海賊稼業②
ベット半島。緑の生い茂る高い山の中腹辺りに聳えた石造りの堅牢な古城。荒廃し不気味な佇まいを見せるその外観から何かが出そうな雰囲気が漂っていた。
その城の中へと一行はぞろぞろと入ってく。
城内へと踏み入れた途端、一気に温度が下がった感じがした。中は荒れ果て、荒らされた形跡も至る所に見受けられる。
僅かに光差す荒れた城内で一行は手分けして例の杖、そして資金源になりそうな物を探した。しかし、いくら探せども残っているのはどれも財宝とは呼べない残骸ばかり。とてもお金には変わりそうもない。
「アレン」
そんな折、いつものようにフォクセルが短くアレンを呼んだ。
何か見つけたのかと駆け付けてみれば、フォクセルが見つけたのは城の奥にあるなんの変哲もない通路の壁。そこに埋め込まれた隠し扉のような物だった。
その扉には取手は無く、あるのは何かをはめ込むような穴が一つ。
恐らくはそれがこの扉を開く為の鍵穴的な物なのだろうと思われたが、当然そんな物など持ち合わせてはいない訳で。いくら力任せに押してもみてもその扉はびくともしない。
しかし、そんな事くらいでアレンが諦める訳がない。あの手この手を散々試し、なんとか無理矢理その扉をこじ開ける事に成功した。
重い石造りの扉を開いたその先は、城の地下へと続く暗く長い通路だった。
それを見つけたまではまあ良かった。
光の差さない扉の中へと松明を焚いて踏み入れる。
だが、いざ中へと踏み入れてみれば、その先は先程の城内とは打って変わり、中は巧妙に仕掛けられた罠罠罠、トラップだらけ。そんなトラップの類いに翻弄され乗組員達は方々に散り散りになってしまう。
それでもまだ、言ってしまえばマシな方だった。
何故ならばこの後、私は最悪の展開に見舞われる事になるのだから。
カシャ……と妙な音がした。
続いて、アレンの足元が不自然に凹んだ。
かと思った瞬間、暗い穴がぽっかりと口を開けてアレンの身体を引き摺り込む。
途端に悲鳴が轟き、アレンは必死に手を伸ばした。そして、伸ばされたその腕は。私の腕を掴んだ。その勢いと重力に引っ張られ、当然大の大人1人の体重を私が支え切れる訳もなく。
完全に巻き添えを喰らう形で私はアレンと共にその暗闇の中へと引き摺り込まれたのだった。
***
「いたたたた……」
あちこちにぶつけた全身が痛んだが、中でも取り分け激しく打ち付けた臀部を優しくさする。
私はアレンによって突然大口を開けた暗い穴へと引き摺り込まれ、真っ暗闇の中を滑り落ちた。そしてその後、急にどこかへと吐き出された。
そこはどうやら城の地下深く。掘られた坑道か何かのようで。城の中とは一変し、辺りは加工されていないゴツゴツとした岩肌が剥き出しになっている。
私は痛む身体を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がった。そして、すぐ目の前を見て思わず息を呑む。
どうやら私が落ちた先は運良くならされた道ようだったが、その先。その数メートル先は下の先の見えない切り立った崖になっていた。
恐る恐る下を覗き込んで私はたちまち後退る。こんな所から落ちでもしたらもう一巻の終わりである。
「ここは一体どこなんだろうか……?」
その疑問に答えてくれる人はいなかった。私は完全に一人逸れてしまったのだった。その後、私はしばらく一人地下を歩き回った。どうやら一緒に穴へと落ちた筈のアレンとは滑り落ちていく途中で逸れてしまったようで。現在私は一人こうして彷徨っている。
ここが一体どこなのか。
正確な位置は不明だが、恐らくはここが城の地下深くだと仮定した上で、とりあえずは地上があると思われる上を目指して、長く続く道を昇っていく。
たが、行けども行けども同じような道が延々と続いていくばかり。長く続く急な上り坂にさすがに息が切れ始める。
あとどれだけ登れば地上に辿り着けるのだろうか。そう思い、俯きがちになっていた視線を上げれば、その前方に煌めく金髪が目に入った。
「レイズさん!」
私はその人物の名前を呼ぶ。そこには先程逸れてしまった筈のレイズが一人、ぽつんと道の真ん中に立っていた。視線を伏せていたレイズだったが私に気付いたかのように顔を上げた。そしてこちらに向かって駆けて来る。私もまたレイズのもとへと駆け寄った。
「無事だったか」
「ええ、なんとか。レイズさんも無事で良かっ……」
良かったと言い掛けた私。
しかし、その言葉は最後まで言えずにレイズはぐいっと私の腕を引き寄せる。そして。ぎゅっと力強く私を抱き締めた。
「な、ななななっ……!!??」
あまりにも突然の展開に私は固まった。
「れ、れ、れ、レイズさん……っ!!??」
「全く、心配かけやがって」
思いも寄らないその行動に動揺する私。
レイズは更にその腕に力を込めていく。
(な、な、な、なになになに。なにこの展開っ!!??)
