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異世界から来たリクは本当に使えない  作者: 地底人のネコ
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異世界に来たリクは本当に強い

異世界から来た神崎 陸は、このゲームのクオリティに圧倒されて驚き、感動をもって観察した。


それは異世界に召喚された喜びか。

現実逃避の夢か。


しかし この最高難度の世界はリクの感動を吹き飛ばし、異世界に行って成功したいと言う甘い考えを激痛をもって打ち破るのだった。



邪悪な紫の炎が歩く歩調に合わせて灯り、悪の将軍ガルマの足下を照らす。



そして開けた闇の地底湖に、一つの巨大な鏡が置かれていた。


ガルマが平伏し鏡が妖しく輝く。

いつしか鏡はガルマではなく、闇の深層にある何かを浮かび上がらせた・・。


「デルザオーグ様!!」

「ガルマか・・貴様の言いたいことはわかる・・。ついにその時が来たのだな!」


渇きの王デルザオーグが鏡の奥に浮かび上がった。

そのあまりの邪悪さにガルマは3歩下がり、頭を深々と地面につけて平伏す。


「勇者が召喚されました!それもデルザオーグ様のご希望に沿った『マザー・アカナを選択せし者』です!!」

「おお!!60年間、世は力を蓄え貴様らを産み出し、勇者が来るのを虎視眈々と待ち望んでいた・・。そしてようやく『キー』を持った勇者が、マザー・アカナの寵愛を受けし者が、この世界に召喚されたのか!!」

「はっ!」


「聞こう。勇者の名前は何だ?」

「神崎陸と名乗る男だそうで。」


「カンザキ リク!!おおおお・・!!」

デルザオーグが名前を聞くや否や大きく息をする。

その音は地面を轟かせ、封印された鏡から生温かい死臭に似た腐臭を吐き出した。



「どうしましょう?デルザオーグ様!!」

「その者を生捕りにせよ。そしてキーを持って来させるのだ!」


「しかし、神崎陸は行方が知れず、神官側の連合軍がセイレーン島に攻め込んでいます!」


「それは想定の範囲だガルマよ。神官側がセイレーン島を奪えば更に活気づき、勇者を従えて進軍してくる筈だ。

7万の兵をやろう。これで神官を撃退し、神崎陸を生捕りにせよ!」


「なんと!!3万の神官側の軍勢に7万ですか!?」

「そうだガルマ。マザー・アカナを選んだ勇者を侮ってはならぬ。今まで戦ったどの戦士よりも手強いと肝に命じよ」

「な・・」



「ククククク。怖気付いているのか?」

「何がおかしい!?ザダ!?」

そこへ、何処からともなく闇の勇者ザダが出てきた。



「7万の兵士が居なければ貴様はアカナの大地を平らげることが出来ぬ。そう言われているのだぞ?

ガルマよ、恥を知れ!」

「な、なんだと!?」



「闇の勇者ザダか」

デルザオーグが言いザダはガルマの横で平伏す。

骸骨のような毒々しい鎧と、幾多の勇者を葬った大剣が赤く光る。


「デルザオーグ様、俺は『惑わしの湾』から単独で潜入します。デルザオーグ様の寵愛で得たこの不死身の身体なら、長い航海も容易でありましょう。神官達の軍勢がガルマを相手している隙に神官の寝首を掻き切り、必ずや勇者を生捕りにしてご覧に入れましょう」


