勇者になるには
リクの勇者になる訓練が始まった。
そこにあるのはチートでも、ハーレムでもない・・。
口の内側が血で滲み、地面に這いつくばって喘ぐイバラの道だ。
リクは辛さに泣き、異世界の残酷さに恐怖する・・。
しかし、その渇いた大地の割れ目に彼らの優しさがあった・・。
かくしてリクは一人前の勇者になるためにコルツから剣術を教わった。
「デア!ゴージ リク!!アンダレイ!!アンダレイ!!リク!!」
「ど、どこまで行くんだよー!!」
リクとコルツは息をはずませながら草原を駆け抜ける。
それをココとクレアを引率したアーニャやメメル、ガンロ司祭が見守る。
2人はケヤキの木に車輪の鉄軸をはめて重さを調節した剣と、同じくケアキで作られたバックラーと呼ばれる丸い盾。
そして、ヌオの皮で出来た鎧を装備していた。
どれもシンプルな作りで軽いのだが、こうして長時間身につけているとジンワリ重く、コルツは『アンダレイ!!(もっと頑張れ!)』とリクを励ますと、2人で駆け抜け、時にピタリと止まると剣と盾を構えさせた。
「エペ チョック(剣を構え)!!」
「ハァ!ハァ!!」
「エペ チョック!!リク!!」
「うわぁっ!!」
盾は顔の前まで上げなくてはいけないのだが、疲労が溜まってくると腕を上げるのも辛い。
「エペ チョック リク!! エエア? チョック スピア ニヌ バクラキルア!!エデイカ!!(いいか?きちんと構えないと槍で突かれるぞ!!分かったか!!)」
「痛いっ!!分かった!分かった!!」
リクがキチンと構えないとコルツの容赦ない剣の攻撃が降り注ぐ!!
頭にきてリクが剣を右上から振り下ろすと、コルツは盾でそれを受けて華麗な剣さばきでリクの胴をガツンと叩いた!
「うぐえ!!」
コルツの容赦ないラッシュがリクの胴を打ちのめす!
「エア アイヅ リク(その目だよリク)!! トト ビスティア(時に獰猛に)!!トト アーガイツ(時に果敢に)!!トト メヴィキ(時に美しく)!!」
「ううう!ゴホッ!ゴホッ!」
リクは倒れ込み、苦しみのあまり仰向けで喘いだ。
「アンダレイ!!アンダレイ!!リク!」
コルツがリクの手を引っ張ると、無理矢理立たせる。
「えーー!まだ走るの!?」
ガンロ司祭がアーニャの肩に手を乗せて見守る。
メメルはリクとコルツをジッと見ている・・。
アーニャがメメルに話しかける。
「エ ア シンク メメル??(何を考えているの?メメル?)」
「・・フィルリア メルリウ リク(リクの迷いを感じるわ)」
「メルリウ・・リク??(リクの迷い?)」
メメルが深刻な顔をしてアーニャに向きなおる。
「エエ。イア ホホル リク パシオアル! ジー パシオラルク リク テーバルテ・・。テーバルテ・・(ええ。リクは優しすぎる!いえ、優しいのはいい事なんだけど・・。いい事なんだけどさ・・)」
「うわーーっ!!」
リクがコルツの攻撃で吹き飛ぶ。
どうやら顔に強烈な一撃を喰らったようだ・・鼻から流血し、たちまち右目の上が腫れ上がった。
「アァっ!!リクーー!!」
アーニャが慌てて駆け寄る。
そして両手に魔力を高めると、リクの目を治癒する。
「うう・・うう・・」
リクは痛みで呼吸も出来ぬまま、悲しみと恐怖でコルツを見た。
「タルマ リク クリクリア!!(立て リク!!)」
コルツが鬼の形相で言う。
「はぁ・・!はぁ・・!!ちょっとコルツさん!!少し休憩させて下さい!!」
これは、リクを一人前の勇者にする訓練なのだ。
それは決して、渇きの王と交えるための訓練ではない。
このツェトリ村のドラゴンの像を飛び出せば嫌でも待ち受ける、獰猛な鳥類や蛮族達・・そして猛烈な自然から身を守る屈強な肉体と精神力を付ける訓練なのだ。
「はぁ・・はぁ・・うわぁあ・・血がっ!!血が出てますよ!」
リクは鼻血を手に取って絶叫する。
昼の太陽で陽炎ができ、コルツがヒロキに見えた。
コルツが悪意を持ってリクを叩きのめしている気だってして来る。
・・そうだ。コルツは僕が弱いと分かって、わざとイタぶっているんだ。
僕は異世界に行きたいと願った・・。
でも・・これじゃあ学校の時と変わらないじゃないか・・!!