状況が全く察せず、口を開けたまま固まっていた私だったが、なんとかかんとか我に返り、動揺しながらもとにかくレイズを振り解こうと必死にもがいた。
「ちょっと何してんの!」
そんな私に救いの手が差し伸べられる。
何かが背後から身体を引き寄せ、私をレイズから引き剥がした。見れば、私を引き剥がしたのは眉を釣り上げラックだった。
「ラック!」
「大丈夫かい?」
驚いた私に対し、突然現れたラックはいつものように笑顔を向ける。
「な、なんとか……ラックも無事みたいで良かっ……」
「心配したんだよ?」
だが、その言葉はまたしても最後まで言えず。ラックは背後から優しく私の身体を包み込んだ。
「なっ……ラックっ!!??」
ラックのその行動にまたしても私は固まってしまう。
(なになになになに。なにこの展開。一体全体どうしたの!!??)
あまりにも積極的過ぎる2人の行動に頭は更に混乱していく。
「ら、ラック?ちょっ……一体どうしたの?」
動揺しながら問い掛けた私に対し、ラックはただ微笑むだけ。ラックの腕はゆっくりと身体を滑り、腰の辺りを怪しく撫でる。恥ずかしさのあまり私は顔から火が出そうだった。
世間ではこれをセクハラと呼ぶのではないのですかっ。
すると突然、硬直した私の腕を何かがいきなりぐいっと引いた。それにより私はラックの元から引き剥がされる。俯いていた顔を上げて見れば、腕を引いたのは全身黒ずくめのその人物。これまた突然現れたフォクセルだった。
「フォクセルさん!」
驚く私とは対照的にフォクセルは相変わらずの無表情。どうやらフォクセルは他2人とは違ってまともなようで。私は安堵の息を吐きかけた。……のは間違いだった。
フォクセルは無言のままそっと私の手を取ると、その手の甲に優しく口付けした。
「………っっ!!??」
「無事か?」
全身から火を噴きそうな程に赤面する私。そんな私に対し、彼の紫暗の瞳が真剣な色で問い掛けた。
あまりの急展開続きに、茹で蛸のようになった私は数秒間硬直した。それでもなんとか我に返り、フォクセルに取られたその手を振り解く。
(どどどどどどういう事っ!!??一体全体、何がどうしてどうなってるの!!??)
私は完全に動揺し、頭は完全に混乱していた。
逸れたと思いきや突然目の前に現れた3人。その3人はいつもとはまるで人が変わってしまったようだった。
(おかしい。絶対なんかおかしいよっ)
私は3人から後退りながら動揺しバクバクと破裂しそうな心臓を必死に宥める。
そんな折。背後から音がした。
振り返るとそこには、よく見慣れた茶色い長髪。そこにいたのはボロボロになり今にも泣き出しそうな顔をしたアレンだった。
「……ハル」
アレンの口が微かに動いて名前を呼ぶ。
「ハルーっっ!!!!」
途端にアレンは笑顔を咲かせ、両手を広げてこちらに向かって駆けて来た。そしてアレンは私を捕まえると頬ずりせんばかりの勢いで抱き着いた。
「良かった、ハル!無事だったのか!!」
「アレン船長!?」
「あの穴に落ちてからもう何がなんだか、訳が分からなくて……とにかく良かった、無事で良かったっ!!」
「ちょっ……アレン船長っ落ち着いてくださいっ」
物凄い勢いで擦り寄るアレンを私は必死に引き剥がそうともがく。
しかし、抵抗する私をよそにアレンは感極まったかように無事で良かった、本当に良かったと繰り返すばかり。もはや今現在が無事ではない。
そんなアレンの登場にいつもならばやんややんやとと喰って掛かる筈のレイズだったが、今ただただ冷ややかな視線を向けるだけ。やはり何かがおかしい。そう思ったその瞬間、レイズの姿がぐにゃりと歪んだ。かと思いきや、レイズの姿が見る間に金髪の美女へと変わる。
艶やかな長い髪。透き通るような白い肌。すらりとした長い手足に豊満な胸。
レイズは長髪の金髪美女へと姿を変えた。未だかつて会った事はないが、恐らく絶世の美女とはまさしくこんな女性の事を言うのだろう。
そんな美女の姿を見て、まるで飼い犬をあやすかのような勢いだったアレンの動きがはたと止まる。
