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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
23/38

異世界から来たリクの覚醒能力(チート) 

木の匂い。

教室の床のワックスと机の匂いだ。

頭を撫でる湿った風。

校庭から生徒達のはしゃぐ声が聴こえる。


──ドン!

校庭から陽キャ達のサッカーボールを蹴る音がした。


…昼休みか。


友達のいない僕は机に伏せて狸寝入りすることが多かった。

考えるのはいつも異世界の事。


不慮の事故によって異世界に転生した僕は、神様から

チート能力を授かるのだ。

そこから始まるチート生活。


メイド服を着た可愛いヒロインと、僕を立ててくれる女勇者。

そしてヒロインにヤキモチをやく魔女見習いの女の子。


僕のチート魔法に異世界の住人は驚き、敵は僕に平伏す。

ギルドではS級ランクのパーティーに呼ばれ、僕のチート能力に舌を巻き、みんな驚く。

王様や騎士団長とも仲良くて、僕は普通にタメ口で話すんだ。

みんな僕を尊敬し、歓迎される。


でも僕は幾多の主人公のように皆を”お前”だなんて呼ばない。

異世界でも謙虚でいようと決めたのだ。




“私のこと、好き?”

時にヒロインは注目して欲しくて僕に聞く。


“うーーんどうかな?”

僕はヤキモチを妬いて欲しくて意地悪を言う。


“リクは強いから私の元から離れていってしまいそうで怖いの。ねえお願い!愛してるって言って?”

“えええ!?”


僕はいきなりのヒロインのお願いに困惑する。

と言うか告白じゃないかコレ。


───ドン!

校庭のサッカーの音がうるさい───


”ねえ!”

魔女見習いの女の子があからさまな膨れっ面をする。


“私の事を忘れられちゃ困るんですけどぉ!?“

”あっ、ごめんごめん“

”ムーーー!!“


”ゴメン!僕は“


────ドォン!!

と言うか校庭では何をやっているんだ!?



────ヒュルルル・・・ドオン!

え!?



ヒュルルルル・・


「ドゥーーーーターーーー!!!!!」


ドォン!!!

「うわーーー!!!!」

僕は大砲の鼓膜が破れんばかりの音で目を覚ました。

その瞬間船室内が大きく揺れ、僕はハンモックから転がると壁にぶつかった。


木造の船からでも分かるくらい砲弾が炸裂するのを感じ、血相を描いたコルツが僕の胸ぐらを掴むと無理やり立たせて起こした!


「リク!!エ ア キオラ クリクリエ ゴジ(リク!何をやってんだ行くぞ)!!!!」

「えっ!!ちょっとどこ行くの!?」


既に僕とコルツ以外だれもいない。

もうすぐセイレーン島に着くと言うのに、この騒ぎはなんだろう!?


「セイレルア ヴェガ!!」

「セイレーン島!?」


「ウンウン!」

「ついたの!?」


砲弾の風切り音がして、本能的に伏せる。

その瞬間、重機が木造家屋を壊した時の音を凝縮したような凄まじい音と、少し離れた船室の壁が吹き飛び木の破片や留め具の金属が飛んできた!


プキューーン!

キュワン!

と言う不気味な音と共に顔を上げると、小さな木片が鋭利な破片となって壁に突き刺さっていた。


「「う、うわー!」」

僕とコルツは恐怖のあまり叫ぶと、コルツに頭を守ってもらいながら甲板を目指した!


ドォオン!バキバキバキバキ!

どこかで炸裂し、船体が壊れるようながする。


大きく揺れる船の通路を走り抜け、時より見たことのない場所から外の明かりが入ってきてる事に戦慄した。

湿った海水の臭いの他に火薬のツンとした臭いが立ち込める。

ネズミが足下を走り、逃げ道を探している!

もしかしたらこの船、沈むんじゃないだろうな!?