しかし、コルツの前に立ちはだかる小さな勇者がいた!
「ゼルゼル リクー ノーノノ!!(リクを虐めないで!)」
「ゼルゼル ノーノノーー!!(虐めないで!!)」
「ア!?クレア!!ココ!」
クレアチスの双子の妹クレアと、カイル家の3番目の娘のココだ。
コルツは驚くと、すぐさま剣を捨てて言った。
「ゼルゼル ノーノノ プロミティオ・・(これは誓ってイジメじゃないよ)エント アーガイパシオラルク リク!!(これはリクの為なんだ!!)」
「ゼルゼル ノーノノ!!プロミティオーー!!」
クレアが叫んで金髪を逆立てせると、小さな放電をしてコルツを痺れさせた!
「ワッ!!クレア サンディア ボルターナ!!プロミティオ!!プロミテア!!クレア!」
たまらずコルツが盾も捨てて降参した。
「はぁ・・はぁ・・クレアちゃん、ありがとう。えっと・・ダイケア クレア(ありがとう クレア)!」
回復したリクが感謝の言葉を口にし、クレアは泣きそうになりながらリクを抱きしめた。
「うぅ・・!!うううう!!」
リクは自分の弱さと情けなさに泣き・・。
草原にリクの嗚咽する声が響いた。
「クレア ダ ハイト。サンディア ボルタナ エスカーダー(クレアは強い子ね。電撃魔法を覚えるなんて)」
メメルがクレアを撫で、杖の軸にリクをヨイショと起こす。
「コルツ君 教えてくれてありがとう。僕・・頑張るから・・。ダイケア、ダイケア。メメルも、ダイケア」
リクは合掌するとコルツとメメルに感謝する。
「ウーウン」
コルツとメメルは頬を掻きながら唸った。
───────
草原を羊飼いが通り過ぎる。
ガンロ司祭が布巾を広げ、バスケットからリンゴやサラミ、ライ麦パンが出てきた。
リクは少し離れた丘で食べ始め、クレアとココが優しく見守っている。
アーニャはサラミを齧るとパンを頬張り、メメルに話しかけた。
「エト メメル?イアド リク トトー・・(メメル?さっきの話なんだけど・・)」
「ン?ウン。 エ ア ホホル リク パリシオラル?(リクの心が優しいって事?)」
「ウン」
メメルの横をコルツとガンロ司祭が通り過ぎ、積極的にリクに話しかけている。
理解したのか、していないのか・・リクは鏡を覗きながら頷き、コルツとガンロが必死に石と木の棒を使って説明していた。
どうやら基本的な戦い方を教えているようだ。
メメルがリクを見ながら続ける。
「リク ア ノーノノ アイヅ メルヴィ・アカナティア。 アヌ リトルウィルチ フィルリア!リク ア デルザオーグ ノーノ トトリアク キルキリア ココナ(リクの瞳は勇者のそれじゃない。リトルウィッチ族だからこそ感じるの。彼は渇きの王どころか、生き物の殺生すらできない)」
「・・・」
「アヌ レアルイアン アーニャ。リク ホホル パリシオラル! ホホル イワシュリカ ゼオラル(これは確かに言える事よ。リクは優しすぎるわ)」
草原を強風が吹き抜けて波ができる。
”“リクは優しすぎる”“それは、人としてなさけ深いと言う意味ではなく。
“”イワシュリカ“” つまり風に飛ばされそうな程弱すぎる事を意味していた。
メメルの残酷すぎる断言に、ガンロはのんびりと戻って来て。
そして言った。
