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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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最後のステージ

リクとヤッキンは冒険者に保護された後、ある場所に移送される。


くしくもそこは、かつて異世界から来た勇者達と神官達が戦いを繰り広げていた場所。

ゲームとしては最終章となる場所だった・・。

そこでリクは、心の支えであった最高難易度を選択した特典のネタバレを受けるのであった。

果たして、リクの得た能力と特典とは如何に・・




生暖かい風でカーテンが靡いた。

窓から夕陽が入り、電車が通り過ぎる音がした。


リクが母と暮らしているアパートだ。

リクは部活もしていなければ、働いている母より早いので、こうして学校から帰ってくると夜の部まで眠っている事が多かった。

畳に付いたヨダレを拭き、リクは辺りを見回す。


(お腹がすいた・・何か食べるもの・・)

リクは母を待っている間、冷凍したご飯と板状のチーズで即席のドリアを作るのが常だった。


冷蔵庫へ向かうと、リビングに人の気配がする事に気がつく。

父親のものとはかけ離れた、力に満ちた大きな背中と

男の臭い。

そして土木作業でやけた肌と刺青。

そしてゴツゴツとした手があった。


リクの両親が離婚した後に頻繁に家に来ることが増えた30歳くらいの男だ。

リクは人見知りも手伝って会話する事は無かったのだが・・。

「・・リク君??」

男はリクに話しかけた。


「・・・・」

リクは無視をきめこもうとするも、男が執拗に目を見ようとする。

リクは目を意地でも逸らし、男の後ろのリビングには強めの酎ハイと、テレビがついているのか夕陽で薄暗い部屋に青い光が切り替わりながらついていた・・。

いつからか、この男はリクの家でくつろぐほどの"市民権"を得たようだ。



「リク君。明日、修学旅行だろ??ホラ・・」

「・・えっ??」

リクの警戒心もそこそこに男が紙袋を渡す。

男が渡す紙袋には、ワークマンで買ってきた発熱する温かそうなインナーシャツが入っていた。

他にも駄菓子や靴下など2泊3日に必要そうな物が入っている。


「あ・・・ありがとうございます」

リクが言うと、男は酎ハイを口にした。

ふとテレビを見ると大海原の中心に小舟が映っていた。

華奢な男の子と、尖耳の禿頭の亜人が居る。

(あれは・・ヤッキン!?)


