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第八話 花嫁を巡る争奪戦

~花嫁を巡って・摩示羅(ましら)の思惑~


――竜の泉がある洞穴(ほらあな)の入り口付近。岩陰に身をひそめる子音(ねね)竜妃(りゅうき)瑪那(まな)、そしてマシラ。洞穴の前の少し広い平らな場所では士狼(しろう)・タイガージェイと敵・鷹茜(ようせん)亥藍(がいらん)が対峙していた。Jたちが戦っている横で傀儡(くぐつ)たちを撃破した(うしお)古兎乃(ことの)はそこを離れて子音たちと合流しようと洞穴へ近づいた時、何者かの襲撃を受け足止めされていた。どこからともなく飛んでくる手裏剣から身を護るために脇にあった木陰に隠れる潮。一緒にいた古兎乃も咄嗟に別の茂みに隠れた。


「古兎乃、無事かい?」


潮が古兎乃の安否を確認すると、小鳥のような鳴き声が少し離れた所から聞こえてきた。これは古兎乃の無事だという合図だ。


(古兎乃、敵に位置を気取られないようにしてるんだね――さて、どうする?)


潮が逡巡しているとさっきと違う音色の鳴き声が聞こえた。


(仕掛けるかい、わかった)


潮は緊張で乾いた唇をぺろりと舐め、首元に巻いている襟巻で口元を覆った。次の瞬間何か火薬が破裂するような音が響き、周囲に煙が広がる。同時に低い姿勢で移動を始めた。すると自分以外にも誰かが動く物音と気配がした。潮は身を屈め周囲の様子を伺う。


「潮、うしろ!」


古兎乃の声に反応して潮は咄嗟に横に転がる。潮がいた位置に襲撃者が刀を突き立てた。「チッ」と舌打ちが聞こえる。風が吹き煙が流れ視界が開けると襲撃者の姿がはっきりと見えた。黒づくめの忍び服の女――鷹茜の部下・葛恵(かつえ)だった。潮は立ち上がり自らの武器――薙刀を構えた。


「なんだおまえ……子音を狙ってる奴らの仲間か?」


「さあな。お前らは必要ない、ここで始末する」


「は! やってみな」


潮が不敵に笑う。葛恵は咄嗟に気配を感じ、宙がえりをする。葛恵が立っていたところに石を括りつけた短い縄が飛んできていた。葛恵は縄が飛んできた方向に目をやると古兎乃がいた。着地点を狙って潮が薙刀を振るおうと踏み込む。葛恵は咄嗟に手裏剣を投げつける。潮は足を止め薙刀で手裏剣をはじく。葛恵は着地して体勢を立て直した。


「雑魚が……鬱陶しい」


そういうと葛恵は潮を睨む。潮は古兎乃との連携した不意打ちを(かわ)され、苦笑いをしながら冷や汗をかいていた。


「雑魚かどうかやってみなよ!」


潮の挑発に葛恵は顔色一つ変えず、手に持つ小刀(こがたな)を逆手で後ろ手に構えると一気に間合いを詰め襲い掛かってきた。素早い踏み込みで潮の懐に潜り込み回し蹴りと小刀の連撃を放つ。潮は蹴りをかろうじて躱すが小刀は避けきれず薙刀の柄で受ける。


「く……こんのぉ!」


潮は薙刀の柄頭を横向きに振って殴る。葛恵はそれをしゃがんで躱すと同時に足払いを放つ。潮は躱しきれず転倒し、倒れた潮に葛恵は小刀を突き立てようと振りかぶった――不意に風切り音を聞いた葛恵は身を躱すと石つぶてが飛んできた。古兎乃がY字の棒にゴムを張った投射機――パチンコで石を放ったのだ。