「ぐぬぬぬ!!貴様!良い頃合ころあいで出てきて手柄を掻っ攫うつもりではなかろうな!?」

「貴様と違って俺は勇者なんでね?そんな卑怯な真似は事はせんわ!もっとも、思いつきもしなかったがな!?」


「な!ぐぬぬぬぬ!!」

「おおう?やるのか!?」


ガルマとザダが睨みあう。

ガルマは軍配を、ザダが大剣に手をかける。


「ふん!まぁ見ておれ!!」

「ふん!!」


2人が別々の方向に出ていき、デルザオーグが息をつく。

そして鏡の奥に控えている影に命令をする。


「・・念のため 神崎陸を調べよ」


「仰せのままにデルザオーグ様。神崎陸を調査対象に・・」

「頼んだぞ」




────異世界の勇者こと神崎陸の登場は、この世界の住人や全ての生き物に伝わった。



「勇者 召喚 成功」

「それは本当か!?」

7部族の1人、チチカカは占い師の甲骨のヒビで知った。

チチカカは竜の皮の移動式住居から出ると一角獣に跨る。


「若!何処へ行かれるか!?」

そこへチチカカの身の回りの世話をするロウガイが慌てて駆け寄る。


「皆に伝えてくる!」

「まだ勇者が来るとは決まっていな・・若ーーっ!!」

「留守を頼んだぞ!ロウガイ!」


チチカカの乗る一角獣が渇いた荒野を走り抜ける。


その荒野の白く立った砂埃の地平線の向こう側に、マンガンで出来た巨大な石柱の森が広がっていた・・。


チチカカの一報は7部族に広まり、キャラバン隊から商人に伝わり、冒険者や旅人に伝わった。

冒険者から奪う盗賊、そして討伐された盗賊が魔物になり、ゴーストなどアンデットにも伝わった。

アンデットからレッサーデーモン。

レッサーデーモンからグレートデーモンに話として伝わる。



グレートデーモンは勇者に怨みを持つ全ての者達に話して聞かせた。


今は亡きエスタムンドの亡騎士達が、カラッポになった頭蓋骨の奥で勇者に対する怨みを思い出す。

「勇者が召喚されたとは・・我が積年の怨み晴らそうではないか・・!!」

「そうだ!!」

「我が・・亡き王の為に・・!!」

「邪魔する者は斬る・・!」


グレートデーモンは亡騎士の単純さにニヤリとした。


亡騎士が錆びた剣をふると、ボロボロの遠征隊旗が翻り、朽ちた鎧を纏った骸骨が苔むした根や石から湧いて出る・・。

それは死の行軍を始め腐葉土のムッとした臭いが遠くまで臭った。




「こわい・・こわい・・。死者が甦る!勇者が私を殺しに来る・・。」

石柱の森から程なく行った所にあるトンカラの岩場で女巨人のレジーナがしゃがんで震えた。


その震えは地震となり、マグニチュード0の直接地震がトンカラの赤い岩をボロボロと崩した。

褐色肌のヤマアラシのようなゴワゴワした髪がバサバサと震え、何事かと、ボロテントから弱そうな男が這い出した。


「わわわ!!レジーナ!やめるんだ!」

はぐれ者のティルムが、慌ててレジーナの腕輪からよじ登り、肩に付いているショルダーアーマーに乗って髪を掻き分けると、耳元で叫んだ。


「レジーナ!!僕が居るから!!もう勇者は襲ってこない!!こんな辺境の地に来ないって!!」


「来るよ!!!!!」

「うわっ」

レジーナの声でティルムは吹き飛び、思い切り岩場に投げ出される。

レジーナは(しまった!)と驚いた顔をして慌ててティルムを両手で掬った。


「ごめんなさい・・。怪我はない??」

「僕は大丈夫だよ!」

「良かったぁ」

レジーナは何かを思いついたようにティルムを肩に乗せると、決心したようにズシンと立ち上がった。




「何するのレジーナ?」

「見てて・・んんん!!」

レジーナは酸化鉄の巨大な赤い岩を抱きしめると持ち上げ始める。

岩は地響きと共に持ち上がり、跡地には巨大な穴が空いた。

レジーナは巨石を担ぎ上げると足に地面を食い込ませながら歩き出した。


「ちょっ!ちょっと!!そんなデカい岩どうするのさ!?」

「大丈夫、人に危害は加えない!ティルムとの約束!私、守る!!」


「だからどうするの!?」

「道があるとアンデット来る!勇者が来る!!だから塞ぐ!!誰も傷つかない!道が無いから!!」

「えーーーっ!!」


「そおっ・・・・れぃ!!!!」

「ちょっと!レジーナ!!うわー!!」

レジーナが巨石を投げ下ろし、宙を舞う。

そして天地がひっくり返ったような轟音が響き、岩場の鳥達が一斉に空へと飛び立った!


レジーナが道を塞いでしまったのだ!



「ふぅ!これで安心!!ティルム、安心?」

「安心じゃないわー!!」




ガァーー!ガァー!