──────


リクとヤッキンはすっかり疲弊して舟で倒れていた。

舟はアルツマンド水道にさしかかり、そこで巻網漁のロープに折れた帆の一部が偶然引っかかったのだ。


そこへ魔法でオールを動かした一隻の舟がやってきた。

勇者:「今日は暇だな・・アクアピープルもいやしない」

魔導師:「儲けたじゃないですか!平和が何よりですよ!」

勇者B:「あ、おい!あれはなんだ??人がいるぞ・・?」


密猟者やモンスターの警備をしていた冒険者ギルドのパーティーの舟だ。

A級の冒険者達はオールを魔法で漕がせ。

装備も良く、無駄なく仕立てたチェーンメイルと鍛え抜かれた技と、困難に対処できる経験があった。


勇者:「舟をつけてくれ。人魚魔法使い(マーメイドメイジ)かもしれない。警戒を怠るな?」

勇者B:「おう!」

魔導師(若い男):「わまりました!」


勇者:「頼むぜ??」

勇者は『幸運の赤い鉢巻』をグッと結ぶと足を舟の端に乗りだしてリクの居る舟に乗り込んだ。

リクとヤッキンは突然の訪問者に反応すら出来ずに横になっている。


勇者はハンドサインをして勇者Bに挟み撃ちにするように、魔法使いに舟を横付けにして乗り込むように指示をした。

そして打撃武器メイスを持つとリクを小突く。

マーメイドメイジは弱そうな人間に化ける事が多いからだ。


「ガァアアーー!!」

「はっ!!拘束呪文コーゾイド!!!」

「ぎゃっ!!!」

ヤッキンが起き上がって勇者Bに襲いかかるも、すぐさま魔導師の魔石の杖から光のロープが放たれ、ヤッキンに巻きついて縛った。

「うががが!」

ロープはヤッキンを後手に縛り、尚も激しく抵抗するので首に巻きつき、大きくのけぞらせた。


魔導師:「邪悪な亜人め!激しく抵抗するとそれだけ拘束が激しくなるぞ!」

勇者:「でかした!そのままキツく縛り付けておけ!」


「*え!?な、、なに!?!?救助隊!?海賊!?!?」

リクはようやく起き、舟の中に見知らぬ男達が居ることに驚く。

そして不思議な力で拘束されているヤッキンを見ると驚き、慌ててレイピアを捨てて両腕を挙げて降参した。



勇者「なんだ?呪文か??」

「*あなた達はなんですか!?彼はヤッキン!!僕はリク!!何も無い!!何も無い!!」

リクはありっあけのオルガ硬貨と、乾燥肉のクズを見せて言った。

リクは彼らを海賊だと勘違いしたようだ。



勇者B:「おい異国の言葉じゃないか!?」

勇者:「異国の言葉・・・?もしや彼は・・?」


勇者は腰に下げていた布袋からクエストの書かれた羊皮紙を数枚出した。

それを指で舐りながらリクの似顔絵が描かれたクエストを探す。


勇者:「これじゃないか??」

『『カンズアキ リク』賞金400オルガ。ツェトリにて麦を挽ける権利付き。

特徴 黒髪の直毛(変わっているとの報告あり)。異世界語を話す。

年齢 15歳くらい

勇者復活の義にてアカナ教の司祭達によって召喚され。

タントリノにてヴァイター将軍の軍勢に従軍、セイレーン島にて活躍後、噴火と渇きの王の侵攻により行方不明』


勇者B:「ほぉ、400オルガか」

勇者:「安いクエストで美味しいモノがかかってるとは。儲けたな!」


勇者B:「こんなひ弱そうな子が400オルガとはな。ふふふふふ」

勇者Bはリクの頬を品定めするようにリクを掴むと嫌らしく笑った。



───


保護されたリクと捕らえられたヤッキンはギルドの所管の『名もなきノーノアイルラ』に移され、そこで伝説の剣であるレイピアを帯に差した『村人の服』に着替えた。

そこから魔力の転送装置でメルポ公国、聖都ミネラウルに連行された。


───


転送装置が光り、A級冒険者パーティーとリクとヤッキンが転送される。

洗脳されている。または、何かの追跡魔法が仕掛けられている可能性もあり皆は特殊な魔法がかけられたマスクを着用して運ばれた。

一同は巨大な塔の円型の部屋に案内され、円卓を中心に待つように言われた。



勇者:「ふう・・。おい、もう外そうぜ?くだらねえ」

勇者B:「・・やれやれ。まるでぺステを患った患者みたいだ」

冒険者パーティーが魔法のマスクを取り、蒸れた頭を掻く。


勇者:「ノーノアイルラのギルドじゃ凄かったな。ギルドマスターが血相をかいて伝書魔法を飛ばして、飛ぶように神官がやってきた」


勇者B:「400オルガに、これは神官に上手いこと言えば更に報酬が貰えるかもな。ゴブリンが小僧を食べようとした所を寸前で助けたとか!」


魔導師:「お言葉ですが、、ゴブリン族にだって紳士的な者もいます。

中には人を食べるなんて思いつきもしない者もいて────」

勇者:「ゴブリンは野蛮に決まってる。

いいか?クライアントは常にストーリーに重きを置くのだ。

野蛮なる種族の牙から我々は助けた。

こんなわかりやすい脚本にケチをつける奴はいまい?そうだろ?クエストにちょっとプラスしただけで高い脚本料を貰えるんだ。最高だろうが」


魔導師:「はあ・・」


こうなっては話にもならないので魔導師は呆れたようにため息をつく。

ふと円卓の下を見ると、塔の部屋の全てが巨大な魔法陣である事に気がついた。


魔導師:「うわ。これ、床が魔法陣ですよ!それも強力な魔除けの魔法だ!」

勇者「この中に悪魔が入るとどうなるんだ?」


魔導師:「悪魔でなくても、邪なるウソや偽りを言うと口が締まり、心臓が凍ります!すごいや!」

勇者B:「アカナ教はエゲツねぇな」


魔導師は感心すると、懐から羊皮紙と羽根ペンを取り出すと円卓の下に書いてある魔法陣の複写を始めた。

勇者はすっかり飽きてしまい、リク達を見た。


勇者:「おい!ところで、いつまでマスクしてんだ?」


勇者はリクのマスクを外した。

今まで暗かったので塔の上に下げられたシャンデリアの魔光石に目を細める。

「*ここはどこ??外していいんですか?」

リクはとても真面目で、貰ったマスクを躊躇する事なく被り、誰かの許可が無い限り外さなかった。


勇者:「何言ってるかわからん。魔導師、わかるか?」

魔導師:「僕をそんな呼び方しないで下さい。翻訳の呪文はある事にはあるみたいですが…」


魔導師は呪文の描かれた本を念じて出現させると指を舐めてパラパラと捲り出した。

勇者B:「ほぉ、すごいな。どこから出したんだ?」

魔導師:「自宅ですよ。たまに呪文を忘れちゃうんで、こうして出せるようにしているんです」


勇者:「前に呪文が描かれた本を出す呪文を忘れて大変な事になったもんな(笑)」

魔導師:「うるさいですね!パニックになると頭が真っ白になっちゃうんだからしょうがないでしょう!?・・・うーん異世界語は無いなぁ」


「*ヤッキンも外して大丈夫ですよね?」

リクはヤッキンのマスクを外してやる。

よく見るとヤッキンは囚われているので口を縛られ、手錠をかけられていた。

その物々しさにリクは思わず絶句するが、考えてみればヤッキンは渇きの王の軍勢の一兵卒なのだ。


ガチャ!

と、ドアが開き、白いローブに金色の満月の刺繍がされた修道女が数人やってきた。

一瞬、勝手にマスクを外しているので驚き、改めてマスクを回収する。


「何ともありませんか??」

他の修道女より刺繍が豪華な背の高い女性が勇者達に聞く。

勇者:「なんともないさ。で?俺たちはこれからどうするんだ??」


「これから簡単な筆記試験と検査があります」

勇者:「はぁ!?!?まだやるってのか!?」

勇者B:「冗談じゃない!!!!」

魔導師:「そんな!あんまりです!」

冒険者パーティーは一気にブーイングをする。


修道女はイライラを噛み殺すように目を瞑り、諭すように言った

「ええいいですとも!降りる事は構いませんよ?ですがギルドの報酬は依頼主であるバッカス司祭の名の下に没収しますから!」

勇者:「えーー!!」


「いいですか?今は有事なのです!すでに敗走して保護された味方の兵士の中に禁忌の魔法が施された者や、魂を吹き込まれた生き人形、買収によって洗脳された兵士も確認されています!!今は戦争の一本手前である事をお忘れなく!!」

