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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
20/38

マザーアカナの試練

オルオガーテ王国、ウィンツェルトに向かうリク一行。


リクは異世界の生活を堪能し、戦場に向かう。

ギアーテ王国の船団はメルトリッス水道の海流に乗り、サストテール山脈を吹きおろす季節風で前進した。

海流は、タントリノからアカナ大平原の岸壁を南下する形でなぞる様に存在し、船はそのままオルオガーテ王国の城塞港であるウィンツェルトに物資と人員を積むべく向かった。





「いやあ、まさかいきなりメルヴナウタイに配属とはな・・やっぱり伝説の勇者メルヴアカナティアをヴァイターは見逃さなかったか!」

「あぁ・・どうやらそうみたいだ」

コルツとカークら義勇兵達が甲板で会話をする。

皆、ツェトリでリクがどのように生活していたのか興味津々だ。



甲板の別の場所では水夫達を指揮する場所にヴァイターが居座り、乗船した兵長達に何か演説を行っていた。


「・・で、コルツ?」

「なんだい?」


「リクはどれほど強いんだ?やっぱり伝説の勇者となればドラゴンも一刀両断にできるのか?」

「うっ!」


義勇兵の、小柄でゴブリン族のピピカが聞く。

「ツェトリの生活はどうだったのさ?なぜツェトリ村なんてヘンピな場所に居たんだい?」

コルツが気まずそうに口を噤む。

カークや他の兵士達の期待を秘めた瞳は眩しく、ますます言い出しづらくなる。


「えっと・・リクは・・」

「うん!」

「うんうん!」


「スライムに喰われそうになった」

「・・・は?そんな強いスライムがツェトリにでるのか!?」

「そ、そんなぁ」


「そうだ・・いや!!違う違う違う!!ぁああ」

「どうしたコルツ!何を隠している?何を悩む?」

「言ってみなよ」


「・・リクは・・そこらへんのスライムに負けたんだ。俺も見た・・。瀕死の重傷を負って・・ガンロ司祭と見習いのアーニャがそれを癒した」

「な・・!」


船を波が打ちつけ。

地殻変動で隆起した岸壁で海馬が見ていた。


「・・・・!!」

カークが絶句し、ピピカがポカンと口を開けた。


「それは・・・・困ったな」

「大いに困った」

他の年上の兵士達も言葉を失う・・。


コルツは口を開いた。

「だから・・みんな・・リクを助けてやって欲しい。異世界来たリクは───」


「使えない??」

ピピカが言ってカークがこづいた。


カークは動揺したように口元を撫でると他の兵士達を見て言った。

「いや・・まぁ、まぁアレだ。リクが弱いとして。アルバース大司教はなんとお考えなのだ?もしかしたら何かの手違いで、違う者を召喚してしまったとか・・?・・なぁコルツ?」


コルツは皆を見た。



───────




「リク!リク!リク!!」

コルツとカークが船内を走り回り、大砲室の一室で横になっているリクの尻を叩いた。


リクにとって慣れない船旅は辛く、何度も嘔吐しながら大砲の鉄で額を冷やしながら酔いと戦っていた。


「リク!見てみろ!!」

「*え!?」

コルツが大砲の出窓を開けて外を見せる。


「オルオガーテ王国だよ!」

「*うわぁー。え?ここが目的地?」


そこには岸壁が棚田のように削られて一面の葡萄畑があった。

岸壁の天辺には巨大な大砲と白い堅牢な壁が聳え、数メートルおきに円柱型の砦があり、素人からしても防御力の高い要塞都市であることは明白だった。


リクは首から下げたスマホを取り出すと、現在位置の更新と説明を見た。

『アカナ大陸 オルオガーテ王国 ウィンツェルト:前時代の戦いにおいて、最重要拠点であった要塞都市。現在(神官統一時代:後期)において世の中が平和になり、要塞時代の土木技術を応用して葡萄を栽培している。軍港としての機能、また街道の要所となっているため人で賑わう』


「*ウィンツェルト」

「そうそう!リク、知ってたのか??」


「*ウン。スマホ」

「スマホ??その鏡でか??え?いいのか?」


コルツが珍しそうにスマホを見るので、リクは貸してあげることにした。

・・だが。


「あっ!?」

「*あ!」

スマホはコルツの手の平をするりと透過すると床に落ちてしまった。

スマホはコルツが拾い上げようとしても不思議と拾い上げる事が出来なかった。





やがて葡萄畑の棚田を抜けて、戦艦のような巨大な人工島の砦がある巨大な港町が現れた。

砦の大砲が内陸を向いているのは、一度敵を港の湾内に誘い込んでから一気に攻勢に出る為の工夫らしい。


コルツが興奮し、僕にも熱気が伝わってくる。

「さあ、リク!!港に出る一番のりを決めようぜ!今晩はここで一泊だ!」

「*うん!」

コルツは嬉しそうに何度も兵舎の窓から外を覗くと、リクをグイグイと引っ張って出口を目指そうとする。


「出口はあそこだ!早く早く!!」

「*すごいね!!」


途中でカークとピピカも合流し、兵長が何かを指導して回っていた。

『タントリアナイティア プロミティオ』と言って居るので、きっと“風紀を乱すな”と言って居るのだろう。



ガタン!

