告知の夢
エピローグ
「リク・・・リク・・。」
獣猫人のアーニャ・クローラウスは薄れゆく意識の中で『異世界の放浪者』カンザキ・リクを呼んだ。
数回の爆発と砦の砦の城壁が破壊される音。
大砲の轟きと巨人族の咆哮。
火炎が夜空に立ち昇り、バルサの砦を赤く染める。
剣の擦れる音と無数の足音。
おそらくアーニャたちの所に敵兵が攻めてくるのも時間の問題だろう。
別の砦に居た人も今頃殺されているかもしれない。
「アーニャ!!僕は・・僕はどうしたらいいの!?」
リクはアーニャの手を取って叫んだ。
リクの鎧はボロボロで、剣は折れ。
使える魔法も無ければ魔道具もない。
「潮時だリク・・。船を降りる時がきた・・。」
「えっ・・!?」
リクは信じられなさそうにアーニャを見た。
「リク・・私たちは終わり。牙も折れ・・魔法もない・・。潮時だよ・・。」
「そ・・そんな!!!アーニャ!!そんなこと言うなんてアーニャらしくないじゃないか!!!」
リクの汚れた顔に涙の道ができた。
アーニャはリクから貰った首輪を撫でる。
「ゴメンねリク・・。私が、もっとしっかりしていれば・・。私がもっと鍛えていれば・・。私がもっと・・」
「アーニャ!!!!アーニャが諦めたら僕はどうすればいいんだよ!!起きてよアーニャ!!」
リクは咄嗟に自分のポーチから治療道具をぶちまけると回復スキルを使おうとする。
「リク。あなたの為のアイテムだよ・・。私に・・使わないで・・」
「アーニャ!そんな事言ってられないだろ!死んじゃダメだ!」
矢を受けたアーニャの胸から止めどなく血が流れる。
ヤットコと言うペンチで掴み、バールで固定してテコの原理で矢を引っ張り出す。
「いくよ!アーニャ!頑張って!」
「ぐっ!!!・・っう!!」
矢はアーニャのチェストアーマーを貫通していたが、体重をかけて引くとアーマーを支点に抜くことができた。
急所を逸れていたのもあるが、ネコ科の強靭な筋力と大地の神アルマの加護が矢を止めたのだろう。
リクは泣きながら傷口から出る血液を吸い出す。
そして、よく練った止血草と殺菌作用のあるケルンの葉を取り出してアーニャの患部に貼った。
破壊された瓦礫で出来た切創はカミツキアリの顎を使って縫合をし。
打身はハッカとモアンの葉で当てがい、膝に巻いてる脚絆を解いてキツく巻いた。
全てアーニャが教えた回復スキルだ。
リクは絶望的な状況の中、アーニャから教わったありとあらゆるスキルをアーニャに施す。
アーニャは虚無な目でリクを見る。
リクの顔は蒼白で、血を啜った口は屍人のようだった。
アーニャの大きくて黄色い目に光は無く。
女神マザー・アカナに対する祈りすら口に出来ぬ程だった。
「ここに誰かいるぞ!!!」
「皆殺しにしてやれ!!」
閂をした扉が叩かれ、破壊を試みているのが分かる。
いくら回復スキルを使っても武器がなければ死ぬ事は間違いないだろう。
「もうダメだ・・」
リクもいよいよ万策尽きてアーニャの隣に倒れこんだ。
天上にかかる鉄製のシャンデリアが涙で滲む。
「僕も異世界でハーレムしたかった!!チートが欲しかった!!最強スキルが欲しかった!!伝説の剣が欲しかった!!でも僕には何もない!!何もないんだよアーニャ!!スキルと言えば、アーニャが教えてくれた事しかできない!!!僕はクズだ!!アーニャが居なければ何も出来ないクズだ!!みんなが死んでしまった!僕のせいでみんな!!」
リクはワンワン泣き出し、アーニャはリクの手をそっと握った。
「リク・・。私の教えたスキル、ちゃんと覚えれたのだから満点だよ・・。」
「っぐ!!ひっぐ!」
リクは泣き、アーニャがそっと抱きしめる。
そして扉が爆発音と共に開け放たれた。