勇者:「ちぇーー!」


「いいですね?普通の人なら簡単に答えられる問題と、誰も欺かない清き心があれば容易い事です!!」


勇者:「はぁ。。時給換算したら安いぞコリャ」

修道女が羊皮紙とインクで出る魔法の羽根ペンを渡した。


「ココナ リク ディ ゴブロリア(リクとゴブリンはこちらへ来なさい)」

「*えっ!?はっ、はい!」


リクは修道女に促されてヤッキンと一緒に部屋を出る。


「エットー シルヴァリアリテ エストランデイア テート ナイトリア。エアツ??(いいですか。今から拘束を外します。いいですね??)」

部屋を出ると修道女が人差し指を光らせながらヤッキンに言う。

ヤッキンは何度も頷き、修道女はヤッキンの喉を指差した。


「グハァ!言葉が出ないのは苦しかったぜ!!」

「シーーーッ!」


ヤッキンは声が出せるようになり、早速修道女に注意される。

部屋では冒険者パーティーのボヤキが変わらず響いていた。


次に手錠を指差して魔力で拘束を解除する。

黒くて四角い手錠は幾何学模様を作ると、カチリと気味の良い音をさせて脱落し、それが地面に落ちるか落ちないかでフッと暗闇に消えてしまった。


「さ、私についてきなさい」

リクが不思議がって地面に目を凝らすも、修道女とヤッキンが歩き出す。

リクも暖色の魔光石が照らす石造りの廊下を歩いた。


『メルポ公国 聖都ミネラウル プレリオール城』

リクのスマホのマップが、新しい地図を表示する。


プレリオール城は、かなり入り組んだ構造になっていて、時に大理石の開けた空間が出現したり、切り出した巨大な黒曜石の回廊があった。


「すごいなぁ…」

ヤッキンが口をポカンとあげながら見上げる。


巨大な吹き抜けのホールには、銀色のローブを着た神官の列や、高貴な身なりの人達が通り過ぎ、なんとなくリクは総合病院のエントランスや都内のオフィスビルの洗練されたデッキをイメージした。

騎士も貴族もリクやヤッキンに目もくれずに忙しそうに歩き回り、沢山の書物を家来やメイドに持たせて行ったり来たりしている…。


修道女は胸に手を当てて敬意を示しながら進むと、大人4人が横並びになれるほどの大きな中央開きの扉の前で立ち止まった。

そしてポケットから紋章のような物を出すと、右側に置いてある淑女の像にかざした。


淑女の像がガコンと動き、暫く時間をおいて中央扉の中でゴンドラが動く気配がする。

それは見た目も動きも紛れもなくエレベーターだった。

「こりゃすごい・・!」

「・・コホン!」

ヤッキンが最先端の魔力のテクノロジーに驚くので修道女は“静かにするように”と咳払いをした。


「プルーテ!プルーテオ(すいません)!」

扉が開くのと同時に待ってましたとばかりに王族の格好をした男性が乗り込む。

怪訝そうな顔をする修道女をよそに、透き通るような肌と尖り耳をしたエルフ族らしき人達も便乗して乗り込んで、たちまちエレベーターは満席になった。


「あの・・!あなた達、紋章はあるんでしょうね?」


エルフや貴族達が個々に紋章を出す。

「恐れ入ります修道女様。なかなかゴンドラが来てくれないもので・・!」

「まったくもう!あなた方は・・!」


エレベーターが動き、リクは何となく扉の上を見る。

すると扉の上には半円の中に12人の楽しそうに踊る少女達が描かれ、それを差すように針が動いていた。

どうやら数字の代わりらしい・・。


((ピコーン))

と言う軽い音と共にフロアについた扉が開き、いつしかエレベーターガールのような役割をした修道女が振り返る。

しかし、不思議と誰も降りず、隣にも同じエレベーターがあるであろう場所から数人の貴族が降りてきた。

どうやら、隣のエレベーターのゴンドラと連動しているようだ。


「・・・・」

修道女は黙って紋章をかざし、扉が閉まる。


((ピコーン))