と言う音と共に船にケタが降ろされ、鎧を纏った兵士達が一斉に上陸した!

「うおお!!突撃ー!!」

「行くぜー!!」

コルツとカークが飛び出して、僕も駆け出す。


ウィンツェルトの街並みは、中央の馬車が通れる程の大通りに石の門があり、その大通りに合流する小川のように小さな路地が迷路のように存在していた。

家や店舗は巨大な城壁に穴をくり抜いたように存在し、小さな路地にさまざまな物が売られていたりで雑然としていた。


「リク!!早く!」

どうやらコルツとカークはリクを何処かに連れて行きたいらしい。


「*どこに行くの!?」

「いい所だよ!」


そこは街の広場だった。

巨大な噴水の左右に大きな階段があり、奥にメルル・ヴィアスの巨大な石像が置かれた神殿がある。


階段の隣に装飾品が凝ったリアカーと椅子が置かれ、エプロンをした寡黙そうなお爺さんが腕まくりをして剃刀を研いでいた。

頭頂部から額まで禿げ上がり、残った白髪は無造作だ。


「オヤジ!異世界から来た訪問客を最近の流行りの髪型にしてくれ!」

戸惑うリクを椅子に乗せて、店主が白い布をかける。

リクはそこでようやく気づいたのだった。

(ここは理髪店だ・・)と。


「じゃあリク!俺らは武器屋に行ってくる!すぐに戻るから!」

「*待って!どこ行っちゃうの!?」

「大丈夫、大丈夫!!」


「*えーー!」


店主はリクの頭を触りながら頭蓋骨を調べると、見習いの男の子にゴニョゴニョと指示をだした。


男の子がウンウンと頷き、リアカーから巨大な鍋を出すと何やら準備を始めた。

(一体何が始まるんだ?)


嫌な予感をよそに、店主が“火灯り石”に火を点け鍋を熱し始めた。

どうやら鍋に入っている何かが煮えないと作業が出来ないらしく、お爺さんはパイプを取り出すと椅子に座って燻らせ始めた。


「セプナ テロテリャ!」

男の子が鍋を混ぜながら、こちらを見て言う。


「エ ア メルヴアカナティア?ノーノ?ノーノタルタ デ ノーノノ?」

「*あ、えっと。ごめんなさい。ドント スピーク イングリッシュ!」


ゴチッ!


と言う音がしてお爺さんが男の子にゲンコツを喰らわす。

男の子は泣くのを我慢しながら黙って鍋をかき混ぜた。



「ウッ!ゲホッ!ゲハッ!!」

鍋が煮えるに連れて男の子が咳き込む頻度が増えてゆく。

「グウォッホ!ゲァッぺっ!」

お爺さんも臭いを嗅いで咽せる。


風向きが変わり鼻腔を刺激すると、あまりの悪臭にリクも驚いた!

