勇者召喚の儀
タントリノにおいて勇者召喚の儀が始まろうとしていた。
特に使命感もなく召喚されるリク。
召喚はあっけなく、ガンロは身を呈して成功させる。
アーニャは川の流れのように運命に身を任せ、見ている事しかできない・・。
タタ!トロト!!
タッタ!トロト!
ターン!ターン!タッタ!トロト!
タタ!トロト!
タッタ!トロト!
ターン!ターン!ターン!
タントリノのメインストリートを、マンティコアの毛皮を着た巫女達が踊り、ギアーテ王国の太鼓の汽笛隊が行進しながら闊歩した。
虹色の魔法が空を飾り、紙吹雪が舞い、巨漢の男が火を吹き、道化師がお辞儀をする。
戦場から帰ってきた兵士たちがワゴンから手を振る。
「さぁさぁ!!ギアーテ王国の騎士団の勇士をご覧あれ!!この男サルダーは、メルトリッスの島々を奪い、セイレーン島を奪還した!!武勇伝はツェッツ書店でお買い求めを!!」
アーニャとコルツとメメルは、加工したヌオの毛皮を売るのと勇者召喚の儀を見にタントリノに来ていた。
ワゴンの荷台に座りながらパレードを見る。
「すげー!アーニャ、あそこにいる巨大な剣を持った騎士はなんだ?」
「あれはオルオガーテの騎士だよ!」
オルオガーテの騎士が剣を交えながら歩く。
四角い兜にある丸い眼孔から赤い瞳がのぞき真紅のマントが翻る。
「不死の軍団であり国名にもなっているオルオガーテ。かつて渇きの王が攻めて来た時も彼らは前線で闘いつづけたとか・・。赤子は剣を持って産まれてきて、共に成長すると言うわ。」
メメルが解説する。
「あ!見て!
トグルドラゴンだよー!!」
オルオガーテの騎士が通り過ぎると、木の骨と紙で作られたトグルドラゴンが街を練り歩き、その周りを巨大な2つの瞳の特徴的な模様をした兜を被った女兵士が踊った。
「アーニャ、あれは?」
「イメルダ領ナニス王国の女部隊ね!」
「イメルダ領?」
「コルツ知らないの?」
メメルがパレードを見ながら言う。
「──私の嫌いなドラゴンを崇拝する人達よ。イメルダ領とアール領があるの。あの兜の模様はドラゴンに頭から食べられないようにする為のものらしいわ」
「ドラゴンは友好的じゃないのな」
「それはそうよ。アーニャと照り焼きチキンが共存出来ないのと同じ。どんなに友好的なチキンでも、次の日にはアーニャの胃袋の中よ。でも、ナニス王国の人達は
ドラゴンを恐れながら、吐きだす灼熱の火炎と巨大な翼で諸外国の脅威から守られているの。あの巨大で邪悪なトグルドラゴンを討伐せずに国境の壁に使ってるのね!」
「こっち、向いたよ!?」
「ひっ!」
アーニャはトグルドラゴンに手を振る。
何人で動かしているのだろう?
コウモリのような翼を動かし、首がグネグネと動く。
「ひっいい・・!!」
メメルは、よほど怖いようでドラゴンを見るや、アーニャの体に顔を隠した。
ボォオオ!