しかしゴンドラは少しだけ上昇するとすぐに開いた。


修道女が振り返り、貴族達を見た。

降りる者はおらず、隣のゴンドラから1人の貴族が気まずそうにこちらを一瞥する。

その瞬間、ゴンドラ内には落胆と怒りに満ちた。


「なんか大変だな・・!」

ヤッキンは率直な感想を漏らした。



修道女とリクとヤッキンはようやく最上階に到着した。

そこはすっかり静かな石の廊下が続き、どことなく一般の人は立ち入れないような雰囲気を醸し出していた。

「シーーー♪ウィローーーーススムーーー♫エッラ、、ターーーーエティーーアヌーーー♪」

石の壁のスリット状の窓から讃美歌の合唱のような歌声が聞こえる。

しかし歩き様にスリットを覗き込んでも、その合唱の主は見当たらず、このスリットの下が聖堂につながって居て意図的に通路に響くように設計されているようだった。


「*うわ!!」

「お気をつけください」

廊下を出て重そうな鉄の扉を開けた瞬間、ものすごい風がリクを飛ばしそうになった。


「これは・・!!すごっ!!」

「※風がやばい!!」

そこはプレリオール城から巨大な塔までの巨大な一本の橋が伸び、その真下は霧に包まれていて、モミの巨木の頭がいくつも下から出ていた。



落ちたらもちろんひとたまりも無く、風の吹きつけでやってくる濃霧が足下の橋を隠し、腰高の塀も手伝ってかなり危険だった。

橋には等間隔で歴代の王族と、それに仕えた神官が向かい合うように置かれており、霧で隠れた際の目印になっていた。


「こちらはサストテール山脈です!!ご覧ください、一本の滝がありますね!?」

「・・えっ?ああ!」

暴風と霧の中、ヤッキンが声を張り上げる修道女の解説に耳を傾ける。

見ると山脈の頂上から叩き下ろすような巨大な滝があり、それが大森林の間に白く際立ち、滝壺は濃霧で窺い知る事が出来なかった。

おそらく流れた水はサストテールを形成する岩石を荒々しく削り、長い年月で渓谷となった川は森に呑まれ、プレリオール城と塔の真下を濃霧と共に流れているのだろう。



「あそこの瀑布こそマザーアカナの奇跡であり、メルポ公国の庶民の喉を潤しているんですよ!!ここの初代城主でありますアステル・キヌ・メルポ王が、その娘であるルリル姫を捧げ、人間の種族として初めてマザーアカナを許しました!

マザーアカナは喜び、大地を打って瀑布を創り出しました!この瀑布による鉄砲水で大変な被害が出ました!」

「へぇ!!それは良かった!」

「*ふーん!」


リクは言葉が分からないながらも真面目に相づちをうつ。

ヤッキンはそんなリクを気遣って、必死に修道女の言葉を説明した。

「要するに滝がすごいんだってよ!!」

「*うん!!」


「本当に足下に注意してくださいね!!霧で滑りますから!!」

「リク!危ないってよ!」

「*うん!!」


2人と1体は、強風に翻弄されながらようやく塔に辿り着いた。


塔の大扉には巨大な閂と、神々と決別し大地から離れるマザーアカナが描かれており、2人の選ばれし王と神官のレリーフには宝石を嵌め込む溝があった。


修道女は胸ポケットから木の棒を取り出すと、溝に入れる。

木の棒を認識したレリーフが動き、重厚そうな扉の閂を外す演出をした。


「ひぇ。そんなんで開くのかよ」

「有事の際は木の棒を焼却するので安心です。それとも1週間ここで待ちますか?」

扉が開き、逃れるように塔に入ると、リクと修道女が扉を閉めた。

修道女が霧で濡れたフードを取ると、綺麗な一本縛りの金髪が流れるように飛び出した。

リクはその美しさに息を呑むと、ヤッキンは特に気にするほどでもなくハゲ頭についた雫を動物のように震わせて取った。



「さ、行きましょ?」

「修道女様、そういえば何も聞いていなかったんだが・・どこへ行くんだ?」


「あら?言ってませんでしたっけ??」

修道女がホールの真ん中にある円型の台座にある凸に乗る。

ガコン!と凸が沈むと円型の台座が光り、静かに上昇を始めた。

手摺りも無く、大人4人でギリギリなのでリクはビクビクと下を見た。


「アルバース大司教の所ですよ」

修道女はニコリと笑い、ヤッキンは(そんな話をしたか?)とリクを見た。


塔は途中から幾つかのフロアと通路に分かれ、簡単には上に行けないようになっていた。


修道女は迷う事なく迷宮を進むと、ヤッキンとリクも続く。


豪華な装飾の宝箱が行き止まりに置いてあり、通路には深い流れるような傷が壁に深く刻まれていて、まるでその傷を記念するように金のレリーフがはめ込まれていた。


リクは不思議そうにそれを指でなぞると、ヤッキンが言った。

「こりゃ、まるでダンジョンだな」

「懐かしいですか?」


「いんや。だが、俺らはゴブリン同士の意思疎通(グルグル)があるんだ。仲間の感じた事を体験したり、共感する事ができる。それが同族の団結力に繋がるんだ。仲間の中にはダンジョンで生活してる奴もいてな」

「ゴブリン同士の絆が深いのは、そうした独自のコミュニケーション方法の賜物なんですね?」

「そう。そう。賜物…!」


階段を登り、この階の入り組んだフロアを歩く。

おそらくこの階の反対側に上に行く階段はあるのだろう。

フロアには絶妙な死角に甲冑が置かれており、万が一防衛システムが発動すれば大変なダンジョンになる事は明らかだった。

おそらく侵入者は死角から振り下ろされた最初の一撃に対処するのは難しいだろう。

リクは自分が敵となったらどのように攻略するか考え、そんな事を想像して身震いをした。



「また戻りたいですか?」

修道女がヤッキンに聞く。

「へ?」


「また"同族"に戻りたいですか?」

「うー・・・」

ヤッキンは上を見て静かに考えた。


ジメジメとしたシュピテの海蝕洞窟。

そこは難破した舟が満ち潮と共に洞窟に打ち上がり、干潮になる頃には様々な舟が洞窟に取り残された。


その薄暗がりの中で彼らは難破したアカナ教の布教船から『知力の林檎』を見つけ、そこから得た知力で文字を読み、船の燃料を使って火を灯した。

洞窟にある『オバケの赤い頭』が、もたらされた灯りによってただのカドの削れた赤い岩石である事をゴブリン達は知り、罠を用いて魚を横取りするアクアピープルを蹴散らした。