トンカラの空を様々な鳥達が飛び、その鳥の1匹が興奮冷めやらぬ鳴き声で騒がしく鳴いた。

鳥が次に鳴こうとした瞬間に、口を大きく開けたスピノバードが捕食した。

「パクッ!!グケェエエエエ!!」

スピノバードがノコギリのような口を開けて鳥を丸呑みにすると、故郷であるアカナ大平原に翼を向けた。


「グケェエエエ!!」

力強く羽ばたき、太陽を一時的に遮る。


それは大平原を彷徨っていた1体のリビングアーマーにも影を落とした。




「森の方が騒がしいな・・勇者の召喚と関係があるのだろうか・・。

剣も落としてしまったし、盾も鎧も錆び付いてしまった・・どうしよう・・。」

リビングアーマーが錆び付いた身体を軋ませながら土台しか残っていない廃墟に腰をかけた。


そこへ用心棒の冒険者を従えたキャラバン隊が歌を歌いながら通り過ぎる。


「誰も踏み入った事のない森に、パパヌンド王国一の木こりがやってきた♪

木こりの目的はただ一つ♫

樹海の深層にある巨木さ♫」


「お・・おい!あれ!?」

しばらく気持ちよく歌っていたのだが、リビングアーマーを見て空気は一変する。




「ななな・・なんで、鎧が置いてあるんだ?」

「俺に聞くなよ・・冒険者さん!よろしくお願いします!」

「俺らが行くの!?」

「その為の用心棒でしょうが!」



うわーまただよ、面倒臭い。


リビングアーマーは腰を掛けたまま微動だにしない。

見つかってしまったら最後、人間と言うのはとても面倒臭いのだ。

冒険者の2人が警戒しながらワゴンから降り、剣を抜く。

リビングアーマーは放置された鎧を決め込む・・。


「・・・」

「・・・」


「・・・・・・・・や、やあ」

最初に気まずい沈黙を破ったのはリビングアーマーだった。 


「うわーーー!!鎧が喋った!!!!」

「早くワゴンに乗れ!!早く出せ!!うわーーー!助けてくれー!!」

キャラバンが一目散に逃げ出す。

リビングアーマーは手を挙げたまま硬直する。

「・・・・・。勇者なら、こんな俺でも話を聞いてくれるだろうか・・。」

リビングアーマーは虚しさの中で思った。



───このようにして、勇者召喚の成功は様々な者や物達に伝わり、そして憎悪や喜び、悲しみや恐れに変わって世界を満たした。

しかし神崎 陸はその事を知らない。

世界が自分の転生で大きく動き、そして後に自分へ降りかかるのを知らなかったのだ・・。






───────








僕はアーニャの家の前にあるブロックに腰をかけてNPCの営みを観察することにした。


村の中心の広場では様々な屋台が出ていたのだ。


「ヘェオーー!トトクリア ビガ!!

ヘェオ!トトクリア ビガ!!」

僕の目の前で肉屋の店主が手を叩きながら呼びかけている。


おそらく『いらっしゃい!いらっしゃい!』と言っているのだろう。

水(おそらく塩水)の入った樽から鶏肉を出して、手で丁寧に水を拭う。

そして僕にウィンクすると、鳥をまな板に乗せた。


ストン!

ストン!!


鳥の足を大きな包丁で切り落とし、次に腕にとりかかる。

シキシキシキ。


そして胸に大きく包丁を入れると見事に真っ二つにしてしまった。

ドタン!


店主は宝石を扱うように鶏肉を取ると、各部位ごとに店の前の木のケースに並べていく。


そこへ、買い物カゴを持った女性がやってきた。


「ズドラーナ!」

「ズドラーナ!!キキル ビガ!テェイス ゴウジア!タントリノ テ ノーノ テアルー二!」


店主は鶏肉をもって左手で投げキスをして、美味しさをアピールしている。


「フーフン。エ ア トトクリア ミルクチカ??」

「ノーノノ タントリノナイティア!」

「フーフン。デ カーア チェキン」

「ダイケア!!ダイケァ マドヌ!!」


どうやら交渉成立のようで、店主が鶏肉を草の葉で包む。

その僅かな作り込みもゲームのNPCとは思えないほど細やかで、もしかしたら女の人も村の中をグルグル回らずに本当に家で食事の支度をするのかもしれない。



「オッオウ。プルーテ」

「す、すいません!」

僕は肉屋の店主を観察するあまり馬車に轢かれそうになる。

馬は、普通の馬より首が短く、牛のように寸胴だ。


どうやら人を運ぶタクシーか何かのようだ。

馬車の後ろに人が乗っていて、身なりが村の人とは微妙に違う。

きっと、ツェトリ村の近くに別の村か町があるのかもしれない。


新しい場所・・ちょっと行ってみるか?


