ハルとユキと 2
片付けが終わるまで二人は別の場所で待つことにしたらしい。祖母が去っていくと手を繋いで歩き出した。会場だった場所の裏手まで来ると二人は立ち止まる。そこで初めて俺はちゃんとその子ども達の顔を見ることができた。
「え、双子……?」
そこにいるのは俺の知っている双子よりも遥かに幼いハルとユキだった。ハルはユキの小さな手をぎゅっと握っている。
「ユキ、我慢しないで。もう泣いていいんだよ」
ハルのその言葉とほぼ同時にユキの目から涙が溢れ出す。泣いているユキを見ていたハルも我慢できなくなったのか、顔を歪めて泣き出してしまった。
式の間は泣かなかったのか。――いや、泣けなかったのかもしれない。突然両親を失った悲しみとこれから自分達はどうなるのかという不安。そして、祖母というあたたかい存在への安心。完全に部外者である俺にも何となくだが、そんな二人のぐちゃぐちゃに入り交じった感情が伝わってきた。
「ハル……、っ……。何処にも行かないでね」
ユキはハルに縋すがり付くように泣いていた。不思議な気持ちだった。俺の知っている彼女はいつも笑っていたから。彼女が泣いている姿は何だか新鮮な気がして。幼い子どもなのだから泣くことなんて幾らでもあるはずだ。なのに、彼女が泣いていることにこんなにも自分が驚いていることに俺自身が驚いていた。きっと俺の中のユキはいつだって笑顔だったから。その印象しかなかったからだ。
大人達の前では気を張っていた二人がやっと感情を表に出せたんだ。邪魔をしてはいけないと立ち去ろうとしたのだが、――運が悪いとしか言いようがない。まさかの、こんなタイミングで俺は躓いた。転こけはしなかったものの、踏ん張ったことで足音を立ててしまい、二人に俺の存在がバレてしまった。何やってるんだよ、俺は。
「「……誰?」」
シンクロした双子は驚いたせいか、先程まで流していた涙も止まってしまっている。バレたからには仕方がない。できるだけ警戒されないようにと両手を上げて降参のポーズを取りながら二人の前に出ていく。
「ごめんな、突然。びっくりしたよな」
安心させようと踞しゃがんで視線を合わせ、笑ってみる。
「誰だよ、お前」
さすがは兄。見知らぬ男にそう易々と警戒心を解いてくれるはずもなく、妹を守るように前に出て俺を睨みつけている。
「俺は、一。佐藤一。ハルくんとユキちゃんだよな? 俺は君達のお父さんとお母さんの友達だ」
「え、はじめ君。お父さんとお母さんのお友達なの?」
折角、兄が後ろに隠してくれたというのに妹の方はまるで警戒心が無く――、“お父さんとお母さんのお友達”というフレーズに反応して嬉しそうに前に出てきた。そんな彼女に兄は不服そうにするが、何かを言うことはなかった。
「ねぇ、はじめ君。一緒に遊ぼう」
さっきまで泣いていたとは思えないくらいの無邪気な笑顔で俺の手を握るユキ。
「いいの? 俺も一緒に遊んで?」
「いいよね、ハル?」
ユキはハルに同意を求めたが、ハルがそれに答えることはなかった。
「はじめ……? さとう……、はじめ?」
ハルは驚いたように俺を凝視している。まるで、何故俺がここにいるんだと言わんばかりに。
「ハル……?」
戸惑っている兄を心配してか、ぎゅっと彼の手を握り顔を覗き込むユキ。そんな彼女の行動にハッとして視線を向けたハルは幼い子どもには似つかわしくない何かを悟ったような表情をした。
「そっか……、そうだよね……」
妹を安心させようと笑っているのだろうが、全く笑えていない。泣き笑いのようなそんな悲しい表情でハルはユキの頬を優しく撫でた。
「これは夢なんだね……」
ハルがぽつりと呟いた瞬間、グニャリと世界が歪んでいた。