布教船はアカナ教の叡智そのものであり、知力の発達はその船の“本来の役割”すらも照らし出した。



ある満月の夜。

「ギャハハハ!」

「これ、呑める!美味い!」

「とっても、とってもだな!」

「こよいの収穫はすごいな!」

「壊れた舟が多い!」


ゴブリン達は布教船にあったボロボロの月のマントを着て、復元した骸骨を座らせ、文明人の真似事をして宴をしていた。


「満月だから“塩い水”が増えたんだ!本で読んだ!本で読んだんだ!」

ヤッキンが海水でシワシワになった本を指さして自慢げに言う。

「ヤッキンはどのゴブリンよりも賢い!自慢の子よ!グワハハハハ!」

年配のゴブリンが頭を撫で、ヤッキンは微笑んだ。


「さぁ宴だ!」

「ウヒョー!パーティーだ!」

かがり火に照らされ、複数のトンガリ耳の坊主頭の影が珪藻土の岩壁に蠢く。


樽に入ったラム酒は健全で、錆びた鎧を叩いて楽器にし、自然に干物となった魚や、干し肉を焼いて食べた。


「ケケケケ!美味い美味い!」

「おいおい!ヤッキン!コレ呑むか!?」


「こっちの呑む!」

宴に参加していたヤッキンも朽ちた木箱からブドウの描かれたワイン壺を取る。


「あ、ん??」

しかしワインの入った壺は粘土で頑丈に固められており、ヤッキンは何度も首を傾げた。

「ヤッキン!!そう言うもンはな!!こうやって開けるんだよ!」

それを見ていた年配のゴブリンが松明を立てかけてヤッキンに教える。

「こうやってだな?ヤッキン。壺の先端の部分にナイフでグルリとキズを付けて・・コツンと壺の先端を折るんだ」

「勉強になるなあ!」


「・・うむ?こうやれば折れるんだが・・」

しかし暗がりと酔いでうまくいかず、大砲に立てかけた松明がコトリと倒れた。

それは大砲に付着した藻にメラメラと引火し・・。

装填されたままの大砲の薬嚢に到達した!


ドカン!!と言うもの凄い轟音と共に閃光が走り、海蝕洞窟の天井を破壊して岩石がゴブリン達に降り注いだ!


「わわーー!」

ゴブリン達は突然の爆発に驚き、慌てふためいて踏みつけあった!

「ぎゃーー!!助けてー!」

メスのゴブリンが岩石の下敷きになり、叫ぶ!

先ほどまで和やかに照らしていた炎が踏みつけられて散り散りになり、ゴブリンの恐怖に引き攣った顔を照らした。




ゴブリン達は何が何だかわからず棍棒を持つと絶叫し、まだ見ぬ敵を探した。


「なんだ!!なんだ!!」

「何があった!!」

「驚き!驚き!」

「きゃー!!こわいこわい!!」

耳を押さえて悲鳴をあげるゴブリン達。


ヤッキンと年配のゴブリンは大砲を見て驚いた。

「これが煙を吐いている!!“暴力”が出たんだ!!」

と叫んだ!

ゴブリン達は大砲を何に使う道具なのか分からなかったが、船に積まれている“これら”が本来何に使われる物なのか、ゴブリン達は身を持って知ったのだった!