僕はスマホを取り出して現在地を調べる事にした。


まずマップがあり、自分の居場所が表示される。



『ツェトリ村』には武器屋や防具屋はなく、雑貨屋や食料品の表示が広場にある。

酒場とギルドに鍵がかかっていて、もしかしたらイベントか何かが発生して使えるようになるのかもしれない。

メインイベントは『セイレーン島奪還作戦に備えよ』。

文字の下にタイムバーがあり、時間の経過と共に減っていくようだ。


地図はツェトリの村しか表示されず、どうやら自分で歩かないとマップが表示されないらしい。

自由度が高すぎて何をしたらいいのか本当に分からない。

もっとわかりやすい『おつかいイベント』があればいいのに。



僕はため息をつきながらスワイプを続ける。

次に僕のステータスが表示される。


神崎 陸 (カンザキ リク)


所持金 0オルガ


装備:なし


Lv:3

HP:3

MP:1

攻撃力:2

防御力・・・etc


魔法

エイラタルデ(※MPが足りません)


「・・すっごいザコだな」

僕が言うのもアレだけど、すごいザコだ。

エイラタルデは僕が神様を選んだ時に貰ったものだろう。

しかしMPが足りないらしい・・これじゃあ最高難易度を間違えて選んじゃった残念な人みたいじゃないか・・。


確か『キーが使用可能』とか書いてあった筈だ。

キーってなんだろう?

と言うか何処にあるんだろう?


アーニャに聞こうと思ったが・・


「はぁーあ、言葉が通じないんじゃあな・・」


僕はいよいよ言葉の壁にうんざりした。

いや、ホント。

まるで知らない外国にホームステイしてる気分だ。


まだアメリカとかだったら英語でなんとかわかるだろう。

しかし、ここの人達の言語は英語のそれじゃないし、なんとなく分かるけど分からない。


それにヒロインといっても思い切り獣だ。

ネコ耳とか、尻尾の生えた女の子とか生優しいものじゃない。

ジャガーとか大きなネコ化の動物に服とカツラを被せたようなのだ。

もしかしたら海外ゲームの影響で、ヒロインをわざと人間以外の生き物にしているのかもしれない。


「カンズァキ!リク!!」

「カンズァキ・・リック!!」

イベントを探しに村を歩いていると、遊んでいる5〜6人の子供達にでくわした。


「こんにちは!」

「コ・・コニチワ?」


「マヌ ムムド ナイケガスタ!!」

「マヌ ムムド スナイデ!」

「アヌ ムムドーー。ヴェールヴァ!!あーーーー」

「うぉおっ!」

ヴェルヴァという小さな男の子が僕に寄りかかってくる。

僕は扱いに困って、とりあえず倒れてこないように頭を支える。


この子らは人見知りしないのだろうか?




───────



「ダイケア 陸!!」

「ダイケーーア!」

「ふぅ。やっと解放された。」


僕は手を振り、子供達に一通りモミクチャにされたあと歩き出した。


羊のコロコロと転がるフンがある野原を越えると、小川を越え、小高い丘まで来ていた。

日本では見た事ないような人工物のない自然が何処までも広がっている。


草原が風で波打ち、遠くの山脈の解像度が僕の視力と変わらない。

小川の水を掬うと冷たくて、地面に落とすと細かい飛沫をだして地面に吸い込まれる。

このゲームにはデータを極力軽くするような『ボカし』がなく、物理エンジンがきちんと作業して不自然さがない。



あっ!あれがイベントかな?

