第一章 1 『甘い夢』
4がつ2か。
――何か、とても、大事なことを忘れている気がする。
ふと、そんなことを思った。
明日の入学式の宿題だろうか?
早めに片付けていた宿題は折り目一つ無く丁寧にカバンの中にしまわれていた。
カバンにストラップが付いていないのが如何にも新入生という感じがしていた。
頑張って思い出そうとするが、全く出てこないので読書をすることにした。
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「ねえ、聞いてるの?今大事なこと言ってたんだよ!お煎餅を食べた後はお茶を飲むんじゃなくて、すぐに甘い物を食べるのがいーの!」
女の子らしくキーの高い可愛い声が聞こえる。年は小学生ぐらいだろうか?
二つに結ばれた緑色の髪。整った八重歯。エルフのような耳。大きな赤い瞳。
――人間なのか疑ってしまう。
「聞いてます聞いてます。はぁ。一回口の中をリセットしないから、そうやってプクみたいに馬鹿舌になるんです。あれ、そのお菓子は…。」
「え、えっと…。あはは…。って、痛い痛い!くれあ〜っ!ごめんなさいー!!ほっぺ引っ張んないでよ〜!!」
もう一人の少女は年上なのか落ち着いた優しい声をしていた。
頭からうさ耳と呼ばれる真っ白い耳のようなものが生えているのが目立つ。
ここは私が住んでいた世界と違うような気がしてきた。
「全く、油断も隙もありません。」
「…熱っ!!」
「そのお茶、入れたばかりじゃないですか!」
「だって、早くお菓子食べたかったんだもん〜。あ〜むっ。おいし〜!!」
如何にも幸せそうな顔をしている彼女をいつまでも見ていられる気がした。
そういえば、この子、どこかで―――?
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「夕飯出来てるわよ!いい加減起きなさい!!」
「ぎゃあ?!」
母親の声に驚き、女の子らしくない声を出してしまった。
私は寝ていたらしく、頬には本の上で寝ていた証拠がバッチリと残されていた。
「緑色の髪の女の子と…うさ耳の女の子…。」
「寝惚けたこと言ってないで早くご飯食べに来なさい。お父さん、もう待ちくたびれて先に食べてるわよ。」
「えっ?!今何時?!ちょ、ちょっと待ってお母さん!!」
あの女の子達は何だったのだろうか?
黒髪や茶髪に金髪…その様な色が私の住んでいる世界の髪の色だ。
でも、あの子達の髪色はどれにも属さない。
髪を染める年頃でもないし…ゲームのやり過ぎなのかな。
そういうことにしといて、私は夕飯を急いだ。
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夕飯を済ませ、机の椅子に腰掛けた。
――あの子達がやけに気になる。
いつもなら夢の内容なんかすぐに忘れてしまうのに、脳裏にこびり付いたままだ。
また眠りに着けばまたあの子達に会えるような気がしたが、明日は入学式なのだ。
早めに寝て寝坊…なんてことは避けたい。
入学式―――。
そうだ、自己紹介の練習をしておかなければ。
「1年1組。2番。愛沢 咲幸です。よろしくお願いします!…これでいいかな。」
人と話すのは苦手で自分でもこの性格を直したいと思っている。
小学校の頃、出席番号は全部1番だったので毎回代わって欲しいと思っていた。だか、今回は2番なのだ。
ちょっぴり、だいぶ、嬉しいと思ってしまった。