「イエル ホホル リク。ワズアイル アカナティア イアド アルバース ヴィーツヴァ。
クロド リク アカナディア エキシリタ。
クロド リク シュルヴエルリヴァ アカナディア・・シンクロド エイタ。
(確かにリクは弱い。それはアカナ教の神官達でも議論の的になっているのだ。リクがなぜ、マザーアカナを選んだのか・・リクがなぜ、苦悩の道を選んだのか・・我々は考えた)」
アーニャが聞く。
「エト マ・ダルマ ガンロ エキリシタ?(それで、答えは見つかったのですか?)」
ガンロは微笑み、アーニャの肩に手を添えた。
アーニャの髭が動き、耳が動く。
メメルは2人を見て、その沈黙の中にどのようなメッセージがあるのか考えた。
沈黙を破って、リクと話していたコルツがやってきた
「アーニャ!!マ・ダルマ ガンロ!」
「コルツ!ハフィドル ド(コルツ!どうしたの?)」
「アーニャ コシドイア リク ノーノタルタ(アーニャ?リクの住んでいる異世界語を教えてくれ)」
「ドードラ ルラ?(どんな?)」
「オーハ ビスティア イヴン!!オーハ ビスティア イヴン!」
アーニャは尻尾を振りながら、今までリクが話していた異世界語で照らし合わせて考える・・。
そこへ、すぐさまガンロが助け舟を出した。
「オーハ イッショ・・ビスティア ツヨク・・イヴン ナロウ(オーハは『一緒』 ビスティアは『強く』 イヴンは『なろう』だ)」
「イッショ、ツヨク、ナロウ!イッショ ツヨク ナロウ・・!」
コルツは頷くと、忘れないように小さく呟いて復唱しながらリクの元に駆けて行く。
「イッショ!ツヨク!ナロウ!!リク!!」
コルツがジェスチャーしながら言うと、リクは雷に打たれたようにビクンと反応して、目を見開いてコルツを見た!
コルツは何か間違えた事を言ってしまったのかと戸惑うようにガンロを見た。
リクは、突然震えだすと見開いた瞳から大粒の涙が溢れだす・・。
「うん!うん!!コルツ!!一緒に強くなろう!!」
「ノーノ ゼルゼル!!(イジメは無しだよ!?)」
ココがコルツに念を押し、コルツは自分の手の甲にキスをすると、胸に手を当てて硬い誓いを立てた。
「ノーノゼルゼル プロミティオ ツェトリナイティア!(ツェトリの防人の契約のもと、イジメをしない事をここに誓う)」
「ウン!!アハハハハ!コルツタンカ(コルツ兄ちゃん!」
ココとクレアがコルツに抱きつき、笑顔が戻った。
空には、そんなリク達を祝福するようにヒバリが鳴き、アーニャはホッと胸を撫で下ろした。
「マ・ダルマ ガンロ(ガンロ様)」
そしてアーニャは立ち上がると、何かを決心したようにガンロに言った。
「ン?」
「エ ア マズア・アカナニヌ ゲルリア シュリフリ ココ クレア??(ココとクレアの、マザーアカナの祝福の日が近いですよね?)」
「エア(そうだな)」
「アカナニヌ ゲルリアシュリフリ キルキアル リク・・エダ ガスパー(次の祝福の日にガスパーを使いたいのです。屠殺はリクにお願いします)」
「アーニャチカ!!」
メメルが驚き、ガンロは深く頷いた。
「レアルザオラ アーニャ?(いいんだね?アーニャ?)」
「エアツ(はい)」
アーニャは深く深呼吸して言った・・。




