さようならコルツ君
「出てこいムシケラども!!死すべき者ども!!」
セイレーン島やメトルリッスの島々で捕えられた兵士達は粗末な布を一枚纏って鉄球のついた足枷をし、放り出されるように甲板を出ると、久しぶりの日差しを目に受けた。
衰弱しきったリクも甲板へ放り出され、太陽の陽射しに目を細める。
「なにモタモタしてるんだ!!!」
「*いっ!!!!」
オークの棍棒がリクの尻を捉え、リクは前のめりに倒れ込んだ。
「大丈夫か!リク!!」
「*・・うぐぐ・・!ありがとう」
コルツがオークの逆鱗に触れないように素早くリクを起こして退去させる。
オークは聞き慣れない異世界の言語に豚の耳をピクリとさせると振り返った。
リクは捕虜達の波にのまれ瞬く間に見えなくなり、オークも特に気にする事なく他の捕虜を叩きのめした。
大砲が格納されて完全にひらけた甲板には、強奪した宝石や宝剣で飾ったオーク達が樽や木箱にドカリと座り、ゴブリン達もとっておきのラム酒を持ってオークに注いでいた。
円を描くようにオークと捕虜達で向き合い、船の淵には一本の木の板が処刑台のように海へ突き出ていた。
この船のリーダーらしき巨漢のオークがわざとらしく両手を広げて捕虜達に言う。
「即席闘技場へようこそ!!!女神に使えし兵士達よ!!見ての通り、この船は!女神の大いなる御技により遭難している!!どんなに舵をきろうが、ゴブリンの尻を叩こうが俺らは巨大な女神の手のひらに転がされてるって訳だ!!」
オーク達がお互いの顔を見ながら下品に笑う。
「それで俺らは問題に直面した!!知っての通り、食料は腐り、海路もわからねぇ!!オマケに食う奴ばかり増えて、このままじゃ全員餓死にだ!!
だから、慈悲深い俺は即席闘技場を開催し、デルザオーグ様に献上するに相応しい奴隷を選ぶ為に、貴様らを篩にかける事にした!!
生きる為に仲間を殺すような冷酷で、残忍で、それでいて屈強な奴をな!!」
捕虜達の前に棍棒が2つ投げられる。
捕虜達はざわめき、まるで汚らわしい物でも見るかのように棍棒から遠ざかった。
「これで勝ち抜いた者だけが牢屋に戻るんだ!!分かったな!?さぁ、先人を切って名乗る奴は誰だ!?」
オークA:「誰だ!!」
オークB:「来い!」
オークが甲板をバンバン叩きながら催促する。
捕虜達が騒めき、恐怖に怯える中ついに1人の兵士が棍棒を拾いあげた。
「俺は生きたい・・!そこのゴブリン!!」
「えっ!?お・・俺!?!?」
オーク達から歓声が湧き、指名されたピピカが、おずおずと集団から離れて棍棒を拾う。
「お前は亜人だ。少しは俺の罪悪感も紛れる」
「お・・おい・・俺ら本当に・・!?」
ゴッ!!
「ワーーーー!!!!!」
ピピカが言い終わる前に兵士の強烈な一撃が脳天を直撃し、オーク達が歓声をあげた。
ピピカは兵士を背にして捕虜側に倒れ込み、頭を押さえて言葉にならない悲鳴をあげた。
良く見ると鮮血が眉間から滴り落ち、逃れるようにうつ伏せになる。
そして棍棒を杖のように使って身体を支えると、鮮血に濡れた顔を苦痛で歪ませた。
オーク達が甲板を足で叩き、ピピカに反撃を促す。
「一撃くれたんだ。これでいいだろう!?」
と兵士は両手を広げてオークにアピールする。
「うぐああっ!!」
しかし、ピピカが叫んで立ち上がり、後ろ向きになった兵士の脇腹を素早く棍棒で打ち据えた。
(ウォアーーー!!)
肋骨の折れる音と、兵士の悲鳴が轟く。
ピピカは、そのまま流れるように左太腿を棍棒で叩くと兵士の体勢を崩し全身全霊を使った強烈な回転技で兵士の右耳から頭をガツンと吹き飛ばした!