「うほほー!!すげー!」
「すごーい!!」
ドラゴンが火炎を吐くとあたりから歓声があがり、コルツも両手を上げながら笑った。
イメルダ領の女兵士が軟体を披露しながら華麗に舞い、次に来たのは背丈ほどの巨大な盾を持ったアール領ナニス王国の装甲兵だ。
盾に巨大な瞳がかかれていて、それをお互いに当てて打ち鳴らしながら舞う。
巨大な瞳の盾と重装備の鎧は、なんとなくアゲハチョウの幼虫を連想する。
「次はメルポ公国──」
「おい、アーニャ?勇者召喚の儀ってそろそろじゃないか?」
「え!?うわー!!もう始まってるよ!!」
「なんですってぇー!早く行かないと!!」
アーニャ達はワゴンを置いて教会へ向かう。
パレードを見に来た見物人をおしのけ、メメルに手を引かれ馬車が一台通れるくらいの小さな路地を走り抜ける。
「こっちの方が近いわ!」
「メメル、いつの間に近道を知ったの?」
「こっちは魔導書通りなの。魔法術を目指す人しか来ない筈!」
「さっすが、メメルだぜ!」
魔導書通りは閑散としていて走りやすく、数人の魔導師が特売の本を見るくらいだった。
どことなく薄暗く店内も不気味だ。
「なんかこう・・」
「何よ?私は落ち着いていて好きよ?この通り」
「そ、そうか・・」
その途端、大きな鐘の音が聞こえた。
大広間はすぐそこだ。
「鐘が鳴った!はやくはやく!」
「うわ!すげー人だな!」
教会のある中央広間に出ると黒山の人集りが出来ていた。
教会前の祭壇は大きな高台の櫓になっていて、そこに例の椅子と各地域の神官や巫女達や王族達がゴチャゴチャしている。
「あっ!私より背が低いアルバース大司教だわ!」
そこに長い髭を生やしたアルバース大司教が他の司祭にお辞儀をしながらやってきた。
そして別の司祭に肩車してもらうと、2メートルくらいの身長になり、王族達に着席を促す。
アーニャは口を半分開きながらガンロを探す。
「おい!アーニャ!ガンロ司祭がいるぞ?」
「えっ!?どこどこ?」
「あそこ!アーニャは視力は良くないのな?」
「ごめん。あんまり遠くはわからないの」
コルツの指した指を触ってアーニャはガンロの居ることを感じる。
メメルがピョンピョンと跳ね頑張って見ようとする。
アルバースは右手を空にクルクルまわして
(静かにするように)とゼスチャーすると、宝玉のついた首飾りに手を当てて、魔法の力で拡声して話し出した。
「皆の者!よく集まってくれた!パレードは見てくれたじゃろうか?」
「「見てなーい!!」」
「見てなーい!」
「見てたらここにいないし!」
観客から、ブーイングがとぶ。
しかしアルバースは冷静だ。
右手を上げてヤジに応える余裕さだ。
「そうじゃろ、そうじゃろ。しかしな皆の衆。この小さな港町の、こんな小さな広間に皆が集まって居たらどうなっていたと思う?
極悪人の公開処刑の比にならない程の各国の民衆が、勇者を見に大挙して押し寄せるのだ。見れたものじゃなかろう??」
「「おぉ。おぉ・・」」
「確かに」
「そのとおりだ」
「ここに居るのは『真に見たい者』じゃ。パレードを見ている者は、ここに居る者から聞けば良い。そしてここに居る者は真の勇者の降臨をその眼で見ることになるじゃろう。
60年前、エルダの戦いにおいて渇きの王が勇者達を召喚し、我々をタントリノまで攻めた・・。
タントリノは破壊され、我々は多数の犠牲の代償を払って『勇者』の一人を捕虜にした。
そして聞いたのだ。
この世界とは別の次元に勇者の国があり、神々を選んで転生され、自由に行き来ができる事を。
勇者は選んだ神々の加護を受け、その力を発揮できる事を。
我々はそれを聞き絶望した・・。
しかし暗闇で光を見たのだ。
我々は勇者の話を逆手にとり、勇者達らが最も恐れる事をしたのだ。
──(省略)
言わば彼らに団結力を問うたのだ。
そして我々の思惑通り、彼らには根本的な信仰による団結力が存在しなかった。
それが大きな隙だった。
どんな重装備の鎧でも、かならず鎧と鎧に隙間が出来る。
我々は団結と信仰で磨き上げた槍でそこを突いたのだ。
その槍の鋒は絶大の破壊力をもち、渇きの王の根本を破壊した。
疑心暗鬼に包まれた軍団は、勇者と共に瓦解し、渇きの王はエルダの大地のその先にある辺境の地へ撤退した。
──では、最初の話に戻るが。
なぜ勇者は転生する際に神々を選ぶのか??