「“暴力”を積んだモノ入ってる!!これ見たぞ!!他の船にも!!攻めてくる!!何隻も何隻も!!」

「ギャア!!危険だ!!危険だ!!」

「仲間殺される!!」

「こわいこわい!!」

ゴブリン達が騒ぐ。

ヤッキンは仲間達の騒ぐ声と、人間の使う炎がいつまでも目に焼きついて離れなかった。

そこにあるのは暴力の連鎖、恐れからくる殺意だった。

「備えなければ!!備えなければ!!」

「うんうん!!!!」


そして渇きの王の軍勢に発見され、話術も長けたオーク達はゴブリン達を執拗に脅かし、憎悪と暴力に向かわせたのだ。





「・・・戻りたくはありません」

ヤッキンが海蝕洞窟での思い出に身震いをしながら修道女に言う。

修道女は静かに胸に手を当てるとヤッキンを見た。


「・・俺らは誰かを敵対し・・誰かを怨み。

ずっとずっと殺しの準備をし、誰かを捕らえて牢屋に閉じ込めた。邪神イルが常に耳元に居て人間を信じる事ができず、オークの言われるがままだった。

もう、あんな気持ちになりたくない。・・本当に」

「そうですか・・」


「はい」


階段を登り、少しだけ内装が豪華になった。

小さな天使のモチーフになったモザイク画があり、それとは対照的に死神の石像が置いてあった。

そして床には金のレリーフが大量に埋め込まれていた。

次の階のモザイク画は鎧を纏った天使の戦士と顔が獣の戦士達だ。

フロアには三体の石像の女神が不気味に座っていて、金のレリーフがいくつも床に嵌め込まれていた。


次の階はかなり広いホールになっていて、天井いっぱいに女神が描かれていた。

金のレリーフが減り、そのかわり4メートルほどの金の身体をしたホーリーゴーレムが直立不動で腕を組み、目を瞑っていた。



ヤッキンは警戒するように通り過ぎ、リクも刺激しないようにビクビクしながら通り過ぎる。

修道女は特に気にする事なく通り過ぎた。


「さ。お待たせしました次の階にお待ちです」


階段を登り、豪華な観音開きの扉にあたる。

「アルバース大司教!!伝説の勇者を連れてまいりました!」


扉が開き、宮殿のような煌びやかな装飾と長テーブルがあった。

そこに白いマントを着た尖り耳の男性が微笑んでいる。

「えっと・・アルバース大司教??」

ヤッキンが聞く。


「ゴホン!私がアルバース大司教だ。彼はエルフ界の長アストレンだ」

アストレンは驚き、小さく笑って下を見た。

そこには腰高ほどのアルバースが居てピョンピョンとジャンプして手を振った。


「アルバース大司教。渇きの王から追放されたゴブリンのヤッキンと、伝説の勇者であるカンズアキ リクです」

「ふむ!」

アルバースは蓄えた白い髭を触りながら言った。

肌はそこまで皺がなく、髭を無くせば小さな小太りの中年男性のようだった。

服装はまさに大司教と言うべき金や銀のローブを着ていて、修道女と同じ大きな月の刺繍が背中に施されていた。

そして頭には宝石が埋め込まれたサーキュレットをしていて、背が低い分それがキラキラと輝いていた。


「ヤッキン?向こうでリクの話を聞きたい。いいかね?」

アストレンが向こうの部屋に案内する。

「わかりました。わかりました」

ヤッキンとアストレンが歩いて行き、修道女とリクとアルバースだけとなった。

アルバースは落ち着いたようにため息をつくと


「リク、召喚されて随分経つが元気かね?」

と聞いた。


「*えっと。ごめんなさい。言葉が分からなくて」

リクは困ったように修道女に言う。


「あぁ、そうか!言葉が違うのか!あーー、えっと、、良いのがあるぞ?」

アルバースは考えながら豪華な引き出しを開けて何かを探す。

引き出しには綺麗な手袋、綺麗な指輪などが無造作に入れられておりアルバースの日頃のガサツさが出ていた。


「あれ?ないな。えーっと」

しかし目的の物が見当たらないのか食器棚を探し、ついにアルバースの手の届かない場所にあるのか、背伸びをして上にある何かを取ろうとする。

リクは思わず手伝おうとするが修道女に止められ、リクを見ると静かに首を横に振った。


「おおう!そうだ!」

手の届かない場所になぜしまう事ができたのか、ようやくアルバースは思い出した。

アルバースは、修道女とリクを見ると"最初からそうすれば良かったのにね"と、照れくさそうに魔法の杖を持つと近くの椅子を引っ張ってきて、棒高跳びの要領で椅子に乗り。

さらに背伸びをして、やっとの思いでアイテムを取った。


「いやはや、一苦労だわい」

「お疲れ様でした大司教」

修道女はアルバースからアイテムをもらうとテーブルに置き、リクに来るように手招きした。

美しい多角形のガラスの入れ物を開けると、そこには美味しそうに熟したブドウのような物が汁を滴らせて入っていた。


修道女が皿を持ってきて一粒を皿に落とす。

赤紫の果肉と汁のそれは目玉のようだった。


「さぁ、どうぞリク」

「*は、はい。いただきます。。」

リクは促されるままブドウを食べる。


「*ほわーーー甘い!」

「美味しかろう??」


異世界に来て久しぶりの甘味にリクの頬は落ちそうになった。

「どうだい??」

「甘くて美味しいです!」


リクは皿を取ると最後の一滴まで舐めた。

アルバースは続ける。

「これは『月界の雫』と言ってな。かつて我らマルリン一族の3代目が月の天宮から持ち帰ったと言われているんだ」

「そうなんですか!!」


リクは相槌を打ちながら余韻に浸る。

修道女は驚き

「アカナノーニネ!(ハレルヤと同じ意味。)」

と叫んだ。


「リク??私と会話できる??」

「あ??あれ・・!?できます!!できますよ!!」

リクは驚いて修道女の問いに答えた。


「うわー!日本語が通じる!!」

「正確に言うと違うが、まあいいだろ。改めて挨拶をしよう。アルバース・キヌ・マルリンだ。そこに居るのは修道女長のサルチェ」

「サルチェです。あらためまして、リク」


「マザーアカナは人間と神々が馴れ合うのを嫌い、繋がりの元となった“物”を奪って、月の天宮に持ち帰ってしまったんだ。我ら一族はアカナとの繋がりのあったこの土地を聖都とし、この塔を何代にも渡って建設して月の天宮に行こうとした。神に近づき、我らの地位を盤石のものとするために」

「マザーアカナに会ったのですか??」


「会った。

マザーアカナの第一声は怒りに満ちておりこう仰せられたそうだ

“神託なしに昇って来るとは何事か。その塔の背丈が人間デルマに見えるように、其方も人間デルマ達を見下ろす矮小の戒めを受けるがよい”

と。

塔は半ばまで破壊され、一族は呪いをかけられてしまった。往生際が悪かったのであろう。多大な犠牲を払いながら、これを持ち帰ったのだ」


「・・・そんな貴重な物を・・ありがとうございます」


リクは丁寧に頭を下げ、アルバースは満足したように窓を開けた。

サルチェは、風を避けるように貴重なブドウの入った多角形の入れ物を元の場所に戻す。




窓から爽やかな風が吹き抜け、美しいミネラウル城と大瀑布から流れる巨大な渓流が森の果てまでキラキラと続いていた。


修道女サルチェは、いよいよ疑問をぶつけた。

「お言葉ですがアルバース様。リクは本当に伝説の勇者なのでしょうか??」

「ん?」


「その・・文献による伝説の勇者とはあまりにも逸脱しているもので・・私の知る伝説の勇者は、あまりにも貪欲で、類稀なる力と神々から得た絶対的な力があると聞いたものですから・・」

「そうだね。リク・・鏡・・いや。スマホはあるかね?見せて欲しいのだが」


──スマホ!!!───

そのアルバースの服と外観には似つかない現代ワードにリクは驚いた。

そういえば“この世界”に来てからスマホを聞いてきたり、触らせて欲しいと聞いてきた人物はアルバースくらいだ。

誰もスマホに関しては言及せず、アルバースは触れるのは何故だろう?

