであり、錠の代わりとなる鉄の杭は打ち込むのにトロル自らが床に打ち据えて打ち込んだ。
「そうだ・・解放するのだ!!!!行くぞ!!メルポの王子よ!!」
「・・トロルは一体何を!?」
「蔑まれ、暗黒の奴隷となった魔族が創り出した強化魔法『拘束解放』だ!!拘束される事で力を蓄え、内なる力を増幅させ、然るべき時に解放する・・!!」
トロルは両手両足を拘束され、両手には月を模した巨大な鉄球が、そして両足は頑丈な拘束具が壁に繋がっていた。
拘束具が軋み、トロルは縛られた身体で呪文を唱えた。
鉄球が白く輝き、僅かながらに引力をもつ。
それは万有引力と言う枷の具現化であり、大地の女神ミミエ・アルマに対する抵抗であり、邪神イルや闇の魔族の奴隷であった頃に会得した魔法だった。
神官達と王子は慌ててマルリンに続き、ついにトロルがフロアに一体だけとなった。
───────
「ほぉ」
最初に階段を登ってフロアに入ったのはシムラだった。
「みんな!いつもので!」
write:「じゃあ行くよ!ワクナフローリ!!」
writeが『ワクナフローリ』と言う魔法を発動させる。
『モルダ王の王杓』を振るうと伝説の勇者パーティーに巨大な赤い魔法陣ができる。
それは萌えたつ春の花のように優美で、本来はマモーの大樹海に住む妖精達の知恵だった。
妖精達は様々な補助魔法や魔法薬の専門家であり、同じ森の番人であるトロルや植物系モンスターに様々な補助を行って密猟者から原生林を護っているのだ。
「攻撃力が上がったぞ!」
ヒキが槍を振り回しながら言う。
トロルは拘束具の足枷を引っ張って床の一部ごと強引に破壊すると、手枷を外しにかかる。
トロルは咆哮し、両腕の手枷を床に叩きつけ、脆くなった所を力任せに引きちぎろうとしていた。
write:「グロルリール!!!」
続いて防御力の強化魔法が始まる。
シムラは準備体操をし、ハルバートの感触を確かめながらトロルの前に仁王立ちしている。
補助魔法を全身に受け、その都度輝く身体は神々しさすらあったと言う。
write:「『シャエリスタリルラール』『スタリラル』!!」
writeの補助魔法の連続に、中堅アカウントが騒めく。
「お、おい!補助魔法を全部唱えるつもりかよ!!」
「よく魔力切れが起きないな!流石は伝説の古参パーティーだぜ!!」
write:「シャインツタニル!!」
アカウント達は自分達の剣や武器を持って驚いた。
「おぉ!おおお!武器が光ってるぞ…!」
「シャインツタニルは武器に光属性を付属できる。なるほど…一思いに決着を付ける気か…!面白い!」
他の魔導師系アカウントも続々と光属性のバリヤーや補助魔法を使用し、トロルの前方を覆い尽くす。
シムラ:「さ、いつでも良いよ。こっちの準備はできてるぜ」
トロル:「ウォー!!!!」
トロルが咆哮し、ついに手枷を引きちぎった!
その瞬間、内包していたエネルギーが大爆発し、手枷に付いていた鉄球が輝いて重力を持った。
拘束から一気に解放されたトロルは、そのゾルデルリを利用して魔法を唱える!
その瞬間、周囲がサッと暗くなり、周囲に星々が瞬く宇宙空間を成した。
write:「メテオがくるよ!!それもゾルデルリで強化された奴!!」
ヒキ:「メテオだって!?地属性の最上級魔法じゃないか!!」
V CHAN:「予想が外れた・・!!このトロルは地属性よ!!」
ヒキ:「どうにか出来ないのか!?モロに当たるぞ!?」
write:「みんなの防御力に賭けるしかない!!
星々はトロルの頭上にある恒星を周る。
そして美しい輪を作ると恒星の軌道を逸れ、青いプラズマを複数の穴から吐きだす冷酷な隕石群である事に気付かされる。
アカウント:「うわぁーー!!!当たる!!!」
凄まじい落下音と灼熱と共に隕石がアカウントに次々と降り注いだ。
隕石が床を砕き、クレーターを作って周囲の物を吹き飛ばす。
地属性の最上級魔法は武器や防具の耐久値を一気に下げ、彼らの盾や防具を破壊し、ただただ隕石に翻弄られるがままHPが0になって撃破されて行った。
煙と火が燻る。
メテオが終わり、撃破されたアカウントの光の粒が舞う。
ヒキ:「攻撃が止んだ!!」
write:「みんな無事!?ヒーリングスポットに入って!」
アカウント達のHPが10を切り『重症』のエフェクトがかかり、ヨロヨロとヒーリングスポットに入る。
他の魔法使い系アカウントも回復魔法であるミーキュアを唱え、HPを癒してゆく。
ヒキ:「トロルは!?」
トロルは他の伝説の勇者には目もくれず、浮遊しているシムラを見ていた。
シムラは装備破壊特製のある土属性の魔法を剣で受け止め、得意武器であるハルバードに持ち帰ると、静かに着地した。
「ふぅ。ハイエナがいると動作が遅くなるんだよ。ありがとうなトロル」
トロルは引力を発する鉄球を構えるとシムラに挑む姿勢を見せる。
ヒキ:「シムラはすごいな・・!ダメージを全く受けていないじゃないか・・!!」
write:「みんなはシムラの援護を!できるだけトロルを引きつけて!」
シムラ:「いくぞ!」
シムラはトロルとの間合いを素早く詰めると懐に入り込んで斬り込んだ!