「リク!コルツ!!ココナティアーー!!」

甲板にいたカークが手招きしながら叫ぶ。


僕らは急いで階段を駆け上がり甲板にあがると、既に皆が訓練通りの隊列で上陸用の小型船に乗り込んでいた。


「ドゥーーーターーー!!」

ソードマンが叫び、右舷側から大砲の一斉射撃が轟いた。

衝撃波が鼓膜と頭蓋骨を揺さぶり、船が大砲の衝撃で大きく揺れて黒色火薬の黒煙で霞みかかる。

どうやらセイレーン島の岸壁にある砦から撃ってきているらしく、その黒い霧を突き抜けるように敵の砲弾が頭上を掠めた。


すぐさま他のギアーテ王国の帆を付けた戦艦の2隻が僕らの艦隊とセイレーン島の砦に割って入り、

猛烈な援護砲撃を喰らわす。


ヴァイターは船の奥にある櫓で兵士を鼓舞し、いつも宴で唄う軽快な曲を楽団に弾かせた。



「アヌ ア スィーメルヴィ シジ シッパ ナフナツィア♪(俺は戦士 7日目の航海を迎えた♪)

テアルイ キャムク トゥスルイ チャムザイ イア(例えば ここまで来ると食材が腐り出す♪)  

レモア(果実)♪

ミト(生肉)♫

エッガ(卵だ)♪

ブト ノーノ ラァム スィミトル イェン ベッツ

クラン♪(しかし ラム酒と塩漬け肉があるから安心さ♪)


アヌ ア スィーメルヴィ キョエ シッパ ナフナツィア(俺は戦士 9日目の航海を迎えた♪)♪

テアルイ キャムク トゥスルイ チャムザイ イア♪


レモア、ミト、エッガ、パンヅ(小麦)、ワタ(水)♪


ブト ノーノ ワタラァム ミトスィミトル パンヅアパンヅ エッガ・ア・ボエッガ ベッツクラン♪

(しかし 水はラムに 生肉は塩漬けに 小麦はパンに卵は焼いて安心さ♫)」


ヴァイターが床を叩きながらタップし、召使いの腕を互いに組んでクルクル回った。

その間にも容赦なく砲弾が飛んでくる。


「アヌ ア シッパ パイレィゾディア!!(この海は俺達のもんだ!!」

ピピカが剣を持って叫び、あたりから笑い声が起きた。


僕はもう意味もわからず、ただただ怖くて、それを悟られないように笑った。




───────


地理図鑑:セイレーン島


メルトリッス諸島の島々のように周囲を切り立った岸壁で覆われており、その島の真ん中に巨大なカルデラが煙を吐いている。

広大で不安定な火山島群で島々は孤立しており、腕に自信のあるA級ランクの冒険者達の試練の場であった。


やがて、渇きの王率いる伝説の勇者達と、マザーアカナなどの多神教を信仰する神官達とで奪い合い、メルトリッスの島々は団結して中立列島群国家タキア王朝を創設し、王都ベガに水の神 キュラー・テティアの神殿をセイレーン島に築いた。