「うそ、かわされた!?」


古兎乃は隙を狙って当てるつもりで放ったが見事に躱されてしまったことに驚いた。葛恵はこの二人が思っていたより面倒な相手だと思い焦れていた。


「きゃあ!?」


その時甲高い悲鳴が響いた。戦っていた者たちは悲鳴が聞こえた方向へ意識を向けた。洞穴の入り口で子音がマシラに抱き寄せられて単筒(たんづつ)を頭に突きつけられていた。道に迷った旅人・マシラとして見せていたおどおどした態度とうって変わり冷たい笑みを浮かべた男は、振りほどけない力で子音を締め付けている。子音は恐怖で強張り声が出ない。


「困りましたね、静かに連れて行こうと思ってたんですが悲鳴を上げられてしまいました」


「な、なんだ!? なにやってんだ!」


潮は突然のマシラの行為に大声を上げた。その声を聞いてか聞かずか士狼は苦虫を噛み潰した表情をしていた。


「クソ、テメェ……やっぱりか」


「ワット士狼?」


士狼の言葉にタイガーJは問いかける。


「ハナから信用するかよ、こんな奴。俺か子音かどっちかが狙いだとは思ってたがな……」


「やれやれ、無様ですなぁ? お三方とも」


「なんだと摩示羅てめぇ!」


摩示羅の言葉に亥藍が憤怒の表情で怒声を上げた。摩示羅はその声に全く臆することなく鼻で笑う。


「剣のみで世渡りが出来る時代じゃないですなぁ……ククク。感謝しますよ。その士狼とかいう男が私を疑っていたので、この娘になかなか近づけなかったですが、お陰でほらこの通り……」


摩示羅は単筒を子音のこめかみに押し当てる。子音は苦痛に顔を歪める。


「子音! てめぇ……」


「――フン、今回はお前の手柄だ。こやつらは俺たちに任せて、娘を巳影様の所へ……」


鷹茜は表情を変えず冷静に摩示羅に指示した。しかしそれに対して摩示羅は肩を震わせて笑いだした。


「クククク……ハハハハハ!」


その様子に亥藍は殊更に表情が怒りで紅潮する。


「テメェ、何笑ってやがる?! とっとと――」


「竜妃、でしたか? この娘が居ないと困るですよねぇ? では、竜の宝珠とやらの所に案内してもらいましょうか?」


摩示羅は亥藍の言葉を遮るように竜妃に話しかけた。


「テメェ何言ってやがんだ? どういうことだ!」


亥藍は怒り、そこに割って入ろうとする。その様子に「やれやれ」と呆れた表情の摩示羅。


「察しが悪いですな。まあ、あなたは剣しか能の無いバカですからねぇ……」


その言葉に亥藍は怒髪天を衝くように唸り声を上げた。


「な?! 摩示羅ぁ!!」


「――貴様、最初から?」


鷹茜はあくまで冷静に問う。


「いやいや。最初はただ、あなたたちを出し抜いて巳影に対して点数を稼ぐつもりだったんですが――竜の宝珠なんてお宝があるって聞いてはねぇ? じゃあ、そいつを戴こうということに決めたんですよ」