と考えた。

「はい」

リクは少し不思議に思いながらスマホを渡す。


「ありがとう。ホレ!」


「「あっ!!」」

サルチェとリクが同時に叫ぶ。

アルバースはスマホを受け取ると窓の外に落としてしまった!


カツン!

カラカラ!

スマホは塔の壁に当たりながら落ちる。


「一体どうして!?あ!」

リクはアルバースに詰め寄るも、ポケットに確かな重さを感じた。

それは紛れもなく先ほど落としたスマホであり、サルチェは驚いて窓の下を見下ろした。


「これが伝説の勇者の証だ。異世界から来た者は鏡を得て、そこから大いなる神託を聞く。それは自由と力と信じられない技の獲得を約束された証であり、この世界を歩く上での戒めなのだ」


「・・戒め」

リクはスマホを見る。

すでに本来のミッションとはかけ離れた場所にいるらしく、画面をスワイプするたびに『ゲーム進行と離れた場所です!』の警告表示が出ていた。


「・・それでリク。君はマザーアカナから何を得たのかね??」


「僕は・・『鍵』と『エイラタルデ』と言う魔法です。魔力が無いので使えませんが・・アルバース様は何かご存知ですか??」


「鍵?」

アルバースが聞き返すと、リクが説明する前にスマホが鳴り。

スマホから銀の鍵が出てきた。


「こ、これは・・」

アルバースが鍵を取ると驚く。


「どこの鍵かわかりますか?」

「これは・・私の部屋のクロークの鍵だ・・!」



3人は長テーブルのホールを抜けると、神官達が集まる討論場を通り、アルバースの生活する居住区に向かった。

サルチェが魔法を使い、通路の魔光石を照らす。

通路には様々な壁画が描かれており、神代の時代より混沌を支配していた巨人達とマザーアカナとの戦いが描かれていた。

その壁画の下には通路をはしるように迫り出した腰壁があり、信徒達の頭蓋骨が置かれていた。


「リク君。ここに昇って来るまで塔のフロアにある数々のレリーフを見たかね??」

「はい」


「あれは伝説の勇者と、私達神官達の戦いの痕跡なのだ。我らアカナの神官達は幾度も無く女神に近づき、その大いなる力を欲し、求めてきた。時にそれは支配への渇望になり神々の怒り・・しいては“大義”の付け入る隙を与えてしまった。

君の居た世界から召喚された伝説の勇者達は渇きの王の名により我ら神官をここまで追い詰めた」


「私達は間違っていた?」

サルチェが不安そうに両手を握るとアルバースに聞く。


アルバースはため息をつくと、かつての時代の頭蓋骨を見た。


「・・間違っていたのかもしれないな。私は・・少なくとも今の私は間違っていないと信じたい」


居住区に到着する。

通路には綺麗な赤い絨毯と、大理石で出来た2メートル程のゴーレムが通路を塞ぐ形で置かれていた。

ゴーレムはアルバースを見ると通路を開け、本来いたであろう台座に登って座り込んだ。

他にも金で縁取られた豪華な観音開きの扉が幾つも通路に存在し、扉の横には名札も存在した。

さながら5つ星ホテルの廊下のような印象を受けたが、扉の向こうには人の気配は感じられなかった。


「さ、すこし散らかっているが気にしないで入ってくれ」

その中の部屋の一つにアルバースは通す。


そこは天蓋のベッドと、アルバースの趣味なのか天体の模型とミニチュアの一人乗り戦車や騎士が作りかけで置かれていた。


「なんか・・すいません」

「なぜ謝る必要があるリク?」


「これがアルバース様の私物の鍵だったなんて」

「まぁ、私も鍵を持ってるから不自由はしないんだけれども。伝説の勇者達がアカナ教を滅ぼしたら、ここで特別な財宝が貰えていたのかもしれないね…」


「・・ですが、今はクロークとして使っているのですよね?」

アルバースは改めてリクに鍵を渡すと言う。


「リク。この塔には古の魔力が込められている。この鍵が開けるその先は、私の着古した部屋着や他所行きのローブとは限らないんだよ。さ、開けてみなさい」

リクは鍵を持つと、アルバースが積み重なっている書物を退かし、ついにクロークの前にやってきた。


「マザーアカナの思し召しだ・・。きっと何か良いものがあるぞ??」

アルバースの期待をよそにサルチェは静かに胸に手を当ててリクの幸福を祈る。



リクは緊張の面持ちでクロークの鍵穴に鍵を差し込むと。クロークを隔てる扉はカチャリと呆気なく施錠が解け、そのまま中に入った。


「は!」

クロークの中は真っ白な空間で、スマホから軽快な音楽と共に、目の前に映像が浮かび上がるようにして映し出された。


そこには

『スペシャルムービー!!』と書かれ、久しぶりの日本の文字と各キャラクターのイラストと名前とCVが表示された。


これが神様から貰ったチート能力!?

これが・・!?