しかし、島々の活火山は初期に渡ってから王国の財政を苦しめ、お互いの部族の調和をも崩してゆく。


時に渇きの王側に内通する者もではじめ、事態を重く見たメルポ公国はタキア王朝に同盟を提案する。


しかし、すでに渇きの王側の兵士達が護りを固めており、国費の代わりに差し出された奴隷を使って大規模な軍事要塞の建設を始めていた。


メルポ公国とギアーテ王国を始めとする国々はこの事に激怒し、神官達の救出の名文をかかげ軍隊を派遣した。


そしてメルトリッス諸島で最後まで中立を保っていたセイレーン島にヴァイター率いるメルヴナウタイが向かう。


セイレーン島に居たのは10歳も満たない若き王子

ルア・コリス・タキアと王都を守る兵士達だった。





───────


僕は震えていた。


「アーヴューナーハイ(配置につけ)!!」

兵士達が上陸用の舟から降りると砂浜で隊列を組む。

砂浜の間に溶岩が混ざり、しっかりとした土壌になっていた。


僕をはじめとするカイトシールドと剣を装備した軽装歩兵部隊は右翼側に布陣した。

僕はヌオに乗れないので皆が担ぐ神輿に乗せられて配置についた。


ヴァイターは中央に布陣して魔導師が囲み、その前をソードマンの大部隊がいた。

左翼には重装歩兵と、その後方には騎馬隊がいた。


どうやら戦いにもルールがあるらしく、お互いが隊列を作るまで手を出さなかった。



ヴァイターは隊列が配置についたのを認めると、一際装飾の施されたヌオに乗って前方に出て皆に存在をしらしめた。

僕も神輿に乗りながらヴァイターの後ろについていく。


ヴァイターは一頻り陣の前を見て回るように走ると、演説を始めた。


「ヘッケ!!ヘッケ!!ヘオリアエケ(皆、皆!聴こえるか!?)エ ア テアルイア ココナ イフニル イージア!?(ここに座す者が何者か分かるか!?)」


「「カンズアキリク!!!!カンズアキリク!!!!カンズアキリク!!!!」

軍勢が叫び、重装歩兵が盾を剣で叩いた。


「イェア・エるリィシタ(そうだとも)!!!!ニデエーデ ムーカナ デ マザアカナ ド メルルヴィア セクティー セクティオリア!! (神代の時代において全能の神マザーアカナと戦いの神メルル・ヴィアスが生み出した光の戦士だ!!)


ベツ セクティオリア キルキルリア エペラスタ・ロラン デ デルマドア カガンディア オニ イキリシダ!! 

(この光の戦士はソードマンのローランと決闘し、その力を世界に知らしめた!!)


イ・ファ! タキアキンギカ ダザイ ドルディ キーヂ アヌ イルク エイドゥーナハ ゼオラルリア カンズアキ!!!!!

(そしてタキア王朝の過ちを悲観し、我々に同行する事を誓ったのだ!!!!)


ベツ レアル ハルマ エスカー ヒヨワシカ、カンズアキリク!!ルノル ススゥエ ヌオ!!

(しかし!!皆が知ってるようにカンズアキリクはヒワヨシカだ!!ヌオにすら跨がれない!!)


イ・ファ!!サンマンネリシ シタ、ノーノタルティ リク サンマン オンライズ、アヌ アタラ アカナニヌ ムカナディア!!!

(その意味を考えた時、異世界から来たリクの本当の意味を知ることで、我々は新たな神々の信託を得るのだ!!)


エ ア フィリア アルマ!?(わかるな!?諸君)」


「ウォオオオ!!!!」


僕はヴァイターの言ってる事がわからないまま、後ろで剣を挙げて叫んだ。


「ホメア!ヘルピ キュラーテティア、ゴージ デルマディアドディ タキアキンギカ!!!!(さぁ!!女神キュラーテティアを救い出し、タキア王朝に神の鉄槌を喰らわすのだ!!)」


「ウォオオオ!!カンズアキリク!!カンズアキリク!!!!カンズアキリク!!!!カンズアキリク!!!!カンズアキリク!!!!」


僕が自分の陣に戻り、ヴァイターの演説が終わろうとした時、一筋の光が放物線を描きながらキラリと光った。


「ん?なんだろ?」

そう思って目を凝らした瞬間、頬を何かが横切り、頬当ての装飾がパチン!と弾けた。



僕のコールの中、足下にいた兵士が鎧の音を立てて倒れ、驚きの戦慄がはしる。


抱き抱えられた兵士の胸に光属性のライトニングアローが突き刺さり、驚いた顔をしたまま絶命していた。

「うわぁああ!」

僕は恐怖のあまり叫び、それを闘いの合図と見たソードマンと左翼の重装歩兵が一斉に鬨の声をあげて突撃した。

遅れて突撃を意味する太鼓とラッパが鳴らされる。


「ゴア!!ヴィスティ!!タルタンドアーー(いけぇーー!!叩き潰せ!!獣のように!!)」



ウワァーーともウォーーともつかぬ獣の雄叫びと、人の発する体温で辺りが熱くなり、やがて汗と鎧と盾の擦れる鉄の臭いが大気を満たした。



ドッッチッ!!!

と言う防具や武器が当たる音がしたかと思うとタワーシールドを装備した重装歩兵アーマーナイトが先に衝突し、間髪いれずにソードマンの一撃がぶつかった!