「ワーーーーーー!!!!!」
「こうでなくちゃ!!!」
「さすがだぜ!!!!!!」
兵士が倒れたまま動かなくなり、ピピカは棍棒を投げ捨てる。
「命のやりとりでは後ろを向かない事だ」
ピピカはそう吐き捨て、牢屋の方へ歩いてゆく。
待機していたゴブリンの2体が瀕死の兵士の両腕を掴むと、船の端に付いた一本橋まで引き摺って運び出す。
兵士はまだ息があり、ゴブリン達に言った。
「・・俺は・・まだ・・やれ・・る!!」
「ケケケケケ!残念だが判定負けだ!!あばよ!」
瀕死の兵士が海に投げ出され、少しの間の後に落下を知らせる水の音がした。
ピピカは、まるで罠にかかる鼠のように、木で出来た即席の牢屋に入り、中に置いてある新鮮なラム酒や干し肉を貪った。
オーク:「さぁ!!次は誰だ!?言っとくが航海中は永遠に続くから覚悟しろよ!!なにせ女神の御技を受けた永遠の航海だからな!!ぐわーーーはっはっは!!!!」
兵士:「こ、こいよ!!相棒!!」
兵士B:「へ!?!?」
相棒と呼ばれた兵士が、促されて立ち上がる。
兵士B:「こんなのやりたくない!!」
兵士:「やらねえとどちらかが飢え死ぬだけだ!!」
オーク:「がはははは!!さあ!!剣闘しろ!!次は面白い物を見せてくれよ!?」
──────
「ワーーーーーー!!!!」
オーク達の歓声。
もう何組の兵士が船上で散ったのか分からなくなった。
甲板には血溜まりができ、ゴブリン達が忙しく血溜まりを拭いて砂を撒くと、すぐさま剣闘が開始された。
兵士が自分に枷せられた鉄球を持って、倒れた兵士の頭を割ってトドメを刺す。
時に展開を待ちきれなくなったオークが自ら宝剣で兵士の胸を貫き、強制的に終わらす事もあった。
船を覆うような血の臭い。
腹の底にのしかかる絶望と恐怖と緊張。
いつしかリクはしゃがみ込み、震えながら尿を漏らし、顔を覆いながら自分の番が来ない事を必死に祈った。
兵士達の中には弱そうな仲間を無理やり引っ張って剣闘する者も増えた。
獣のような冷たい視線が何度もリクの身体を通り過ぎ、リクは仲間にも怯えていた・・。
「・・・リク」
リクの肩に温かい手が触れる。
「リク・・リク・・!」
肩に手がまわり、優しくリクを抱きしめる。
「*コルツ君・・!」
「リク・・!!」
「*・・・・えっ!?」
目を開けるとコルツが真剣な目でリクを見ていた。
「行くぞ、あれを…」
「*いやだ!!」
気がつくと辺りは数える程しか無く、即席の牢屋には捕虜達がこちらを見ていた。
皆、味方を殺め解放された者達だ。
「*嫌だ・・!!こんな事したくない!!」
リクは大粒の涙を流しながら言った。
「やるんだよリク・・!!このままだとどちらが殺し合う事になる・・!!俺と決闘してくれ!!上手く俺が負けてやるから・・!!」
「*いやだ!!・・オエッ!!」
コルツが自分の頭を殴るようにリクにジェスチャーをする。
リクは何度もえずきながら涙を流し、震えながら顔を覆う。
「リク・・リク・・!!」
コルツの温かい手がリクの肩に触れる。
リクは言葉が通じなくともこれから起きること、何をしなければならないかを理解していた。
その未来予想的な恐怖が幾重にもリクの心を引き裂き。
脈拍は増え、喉の渇きを増大させた。
・・そして・・。
───プツン────
と言う謎の音を脳が観測したあたりで、リクは多大なストレスを脳で処理しきれなくなり完全に何も感じなくなってしまった。
「リク・・?リク?」
コルツの声が遠くから聞こえる。
まるで生ぬるい水の中に居るような、どこか自分の身体ではないような感覚がリクを支配した。
言われるがまま棍棒を持たされ、集団の真ん中に来ても尚、リクは呆けたようにコルツを見ながら立ちすくんでいた。
向こうではオーク達が手を叩き、野蛮に笑って甲板を叩いている。
しかしその音すら遠くであり、オークやゴブリンに混じってヒロキがケタケタ笑っているのが鮮明に見えた。
『チュートリアルを開始しますか??』
リクが動かないためか、気を効かせたスマホがリクに問いかける。
スマホの女性の声は単調で、それでいて残酷だ。
(*こんな時にチュートリアルって何をするんだよ)
ゴッ!!!