まるで川底のヘドロを腐らせたような物凄い臭いだ。


「*くっさ!!!!えっ!?これは何!?」


店主がリアカーからよくわからないクリスタルの大瓶から、黄色い液体をリクの頭に垂らした。

「*くさい!くさい!くさい!!目に入った!!」

それは明らかに何かの動物の尿だった。


それをリンスのように頭に馴染ませて、頭皮にも乱暴に揉み込ませてゆく。


男の子が臭いヘドロをネチネチと混ぜると、自分の手に取ってハンバーグに作るように丸め始めた。


「*うわーー」


温められたヘドロを髪に付けられ、放心状態になる。


男の子が手際よく木の棒でヘドロが付いた頭を巻いてゆく・・。




───────


5時を告げる鐘が鳴った。


「リク!!大丈夫か!?」

リクは男の子と店主に支えられて、巨大な水桶で頭を洗っていた。


ふうと息を吐き、すっかり脱色した茶髪と、見事にカールした無造作ヘアがそこにあった。


「ハッハッハッハ!!」

カークがリクの肩をバンバンと叩き、コルツとピピカに見せる。


「これで一員だな!」

コルツも笑ってリクの頭を触った。


「*うわ!!」

店主の持ってきた鉄の鑑で見せると、リクは自分の頭を見て絶句した。

しかし、笑顔なコルツやカーク達を見て何とか安堵したようだった。


「さあ、腹減ったろリク!いい店があるんだよ!」

「カーク、来たことがあるのか!?」


「お?言って無かったか?」

「うん」


「俺とピピカは“歴戦の兵士“だ!!な?ピピカ?」

「そうだね!!カーク!」

カークとピピカが肩を組む




リクは頭を触りながら付いてくる。

ウィンツェルトの街並みは壁に囲まれ、彼方此方に小さな路地があり、石灰を削り出した階段があった。

所々に同じような鎧と旗を掲げた集団が歩いていて、商人達が兵士達に商品を広げて見せ、八百屋や肉屋の店主が身を乗り出して必死に鮮度をアピールしていた。




不意に頭上の窓が開き、女性が白い桶に入った排泄物を投げ捨てた。


「おっ!危ね!ウンコが落ちてくる!」

コルツが見事な反射神経でそれを交わすと、泥に塗れた石畳にビチャビチャと落ちて臭いを放った。


「カーク!ここの住人は窓からクソを投げるのが礼儀なのか!?」


「これが文明の臭いなのさ!スーーッふむ。俺は悪くないと思ってる!!」

「それはピピカだけだ!少なくとも下水の問題は都市の宿命だからな。コルツよ、気をつけろよ?あと、リクも・・」


リクはポカンと上を見上げて

「*なんかすごいね。トイレはないの?」

と言った。


リクの間抜けな日本語の後に、コルツがリクの肩を組んで言う。



「どうせ俺とリクは田舎者(サイタ)だよな!(※糞便を溜めた桶を田畑の肥やしにする所が、サイタと言う種子を持ち帰っている所に見える所から)。こんな下水臭い都会より、ツェトリの方が良いよな?リク?」