かなりのダメージらしくトロルはのけぞり、トロルがジャンプして衝撃波を出した。
シムラが素早くローリングしてそれを交わし、トロルがシムラを掴もうとする。
write:「今っ!!魔法攻撃!!」
アカウント達の様々な属性の魔法の矢が飛び、トロルの頭に当たる。
トロルは弱点である顔を隠して退避し、引力を伴った鉄球を使って『グラビティオール』を唱えた。
魔法の矢は軌道を変えてトロルを交わして飛散すると、アカウント達に降り注いだ。
シムラ:「魔法の矢は逆効果!!土属性か水属性の魔法で足下を狙ってくれ!!」
V CHAN:「はい!」
シムラは降り注ぐ矢を交わしながらトロルに斬りかかると確実にダメージを与えて素早く退避する。
jnon:「なんであそこで強攻撃しないんだ!シムラなら十分通用するだろ!」
V CHAN:「強攻撃するとトロルが学習してカウンター攻撃してくる場合があるんです!それなら通常攻撃で少しずつ削って確実に仕留めた方がいい!時間はかかりますが確実です!
既にシムラはトロルの攻撃パターンを見つけています。
トロルは一定で離れている集団には『土属性上級魔法』を使い、飛び道具には『土属性グラビティーオール』。足下を攻撃してくるアカウントには衝撃波を使うみたいです。
シムラは既にそれに気付き『ハメ攻撃』に移行しています!」
トロルはシムラの攻撃で右腕を負傷すると、鉄球を左手に持ち替えて振り下ろした。
シムラはそれを素早く交わすと、鉄球が着地するのと同じタイミングでトロルに斬りつけ、素早いステップで間合いから外れた。
シムラ:「うおっ!」
しかし、トロルの鉄球の引力が増すと、シムラの得意のステップが乱れてトロルの手に引き寄せられる。
トロルはそれを見逃さず、強烈な鉄球の振り払いをシムラにお見舞いした。
ガツンと言うクリティカルヒットを示す効果音と共にシムラが吹き飛び、壁にめり込むように叩きつけられた!
アカウント:「わぁー!!シムラさんがぁー!!」
猛烈な土煙と瓦礫に、シムラは見えなくなる。
jnon:「は!!みんな行かないと!近くにプレイヤーが居ないとメテオが来るぞ!!」
jnonの読みは正しかった。
尽かさずトロルは呪文を唱えようと口を開き、全てのアカウントに全体攻撃を仕掛けようとする。
しかし、jnonや他のアカウントが素早く斬りかかり、トロルはジャンプすると勢いよく着地し、衝撃波を出してこれを牽制した。
中堅アカウント:「やられた!」
幾度と重なる衝撃波にアカウント達が散る。
jnon:「手も足もでない!このままじゃ、やられる!!」
ヒキ:「誰か飛び道具を!!」
jnon:「グラビティーオールが発動しているんだ!直接的なダメージにはならないだろ!」
ヒキは何かを思いつき、トロルの前で魔法を発動させた!
ヒキ:「『白霧の身くらまし』!!」
立ち所にヒキの身体から白い濃霧が出て辺りが白い霧に包まれる。
それはウエストテル山脈の山岳部族が使用する『白の魔法』であり、邪神アーズ・イルの魔法から派生した物だった。
イルの魔法は剣技が多く、詠唱も無く、ウエストテルに入り込む“ならず者”達を静かに葬るのだ。
ヒキ:「シムラ!!!」
シムラ:「正解!!さすがヒキ!!」
濃霧の中からシムラが風のように飛びだす。
重装備とは思えない高い跳躍力と、武器の熟練度。
jnon:(ここで攻撃を譲ったのが”正解”って言いたいのかよ?)
jnonは悔しがりながらも、シムラとの圧倒的なレベルの違いを認めざるえなかった。
jnon:「疾風斬か…!」
トロルの両足に斬られた事を示す赤いエフェクトがかかる。
それが両足から腹、胸、そして顔に走る。
そして流れるように別の剣技に移行する。
ヒキ:「天命斬だ…!」
jnon:「いや、龍爪も混ぜてやがるぞ…!!」
jnon達は撤退する事も忘れ、流れるようなシムラの剣技を見ていた。
それを可能にしていたのはアカウントwriteの補助魔法だった。
トロルは鉄球の引力を逆に利用されて、シムラに息つく暇なく斬られ続けた。
ヒットポイントゲージが溜まる事にシムラの身体が赤く輝き、MPの消費を関係なく魔法が出せる準備が整ってゆく。
シムラ:「じゃ、これでおしまい。『サヤト・メルヴィアス』。いくぞ!!」
シムラの身体が黄金に輝き、巨大な光の柱が放たれる。
トロルの居る空間がフロアを成さなくなり、光の降る聖なる上空から6つの腕と6つの円型の剣を持つ戦いの神メルヴィアが降臨した。
黄金の身体と、黄金のビキニアーマーを着た女神はトロルを見て微笑むと6つのチャクラムを振り下ろした!
「グォオオオオアアアアアアアア!!!!」
トロルが叫び声をあげながら倒れる。
身体はゆっくりと光の粒として消え、大量のオルガ金貨と宝石、そして経験値と『無重力の足飾り』と『岩石の盾』『アカナの破片』が全アカウントに配られた。
シムラ:「はい、おしまい」
ヒキ:「シムラはやっぱりすごいなぁ!!」
シムラ:「ありがとう!ありがとう!」
シムラが他のアカウントの賞賛と拍手に笑顔で答える。
jnon:「本当に…すごいな」
jnonが改めてシムラに握手を求める。
その目には深い尊敬と敬意があった。