「*うぎゃっ!!」
コルツの一撃が頭を叩き、リクが我に帰った頃には甲板に頬を強打していた。
「おいおい!!恐怖で動けないでいるぜ!!」
「どうやら妖精に心を射抜かれちまったようだ!!!」
オーク達の煽るような声が聞こえる。
どうやら今はゲームで言うところの『バトルモード』らしく、リクのスマホにはHPとMPが表示され、このフィールド内の皆のステータスの表示が出ていた。
スマホは淡々とチュートリアルを始める。
『攻撃は主に攻撃と強攻撃、MPを使用したチャージ攻撃。魔法を使ったスキル。アイテムを使った攻撃や回復があります。スマホのステータス画面で敵と味方の両方を見ることも出来ます』
「*・・うっぷ」
リクは流す涙も、吐く吐瀉物も枯れ果て、酷く冷静になりながらチュートリアルを見ていた。
『では攻撃をしてみましょう』
「かかってこい!!リク!!」
チュートリアルを見越したようにコルツが武器を構える。
「*ひ・・!!く・・!!!」
リクは両手に持った棍棒を振るうとコルツに襲いかかる。
しかしリクは『打撃武器』の使用経験値が少ないため、上に振り下ろす事しかできない。
「ぐわっ!」
コルツの頭に棍棒が直撃し、腕に生々しい振動と手応えを感じる。
「ぐっ!!つっっっっ!!」
リクの3回連続攻撃を受けたコルツは頭を抑えて武器の扱いを疎かにする。
『弱攻撃は連続攻撃に繋がり、時に隙を生みます。ここで強攻撃をしてみましょう』
「*くひぃい!!!!」
リクが棍棒を構えると、大きく振りかぶってコルツを打ち据えた。
熱を帯びた血の臭いと汗の臭いが立ち込める。
3回連続攻撃と強攻撃が当たるも、オークから不満の声が上がる。
「おい!!なぜ相手は攻撃しない!?」
「手加減してんじゃねーぞ!!」
「もっと戦え!!!!」
コルツが痛みを紛らわせる為に首を振り、棍棒を構えなおす。
『ここで防御の説明をします。防御は武器を使った防御と、盾などの防具を使った防御があります。防御をしてみましょう』
「・・!!」
「*ひっ!」
コルツの右から振り上げた一撃を、リクは棍棒を立ててブロックした。
一瞬、目の前に武器のステータスが出現し『鋭さ』『耐久性』が大幅に削られるのが見える。
『また、タイミングよく防御をすると大きな隙が出現する場合があります。攻撃を良く見て的確な防御をして形勢を逆転しましょう。次はアイテムを使用します。・・残念ながらアイテムは何も持ち合わせていません』
リクが縋るようにスマホのチュートリアルを見ていると、目の前に棍棒が現れて思い切り鼻を強打した。
「*・・う!!うぎゅあ!!」
友達とのじゃれ合いでも、躓いて転んでも感じる事の無いであろう激痛に身体が飛び上がる。
コルツは鬼のような形相でリクを睨むと吠えるように言った。
「練習を思い出せ!!リク!!"レンシュウ!!"」
「*練習!?」
「ウンウン!!」
「*練習!!」
(そうか、コルツ君はコルツ君なりの戦いを僕に求めている)
リクは鼻血の流血もそのままに、必死にコルツとの練習を思い出した。
酷く冷静に。
それでいて静かな眼で。
───
リクはツェトリ村にあるハルミオの森でのコルツのやりとりを思い出した。
「リク!バライヅ エスクルラ キルキルリア!(リク、剣闘の練習をしよう!)」
「*え?なにするの?」
コルツはリクに木の剣を渡すと、向き合って構えるように指示した。
「エア クアラフル イスクルーダ!(まずは、深呼吸だリク)」
コルツは、リクにもわかるように大袈裟に深呼吸をする。
リクもコルツが何を伝えたいのか理解し、コルツの真似を始めた。
「スエメッ(はじめっ)!」
コルツが剣を振り上げ、リクは小さな悲鳴をあげて目を瞑った。
「ノーノノ リク!!エペチョック!(駄目じゃないかリク!!構えて!)」
コルツは“ミルク姉さん”と言う冒険者の剣術の受け売りをリクに身振り手振りで教えた。
もちろんリクは異世界人なので言葉は分からないし、もともと運動をして来なかったので教えるには倍かかった。
「リク?こうして剣を構えた時、君はどう見る??」
「*・・・・」
コルツが剣を振り、リクに指差して教える。
「剣を振り上げた、ここ(肘)を見るんだリク。俺が剣を振り上げたら・・」
コルツが剣を振り上げる。
「瞬時に回避するか防御をしろ!いいかい??」
「*・・・・」
リクは集中するあまり無言だった。
──────
「うおおおお!!」
「*く!」
コルツが振り上げ、リクは肘を見る。
棍棒を目視して回避する事は困難だ。
しかし、武器を振りかぶって振り下ろされるまでの軌道を計算して先手をうって回避する事はリクにでもできた。
リクが素早く後ろにステップして回避し、コルツの振り下ろした隙を利用してカウンター攻撃をする。
コルツは素早く身体を逸せて回避し、後ろにステップしたあと強力な強攻撃の一撃を振り下ろした。
カンッ!!
