第一章 3 『お砂糖に招かれました』
光に包まれたのを覚えている。
その光は暖かい『幸福』の色をしていた。
「ここは………。」
手を握られていた。留生の手だ。
「無事で、良かった。」
彼女の髪に目がいく。
――赤がかった茶色ではなく、赤色になっていた。
だが彼女が夢野 留生であるのに間違いはないのだ。
ふと、自分の髪を見た。
――黒色は、黒色のままだった。
どこか期待していた自分が恥ずかしい。
辺りを見回すと見たことのない世界が広がっていた。
『異世界召喚』その言葉が脳裏に過ぎる。
見たことのない食べ物が売られているお店。立派な剣や盾が売られている武器屋。本やアニメでしか見たことがない魔法道具らしき物が売られているお店もある。
「咲幸…?咲幸!咲幸ー!」
こちらの世界に目を輝かせていた為中々気付かず、留生に体を揺さぶられてようやく気が付いた。
「留生ちゃん!おはよう。あのね、ここ、上手く言えないけどなんかとってもすごいよ!私、なんだかわくわくしてきて――」
「ここ、天界の都市部。」
「え?」
「知ってるんだ?――夢野 留生。」
緑色の髪をした少女、プクが姿を現す。
手には大きな茶色い紙袋を抱えていた。
身長差によって袋の中が食べ物であることが分かる。
「ええ、まあね。あなたには天使の輪が見える。人間じゃなくて天使なのね。――私たちを連れて、どうする気。」
「プク的には咲幸だけ連れて来たつもりだから『私たち』は合ってないかな〜。」
留生は立ち上がり、乱暴にプクの襟を掴む。
「早く答えなさい!じゃないと――」
「じゃないと?」
留生は舌打ちをし、プクの襟を離す。
置いていかれているような気持ちになって寂しいが、今はそんなことを思っている暇はない。
「あ、あの…二人ともやめた方が…。なんか凄い見られてるし…。」
「なに〜?喧嘩〜?」
「一人は見たことあるが、もう二人は始めてみる顔だな。」
「黒髪なんて珍しい。」
栄えた街の真ん中で言い争えば人の目に留まる。
それは異世界でも同じことだった。
だが通行人はプクと同じように髪の色に鮮やかだった。そもそも二本足ですらなかったり、頭から角や動物の耳が生えていたりした。
――頭から動物の…耳?
夢の中で頭からうさ耳を生やしていた少女をふと、思い出した。彼女にもここで会えるような気がした。
「気を取り直して!お腹空いたでしょ?お家に案内してあげるから着いて!」
乱れた襟を正した後、手を上下に動かし招くように『ついてきて』とアピールする。
留生はため息をつき、プクに渋々ついていく。
――ここは本当に『異世界』なのか。
――何故留生がここ『異世界』を知っていたのか。
――プクは何者なのか。
――今まで平凡な日常を送っていたはずの私は何故『異世界召喚』されてしまったのか。
聞きたいことは山ほどあるが、今はとりあえず歩みを進めることにした。