相手は半月型の盾と、水の加護を受けた槍を装備してメルヴナウタイを迎え、突撃した際、槍をも恐れぬソードマンが大剣を振り下ろして盾もろとも叩いた。

盾を支える革が身体に食い込み、ソードマンの一撃が衝撃波になって防具を襲った。


ソードマンのトラディションスキル『シールドブレイク』が発動する。


「ウグァ!!」

タキア王国の兵士が悲痛に呻き、破壊された腕を下げる。

「ハイウェン!!(今だ!!)」

全身全霊をかけた一撃に無防備になったタキアの兵士は、後方でチャージしていた別のソードマンの強力な一撃で容赦なく地面に突っ伏した。


「ドゥーーターー(放てぇー)!!」

魔導師達が杖をあげ、閃光の後に一斉にライトニングアローを飛ばす。

「ギャアア!!」

タキアの兵士達は上空からの矢に次々と射抜かれ、隊列が崩れて逃げ惑う兵士を重装歩兵のスキル、盾攻撃スキル(シールドバッシュ)で叩き潰されてしまう。


噴き出る血、力無く倒れる兵士達。



僕はただただ、その狂気の塊を呆気に取られて見ていた。


足下では軽装歩兵がカイトシールドを立てて牽制する。

僕は震えながらスマホを見た。


スマートフォンの表示は『神崎陸』の表示がついた凸の字があり、他の凸の字が忙しなく動いていた。


「アッツ!!(おのれ!!)」

げきを装備した腕の立ちそうなタキアの戦士がソードマンと戦い、渾身の突きが大剣で弾かれてしまった。

戦士の次なる突きをソードマンは交わし、滑り込むように露出した太腿を短剣で切り裂いた。

戦士は痛みのあまり膝から崩れ落ち、次の瞬間何の前触れもなく首が落ちた。

戦士はしばらく首の無い状態で座ると、ドタリと倒れて他の亡骸の一部になった。



どうやら兵士を率いた武将だったらしく、スマホの画面の凸が消えた。


スマホの画面がチュートリアルになり、消えた武将のリザルトが表示される。


「リク!!リク!!エ ア ダガムダンガ キルキルア!!」

「イェダ!!アヌ カンズアキリク テーバルテ!!」


僕らの足下にいる兵士達がソードマン達を指して叫ぶ。

“俺らも戦いたい!”みたいな事を言っているのだとすぐに察しがつく。


「えっ!!ちょっと待って!」


(やっちまえよ…!)

心の中のヒロキが妄想の中で可視化され、カイトシールドを持った兵士達の中でニヤリと笑う。



僕は震える手で、ライトニングアローで壊れた頬当てを触った。

もう少し軌道がずれていたら死んでいたんだ。


(な?俺の言いたい事がわかるだろ?俺がお前に学校でやってきた仕打ち。お前はいつも机に突っ伏してやり返してこなかったよな?異世界でもそんなナヨナヨなのか??)

「・・・くっ」


(そうなんだろ!?お前はいつも地面を睨みつけてるだけ!そんな奴がさ、異世界行って変われる訳ねーんだよ!)

「・・うるさいな」


(は!?)

「うるせーーーんだよ!!!!!」


「エ ア カンズアキリク!?(大丈夫か?)」

心配するカークをよそに僕はスマホの自分の表示を触ると思い切りスワイプした!

「やってやるよ!!いくぞ!!みんな!」


「ウオオオオオオーーーー!!!!!」

その瞬間、兵士達から鬨の声が聞こえ。

なんと次の瞬間、神輿ごと敵の軍団に突っ込んでいった!!

「うわーー!」

僕は兵士達の全速力の突撃に驚き、神輿の玉座に倒れかかった!

バランスを崩した僕を気にする事なく前進し、敵の列に突っ込んでゆく!


凄まじい気迫と殺意が全てを満たす。


怖い。

逃げたい。

辞めたい。

悲しい。


そんな混沌とした感情が渦巻く中、僕を支配したのは

“怒り”だった。


ドガン!!!!

