多神教の国 クワッズ共和国
「それでヴァンドールくん。我々は一体どこに向かえばいいのかな?」
隊を整列し終えたザガン中佐がアレンに向かって尋ねた。
それに勿体振るかのようにコホンと1つ咳払いをしてアレンはこれからするべき事を説明し始める。
「この地図には中心に紋章が刻まれている。古い紋章だ。最初はこれがこの地図が示している場所を表しているのだと思っていたが、恐らくはこれはそういった意味じゃない。この紋章は恐らく場所を示す鍵だ。だからこの紋章がある場所を探す」
「しかし、探すとは言っても一体どうやって?どこを探すというんだ?」
「ホープ・ブルーはもともとは人々から崇められ祀られていた、いわば神聖な物だ。
つまり探すべきは神聖なものを祀る場所。寺院かもしくは教会だ。それもかなり古い物だろうな。そして、地図に書かれている通りにそこへ証となるホープ・ブルーを持って行く」
分かったかな?とアレンはザガン中佐に問い返す。
アレンの説明に一応は納得したのかザガン中佐はしぶしぶ了承した。
「……あの、アレン船長。本当に大丈夫なんですか?」
ザガン中佐達には聞こえないように私はこっそりとアレンに尋ねてみる。
「勿論だ。何も心配する事はない」
私の不安をよそにアレンは心配ないと笑顔で言ったが。
絶対嘘だ。その笑顔が本当に胡散臭い。
こうしてザガン中佐はアレンの指示に従い引き連れた兵隊を四分割し、手分けして古い教会、または寺院。とにかく神様が祀られていそうな所を探す事となった。
アレンを先頭にして列を成して進む一行。
隊を分割したとはいえ、やはり他国の軍人が大通りを通るのは目立つということで、人目を避け、大通りを避けた道を進んでいく。
大通りを外れた道を進んでいるせいなのだろうか。
立ち並ぶ家の窓は閉ざされ、店はどこも閉まっている様だ。道は閑散としていてほとんど人の姿を見かけない。
静けさに包まれた細い通りを海賊と海軍、人質というなんとも奇妙な一行が列をなして進んでいく。
しばらく、進んで行くとやがて開けた場所に出た。そこはどうやら街の中央広場のようだった。広場の中央には美しい噴水が置かれ、奥には高く立派な時計台が聳えている。広場は多くの人で賑わっていた。
アレンはそこで立ち止まった。そして中央から向かって左手、そして右手の一際古い建物の指差す。
「この広場を挟んだ東西には2つ寺院がある。
俺は東の、ザガン中佐は西の寺院を探して来てくれ。一通り探して何か見つけても見付からなくてもまたこの場所に集合すること。OKかな?」
そう言うとアレンはくるりと踵すを返し、広場から向かって右手に立つ東の寺院へと向かおうとした。そんなアレンをザガン中佐が引き留める。
「そう言ってまさか逃げるつもりじゃないだろうな?」
「まさか」
向けられた疑いの眼差しにアレンは心外だとばかりの顔をする。
「船は取られ、ホープ・ブルーに地図まで取られ、おまけに人質まで取られているんだ。仮に俺が1人で逃げるにしても、これだけの大人数相手に逃げ切ろうだなんてとても正気とは思えないけどな」
アレンはまるでもっともな事を言ってみせる。
だが、それでもザガン中佐の疑念は払えないようなので。
「そんなに心配なら見張りでもなんでも付ければいい。1人で探す手間が省けてこっちとしては大助かりだしな」
その言葉に納得したのか、ザガン中佐は数人の兵士をアレンの見張りとして付けさせる事にした。
「くれぐれも奴から目を離さないように」と、念を押して。
こうしてザガン中佐の命を受けた海軍兵達はアレンと共に東の寺院へと向かって行った。そして、ザガン中佐の人質である私とザガン中佐の隊は西の寺院へと向かったのだった。
***
厳かな雰囲気が漂う西の寺院内。
回廊の両端にはいくつもの美しく多彩な彫刻が立ち並び、床と高い天井には豊かな配色で幾何学模様のようなものが描かれている。この寺院自体がもはやアートと言っても過言ではない。外観から内観に至るまで、この国独自の文化感が西の寺院には刻み込まれてた。
しばらくの間、私はザガン中佐率いる海軍兵達と共に西の寺院内を見て回った。
だが、行けども行けども目的の紋章は見つからない。見当たらない。
それはそうである。そもそもこの国に来た事自体、それ自体がアレンのただの勘、言ってしまえば苦し紛れの適当な嘘なのである。アレンのいう手掛かりのようなものなど、そもそもここにはある筈がないのだ。
しばらく寺院内を見て回ったが、当然といえば当然のごとく、目当ての物は何も見つかりはしなかった。
仕方なく、西の寺院を出て再び中央の広場へと戻る。
広場へ戻ってみると一体どういう訳なのか、広場は先程よりも多くの人で溢れていた。ごった返した中央広場。何故だかそこに集まった誰もがそわそわとどこか落ち着かない様子に見えた。まるで何かを待っているかのように。
アレン達はまだ東の寺院から戻って来ていない。
直感、というやつだろうか。
何故だか、物凄く嫌な予感がした。




