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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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獣猫人 アーニャ・クローラウス

神崎 陸が召喚される前の話・・。


ガンロ司祭の弟子 アーニャ・クローラウスは夢を見る。

「はっ!!!」


獣猫人のアーニャは小高い丘の草原で目を覚ました。


くたびれた麻色の修道服に、同じ色のエプロン。

アカナ教信仰において司祭の見習いの修道女が着る服装だ。


「アーニャ!おーーい!アーニャ!そんな所にいたのか!早く帰ろう!」

見ると白髪で長い髭をたくわえたガンロ司祭が手を振っている。

「ガンロ様!今行きますー!」

アーニャが風のようき駆け出す。

ガンロはアーニャを待つと、頭を撫でて歩き出した。


「余程疲れていたようじゃな。今日はメルフィーがパンをくださった。乾燥肉やスープはネルケが。アーニャ、感謝をしよう。さぁ。」

「わぁ!わかりました。」


アーニャとガンロはメルフィーとネルケの家の方角にお辞儀をした。

ガンロは杖を額に当てて礼をし、アーニャは右手を胸に当てて膝をすくめる。


アーニャのいるツェトリ村は、海辺の小高い丘の平野にある人口500人くらいの小さな村だ。


岸壁を見下ろす湾にはタントリノと言う港があり、ここまで旅に来る旅人達は2時間ほどでタントリノに着いてしまう為、ツェトリには見向きもせずに素通りしてしまい。

冒険者達もクエストの少ないツェトリ村より、仕事や経験値も貯まるタントリノに行ってしまうのだった。


漁業をするには切り立った崖が邪魔をし。

ツェトリ村の人々の多くは家畜を森に放って肥えさせたり、開墾した畑で麦を育てるのが主な産業だった。


「ガンロ様、大丈夫ですか?私を迎えにわざわざ此処へ?」

ガンロは杖を突きながらなんとかバランスを取って歩き出す。

「ああ。すまんなアーニャ。どうやら足も動き難くなってしまったようじゃ・・。まぁ。それもあるのじゃが、麦畑の水路の工事も気になってな」

「工事は順調ですよガンロ様。今日は風車の建築をしました。水路の穴掘りも順調です。」

「それは良かった。私の代わりによく働いてくれて嬉しいぞアーニャ」

「いえいえ。ガンロ様に拾って頂いた恩返しですよ。」


ツェトリ村の広場の中心に『騎士の像』があり、そこにアーニャ達の教会があった。

子供達が駆け出し、家からは夕食(ゆうげ)の匂いがする。

教会の塔から夕刻を告げる鐘が鳴らされる。


「ガンロ様!アーニャ!」

「メメル!」

リトルウィッチ族のメメル・パルクリアが話しかけてきた。

赤くて大きな髪を三つ編のお下げにした、身長130センチくらいの女の子だ。

「ふふーんどう??」

メメルがリトルウィッチ族のミニスカートを大胆に翻すとホウキに跨って誇らしい顔をする。

よく見るとシークレットブーツが少しだけ浮いている。

「どうって?」

「ちょっと浮いてるでしょ!?」

「あっ!ほんとうだ!さすがベビーウィッチ族!」

「リトルウィッチよ!!あ、そうだアーニャ。今度タントリノに材料を仕入れに行くんでしょ?私も連れてってよ!」

「うん!いいよ?いいよねガンロ様?」

「いいとも。明日、物資のリストを渡そう」

「やったぁ!ゴホン。わ、私は魔工師として仕方なくアーニャの馬車に乗るんだからね?」

「うん・・。」

「じゃあ、また明後日ね!アーニャ!」

「バイバイ!」


メメルが手を降り、自分の工房に戻ってゆく。

家々の防風窓が閉められる音がして、メメルの師匠のクルスが街灯に魔法で光を灯していた。

きっとメメルも後で合流して街灯に光を灯すのだろう。


アーニャの教会は、もともと王権時代の権力者の邸宅だったらしく、邸宅そのものが居住区兼礼拝所になっていた。


「ただいまぁー!」

「おかえりアーニャ。」


ガンロが杖を上げるとシャンデリアや燭台に付いている魔光石が部屋を照らした。


ガンロがテーブルに散らかったクエストの紙を整理するとアーニャがスープを温めだした。

外はすっかり夜になり、はめられた乳白色のセレナイトの窓がカタカタと音が鳴る。

「ガンロ様どんなクエストがあるのですか?」

「ん?まぁ大したことないさ。手強いモンスターは遠くにいるし、畑を荒らすスライムやキラーラビットくらいじゃな」

「ふーん。」