摩示羅はニヤニヤと笑い芝居がかった物言いで答えた。


「竜の宝珠はただの人間には使うことは出来ませんよ」


竜妃が摩示羅の言葉に横合いから言葉を挟む。


「だが、欲しがる連中はいくらでも居ますよ。物好きな金持ちや大名とかね……いっそ巳影に売りつけますか? ハハハハハハ!!」


竜妃の言葉を意に介さず高笑いする摩示羅。


「野郎……ブッ殺してやる!!」


摩示羅の人を舐め切った態度に亥藍は怒鳴り、斬りかかろうとする。


「待て! あの娘に死なれては巳影様に申し訳が立たん」


鷹茜の制止に色気ばんだ表情で立ち止まる亥藍。摩示羅はそのやりとりを薄ら笑いを浮かべながら見ていた。


「そういうわけです、大人しくしてもらいましょう。ま、用が済めば小娘は好きにするといい。さて、竜妃さんでしたか。案内してもらいましょうか?」


摩示羅は顎で「くい」と洞穴の中を指す。


「……わかりました、ついてきなさい」


竜妃は洞穴の中へ歩き始める。


「り、竜妃様?!」


瑪那は竜妃の行動に驚くが竜妃は瑪那に制止する素振りを見せ、無言の頷きで答えた。


「わ、分かりました」


瑪那は竜妃を見送る。竜妃は摩示羅と子音を伴って洞穴に入って行った。


「おい士狼、ここはアタシらに任せて子音を追いな!」


潮は士狼に向かって叫んだ。士狼はその言葉にハッとする。


「そいつはそうしたいが――おめえら何で命張ってんだ?」


そう、潮たちは士狼の命を狙う賞金稼ぎである。自分の狙う賞金首の命のために体を張る謂れはない――士狼はそれを問うた。


「あんたやっとみつけた金・十万なんだよ? こいつらに取られたくないさ。それに子音がこの森を出る手がかりだからね、(さら)わせないよ」


「なーんて、潮って割と情に(ほだ)され易いから士狼と子音の事、嫌いじゃ無くなってきてるよね?」


「うっさいね、古兎乃のくせに生意気よ――ま、無茶する気はさらさら無いさ」


潮と古兎乃のやりとりに顔が綻ぶ士狼。


「へっ……タイガーJ、まだ俺との勝負はついてねぇんだ、死ぬんじゃねぇぞ?」


「アタリマエダのセサミハイチ!」


タイガーJは無駄に爽やかな笑顔で握りこぶしに親指を立てる仕草をした。士狼は洞穴の入り口にいる瑪那のもとに走る。


「おい瑪那とか言ったな、案内しろ」


「は? 何言うのよ!」


士狼の突然の言葉に泡を喰う瑪那。


「竜妃を助けたいんだろうが、行くぜ!」


「ちょ……痛いってば、分かったわよ!」


士狼は強引に瑪那の手を引っ張り洞穴の中へ入って行った。残された者たちは仕切り直すようにそれぞれ三対三に位置取る。葛恵は鷹茜のもとへ近寄り深刻な表情で頭を下げた。


「鷹茜様、申し訳ございません……あのような雑魚に後れを取り摩示羅があのような手に出るのを許してしまいました」


「いや、これは俺の責だ。お前は気に病むことではない」


「――は」


「兄者、とりあえずあいつらブチ殺して摩示羅のクソヤロウを追おうぜ」


「うむ、そうだな――」


それぞれに武器を構える鷹茜、亥藍、葛恵。それに対峙して潮、古兎乃、タイガーJも武器を構えている。


「コイツはなかなか危険がデンジャーね!」


「相変わらずよくわかんないけどまあ、多分そんな感じよね」


Jのよくわからない言葉に苦笑いする古兎乃。


「古兎乃、こういう時どうするか分かってるね?」


「まあもう手持ちが最後だから一発勝負だよ?」


古兎乃は道具袋を確認しながら答える。


「J、アンタも分かってるね?」


「OK、フォーメイションTネ!」


タイガーJは笑顔で片目をつむりながら手のひらを縦横に組み合わせて「T」の文字を表す。それを見て少し心配している古兎乃。


「ホントに分かってるのかな……」


亥藍が段平を抜いたまま殺気を放ち中央に歩み出る。


「降参の相談か? 俺は気が立ってるからな、容赦しねえぞ」


鷹茜も葛恵も間合いを詰め始める。


「さてと、いくよ!」


潮の言葉で古兎乃が道具袋から手のひら大の球を取り出し地面に投げつけた。するともくもくと煙が上がり周囲に広がる。


「クソが、させるかよ!」


亥藍は突進し煙の中を突っ切った。が、潮たちの姿は無かった。


「どいつもこいつもぉぉぉ!!」


亥藍は怒りのやり場が無いまま吠えた。


「亥藍黙らんか!」


鷹茜は亥藍を一括した。突然怒鳴られたので亥藍は肩を竦めて固まった。葛恵は耳に掌をあてて聞き耳を立てている。


「鷹茜様、洞穴です」


「五月蠅いと音が聞こえんだろうが馬鹿者。よし、我らも行くぞ」


鷹茜は刀を鞘に仕舞い、洞穴へ歩き出す。亥藍と葛恵もそれに続いた。




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