コルツの一撃と、それを棍棒で受け止めるリク。
棍棒の鍔迫り合いをした後、コルツが素早く前蹴りをしてリクが吹き飛び、リクが倒れて小さく絶叫した。
隙を見逃さずコルツが一撃を振り下ろす。
しかしリクは歯を食いしばりながら両足を広げて一撃を回避し、コルツは強か(したたか)に甲板を棍棒で強打した。
あまりの衝撃にコルツが怯む。
リクは負けじと素早く立ち上げると、そんなコルツの頬を棍棒で思い切り叩きのめし。
そのまま振り下ろし様に素早く左肩から胸にかけて叩いた後、下から上に振り上げて、コルツの顎を打ち上げた!
コルツの鼻血がリクの服にかかり、リクはハッとする。
「ウォーー!!」
オーク達が華麗な連続攻撃に歓声をあげ、真似をする。
コルツは鼻血を流しながらよろめき、棍棒を立てて体勢を立て直した。
呼吸音が変わり、見失うように棍棒を落とすと、膝に手をつきながらなんとか立った。
リクもすっかり息が上がり、スタミナ切れも手伝って肩で大きく息をした。
「おいおいそりゃないぜ!!!!」
「なんでそこで攻撃しないんだ!!」
「一思いにやっちまえよ臆病者!!!!」
アンダレイ!!アンダレイ!!!!
オーク達がリクに最期の一撃を打つように囃し立てる。
リクは迷子になった子供のように悲しそうな顔をするとコルツに打ち込む為に棍棒を構える。
お互いの顔は鼻血と涙に濡れ、コルツは瞼と顎がみるみるうちに腫れ上がり、友情と言うより『生きる』と言う本能に近い物がリクを動かした。
その時、リクの目を疑うような事が起きた。
「*コ!?コルツ君!!!!」
「リク・・!!・・・なにをしてル!?・・打ち込んでコイ!!」
コルツが落ちた棍棒を蹴飛ばし、両手を拡げたのだ。
「*コルツ君!!!」
リクは悲しみのあまり嗚咽し、涎を垂らした。
オークがそれを見て笑う。
「何をしているんだ!!アイツ!!!」
「戦いを破棄したぞ!!」
「腰抜けめ!!」
「メルル・ヴィアスが泣いてるぜ!!ガハハハハ」
「*コルツ君…!」
リクの中に、コルツとの思い出がフラッシュバックする。
───
「エ ア リトククル アンガ リク?」
コルツが仕留めた小型の鳥類を焼いてリクに手渡す。
焚き火をしている頭上にはブナの木があり、リトククルの雛が親の帰りを待って巣から口を開けていた。
リクは"かわいそう"と思いながらも、空腹に耐えかねて口にした。
「*美味しい!」
「オイシイ?ウンウン!」
気を良くしたコルツは雛を捕まえると、串刺しにして焼き始めた。
絶句するリクをよそに、コルツは焼いた雛を骨ごと食べてしまった。
夕方、コルツは帰りがけにヌオを用いた馬術を見せながらリクに教えた。
リクは言葉も分からず、馬術どころかヌオに乗る事すらできなかったが…
コルツは1日を振り返るように華麗な手綱捌きでヌオを操ると、丸太を飛び越え、前脚をあげたり、後ろ脚で蹴り上げたり、ステップを踏んだ。
夕陽が沈んで影になり、コルツとヌオが一つの身体のような錯覚をおこす。
リクはいつまでもそれを見ていた。
────
「おいおいおい!!!それじゃあ、つまんねーよ!」
オーク達が笑う中、見かねたオークが1体、コルツとリクの横で進行役のようにお互いを焚き付け始めた。
「何をやってるんだお前ら!!お互い奪い合い、殺しあうんだよ!!お前ら、恨みはないのか!?憎悪は無いのか!?あ??」
しかし進行役のオークはラム酒が回り、すっかり千鳥足だ。
そして耳を澄ませると、僅かにカチカチと音がする。
様々な宝飾品を身につけていたオークだが、リクの装備であるレイピアを戦利品として腰に差していたのだ。
チキチキ・・カチカチカチ・・・。
レイピアがリクを誘うよう金属音を鳴らす。
リクは悲しみの最中に頭が異様に冴えるのを感じた。
