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▼踊る緋色(ラック視点)

 目深に被ったフードの隙間から、朧気に踊る光がちらつく。

 舗装されていない暗く細い道をしばらく進んだその先。

 出た場所は、妖艶な雰囲気漂う寂れた歓楽街。

 その外れへと向かい、足早に通りを進んでいく。

 薬を進める男達を数人交わし。言い寄って来る女達を大勢交わしてようやく辿り着いた。道端にたむろする怪しげな連中に金を握らせ聞き出したその場所。


 街外れの一角。軒下に立つ一人の男。

 濃いヒゲを蓄え、肥えた身体を抱えたその男は一見どこにでもいそうな顔立ちで。けれど、纏う衣服や身に付けた装飾品の類いは、この寂れた雰囲気とは似つかないかなりの上等な代物。どうやらここで間違いないようだ。


「アンタが“仲介屋”か?」


 普段よりも声を低くしその男に話し掛けた。


「“商品”を買いたい」


 否定も肯定もしない男に対しそう続ける。

 しかし、男はまるでしらを切るかのように顔を背け、一向に目を合わせようとはしない。そんな男に見せ付けるように、取り出したそれを僅かばかしちらつかせる。報酬として支払われたその金をちらつかせれば、男は途端に目を色を変えた。


「どの様な“商品”をお探しで?」


 男はまるで掌を返すかのように満面の笑みをこちらへと向けた。

 下手に出た男に横柄な態度で答え、“よく知った誰かさん”の様を真似て演じる。


「俺は珍しい物が好きでね。特に異国の“物”にはとても興味がある。そして、強いて言えば若い方がいい。若くて従順。純朴で汚れのない“商品”が欲しい」

「へへへ……ちょうど、ご希望に添える“商品”が入荷しましてね。きっとご満足頂けますよ」


 言って男は下品な笑みを浮かべた。そして、後ろを振り返り背後の壁へと手を掛ける。男の立っていた場所の後ろは壁ではなく、壁と見間違うように細工された扉だった。


「ささ、どうぞこちらへ」


 笑みを湛えた男は手招きする。

 扉の先はぽっかりと口を開けた漆黒の闇。

 外界を隔てる怪しげな扉の中へとゆっくりと足を踏み入れた。



***



 潜り抜けた扉のその先。男に連れられ更に奥へと進んでいく。

 中は天井が低く、怪しく妖艶な明かりが灯され、そこに巣食う者達の影を更に色濃く落としている。何かの薬か、あるいは媚薬の一種だろうか。甘く花のような香りの香炉が焚かれていた。

 建物内は中心を貫く広い廊下を境に左右に扉が並んでいる構造になっていた。

 その扉の隙間からは僅かに光が漏れ、声が随所から聞こえて来る。

 大きく開けた扉の中では虚ろな目をした女達が妖艶に身体をくねらせ男を誘う。


 快楽の楽園。楽園という名の監獄。

 その成れの果てはすぐ足元に在る。

 視線を僅かに下へと降ろせば、生気を失った一糸纏わぬ女達が無残に床に転がっていた。

 広く長い廊下を抜け、更にもう一つの扉を潜る。

 すると、今度は薄暗く無機質な空間へと出た。

 どうやらこの扉の先は別の建物へと繋がっているようだった。


「いやー最近はどこも取り締まりが厳しくてね」


 外では視線を合わせようともせず、黙していた男だったが、扉を潜った途端、調子良くベラベラと話を始める。


「ほんと商売をするのも一苦労で。全く商売上がったりって奴ですよ」


 上機嫌で饒舌に話す男。

 そんな話など聞きたくもない。


「どこから仕入れを?」

「それはちょっと……企業秘密というやつでして」


 饒舌に話す男にそう問い掛ける。

 しかし、調子よく話していた男もそれには硬く口を閉ざした。


 そんな男の態度を見て。

 こう切り返してやる。


「一つ聞きたいんだが」

「なんでしょうか?」

「売ってくれるその娘ってのはちょうど今日、周辺から攫って来た娘じゃなかったか?」

「え……」

「そうだな……例えば、“見た事のない奇妙な衣服を纏った純朴そうな茶髪の若い娘”。……だったりしてな」


 それを聞いた男の反応。


「どうしてそれを……」


 ――やはりそうか。


「そのコはどこにいる?」


 驚いた声聞くや、男の喉元に短刀を突き付けた。


「ひぃ……っ」


 男は小さく悲鳴を上げた。

 そんな事になど一切構わず、更にこう付け加えてやる。


「少しでもおかしな真似をしてみろ。その瞬間、喉を掻き切ってやる」

「ひぃい……っ」


 湧き上がる憎悪と殺意を必死に抑える。

 そうでもしなければ、いまにも目の前の男を引き裂いてしまいそうだった。


「……そのコの所に案内しろ」


 低く静かにそう告げて。

 ラックは仲介屋の足を蹴り飛ばした。



***



 男の背中に短刀を突きつけたまま、ハルが拘束されている場所へ向かい建物内を更に奥へと進んでいく。

 しばらく進んだその先は。

 急に天井が高くなり、開けた空間へと出る。

 その空間の丁度中間辺り。仲介屋の男は急にその足を止めた。


「……どうした?」

「………」


 背中を短刀で小突いてみても、仲介屋の男は黙ったままで答えない。


「お前は……っ一体どこから入り込んだ!?」


 無機質な空間に声が響いた。

 その方向へ視線を向ければ、褐色の肌をしたガタイの良い男がこちらに対し驚愕した顔を向けていた。その声を聞きつけて、更に複数の足音がこちらに向かって駆け付けて来る。

 駆け付けたのはどれもよく似た複数の男達。

 男達は身動きの出来ない仲介屋の姿を見るや否や、分厚い壁を築くようにしてその周囲を取り囲んだ。


「もう逃げられないぞ。私にこんな事をしてタダで済むと思うなよっ」


 多勢に無勢。こちらが劣勢と見るや、途端に強気に出た仲介屋の男。


「逃げる?」


 そんな仲介屋の言葉をラックは静かに繰り返した。

 その言動に心底笑いが込み上げて来る。


「……タダで済むか、だって?」


 乾いた笑い声が周辺に響く。

 嘲るように一頻り笑って。


 ラックは仲介屋の身体を蹴り飛ばした。

 そして、わざと見せ付けるように大きな身振りでその背中を斬り付ける。こんな肥えた男など、所詮盾にすらなりそうもない。

 ラックの行動に周囲を取り囲んだ男達は目を見開いた。

 それにさえ一切構う事なく、ラックはゆっくりと手にした短刀を構え直す。


「ゴミ同然の害虫共が。駆除しても駆除してもどこからともなく湧いて来る」


 2年前。アレン達と出逢ったあの時から。

 もう二度、この件には関わらないと心に決めた。

 だが、再びその姿を視界に捉え、否が応にもその実態を知ってしまった今。

 遠くに置いて来た筈の記憶と感情が留めていた扉を一気に蹴り破る。


 正義だと悪だとか。

 御膳立てされた理由など要らない。


 構えた短刀から鮮血が床へと滴り落ちた。

 鮮血に彩られた忌まわしき過去が殺意を伴い息を吹き返す。


「さあ――」


“2年前”の続きをやろう。


「害虫駆除といこうか」



いつも『異世界冒険譚-異世界行ったら呪われた海賊を守る事になった-』を読んで頂き、誠にありがとうございます!

メリークリスマスイヴ!皆さま良いクリスマスの夜を!


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