コルツがリクに聞き。


空気を察したリクが頷いた。


「ほら!頷いた!」


「「リク、絶対わかってないだろ!!」」




4人はそのままカークの行きつけと言う『2本の剣』と言う酒場に向かった。


酒場の席には既に数名の兵士達が居て、リクを見るや否や驚いた顔をする。

店内は敵の鎧の一部をシャンデリアにし、半分に裂いた大きな栗の木がカウンターに使われた、やや無骨な内装だった。

壁には真っ赤な龍がトグロを巻いたオルオガーテの旗が貼り付けられ、伝説の勇者達が飲んでいた『最高回復薬ハイ・テフロレリア』の空き瓶で周りを縁取られていた。


「あら!カーク!いらっしゃい!お友達?」

暫くすると脚が鳥脚類で上半身が人間のハルピュイア族の娘、ミルがやってきた。


「おう!ミル!そうだよ!しかも、彼は誰だと思う?伝説の勇者(メルヴ・アカナティア)だ!!」


「メルヴ・アカナティア!!・・!!」

ミルは口をお盆で隠すと驚いた。


「凄いね!伝説の勇者って、もっと強欲で野蛮な人だって聞いたけど・・」

「いろいろあったもんな」


「ずっと前の代ね。今ではここは・・」

「良質な葡萄酒の産地になった!」


「そう!!さぁ、何飲むの??カーク?」

「そりゃあもう!!」


「「ラムド・オルオガーティア!!」」


カークとピピカがテーブルをバンバンと叩きながらラムド・オルオガーティアを注文し、ミルが厨房のあるカウンターに引っ込んだ。

暖炉の側では楽隊が楽器の調節している。


「ラムド・オルオガーティアってなんだ??」

コルツが聞き、ピピカが言う。


「“”オルオガーテに愛されし物“”と名高い名産の葡萄ジュースさ!やっぱり名産品を呑まないとな!!」



リクはぼんやりと3人のやり取りを見ていた。

言葉が通じないので必然的に無口になるのだが、時折りコルツが気を使ってリクの肩をポンポンと叩いてリクを会話に参加させた。


そういえばリクは元の世界でこうした友達と何処かへ歩いたり、食べに行ったりをした事が無かった。

これがアニメでよくみる学校帰りの『だべり』であり、放課後にする『寄り道』なのだろうか。


「おまたせみんな!!そして伝説の勇者様ーー!!」


「「おおーー!!」」

「*おおお!!」


そこにはパイに包まれた白身魚と、そら豆のペーストスープ。

塩茹でした海獣の前脚。

ふんだんにスパイスが使われたソーセージとハム。

そして多彩なパン類とチーズがテーブルに並んだ。


「*すごい!!」

「“スゴイ”だろ!リク!!」


「コルツ“スゴイ”ってどう言う意味なんだ?」

ピピカはコルツに聞く。


「あ、えーと。どうも感動した時に使うらしい。なんと!!(メヴィキュ!!)みたいな。ありがとうカーク」


カークが銅のジョッキを持ってきて皆に配る。


リクは驚いた顔をしてジョッキを覗き込んだ。


「*これって・・まさか、ワイン!?」



「よーし!!行き届いたか!?」

カークが立ち上がり、ジョッキを掲げる。

奥の兵士達、ミルもジョッキを持つ。


「では、恩恵を授ける偉大なる神々と伝説の勇者カンズアキ・リクに!!」

「「「乾杯!!!!」」」


皆がジョッキを煽る。

リクは匂いを嗅ぐと口にした。

芳醇な赤葡萄の味と鼻に抜ける香り・・。

そして。

「*ひっく!!」

顔が熱くなり、多幸感が襲った。


「リク?大丈夫か?・・何か食べたいものは??」

「*えっと、ストクは??」

リクは手をチョキにして挟むジェスチャーをしてコルツに聞く。

「いっけね。船に置いてきた。スマン、リク。“ストク ノーノノ”」


その2人のやりとりを聞きながらカークが言う。

「ストクなんて敬虔なアカナ教しか使わないよ。俺らの信じている神様はクアラ・フフルだ」

「風の神か」


「そう!風のふくまま気の吹くまま。こうして山脈から風を送るのもクアラ様のおかげだ」

カークが言う。

「俺らはパンに乗せて、ホラ。豪快に肉を頬張る!これが食べ方さ!!」

ピピカが言い、パンにソーセージを乗せてガリリと噛んだ。


顔を赤らめたリクもパンを口にして、巨大な海獣の骨つき肉を口いっぱいに頬張った。

海獣の表皮はウェットスーツのように頑丈で、皮下に滑らかな脂身と馬肉のような赤身の旨味があった。

噛めば噛むほど良質な甘みのある肉汁が染み出し、葡萄ジュースの赤くて芳醇な香りが引き立てる。


「*ぷはぁー!!美味しい!!」

「“オイシイ”“スゴイ”“そうだ!」


「*美味しい!凄い!!」

リクはすっかり気分が良くなり、よく食べた。


「あまりツェトリで葡萄ジュースが無かったからな!それにしても美味しいな!!」

「そうだろう!!コルツ、遠慮なく食べろよ!!食べて精をつけないと!」


酒場のシャンデリアに明かりが灯り、外が暗くなった事に気がつく。

リクは暗くなった窓を見て・・(アーニャはどうしているだろう?)と想って寂しくなった。


プアン!!

楽隊の演奏が始まる合図があった。


「サー・イッ・トー!!」


トゥララ♪ララールル♫ルララララ♫

ララ♪

ルララララーララ・ルララララ♪


トゥララ♪ララールル♫ルララララ♫

ララ♪

ルララララーララ・ルララララ♪


アップテンポなケルト音楽が始まり歓声が響く!

「うお!!始まった!!ヒュー!!」

カークが叫び、ゾロゾロと兵士達が来店する。


中には顔を白く塗ったソードマンも居て乱暴に床をトントンと蹴るとミルに注文をした。


酒場はすっかり賑やかになり、気を良くしたリクもミルにジョッキを振って飲み物を注文した。


そこへ三日月型に湾曲した剣を持った騎兵隊の男女が話しかける。

「む!あなたは伝説の勇者様ではないか?」


空気を読んだコルツがリクに話しかける。

「リク!呼んでるぞ?」

「*うん?」

リクはすっかり葡萄酒と料理に夢中になり、口に大きく頬張ってムシャムシャと食べていた。


女の騎兵隊長が言う。

「勇者リクよ。ヴァイター将軍から聞きましたよ。貴方はセイレーン島の蛮族による反乱に激怒し、水の神キュラー・テティアを信仰する民達がしりたげられていることに心を痛めていると!」


「「ん??どう言うこと??」」

コルツもカークも何が何だか分からないように聞いた。


男の騎兵隊がテーブルの物を退かしてメルトリッス諸島の地図を広げる。


「コホン。メルトリッス諸島。8つの島と10の部族がある島々だ。この全てが火山で隆起した島で、暗礁に囲まれた海域は外の文明を通さず。よって渇きの王の時代(現在の神官統一時代 前・中・後よりも前の時代)にも、どちらの勢力にも加担することは無かった。