「ちなみに今日のスープにはミル嬢が討伐したキラーラビットが入っているぞ?」

「ミル姉さんが!?ミル姉さんが来ているのですか?」

「昼ごろにはいたんじゃが、おそらくクエストを探しに村を出たののじゃろう」

「そっかぁ。ミル姉さんの旅の話聞きたかったなぁー」


ガンロが食器を出し、アーニャが鍋を持ってきてスープや練ったアンティチョークを盛り出した。

そして一通り作業が終わるとアーニャの手を取ってガンロ司祭が祈った。


「我らがマザー・アカナの恵み。大地の神ミミエ・アルマの恵みに感謝します。いただきます。」

「いただきます!!わー!お腹すいたぁー!」

祈りを終えてアーニャがアンティチョークに口を付けながら食べる。

「はむっ!はむはむ!はむはむ!」

そして頬張りながら舌でスープを掬って呑む。

「はむはむ!ズズズズ、ズズズズ!はむはむ!」


「チチチチッ!アーニャ!」

ガンロがアーニャの前に人差し指を振って制する。

「アーニャ?我々がフォークやスプーンを使うかわかるかね?お腹が空いてるのは大変理解できるが、きちんと食器を使わないとダメだよ?」

「ごめんなさいー。」

アーニャは髭についたスープをテーブルの布巾で拭くとスプーンで掬って食べ始めた。

スプーンの先端には突起が付いており、時に魚の骨を分離したり、突き刺して食べるのに用いた。

このトゲは、もともと金型に溶けた鉄を流し込む際の道の名残であり、大量生産が出来る利点があった。



「ズズズ・・・。これなら、髭にスープが付かないじゃろ?アーニャ?」

「はい!」


天井の魔光石が光り、棚にある大小様々なアカナの像がアーニャ達を見守る。


「アーニャ?そういえば司祭になる『道』は決まったのかね?」

ガンロが尋ねるとアーニャはギクッとしてパンを食べるのをやめた。

そして耳を伏せながら聞く。

「ガンロ様の病気を治す方法を探しに行くと言うのは、駄目でしょうか?」

「・・・。」

ガンロは一瞬切なそうな顔をし。ため息をついて寂しそうに言う。

「気持ちは嬉しいがそれはできないのじゃ。アーニャ、このパンはメルフィーさん一家が荒野で必死になって植えた麦なんじゃ。それこそ私がアーニャくらいの歳には、ツェトリの大地は廃墟と魔物しかなく。

私は冒険者を癒しながら司祭を目指す、托鉢の修行僧でしかなかった。

メルフィーさん一家は何もない荒野で麦を植え、私達に粥をご馳走してくれた。

そして、その日の夜『告知の夢』を見たのじゃ。麦を育てツェトリを村として大きくする私の姿を。

モンスターや疫病など決して平坦な道では無かったが、ネルケやクルスなど様々な者達が参加した。

そして産業が出来、文明が発達し、振り返った時に私は『司祭』として知られるようになっていた。称号は目指す物ではなく後から付いてきたのじゃ。私は皆から援助を受け、こうして教会を開く事が出来たんじゃよ」

ガンロは使い古して木目が浮き出た木のテーブルを、愛おしそうに触った。

アーニャは食後の紅茶に自分を写しながら夢の話をしようと決意する。


「・・実はガンロ様。言わなくてはならない事があります。それが・・先ほど眠っていた時に『告知の夢』らしき物を見たのです」

「おぉ!おぉ!!どんな夢じゃった!?」

「それが・・男の子が居る夢でした。私と男の子が砦に居て、共に助け合う夢でした。」

「名前は聞いたか?」

「えぇ。私が呼んでいました。『リク』と」

「リク。リクーリャやリーキャの愛称なら女性になるし。男の子をそう呼んでいたならリクが正解なのじゃろう。ふむ。ふむ。これは興味深い」

「これが『告知の夢』で間違いないのでしょうか?わたしはマザー・アカナにガンロ様を救ってくださる夢をお願いしたのですが。」

「ううむ。『告知の夢』で間違いないだろう。近々、タントリノで『勇者召喚の儀』が行われるそうだ。おそらくそれに関係する夢であろう」

「そうです・・か。」

「大丈夫だよアーニャ。バッカス司祭(タントリノの司祭)なんか僧侶時代には酒を捨てる夢を見たそうじゃ。そして、禁酒をして懺悔を真面目に聞いたら司祭になれたらしい」

「そ、そうなんですか」

「うん。じゃから、そこまで心配しなくて良いぞアーニャ。」


本当に大丈夫かな。

あの夢では確かに私は死にそうになっていたし。

絶対絶命だった。

司祭になる夢が人生の終わりって考えられるのだろうか?

アーニャは考えると、心配そうに紅茶に映る自分を見ていた。

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