ん?どう思う皆の衆。」
「*****」
民衆は口々に話し合った。
コルツはアーニャを見て、アーニャはメメルを見た。
「それを、これから召喚する勇者に問うて見ようと思うのじゃ。ガンロ司祭の告知によれば・・勇者の名前は『カンザキ・リク』。ツェトリ村を選び・・そして神は・・」
アーニャが息を呑む。
「マザー・アカナを選んだらしい!!」
「マザー・アカナ!!」
「おぉ。マザー・アカナ!!」
神官達が驚きの声をあげる。
アーニャの顔を強い風が駆け抜けた。
尻尾が左右に揺れ、考え事をする。
「お、おい。アーニャ?マザー・アカナを選ぶとどうなるんだ?」
「私にもわからないわ。アーニャ?わかる?」
メメルはアーニャの動く尻尾を見て口をつむぐ。
「・・・マザー・アカナ」
アーニャがつぶやく。
「その神を選ぶと言うことの意味を、アカナ教の一人である私はよく知ってる・・。
マザー・アカナは最高神であり、自然そのものであり気まぐれ。
マザー・アカナを信仰する子どもが魔物に襲われ、屍を晒そうとも。
自然の猛威で餓死しても、何者かに殺されても・・。
マザー・アカナは奇跡を起こさない無情の神。
しかし、そこから這い上がり笑顔を見せる者にマザー・アカナは微笑む。
勇者がマザー・アカナを選び、どの国にも属さないツェトリ村を選んで転生したと言うことは、苦しみを受け止め、耐えられる覚悟を人一倍持っていると言うこと・・。
カンザキ リクはマザー・アカナを選んだんだね。そう言ったね・・。」
コルツとメメルは顔を見合わす。
「・・そうみたいだけど」
「・・・・・。」
アーニャは唾を呑み、ボタンを胸のあたりまで外し、乱れた髪を直した。
(時間が進む・・リクが異世界からやってくる。)
アーニャは迫り来る現実を、まるで蛇に睨まれた蛙のように硬直したまま見守っていた。
「メメル、コルツ。いよいよだね・・。」
「おう?どうしたアーニャ?」
「・・?苦しいの?」
「私・・勇者が召喚されても、どこか他人事に思っていたのかもしれない。でも、勇者がマザー・アカナを選び、ツェトリを選択したなら・・きっと私の死期も近い。
ガンロ様は自分の石化を省みず召喚に参加した。アカナ教のために・・」
「アーニャ・・」
「もしも私が殉死して、司祭として祀られるようなことがあったら・・私を祝福してね」
神官達がソワソワし、アルバースに耳打ちする。
「さて準備ができたようじゃ。これより勇者召喚の儀を行う!!」
「おぉお・・!!!」
アルバースが櫓から身を乗り出し、火を灯すように宝玉のついた杖を地面にかざす。
すると民衆の下にある地面に溶鉱炉で溶け出た鉄のように光の線ができ、幾何学模様を作り出す。
地面から風が噴き出し、やがて広間が巨大な魔法陣ができ、櫓の中心を差している事に気づいた。
「一体何が起こってるの!?」
「ここからじゃ見えねー!」
民衆がよく見ようと櫓に近づき、たちまち椅子が見えなくなる・・。
「はぁ・・はぁ・・」
アーニャは落ち着きなく、椅子の方向を見る。
「アーニャ見える?アーニャ!!わわ!」
アーニャは自分の眼で運命を見ようと必死だ、いつしか観たいという願望は行動に変わり、メメルを踏み台にしてよじ登ろうとする。
「アーニャ!!ち、ちょっと!!ぶっ!」
「何やってんだよアーニャ!」
メメルの頭を踏み台にしてコルツによじ登る。
────勇者召喚の儀の瞬間は極めて呆気なかった。
変わった服の男の子が神官達に抱き抱えられる。
祝福の声すらアーニャには聞こえない・・。
次の日の昼下がり。
アカナの安息日2日目。
アーニャは子羊のガスパーを連れて村からさほど離れていない草原に来ていた。
「ゴメンねメメル。私、どうかしてた・・」
「もう!私を踏み台にするなんて本当にどうかしているわ!」
「ゴメン・・。」
アーニャがガスパーを撫でる・・。
「それで・・『勇者サマ』はどうしたの?」
「あれからずっと来客用の部屋で寝ているわ」
「バッカス司祭が酔い潰れた時に使う部屋?」
「そう。起きる気配が無いから散歩に出ちゃった」
「ふふふ。アーニャらしい」
「今日は安息日だからね」