見るとモブっぽい革製の鎧を着た男の子が槍で突き刺す練習をしていた。

その近くの大きな岩に、剣や棍棒や盾が意味深に置かれていた。

1人で使うには多すぎるし、きっと僕に選ばせるミニイベントなのだろう。

とりあえずレベルがザコなので、外にでてモンスターでも倒してみるか。



「オオ!カンザキ リク!!エ ア プルーテオ アーニャチカ? サーキ アルダ デンダ」

男の子は待ってましたとばかりに僕に話しかける。


「えっと・・。強く なりたい 武器が ほしい!!」


僕が力こぶを作り、剣を指さして男の子に言う。


「ウーム・・。サーキ アルダ デンダ。プリキ ドラグネト テアルイア ノーノノ」

「え・・えっと何を言ってるか分からない」


「サーキ アルダ デンダ!」

「すいません。強く言っても言葉が分かりません!」

「ハァーー」

男の子は頭を掻くと剣を僕にくれた。


「アヌ ムムド コルツ・カイル!」

「ありがとう!!コルツ君!うん!頑張るよ!」


コルツと握手をして、僕は歩き出した。


「プリキ! ドラグネト テアルイア ノーノノ!!」

「はーい!!」


僕はさっそく剣を拾うと鞘から抜いた。

すかさずスマホで見るとアイテムのステータスが出る。


村の剣

攻撃力:5

防御力:2


弱いけど無いよりはマシだろう。

きっと、こんな村のモンスターだしザコを何匹か倒して帰ってこよう。


僕は進んだ。



「・・・何だコリャ・・。」


オオオオオオオオォォォォォォ


しばらく歩くと、木彫りの巨大なドラゴンの像がある場所に行き着いた。

中を風が通り過ぎるように出来ているようで風鳴りがする。

「ドラグネトってこれかな・・ドラグネト ノーノノ」

『ドラゴンの像の先には行くな』

そう言いたかったのかもしれない・・。


ここは村の境なのだろう。

他にも棘がついた木の柵や、大きな堀が掘られている。



僕は像の前で立ちすくんだ。

本当に出て大丈夫なのだろうか?


「ま・・少し様子を見て戻ってこよう。」

僕は剣を抜くと像の足下に鞘をおき。

裸のまま持っていくことにした・・。




「はぁ・・はぁ・・」

チキチキチキチキ・・。

足下にいたバッタが跳ぶ。

ヒバリが飛び、本当にのどかだ。



どれほど歩いただろう。

気付いたら馬車のわだちが出来た道に当たった。


見ると道に白いビニール袋が落ちている。

「何だこれ?」


チキチキチキチキ・・。

ジッジッジッジッ・・。


虫達の音が大きくなる。

その白くて丸いものは、サンゴのように細かい穴が空き、カルシウムの何かであることが分かる。

僕はゴクリと唾を飲み込むと剣でそれを動かしてみる。


「ひっ!!」

・・それは顎のない頭蓋骨だった。

えっ!?これセットだよね!?

ヴーーー!ヴーーーー!!

「うわぁ!!なになに!?」

突然スマホが鳴り、飛び上がりそうになる!


『グリーンスライム出現』


「スライム出現!!どこ!?どこ!?」

僕は剣を両手に持つと攻撃に備えた!

ザコだと思うが、警戒しないと!


「いた!!」

「ぷきぷき!ぶるぶる!!」

僕の初めて対峙したスライムはわだちでひらけた道に居た!

バケツ程の大きさで、小さな窪みがパクパクして空気を吐いたり含んだりして音を出している!


少し可哀想な気がするけどレベルアップのためだ!


「うおおおお!!」

僕は剣を振りかぶる思い切りスライムに振り下ろした。

ガキン!!

「えええええっ!!」

剣が弾かれ、僕は呆気に取られた!


「硬ぇええ!!」

スライムは直後に固まると攻撃を防いだ!

えっ!?

そんな事ってある!?


「ぷりぷりぷぎーー!!」

その瞬間、痛みを伴った白い閃光が走る!


スライムは丸くなると思い切り僕の顔面に体当たりしたのだ!

「いたっ!!いっったい!!」

僕はゲームとは思えない痛みに驚いた。

いや、本当に痛い!!


本能的に剣を拾い上げ、スライムに向ける。

「えっ!?・・はぁ!?」

スライムに向けた瞬間、僕は目を擦った。


「ぷきぷきびきーー!!」

「ぷきぷきびきー!」


「増えてやがる!!」


スマホが鳴る。

スライムが『補助魔法 パワーグリップ』を唱えたらしい。


パワーグリップ

(攻撃力:+5 武器のグリップ力を増す事で攻撃力を上げる)


「攻撃力を・・あげる!?」

鈍器で殴られたような絶望が襲いかかった。


スライムが鳴くと相方のスライムが光った。

光ったスライムが鳴いて、相方が光る。

お互いを高め合っている・・!!

仲良しかよ・・!!


やばい、やばい・・!!


僕は踵を返して引き返そうとする。

・・がっ!!


「も・・もう2匹!!」

反対側にも、もう2匹いる!

囲まれている!!


「く、くそが!!」

僕は強化したスライムに剣を振り下ろす。

が!スライムが瞬時に2等分、4等分に別れて攻撃を交わす!

そして・・!

「う・・がはっ!!」

ボーリングを放り投げられた様な壮絶な痛みが腹部を襲った!!


剣が飛び、激痛で思わずしゃがみ込む!