「ヴィスティア!!カヅカレィ!!(獣のように行け!!)」

軽装歩兵とタキア王国の兵士の盾がぶつかり、剣と槍が交差する猛烈な金切り音がする。

数名の兵士が倒れるも、すぐさま盾で構成された壁ができる。


「アンダレイ!!アンダレイ!!(やれ!!やれぇ!!)」

「行けぇーー!!」


タキア王国の兵士の1人が、突いた隙に肩透かしを喰らい、盾の壁の内側に入る。


タキアの兵士は突然の事に驚くも、盾を拾い上げる頃には四方八方から来る剣の突きにやられてしまった。

他の箇所でも敵の兵士がが不意に中に入りこみ、驚いた隙に突き殺されてしまう。

もう1人は、はだけた鎧に足を取られながら必死に逃げる。

そんな兵士もやがては剣の餌食になり、流血した身体に海岸の砂がまとわりついて屍になる。


血の臭いと汗の臭いが入り乱れ、そのムッとした空気を劈く(つんざく)ように剣の叩く音がする。

悲鳴は怒号に掻き消され、首が飛ぶ。



前列の兵士が後列の兵士代わる。

盾に敵兵の血が付き、その壮絶さを物語る。


それを見てもなお、僕は臆する事なく叫び続けて突撃を指示した。


「うわああああああ!!!!!!やれーーー!!!やれぇーーー!!!!!!」


ああそうだ。これは僕の思い出なんだ。


そうだよ!そうだ!!

見てみなよ!

あそこで倒れたアイツ・・!!

僕を見る目がさ。

僕をいじめてた奴にそっくりなんだよ・・!!


「エアアアアア!!!!」

僕を見ていた敵兵が、味方が振るったモーニングスターで吹き飛ぶ。


やった!!!

死んだぞアイツ!!!!


死んだ!!

死んだ!!

死んだ!!


「うおおおおお!!!」


僕らの勢いは止まらず、敵が後退した所を騎馬隊が絡め取り始めた。


騎馬隊は臆する事なく湾曲した剣を振るって敵陣に斬り込む。

敵側も自然と包囲されている事に気付くが、既に手遅れだった。



僕は光る剣を振って味方を鼓舞した。

ついに熱くなり、僕は神輿を降りると槍兵に混じって進撃した。

これは僕の過去の決別。

そして内包していた怒りなんだ!!


「うわああああ!!」


槍兵達が、黄金の装飾と小型の円型盾バックラーと羽飾りを付けた“近衛兵ゴールデンタキア”とぶつかる。

ゴールデンタキアの湾曲した剣により、槍が両断され槍兵が倒れる。


僕の前に立ちはだかった瞬間、横から太い矢が飛びゴールデンタキアの首を貫く。

ゴールデンタキアは驚いた顔をしたまま大の字に倒れ込んだ。


「ピピカ!!」

ピピカは僕を見て頷いた。

手にはを持っている。


「ゴア!!カンズアキ リク!!!(行け!神崎陸!!)」

「うん!!ピピカ!!みんな!!ありがとう!!!!」


僕らは海岸を抜け、その勢いのまま石畳の坂道を進撃した。

坂道は緩やかな曲がり勾配になっており、それに沿う様に青い石垣の民家が並ぶ。


バリケードを建設していた非武装民がギョッとした顔をし、黒ずくめ錬金術師達が黄鉄鉱爆弾パイライトボムを投げてきた。

その瞬間とてつもない爆音がして、民家に繋がれていたヌオが失神する。


殺傷能力は低いものの一定のモンスターに効果があるらしく、味方のゴブリン達が逃げ出す。

ピピカも音に苦しみ、耳を塞ぐ。


「ピピカ!!僕の後ろに!!」

今度は僕が助ける番だ!


僕はピピカを庇った瞬間、錬金術師の後ろから弓を構えた弓兵がやってきた。


すぐさま僕の前にカイトシールドを持ったメルヴナウタイが壁を作る。

「みんなありがとう!!ピピカ、今のうちに逃げて・・!!」


よく見たらメルヴィナウタイの中にカークの姿があった。

カークはウィンクをし、僕は頷く。


すぐに魔導師が駆けつけ、盾の間からライトニングアローの射撃が始まる。

弓兵は正確に飛んでくる魔法の矢には太刀打ちが出来ず、あっさり敗走してしまった。


「ありがとう!!みんな!ありがとう!!」

僕はカイトシールドを構える兵士達の肩に触れながら駆ける。


「うおおおおおお!!!!」

坂道を登り、緩やかな広場に出る。


コルツは僕を護衛しながら共に走り、いつしか一番軽装の僕が独走する形になった。


ヒュルルッ!!