よって長い間、族長達の間で軍事中立協定が結ばれ、我らの導きは行われなかった。


しかし、最近の渇きの王の復活と侵攻に伴い、メルトリッス諸島の中で大きな島であるセイレーン島のエルメダ族の一派が軍事中立協定を破棄。

反対する民間人や神官の虐殺を行っているらしい」


「リクはご覧のとおり、異世界語ノーノタルタの言葉しか喋れないが・・?」

カークが言うと女の騎兵隊が言った。


「ヴァイター将軍はバッカス司祭を用いて“リクの心”を読まれたそうだ。それは私達の想いと合致しているものであり、メルトリッス諸島の安全と平和を脅かす物で間違いは無い。我々は一刻も早く小さな火種であるうちの逆賊を滅ぼし、来る渇きの王の軍勢の防御に備えなければならないのだ。これはメルトリッス諸島の民の為でもあるのだ」


「でも・・メルヴナウタイや増援部隊の船で?」

カークが聞く。


「そうだ。セイレーン島の逆賊も、まさか他の島々の平定より先に上陸してくるとは思ってはいまい。我々余暇兵力も、存分に戦えると国々に知らしめたいのだ!我々にはマザー・アカナの寵愛を受けた・・えっと」


「カンズアキ・リク」


「カンズアキ・リクが居る!!おい!!カンズアキにこの酒場で一番良い葡萄酒を持ってこい!!」

「はーい!」


騎兵隊達がジョッキを手にする。

「伝説の勇者カンズアキ・リクに!!我らが鬼神メルル・ヴィアスの栄光の為に!!」

「栄光の為に!」

「栄光の為に!!」


パカン!

銅で出来たジョッキの景気の良い音がした。

騎兵隊は自分達の席に引っ込み、呑気に食べるリクをよそにコルツやカークら3人はお互いの顔を見た。



「リクは、本当にそんな事思ってたのかな?」

ピピカは腑に落ちなそうだ・・。


「・・・」

ピピカはリクを見て、コルツを見た。

「あーーーーんーーーー」

コルツは今までのリクの言動で何かを読み取り、その憶測を話そうとしたが上手くは行かなかった。


「*いやあもう・・。東京だと3千円はすると思うよ・・ヒック」

不意に沈黙を破って、ほろ酔いになったリクが喋った。



「お、おいコルツ!リクが何か喋ったぞ?」


「リク?本当にバッカスと交信したのか??」

リクはソーセージを食べながら皆の視線が自分に向いているのを感じて驚いた。

何を思ったのか、リクは照れながら話した。


「*えーーと。こうして友達とご飯を食べた事って日本ではなかったよ。何処の国の料理か知らないけど・・みんなを友達と呼んでいいのかわからないけど・・」

「バッカスと交信したのか?」


「*ごめん、外国語はわからない。でも、日本語で悪いけど、みんなとご飯を食べれて嬉しいです。はやくイベント終わらせて家に帰りたい。みんなには悪いけど・・」

「うんうん」


「どうやらバッカスと何か会話したみたいだ」

「きっとそうだ」

「うんうん」

3人はリクがたくさん話すのでバッカスとヴァイターと魂で交信したと勘違いして安堵した。


カークとピピカがお互いに話す。

「なんだ、てっきりバッカス司祭やヴァイター将軍にハメられたかと思ったぜ」

「ひひひ!ハメられたって!確かに!!でも、リクは野蛮人バルバカ)じゃない。異世界ノーノタルタの伝説の勇者メルヴ・アカナティアだ」


ピピカは笑い、コルツは改めてリクを見た。


リクは特に気にする事なくパンをスープに浸して食べている。

「リク・・リクが言葉を通じたら、話したいことが沢山あるんだ。異世界ノーノタルタの生活の事。ツェトリ村をどう思っているかとか・・そして」


カークとピピカがコルツを見る。


「なぜ、自らマザー・アカナを選び、転生したのかを・・」


楽隊の控えめな笛の音がなり、他の座席の者達が立ち上がり始める。

ミルが開いたテーブルにジョッキを並べてゆく。


「お!始まった!行こうぜ?」

カークとピピカがジョッキを持って立ち上がる。

「・・・考えても仕方がない・・よし!」

コルツもパンと両手を叩いて席を立つ。


「*ん?何が始まるの??」

リクは何が始まるか分かっていない。


舞踏バルスクスだよ!さぁ、踊ろうぜリク!!」

「*でも、やり方をわからないよ?」


カークが言う。

「最初のトゥララで、対面した人と腕を組んで回る。

次のトゥララで次の人の逆の腕。そして対面してタップ!そしてジョッキを呷る!それの繰り返し!」

ピピカがピョンピョンと跳ねる!

