リクの旅立ち(2)
空はにわかに雲がかり、兵士達を乗せた馬車がギアーテ王国 タントリノに向かう。
年齢は様々で、向かい合わせのワゴンに並んで、押し込められるように座らされていた。
リクは慣れない駅馬車の揺れで酔い、いつしか眠ってしまっていた。
2人の兵士がリクを見ながら小突きあってニヤニヤする。
「コイツ、ニホンか?知ってるぞ?」
「あぁ、知ってる知ってる」
「はぁ」
コルツは面倒くさそうに遠くを見た。
この手の流れ者の変人をよく見てきたからだ。
「ギアーテ王国の精鋭部隊に殺されて」
「クスクス・・ノーノタルタに逃げ込んだ」
「その最期が地名になった所があると聞く」
「そうそう。クスクス、意味は分からないけどクスクス。ニホンの叫び声が地名になったらしいぜ??どんな叫びだったんだろうな??クスクスクスクス」
───────
「タントリノーーー!!タントリノーー!!」
兵士達を乗せた馬車が到着する。
タントリノはすっかり様変わりしていて立ちのぼる砂埃の中、軍の馬車が所せましと停められ様々な資材が行き交い、兵士達に物を売る売り子達の掛け声が響いていた。
巨大な戦士の似顔絵が描かれた馬車や、それに似合うかのように討ち取った数を模した星の数があり、血生臭い武勇伝を載せた戦争録を売り歩く商人や吟遊詩人もいた。
そして、兵士達の食糧や護衛をするクエストがいくつも貼り出され、冒険者が行き交い、御守りを売ろうとバッカス司祭の弟子達が物販を開いていた。
「リク、大丈夫か??」
「*ううう」
「これから船に乗るってのに、そんなんでどうする??」
「*うううう」
馬車を降りてグッタリするリクに、尽かさず回復水を売る赤毛の少女が駆け寄る。
「回復水はいらんかね??」
「商売上手だな・・!酔い止めはあるか!?それか薬草だ!」
「えっと・・ごめんなさい。回復水しかありません」
そこへ1人の兵士が駆け寄る。
「あるよ!ほら!あとお嬢ちゃん、回復水をくれ!」
「3ルルーです」
兵士が薬草を差し出すと、建物にもたれたリクの口に放り込み、糖蜜の葉をコップにした回復水を飲ませた。
「ありがとう。えっと・・」
「アルフェリカス・ユフェリクス・カルメリクス・・・カークと呼んでくれ」
「カーク!ありがとう!!」
「*カークさん、ありがとう(ダイケア)」
カークはリクとコルツに握手をする。
見た所歳はそれほど離れてなく、栗色の天然パーマと茶色い瞳が特徴的だった。
「俺はコルツ・カイルだ。彼は、カンザキ・リク」
「リク!コルツ!よろしくね!」
「*よろしくお願いします」
「ヨ・ロ・シ・ク??コルツ、カンズアキは言葉が通じないのか?出身は何処なんだ?」
「異世界人だ」
「は!?異世界人!?つまり、伝説の勇者!?」
「そうだ!それも転生する時にどの神様を選んだと思う?」
「どの神様だ?」
「マザー・アカナだ」
「マ、マザー・アカナだって!?つまり、メルヴ・アカナティアか!!すげえ!何かご利益があるかもしれない!おい!みんなも来いよ!!伝説の勇者様だぞ!!おい!」
カークは、リクをベタベタと触り、騒ぎを聞きつけた他の兵士達もワラワラとやってきた。
皆、地方からやってきた義勇軍だと言う。
「すげー!」
「伝説の勇者だ!」
「なんで普通の鎧なんだ!?伝説の鎧はどうした?」
皆の質問攻めにリクは困ったようにコルツを見た。
コルツは慌てて助け舟をだす。
「えっと、みんなと同じ視点で物を見たいからだそうだ!でも、伝説の勇者の鎧を描いた布ならあるぜ!」
「おお!!着てみろよ!」
リクは赤面しながら布を羽織り、剣を抜いてポーズを取ると歓声が沸き起こった。
「やっぱり、メルヴ・アカナティアは特別な存在と聞くよ!すごいや!」
兵士達が目を輝かせながら見る。
「ちょっと剣を見せてくれ・・・うわっ!軽っ!!」
カークが持ち上げた瞬間、リクの剣のあまりの軽さにバンザイする。
「これじゃあ、敵を叩き斬れやしない!鍔迫り合いなんてしたら間違いなく折れる!いったいこれは・・!!」
「これは・・」
カークや他の兵士達の驚きようにコルツは必死に弁解論をさがした。
リクはよくわかっていないようで、コルツとカークを交互に見る。
「これは指揮棒なんだよカーク」
「えっ!!指揮棒!?」
「リクの指し示す所・・そこが俺らの歩む道なんだ!指揮をするのに切れ味なんて必要ないだろ?俺ら兵隊がリクの刃となり、その鍛え抜かれた精神が硬さとなるのだ!」
コルツが冷や汗をかきながら説明すると、他の兵士達が感心した。
「な、なるほど!!そうか!そういう事か!!」