無数にぶちまけられた記憶の鍵の中で、唯一無二の『コルツを助ける方法』の鍵を必死に見つけようと努力する。
そして今一度、自分のスキルを確認した。
リクのスキルは『スティルー』だ。
相手のアイテムを盗む事が出来る。
しかし、もしもこれで運良くレイピアを盗んだとしても酩酊状態のオークを倒す事はできないだろう。
───「NPCを見殺しにするのか?」───
騒いでいるオーク達の間にいたヒロキが言った。
オーク達が気にも留めないので幻影である事は分かっている。
しかし何より、幻影であっても‘’ヒロキ“に言われるのは癪に障った。
歯を食いしばり、弱い自分の悔しさと無能さで腹が立った。
その時だった。
「*・・なんだこれ?」
身体が僅かに金色の光と、地から湧き出るような不思議な音を発していることに気付いた。
他の者たちの反応が無いので、きっとこれはゲームの仕様なのだろう。
スマホの解説が始まる。
『ミスなく攻防を繰り広げると『コネクト スキル』の発動条件が始まります。これは他のスキルの発動とは異なりバトル中でしか発動しませんが、敵に強力な一撃を繰り出す事ができます。形成逆転のチャンスにもなりますので、コネクトスキルが身体から灯った時は上手く使いましょう』
コネクトスキル?
そうか、コルツに交わされる事なく連続攻撃を当てたのがコネクトスキルの発動条件だったのか。
リクは自分のステータスから、コネクトスキルの概要を見る。
『コネクトスキル:オブシディアンの剣
大地の神ミミエ・アルマに仕えた侍女が用いた剣技。
オブシディアンの乙女達と呼ばれた彼女達は、その剣技で邪悪な魔の手を断ち切る』
やった事ないけど勝てるかもしれない。
リクは意を決したように棍棒を強く握り、コルツを睨む。
もちろんオーク達を全て相手にできるかと言ったら出来ないだろう。
しかし、リクはやると決めていた。
───お?その顔は何だリク?また睨むだけ睨んで机で寝たフリするのか?お前のレベルじゃ、コイツらに勝てねえもんな?────
(勝てないなんて分かってるよ。でも、ぶった斬るよ)
───は?オークは複数いるんだぞ?────
(分かってるよ。でもさ、ただ単に───)
───は?────
「*ムカつくんだよぉおお!!ウォオオオ!」
リクは悲鳴とも雄叫びとも分からない絶叫をあげてコルツの間合いまで走った!
「うお、ホッホー!!急にやる気を出したか!!そう来なくっちゃ!!」
オークは手を叩きながら喜び、リクは棍棒を振り上げながら、キッとオークの方を睨んだ。
「スティルー!!」
「な!なにぃ!?」
驚くオークの携えていたレイピアが光り、瞬く間に消え失せる。
そしてリクの挙げた右手に、確かにズシリとしたレイピアの感触があった。
リクが棍棒を捨てると、レイピアを両手に持ち、コネクトスキルの発動を知らせるように全身が光った。
どこからともなく大地の匂いと岩石の擦れるけたたましい音が空間を支配し、黒曜石の身体の侍女、ユーナが船の下の異空間から出現した。
オーク達はあまりの事に驚いたまま硬直し、リクの呼称が始まった!
「女神アルマに仕えたオブシディアンの乙女よ!!!!その剣技をもって邪悪なる者を断ち切れ!!!!!うおおおおお!!!」
ユーナの振るう黒曜石の大刀と、リクのレイピアがシンクロする!
そしてユーナの動きに合わせてリクはレイピアを薙ぎ払った!!!
斬った感触は無かった。
聴こえたのはオークの悲鳴。
「うぎゃああーーーー!!!!!」
リクが体力と精神力の全てを出しきり、ヘナヘナと船に突っ伏する。
朦朧とする意識の中で、甲板にボトリと何かが落ちて転がった。
オークの肘から下までの左腕だった。
「こぉの!!ヤロウ!!!」
オークは脂汗をかきながら、失った左腕をそのままにリクに前蹴りを喰らわせた!