「さぁ、始まるぞーー!リクとコルツぅーー!」


軽快なギターの音が始まり、フィドルと言うヴァイオリンの音楽がそれにのった。

「「イェアーー!!」」

皆、2人1組になってジョッキを乾杯をし、見ている見物人は手を叩き野次をとばした。


トゥッツラララ、トゥッツラララ、トゥラララララールー♪

「リク!回転!」

「*うわわ!」


トゥッツラララ、トゥッツラララ、トゥラララララーー

「もう片方!!」

「*わわわ!」


トゥラララーララー、トゥラララーララ♪、トゥラララララララ、ララルー、トゥラララ・ララー♪!!

「さぁ!!リク!!飲み交わそうぜ!!」

「*えっ!!どうやって!?」


戸惑うリクの腕を取って、ジョッキを持つお互いの腕を絡ませて回る。

そして盛大に呷った。


「*うっぷう!!」

「ぷはぁーー!!」

リクがジョッキを半分ほど呷ると、コルツは全て飲み干し、ジョッキを逆さまにして野次馬にアピールした。


「おおおう!!コルツ!!そうこなくっちゃーー!!」

ミルがすぐさま新しいジョッキを渡し、コルツがピピカと組む。

リクはカークと組んでダンスした!


「リク!呑めるか!?」

「*ウンウン!楽しい!!」


「リク!こうしてステップ!こうしてステップだ!!」

カークがジョッキを持ったまま足を手前に、そして斜め後ろに跳ね上げると、手で叩いた。


「*こう!?」

「そうだ!!そう!通じるじゃないか!!リクは酔いどれだ!!将来が心配だな!!ははははは!!」


カークとリクが腕を組み、ジョッキを呷る!

リクが口の周りに葡萄酒をこぼし、慌てて手の甲で拭った。


リクに新しいジョッキが渡され、酔っ払ったピピカがメルの風切り羽を毟ろうとする。


「ちょ!バカ!!今度やったら鉤爪で引っ掻くから!!」

「*あははははは!!」

リクはそれが堪らなく可笑しくて陽気に笑った。


「伝説の勇者よ、我と踊ろう!!」

男の騎兵隊長がリクと腕を組んで回る。

同じ曲のリピートが早くなり、必然的に回転や呑むのが早くなる。


トゥッツラララ、トゥッツラララ、トゥラララララールー♪

「おっ!!」


トゥッツラララ、トゥッツラララ、トゥラララララーー♪♪

「また回転だリク!!」

「*また回転!?」


トゥラララーララー、トゥラララーララ♪、トゥラララララララ、ララルー、トゥラララ・ララー♪!!

「いぇあー!!リクー!!ふぉーー!!」


騎兵隊の踵についた拍車を鳴らしながらタップダンスをする!

リクも陽気に阿波踊りを踊って盛り上げた!



「アハハハハ!!」

「アンダレイ!!アンダレイ!!」

「エスカーダーストリュフテ!エ ヴァンファ ・・・」


酔って世界がグルグルする。


シャンデリアの光が残像となってキラキラ。


早くなる音楽、酔って倒れ込む男達。

笑い声と異世界語。

倒れる食器や剣。


「あーー、コルツぅーー!どこぉーー?かえろー?」

リクはダンスで揉みくちゃになりながら、コルツ達を探した。

「コルツぅーー!!どこにいるのー?」


「あはははは!」

女魔道士がリクに水タバコの煙を吹きつける。


「コルツーー!!ピピカーー!!」


上の階だろうか??