「う・・がはっ!!・・あーーーーー!!!!!!」

一瞬呼吸が出来なくなり、恐怖のあまり思わず叫んだ。

これはやばい!!

た、助けて!!

助けて!!


救急車!

警察!!

自衛隊!!!!


こ、殺される!!


僕は四つん這いになり、隣に何か転がっている物を発見した!


「が・・骸骨・・!!」

転がっている頭蓋骨を見て、僕は冷水をかけられたように恐怖が体を支配するのを感じた。


『死』


僕の脳裏に死と言う漢字が浮かぶ。


死・・死ぬとどうなるんだ?

ゲームオーバー?

それとも現実世界に戻るのか?


スライムは地面に砂埃を出しながら回転する。

僕を確実に仕留める為に生意気にもホップアップを効かせているのだ!!

スライムだって生きているんだ!

そりゃ必死になるよな・・!!


「ぐはっっ!!」

右肩に激痛が走り、スライムが体当たりした事を知る。

「ごはっ!!」

次に左肩!!

「ぐぇっ!!!!」

背中!!


骨が動くのを感じる!!


「ぐぇっ!!」


意識が・・薄れていく・・。



───────



「おい。先生に言うなよ?」

「ヒロキ君・・もうこれ以上辞めたほうが・・」

「あ?俺に口答えするのか?」


僕は過去を思い出していた。


そうだ・・あれは学校の休み時間だ。


ヒロキって言うクラスのいじめっ子に『中あて』と称してイジメられていたんだ・・。


「・・でもこれバスケットボールだよ?」

「そうだよ?投げれないのかよ?皆んなで投げれば怖く無いだろ?やれよ?」

「う・・うん」


男子達が僕の周りに集まる。

持っているのはバスケットボールだ。


「ゴメン・・!!リク君!!!!」


───────


「ごっごぇ・・!!」

気付いたら腕や足が動かず、呼吸をする事に全身に痛みを伴った痛みの熱がジンジンと燃えたぎる。


「ごごふ・・」

スライムが包容するように僕の顔に覆い被さる。

ライオンがトムソンガゼルの首に噛み付くように・・。

窒息死させて後でゆっくり僕を溶かすのだろう・・。

不気味な冷たさが食道に流れ込む。

呼吸ができない・・体が動かない・・。


あぁ・・死ぬ。


死ぬ・・。


死・・。





「ウアーーーー!!リクーー!!!!」

呼吸が楽になり周りで騒がしく足音がする。

何かがぶつかり、スライムが引くのを感じた。

手足にまとわりつくスライムが抵抗しているのを感じる。

しかし水気を帯びたサラサラしたものに変わって自由になる・・。




「リクーーー!!リクーー!!」

「コルツ!!エ ア ハウディア ウッド!!ハウディア ウッド!!クイクリエ!!」

大きなゴワゴワした毛が顔にまとわりつく。

地面が移動する・・。

馬にうつ伏せで乗せられているんだ・・。






柔らかい・・ベットだ・・。

暗い・・夜か?

すごい髭のおじいさんが僕を抱き起すと凄く不味い飲み物を呑ませる。




「ううう・・。」

気付いたら、また暗闇で・・・薄灯に2つの耳があるのが見えた。

その影が手を合わせるとポッと光が灯る。

アーニャだ・・。



「♪フェニチア ヌオターナ キャシリングシア♪


ホーメ ア ディガード キンギディカ♪」


アーニャが子守唄の様な歌を歌う。

そしてポッと光る両手を僕に当てた。

「うっ・・!」

当てた所が温かくなり、だんだんと痛みが取れていく。


次に当てると、肋骨が移動するのを感じ、小さな痛みと一緒に『治って行く』ような確かな希望と活力を感じる。

アーニャが僕を治療してくれているんだ。

温かい・・。

あたたかい・・。


「ホホ アプリルアルリー♫ 


♪ホホ ア ナイティイア♫


ホーメ ア ディガード キンギディカ・クイクリィエ♪」


僕は草原を笑顔で走り回る女の子を想像していた。

暖かい陽の光に、僕は包まれる。

女の子が笑い、僕の手を取る・・。


「フェリチア トヒターナ キャシリングニー♪


ホホ ラバディ ナイティイア ファトマ ナイティイア♫」


・・気付いたら僕は泣いていた・・。


こんなに優しくして貰ったのは、お母さん以外で初めてだったからだ・・。






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