「ゔっぐぇ!!」
そして右手でリクの髪を掴み上げると、他のオーク達にも見えるように見せた!
そして雷鳴のような怒号で叫ぶ!
「ドードラ!!エスクルラロリダー マザーアカナティア!!(どうだ!!やつは偽りの毛皮を着ていたぞ!!伝説の勇者が!!!!)
アヌ パイルリアリエ エステ ゴッジ ノーノタルディ マシルシア !!アヌ デルディ!!(俺が炙り出した!!神々が創り出した小鼠をな!!!俺がやったんだ!!!)」
リクは恐怖のあまりレイピアを落とし、尿を漏らした。
ゴブリン達がやってきて、立つのもやっとなコルツの両肩を掴む。
オークが怒りに任せて叫ぶ。
「伝説の勇者が分かった今、ソイツは必要ない!!落とせ!!」
ゴブリンがコルツの背中を棍棒で殴り、無理やり桟橋に連れてゆく。
「*コルツ君!!!!」
「オーク共!!カンズアキ リクは伝説の勇者だ!!それも転生するのにマザーアカナを選んだ勇者だ!!お前らがリクを無礼に扱う時、マザーアカナはそれを見ているぞ!!」
「言わせておけば!」
ゴブリンがコルツを殴り、尚も続ける。
「*コルツ・・君!!」
リクは泣きながらそれを聞き、コルツの名前を叫んだ。
「リク!!!リク!!!!ツヨクナレ!!!!こんな奴らに負けるな!!!!生き延びるんだ!!!!」
「*コルツ君!!!コルツ君!!」
最期の力を振り絞って抵抗するコルツに剛を煮やし、ゴブリンが短剣を抜く。
「いつまでも五月蝿い奴だ!!ギアーテ王国の兵士とは思えない立ち振る舞いだな!!」
コルツは抜き払ったエペにも動じずにリクに叫ぶ。
「リク!!!!ツヨクナレ!!伝わるよな!!!!ツェトリに無事に帰れよ!」
「*ツェトリ!!ウンウン!!!プロミティオ(約束する!!)」
「遺言は終わったか!?じゃあな!敗北者!!」
「*あーーーーー!!!!!!!」
コルツの胸にエペが刺さり、コルツが苦悶の表情を浮かべたまま桟橋から落ちた。
「*あーーーーー!!!!!!」
リクは口を大きく開けながら慟哭し、他のオーク達に強引に掴まれた。
片腕を失ったオークの顔色が土気色になり、たまらず倒れる。
「早く、その災難を殺せ・・!!」
ゴブリン「殺す事はできねえよ!神の息がかかってる。こんな奴殺したら、どんな事が起きるかわからねえ!」
ゴブリンB:「俺もごめんだぜ!!」
──────
その日の夕方。
奴隷船のオークとゴブリン達は協議の後、水の神キュラーテティアと全能の神マザーアカナに祈りを捧げて“伝説の勇者を女神達の手に返す”事にした。
リクは足枷を外されると、伝説の勇者に鎧を模した布を着せられ上陸用のヨットに乗せられた。
恐怖と憔悴で、リクは何も言うことが出来ず、ただただ船員の行う儀式を受けていた。
ゴブリン「大いなる女神達よ!!その申し子であり異世界の転生者を貴殿にお返しする!!我々は女神様に牙を剥く事なくそれを完遂し、神とその申し子を冒涜は我々の意に反する物である!!」
ロープに掛けられたヨットがゆっくり海面に降りて行く。
その間も、腐敗したビスケットやラム酒やオルガ硬貨が投げ込まれ、神々に対して精一杯の赦しを乞うた。
「お前も行くんだよ!!」
「へ!?」
オークが祈祷していたゴブリンの航海士を投げ込む。
リクの横に投げ込まれた航海士のゴブリンは頭からヨットにぶつかり、悲痛な顔をしてオーク達をみた。
「な・・!!なんて事しやがる?!?」
「無能な航海士はここには要らん!!せいぜいリヴァイアサンに喰われないように祈祷を続けるんだな!!
ガハハハハハ!!」
そして最後にレイピアが投げ込まれ、ついにヨットは海面に着水し、ゴブリンとリクを置いて去ってしまった。