草が風でそよぎ、アーニャとメメルが打ち捨てられたギグ(※馬車の先端の座る部分)に座って伸びをする。
メメルがミニスカートのポケットから麻の袋を取り出しアーニャに渡した。
「ん?なに?この匂いは・・」
「クラッカーだよ。さっきフィリア商店のフィリアさんが売っていたの」
「フィリアさん、来てるの?」
「うん。コルツがヌオの皮をフィリアさんに売っていたわ」
アーニャが麻の袋からクラッカーを取り出して食べる。
「アーニャ。前にも言ったかもしれないけど、自分が死ぬとか、そんな悲しい事は言わないで。私やコルツがついてるわ。きっと大丈夫だから!」
「うん。ありがとう」
メメルはアーニャの肩を優しく触ると村の方へ歩きだした。
メェエ。
ガスパーが鳴き、アーニャは座席に深く座って空を眺めていた。
優しい暖かい風がふき、クラッカーを食べながら空を眺める。
アーニャの右耳がピクンと反応し、頼りない誰の音にも似つかない足音が此方へ近づいてくるのが分かった。
「※あなたが・・アーニャ?※」
例の勇者だ・・。
勇者は『勇者』とは思えないほど動きがぎこちなく、まるで産まれたての子羊のように細い異国語を喋った。
「♪大地を打って、耕し♪
♪大地を打って、耕した♪
♪祖父や祖母。大地を打って、耕した♪
♪光りある大地の光アルマ。アカナの偉光よ。
♪私は大地を打って耕します
♪私はアカナの寵愛を受けて肥します♪
」
リクは言葉が出ないまま立ちすくみ、やがてヘナヘナと腰を抜かしてしまった。
アーニャは深く息を吸ってクラッカーを頬張る。
サクッ。サクサクッ。
「おいでガスパー。フフフフフ」
アーニャが舌舐めずりをし、羊を撫でながら言う・・。
羊はメェエと愛おしそうに鳴いた。
間違いなく告知の夢と同じ男の子だ。
頼りなくて、弱そうで、ヘナヘナしている。
まるで、そう。
ガスパーみたい。
でも、私は一人じゃない。
私にはコルツやメメル。
ガンロ様や神官の皆や、マザー・アカナが付いていらっしゃる。
これはマザー・アカナからの司祭になる挑戦状だ。
私はマザー・アカナを感じる。
私はリクに手を差し伸べた。
「アーニャ!アーニャ・クローラウス!あなたの名前はリク?」
私はリクの手を持つと思い切り引き揚げた。
驚くほど軽い!
びっくりするくらい腕の筋肉がない・・。
「※神崎 陸です※」
「カンズアキ・・リク?」
「※かんざき、りく※」
「カンザキ、リク!カンザキリク!!この子はガスパー!この子はね!」
「※ガ、ガスパー?※」
「うんうん!ガスパー!!」
話が通じたみたい!
私はリクに分かるようにガスパーを持ち上げて見せた。
リクは難しそうな顔をしながらガスパーを見る。
「ガスパー!フフフフフ!!あはッ!フフフフフ!」
なんだかリクが可笑しくて笑った。
「アーニャ!!」
「うわぁっ!メメル!」
リクの影から甲高いメメルの声がしてガスパーを落としてしまう!
「アーニャ!彼がリクなの?
神官の話だと、異世界の客人にご馳走する決まりでしょ!?」
メメルが嫌に尖った言い方をする・・。
きっと彼女なりに初対面の人に対し、強い自分を見せたいのだ。
「そうだけど・・ご馳走を作ってないし。」
「作ってない!!ガンロ司祭が聞いたら怒るわ!ふん!」
メメルがリクを睨みながら覗き込む。
そのまま下からアッパーを繰り出すんじゃないかと思うくらいマジマジと見ている・・。
「メメル・パルクリアよ!あなたの名前は───」
メメルが聞こうとし、すぐに私が言う。
「カンザキ・リク!」
「カンザキリク!・・私より身長が高い!もっと低かったら良かったのに!あーあ!残念!」
メメルがブーツで背伸びしながら背の高さの強調する。
私はメメルが本気で言っているのかと思ったのだけど、すぐに違うと気付いた。
リクにいろいろな言葉を投げかけて試しているのだ。
どんな思考回路を持ち、どんな人間なのかを・・。
「メメル、『試し』が終わったらランチにしよう?」
「う!!」
私はメメルの背中をポンとおすと、先に家に帰ってランチの準備をすることにした。
「アーニャには全部お見通しなのね。本当に驚かされるわ!」
メメルはため息をついた。