「う!!!!」

見上げた瞬間、強烈な尿意が襲い、人混みを押し退けて外に出た。

酒場を出ると木でできた粗末なトイレがあり、そこで尿をする。

蛆虫と悪臭が立ち込め、リクはそれを見て盛大に吐いた。

「う!!ウォエーー!!」



リクは近くの庭で休憩をすることにした。



────


ピピカが風切り羽根を掴んだまま酔い潰れ、カークとコルツは話していた。


「カーク、さっきからずっと聞きたかったんだが、この戦闘に毎回参加しているのか?」

「お?おう。まぁな。天候に左右されないで纏まった金が手に入るからな。ちょくちょく参加しているよ?ピピカと一緒に」


「人を殺めたことは??」

「ないよ。俺らはあくまで後方支援か、余暇兵力だ。だから行くだけ。できるだけ金を稼いで、自分だけの土地を買うんだ。そして・・」


カークはチェーンでネックレスにした指輪を撫でた。


「この戦争が終わったら結婚するんだ」

「け・・結婚!?」


カークの言葉にコルツはクラクラする。

たとえマザー・アカナの世界でも結婚と言う行事は余りにも程遠いものだとコルツは思っていた。


「同じ農奴のお笹馴染みなんだが・・告白してくれたんだ。ちなみにピピカは他のゴブリン族と栽培できる新しい植物を島々から調達したいらしい」


カークは眠っているピピカの頭を撫でる。


「それで・・コルツはなんで参加したんだ?」

「俺は、騎士になるためにここに来た」


「ほう」

「ツェトリは何処の領主の配下でもないし、魔物と飢饉で常に危険にさらされている。俺が騎士になり、領主に仕えて、みんなが配下の農奴になれば危険も無くなるし・・なにより広大な農地を任せてもらえるんだ」


「そうか・・しかし誰かの配下になるのは良い事ばかりじゃないぜ?領主は偉そうだし、俺らは許可がなければ村の外に出れない。財政難になれば領主に支払う税だって高くなるんだ。不作と財政難が重なったら、最悪だ。俺らは冒険者になって危険なクエストしなきゃ生活できなくなる」

「・・・・」


「あれ?そう言えばリクはどうした??」

「え?」



────


「貴様がリクだな。」

「*ふい??」


リクが寝ぼけながら間抜けな声をだす。


「我は斬り込み隊のソードマンのローランだ。貴様がかつて諸国を滅ぼした伝説の勇者なら一度手合わせをしたい。付き合え」

「*うわっ!!」


ソードマンは鞘に入った剣でリクの襟を引っ掛けると強引に立ち上がらせた。

そして酒場の前の通りまで乱暴に引っ張ると、そのまま突き飛ばした!


そして鞘から剣が抜かれ、夜空にギラリと刃先が光る。


「おおうどうした?決闘か??」

「なんでも伝説の勇者とソードマンが決闘するらしいぜ!?」

「すげえー!どっちに賭ける!?」

「賭けるって!そりゃあ伝説の勇者に決まってるだろ!」


いつしか、倒れるリクとソードマンの間に人だかりができ、野蛮な賭け事が始まった!

「へへへへへ」

他のソードマン達が卑しく笑い、赤い顔料を塗ったソードマスターが静かにそれを見ていた。


「さぁ、立て!カンズアキ・リク!!その大いなる力で屈服させてみせよ!!はぁあああっ!!」

『補助スキル:チャージ』

ローランは剣を地面に突き刺すと大地の神アルマの加護を受けて力を溜めた!

地面が陽炎のように輝き、闘志がみなぎる!


「*ふいいーー」

リクはフラフラと立ち上がると、剣を抜いた。


#1「おおう!!リクが決闘を承諾したぞ!!」

#2「そうこなくっちゃな!!」


酔っ払ったリクは、新しい様式のダンスだと思ったようだ。

しかし、細い剣を持ったままフラフラ踊る様にソードマン達は困惑し、ローランドは攻撃スキルを使おうか迷った!

・・が!その時だった!


「*ふいい・・zzzz」

「なっ!!!!」

リクが睡魔に負けてローランドにもたれかかった。


「貴様!!ふざけるな!!」

「*ふきゅーー!!」

ローランドがリクを左手で突き飛ばす!


リクはぐにゃりと不気味に曲がると、酒場の横の樽に思い切り頭を強打した。

「*しゅーーーブクブク」

リクは仰向けで倒れ、尋常ではないイビキをかきはじめた。


「どうしたリク!!そんなんで倒されるほどのレベルではないだろう?」


そこへ、頭を掻きながらコルツが店から出てきた。


「なんか決闘が始まったみたいだな・・って!!うわーーーーー!!!!!リクーーー!!!!」

「リク!!おい!!うそだろ!!!」

カークとコルツが叫びながら駆け寄り、顔を真っ青にしたピピカがリクの胸に手を当てた。

「心臓が止まってりゅ!!!!」



「なっ・・!!突き飛ばしただけで・・!?そんな馬鹿な・・!!」

#1「お前!!闇の力を使ったのではなかろうな!?」

「ち、違う!!リクが弱すぎるのだ!!」


伝説の勇者が突き飛ばされて撃破された!

道端は騒然となり、大きな番狂わせに賭けをしていた男達の間で大争いが起きた!


すぐさまソードマスターの指示で魔道師が呼ばれ、決死の蘇生魔法の行使が始まった!

「リク!!戻ってこい!!異世界に行ってはだめだ!!」

コルツがリクの頬を叩き、ピピカが泣く。


それから程なくして。

リクは魔道師達の30回目の蘇生魔法で心臓が動いた!