「美しいお嬢さん!」
途端にアレンは私を放り出し、その金髪美女の手を取った。
「立ち直り早っ」
あまりの切り替えの早さに思わずツッコミを入れてしまう。
金髪美女の手を取るアレンを見たラックとフォクセル。彼らは無言のままアレンを見詰める。すると、またしても2人の姿がぐにゃりと歪んだ。そしてラックとフォクセルだった筈の人物は見る間に2人の美女へと姿を変えた。
「これは一体、どういうこと……!?」
立て続けに起こる不可解な現象に頭は更に混乱していく。
けれども、驚愕する私をよそに姿が変わるというとんでも現象を今まさに目の前で目撃したにもにも拘わらず、アレンはその美女達に完全に魅了されてしまった様子で。そんな事などすっかり頭から飛んでしまっている模様。
「アレン船長!しっかりしてください!」
私は堪らずその腕を引いて、美女達の元からアレンを強引に引き剥がした。
ゆっくりと後退る私とアレンに向かい3人の美女達は優しく微笑みかける。
その微笑みはどこか怪しく妖艶で、美しい顔とは対照的にその目は全く笑っていない。その瞳は獲物を狩るような鋭く暗い色を宿していた。
その怪しくも妖艷な様といい。
相手に合わせて姿を変える事といい。
まさか、これがアレンの言っていた古城に住み着く魔物なのでは。
私はアレンの腕を引いたままゆっくりとその場を後退る。
カシャ……
後退の最中、またしてもアレンの足元が不自然に凹んだ。
かと思いきや、上方から地響きが巻き上がり、凄まじい音を立てて何かがこちらに迫って来る。
暗がりの先に見えたその全貌に私は目を見張った。
地響きを轟かせ、迫って来ていたのは直径2メートルはあろうかという巨大な岩。ほぼ球体の巨大な岩がこちらに向かって転がり落ちて来ていたのだった。
「なっ……い、岩ぁあ!!!???」
私は目を見開いた。
上方から今まさに巨大な岩がこちらへ向かい転がり落ちて来る。
インディ◯ーンズも飛び上がりそうなこの展開。
これには私とアレンへと迫っていた美女達も背後を振り返ってびっくり仰天。
さすがにアレンも正気に返り、驚愕の表情でその岩を凝視する。
私とアレンは堪らずその場から駆け出した。
踵を返す際に見た。
驚愕の表情をした美女達から煙のようなものが噴き上がり、その姿が獣のようなものへと変わる。どうやらそれが彼女達の、魔物の正体のようだった。
とはいえ、今となってはそんな事、もはやどうだっていい。
私は必死に地面を蹴って、たった今昇って来たばかりの坂道を下って行く。
ゴロゴロと凄まじい音を立てて転がり落ちる岩はその勢いをどんどん増してどんどんと近くに迫って来る。
私は必死に腕を振り足を上げた。
岩は更にその勢い増しすぐ背後へと迫って来る。
もはや潰されるのは時間の問題。最悪の展開が頭を過る。
そんな最中、私の目はある物を捉えた。
それは切り立った岩肌に出来たほんの僅かな窪み。
もう一か八か。これしかない。
私は意を決し、聳える岩肌に抱き着かんばかりにその窪みに身体を滑り込ませた。
それに倣い、アレンもまたその僅かな窪みへと身体を薄くしてねじ込んだ。
私のすぐ背後、そしてアレンの鼻先を掠め、巨大な岩が凄まじい音を立てて通過していく。
「はっ……もう本当にダメかと思った……っ」
私は思い切り息を吐き出す。
思わず呼吸をするのを忘れてしまっていた。
「ふぅーっ危ないところだった」
そう言ってアレンもまたふうと安堵の息を吐いた。
しかし、災難はまだまだまだまだ降りかかる。
突然、アレンの寄り掛かった岩壁がグラリと動いた。
それはまるで隠し扉のようで、内側へと向かって開いた壁は大きな口を開け、暗闇の中へとアレンを飲み込む。当然アレンは飲み込まれまいとして、何かに掴まろうと手を伸ばし。そのまま咄嗟に私の腕を掴む。以下は前項の通りである。
私はまたしてもアレンと共に岩壁に開かれた隠し扉から暗闇の中へと落ちて行ったのだった。
無駄にいちゃいちゃさせてみました(笑)