まさにそれはリクがこの世界に生まれ落ちた特典であり、その特典がまさかアルバースのクロークで終わる恐怖を堪えながらリクは固唾として呑み込んだ。




暫くのプレイ動画と、リリース中に流れていたであろう宣伝が流れ、ようやく各キャラクターの選択画面になった。

スマホから操作でき、それと一緒に描き下ろしイラストが数枚表示できる。


『勇者 オルオキウス CV斉藤 守』

『黒の宣告者 カルン CV広塚晃史』

『ミレル CV幸浦のぞみ』

『魔女見習い ベベリア CV飯村チコ』

『アーニャ・クローラウス CV近藤玲菜』



「アーニャ・・!?」

リクは思わずアーニャのイラストを選択する。

豪華な杖と宝石、そして綺麗な首輪をしているアーニャが描き下ろしイラストで描かれていた。


「みなさんこんにちは!アーニャ役の近藤玲菜でーす!楽しんで頂きましたでしょうか!?最高難度を選んで、この特典までたどり着いたプレイヤーって居るのでしょうか(笑)!アハハハハハハハ!それ私が言っちゃダメか(笑)

アーニャはですね。

獣猫人だけあって猫っぽいんだけど人っぽい??

熱くなる時もあれば、少女らしい所もあってギャップがあるんですよね!

ひたむきな所、ちょっと猫被ってる所もあるのかな?

旅をする事に成長していく所がたまらないですよね!」


「・・・」

リクは絶句したまま内容が入ってこない特典音声を聞いていた。

腹の底が凍りつくような途方もない絶望感と、目眩が襲う。

冷たい身体とは裏腹に顔が熱くなり、首元の服を緩め、レイピアを落とした。

そのレイピアの金属音すら気持ち悪く、あまりにも残酷で過酷な異世界に、リクは酷く動揺した。



「リク!!どうした!?」

「リクさん!」


「オォエッ!!」

リクは思わずクロークから飛び出し、大理石の床に盛大に吐いてしまった。

酸素を供給しようと息を吸うも満足を得られず、吸うばかりで呼吸ができない。

煌びやかな部屋の内装がチカチカとし、リクは倒れ込んだ。


「いかん!しっかりしろリク!異世界酔いだ!!サルチェ君、ピリタスを!!」

「えっ!?は、はい!」

サルチェがMP回復薬の小瓶を取り出してアルバースに渡す。

「リク、ピリタスを呑むんだ!」

リクはアルバースに抱かれながらピリタスを飲む。


それからリクはアルバースから更に残酷な運命を聞く事になるのだった。




────


数分後


「落ち着いたかね?」

「・・・はい」


「ピリタスのお代わりは?」

「大丈夫です…」

「ハァ…」

アルバースは椅子に座ると静かにリクを見た。

リクも置かれた鍵を見ながらテーブルに項垂れる。


「リク。エイラタルデの事で調べたのだが…」

「はい」

アルバースはサルチェを見る。

サルチェはアルバースの肩に触れると静かに勇気づけた。


「エイラタルデは魔法なのだが、正確に言うとこれは概念のようだ」

「それは…どう言う事ですか?」


『エイラタルデの解放条件が整いました』

リクがスマホを見る。


しかし、最上級の魔法でありながらMP消費は無く、効果の説明もなかった。

「エイラタルデを使ってごらん?」

「えっ?『エイラタルデ』!」


しかし、言われるがまま呪文を唱えても何も起きない。

アルバースは優しく笑いながら言った。


「そう。これはただの言葉。神の声の案内人(シエルパ)、シュクシャツカ・ジカンは、君に『言葉』を与えたのだ。古代からある言葉でありながら、みんな知っていて、可視化できて、近しく、美しい言葉を…」



(日本語で"ありがとう"って意味をな。直訳すると大感謝って意味だ)


いつの間にか現れたヒロキがアルバースのオモチャの騎馬隊を指で小突きながら言う。

(は?何を言ってるの?)

リクはヒロキに言う。


(最高難易度を選んだその先にあるのはNPCに対する大感謝って事なんだよ。可視化できて近しい言葉。誰もが知っていて尊い言葉って訳だ。感動するじゃん。最高のチート能力だ)

ヒロキが笑い、リクは呆けながら言った。

「エイラタルデは・・解放条件のある“ただの言葉”…」

「そうだ」


「・・それも最上位の言葉よ?私達、修道女がアカナ様の奇跡を記す時に使う『天井譜(信徒が文章を書く時に使用する特殊な文字)』より、さらに崇高なものなの」

「シュクシャツカジカンの感謝の言葉。マザーアカナの祝福」


「でも、ただの言葉だ…ただの言葉…!鍵は特典音声で、チート能力はただの言葉だったんだ…」

テーブルで繰り広げられる『残酷な現実』にリクはたまらず席を立った。

そして立ちくらみを起こすようにフラフラと壁のサンメントに手をかけた。


「そう腐るでないリク」

「うちに帰りたい…!!元の世界に!」


「君は…元の世界に帰れない。神々の協議により、君が私達に降臨したアカナの強い意志があるか…伝説の勇者であるか試した。君は『異世界の切り離し』に堪え、『異世界酔い』を克服したとガンロとバッカスより聞いた」

「でも、帰りたいです!!」


「すまないリク!一度切り離した物は戻せないのだ…!これは、君がマザーアカナを選んだ試練!!他の伝説の勇者達が克服出来なかった試練なのだ!かつての伝説の勇者は────」


アルバースはリクに謝罪するようにアカナ教の誤ちと、伝説の勇者の繁栄と最期を話した。



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