「*ふきゅーーー。zzzz」

「もう大丈夫だ。俺らが酒場にいなきゃ危ない所だったな・・」


「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」

コルツが魔導師達に頭を下げる。


ローランはリクのあまりの弱さに大きく動揺し、手を震わせた。

それは、大きな敵を前にした恐れではなく、自分では理解できない意味の分からなさから来る動揺だった。


「なぜ、こんなにも弱いのだ!?これが神官達が召喚した伝説の勇者だと言うのか!!これでは渇きの王との戦いに勝てるわけがない!!メルヴアカナティアだと言うのに・・!!!!アルバース大司教は、何故こんなデクノボウを召喚したのか!」

ローランがリクを指差しながら民衆に言う。

他の民衆も動揺し、伝説に聞く勇者との余りの違いようにお互いに話し合った。


「ちょっとゴメン」

コルツがローランとリクの前に入った。

カークとピピカがコルツを見守る。

コルツがリクの弱さの秘密、そして神官達の言葉を届ける時が来たのだ。


「みんな聞いてくれ!ツェトリ村。コルツ・カイルだ!確かにローランの言っている事は正しい。リクは召喚された後、俺の居た村に滞在し・・そこらへんのスライムに倒された。本当に本当にそれほど弱かったんだ。最初に言うが、ソードマンであるローランは決闘で何もイカサマはしていない。リクが本当に弱かったんだ!!」


ローランが疑った民衆を睨みつける。

一連を見守っていたソードマスターが静かに口を開いた。


「それでコルツ・カイルよ。神官側はどう言った見解を出したのだ?まさか・・上部だけの鎧を着たチー鳥(しばしジャイアントモアの肉として売りに出される安価な小さな鳥)しか召喚できぬ事を・・よもや隠していたのではあるまいな??」


他のソードマンが笑う。


コルツは静かに言った。

「それは、ここに居るカークにも聞かれた・・。そして神官の長であるアルバース大司教は、他の神官達や元老院を集めて神託を聞き、答えを出したんだ」


コルツはリクの下に跪いて言った。


「マザー・アカナは“”カンザキ・リクを異世界ノーノタルタより送り出し、皆を試しておられる“”と」


「な!!!!なんだと!!」

「皆を試している!?」


ソードマスターは驚き、ローランは思わず剣を落としてしまった。

民衆も絶句し、騎馬隊の兵長も魔導師もポカンと口を開けた。


ソードマスターはポツリポツリと話した。

「・・この世界に住む者ならば、マザーアカナの神話は知るところであり、その気まぐれさと天真爛漫さは暫し、挿絵において少女として描かれている・・。

それは時に天変地異や不慮の死。

モンスターの襲来の一因としてマザーアカナの試練であり、その冷酷さや理不尽さで信仰を試す冷酷な女神だ。

マザーアカナの加護は、アカナ平原に生活する厳しさ

や生活そのものの試練であり、その試練に対し向き合う者にマザーアカナは微笑む・・!!」


「その答えがカンズアキ・リクと言うのか!!コルツ!!」

ローランはコルツに言う。


その途端、雲にかかっていた月が顔を覗かせ巨大な満月が顔を出し、気絶するリクを白く照らした。

皆が奇跡に驚き、周辺がざわつく。


「マザー・アカナが月の天宮より私達を見ているわ・・!」

メルが思わず跪く。

民衆もおずおずと跪き、ソードマスターも剣を地面に置いて跪いた。


「マザーアカナの加護を得て、メルヴィアに愛されしカンザキ・リク!!伝説の勇者は弱くていい!!なぜならこのローラン!何者にも負ける気がしないからだ!!そうか!!マザーアカナは・・試しておられたのか!!!!それすら気づかず!!神の奇跡を疑ってしまった・・!!未熟だ!!未熟!!」

ローランは自分の未熟さに地面に頭を下げる。



コルツはリクを抱き起こしてローランに言った。


「じゃあ・・リクに優しくしてくれるか?」

「あぁ・・!!すまなかった・・!!皆も手伝ってくれ!!伝説の勇者がお通りだ!!!!」


「*ふぃーーー」

リクは眠ったまま皆に持ち上げられ、そのまま運ばれるように宿舎に向かった。

ひ弱で、鎧を模した布を着た神崎陸。

剣は折れそうな程細く。

とうてい勇者に思えない。


しかし道中、それを疑問に思う者達は誰一人いなかった。

リクの存在こそが奇跡であり、マザーアカナの挑戦状だからだ。

“リクより自分は強い”そう思った時から自分は伝説の勇者であり、それを皆に誇示する時、マザーアカナは伝説の勇者の再来に微笑むのである。


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