「パシオラルク!リク!!!」


コルツが叫んだ瞬間、轟音と共に上部の民家の外壁が壊れる。

ギアーテ王国の戦艦の大砲がここまで飛んできたのだ!


早く行かないと!


「エ ア ゴージア リク!!!!(リク!!どうするつもりだ!?)」

(※ゴジア リクは『行け!リク!』になるが、疑問符が先に付くので『何処へ行くんだ?』となる)


コルツが叫び、それを合図とばかりに大砲の玉が城下町を破壊する。

何と言って居るかは分からないが、きっと“行け”と言っているはずだ。



広場の中心にあるキュラーテティアの立像が崩れ落ち、その真下の噴水に水飛沫を上げながら落下した。

町の暗がりから赤ん坊の鳴き声がし、民間人を巻き添いにしかねない誤射である事が予想できた。


僕はスマートフォンを見る。

この戦いの勝利条件は『セイレーン島の奪還』だ。

しかし撃破する相手の条件は記しておらず、プレイヤーである僕が目的地に到達すれば条件が終わる事を意味していた。


「早くフラッグを置いて終わらせないと・・!」


僕は瓦礫に落ちていたメルヴナウタイの遠征隊旗を拾うとそのまま王都ベガを目指した。


「リク!!!!エ ア エステパシア ドルディ フラギア!!(リク!!それは敵側の旗だ!!)」

「大丈夫!!大丈夫!!」


「リクーーー!!!!ノーノノ エステパシア!!(リク!違うって)」


僕は旗を持って走った!


鎧を装備していない僕は身軽で、敵ですら呆気に取られて僕を見逃した。



いつしか僕は独走し、閉まりかけた城門に滑り込んだ。


「ワーーーー!!ワーーーー!!エスピア ドルディ!!」

「アルタオーーール!!アルタオーール!!」

水色のマントを着た騎士達が僕を見ると警戒しながら逃げ惑った。


城門が閉まる音を背に僕はズンズンと登ってゆく。


城と言ってもかなり狭く、溶岩石の岩石で作った階段は徐々に狭くなり、階段の踊り場から右が神殿のような巨大な建物に続いていた。

城に続く上階は破壊されて塞がれており、女神像の上半身が転がっていた。


とりあえず神殿に行けと言う事か。


僕は興奮と恐怖で何度も唾を呑みながら階段を登り、白い大理石の神殿に入った。

早く戦いを終わらせたい。

そう願って・・。





  

神殿は思いの外静かで、大砲の砲撃の音すら聞こえなかった。

1メートルピッチに立つ白い大理石の柱を手でなぞり、驚くほど何もない空間を歩いた。


カツン!パタパタ!

魔光石の置いてある青銅の燭台が動く音がし、僕は飛び上がりそうになる。


音の主は隣のフロアのようだった。

僕は旗を武器のように握ると、ゆっくりフロアに入って行った。


「キャーーー!!!」

「アヌ ダ !?」

「ギアーテナイティア!!」


「わわ!!ごめんなさい!!!」

奥のフロアには白いケープのような服を着た女性達が怯えるように隅に固まっていた。


その中にカタツムリのような渦巻き型の帽子を被った中年太りした男性がおり、女性達を庇っている。


「ごめんなさい、そういうつもりじゃないんです!」


僕は剣と旗を床に降ろすと、どうしたら良いか分からずにオロオロした。


尽かさず男性が帽子を脱いで、僕の足にすがる。

この神殿の身分の高い人らしく、首には翡翠やオーラクリスタルなどの首飾りをしており、青い口紅をしていた。



泣き腫らした目は赤くなり、初めて見る大人の泣き顔に僕はギョッとした。


「だ、大丈夫ですか!?」

「オオオ、ノーノタルディ メルヴアカナティア!(貴方は異世界の伝説の勇者様)」


「えっと!どうしたらいいんだ!?」

男性が女性達を両手で差し示し、女性達は泣きながら短剣を首に当てて自殺をしようとする。


「あああ!!ちょっと待って!分かったから!!」


「メルヴアカナティア!エ ア ネムド?(伝説の勇者様!お名前を教えてください)」


「神崎陸!」


「カンズアキ リク!!