「俺らはメルル・ヴィアスとマザー・アカナの加護を受けている。そうか・・リクの剣に本来の意味は必要なかったのか・・!!」
「リクが指し示し、我々が切り拓くのか・・!!そうか!そうだよな!!」
「神々に寵愛されし、リクの加護を貰おう!!」
「そうだな!そうだな!!」
兵士達が恩に肖ろうと、リクをベタベタと触る。
尽かさず新聞記者がリクをスケッチし、他の記者達に原稿を書くように指示をだした。
───────
「なんの騒ぎだ?」
「お友達ができましたな」
バッカスが2階の窓からリク達を見る。
若き勇将 ヴァイターがマントを翻してそれを見る。
ヴァイターはギアーテ王国の国王であるアルヴアータ・ギアーテの息子であり、3番目の末っ子だった。
極めて好戦的な一族であり、数々の異世界人を串刺しにした血生臭い一族だった。
「バッカス・・わかっているな?」
「いえ・・しかし・・伝説の勇者ことリクは、スライムすら倒せません。はたして戦力になるかどうか・・」
「強大な力など必要ない。俺は弟のヴァヴァルより先にメルトリッスを平定したいのだ。その為には伝説の勇者の後ろ盾が必要だ。彼がいれば兵士が活気つき士気も高まろう」
「リクを危険な目に合わせるのは、アルバース大司教が黙ってはいないと思いますが・・」
「いいか?これは俺が王権を握る極めて重要な戦となるだろう。大司教には『リクは慰安の為に輸送船に乗った』と報告せよ」
「お、おおせのままに・・しかし、必ずリクをツェトリに還しますよう・・でないとギアーテ王国の兵士、いや。この連合軍、全ての兵士達の士気に関係しますから!」
「リクは俺が責任を持って保護する。セイレーン島を奪うだけだ。安心しろ」
「簡単におっしゃいますね・・」
───────
カーン!
カーン!
カーン!
船の出航が近いことを知らせる鐘が鳴った。
「おっと!時間になっちまう!リク、行こうぜ!」
「*えっ!どの船に乗るの!?」
コルツがリクの手を引っ張って兵士達の人混みを掻き分ける。
「第20号船『トトリア』だ!!」
「*トトリア!?」
「俺たちの船は輸送船なの!」
「コルツ!リク!会えて嬉しかった!また話そうな!」
カークが今一度、リク達と握手をする。
「カークはどこの船なんだ?」
「俺は『メルヴナウタイ』だ。大将ヴァイターが乗船する増援輸送船だよ」
「なんだ。最前線じゃないのか!」
「へへへ!最前線なんて行ってられっかよ。」
リク達は巨大な輸送船に向かう。
輸送船では沢山の食物や大砲などの武器が積まれていた。
見るからに商人や、魔道士らしき服装の人が多いので場違いな気がする。
船も風の神であるクアラ・フフルが船首にそびえ、戦艦にくらべると明らかに華やかで観光船のようだった。
「乗船許可証をこちらに!判子を押すぞ!!」
リクとコルツはとりあえず列に並び、自分達の乗船を待っていた。
するとそこへ鎧を纏った男が忙しそうにやってきた。
「カンザキ・リクとコルツ・カイル!!」
「は?」
「上からの命令で乗船する船が変わった!」
「は??じゃあ、どの船ですか!?」
「『メルヴナウタイ』だよ!!光栄に思え!ギアーテ王直属の船だ!!」
「メルヴナウタイ!!すげーよ!リク!!」
「*えっ!?この船じゃないの??ノー??」
「違うよ(ノーノノ)!!」
リクとコルツは揉みくちゃになりながら港を行き来する。
船内では伝説の勇者が乗船したと大騒ぎになり、触って運をあやかろうと人だかりが出来た。
そして、あれよあれよと船が出航し、まるで修学旅行のそれのように熱気と笑い声に溢れていた。
「ルクア リク!ツェトリ ルア アーニャチカ!!(リク、見てみろよ!アーニャが見送ってるぜ!!)」
「えっ!?アーニャ?ツェトリ??」
「ウンウン!ルクア リク クリクリエ!」
リクは船の中で揉みくちゃになっていたが、不意にコルツに引っ張られて甲板に出た。
船では坊主頭の大勢の船乗りがオールを漕ぎ、帆柱のてっぺんに登った身軽そうな船員が風を読もうとしているのが見えた。
「アエルピアーー!!!!」
船員が叫ぶと、帆が出されサストテール山脈から吹きおろす風を受けて大きく靡いた。
その大きな風はアカナ平原の岸壁を鳴らし、少しばかり小高い岸壁の頂上にキラキラと光る物が見えた。
「エア リク!!」
「うん!!わかってる!あれがアーニャ!?アーニャでしょ?」
コルツが頷くと岸壁に向かって叫んだ。
「アーニャ!!ウオオオオオオ!!アーニャーー!!!!メメルーーー!!!!」
リクも負けじと剣を抜いて、岸壁に向かって振った。
「アーーニャーー!!!!いってきまーーーす!!!!」
リクも剣を抜いてキラキラ光る岸壁に挨拶した。