アヌ ア キュラーテティアン セクティーン。エ ア アカナナティオ プルーテ ヘルピア キュラーテリア!!フェメルカリエ!!(神崎陸!我は水の女神に使える者。どうか我に慈悲を、代償を与えマザーアカナの名の下に、この子たちの命を救いたまえ!!女性だけでも)」


「ツァズィー(パパ)!!」

短剣を持った女性が悲痛に首を横に振り、短剣を首に当てる。


「ワズアイル プルーティオ!!アヌ ナニヌ ゲーデル ハルマ!!ハルマ イガデルリシタ(どうか!!ご慈悲を!!私に出来る事は何なりと!!命など惜しくはありません!!)」

男性の神官は僕の足下に跪き、両手を捧げて僕に許しを乞うた。


「ええええっ!!どうしたらいいの!?これっ」

「プルーテ!!ア・ナニカ カンズアキ リク(お許しを・・!!!カンズアキリク様)」


神官は泣きながら、僕の足下で両手を差し出して花のような形をとる。

「えっと・・どうしたらいいのか分からないのですが」

僕はどうしたらいいか分からず───




───────


「キュラーテティアの神官の手を取り、伝説の勇者 カンズアキ リクは全ての罪を許した!こうしてタキア王国は開城し、お互いに奴隷を取らない無条件による戦争の終了が実現したのである!」

肉屋のベルトが新聞を皆に聞かせて、信じられなさそうに辺りを見回した。


バッカスはワインの入った陶器の瓶を抱いて、どこか誇らしそうに頷いた。


「・・・は??えっ!?」


アーニャは不安そうに尻尾を振りながらガンロ司祭を見た。

ガンロ司祭はアカナの像を握って静かに祈った。


他の子供達や村人達も意味の分からなさに絶句し、神崎陸の勇敢さに言葉も出なかった。


メメルもチガヤを噛みながら腕組みをして考え込む。


「・・・・すっげえ・・すげえや!!リク兄ちゃん!!!」

「すごーい!!!」

クレアとクレアチスが沈黙を破って賞賛する。


「マザーアカナとメルルヴィアスの加護がリクを導いたのだ!!そうですよね!?ガンロ司祭!?」


バッカスが言い、ガンロが顎の髭をなぞる。

「うーーーむ」


アーニャは取り乱しながら言った。

「ガンロ様!これは本当の事なのでしょうか??」


「本当だとも!見よ!新聞にはきちんと公認マークがついている。つまり創作ではない本当の事だと言う意味なのだ!」

バッカスが嬉々と言い、肉屋のベルトも新聞を売るのを忘れて食い入るように読んでいた。


ガンロが考えながら言う。

「・・アーニャよ・・もしかしたら我々はリクの本当の覚醒を知らなかったのかもしれない・・」

「え?そうなんですか?」

「ああ」


メメルも口を開く。

「それは私もリトルウィッチ族の伝承で聞いた事があるわ」

「メメルも?」


「うん。異世界から来た人間は神々から様々な能力を受けて私たちの世界に来るって。その中には何かしらの影響で遅れて覚醒する者もいるって聞いた事があるわ」


「じゃ・・じゃあ・・これがリクの本当の力!?」

「そう考えるしかあるまい」

「リク・・なかなか侮れないね」


いよいよガンロも空に向かって祈り、否定ばかりしていたメメルも今度ばかりはリクを褒めた。


「ちょっと・・海を見てきます・・」

アーニャは信じられず、フラフラとベルト達から離れて、海岸の墓地に向かう。

皆がリクの快進撃に湧く中、アーニャだけが喜べずにいた。


「・・リク・・。どうしてそんなに活躍するの・・?はやく音を上げて戻ってきて・・」

夕陽の空には変わらずに『メルルヴィアスの傷』が輝き、アーニャは謎の胸騒ぎで素直には喜べずにいたのだった。







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