ハルとユキと 1
喪服を身に纏う人達の列。そして、聞こえてくるお経と啜り泣く声。祭壇には男性と女性、二人の遺影が飾られていた。二人共どことなく誰かに似ている気がする。そもそも、これは誰の葬式だろうか。何故、俺はこんな所にいるんだ。だって俺はさっきまでホテルのレストランにいたはずだ。とりあえず情報を集めようと俺はその場から移動することにした。
「お気の毒よね。二人とも事故で亡くなってしまうなんて」
「あんなに小さな子ども達を残して死んじゃうなんてね」
「二人ともまだ小学校に入ったばっかりだって。可哀想に」
歩き回っていると参列者達の会話が自然と耳に入ってくる。憐れだ、可哀想だと口では言っているものの、所詮は他人事。本当に心の底からそう思っている者が果たしてこの場に何人いるのか。
体の奥の方がスーっと冷めていく感じがした。それを自覚した途端、思わずチッと舌打ちをしてしまう。苛立った感情を振り払うように頭を振って、俺はこの状況について考える。
あのホテルからどうやってここに来たのかは分からない。でも、どうにかしてユキ達の許に戻らないと。
何か手懸かりはないかと歩き回ってみたが、そうこうしている内に式が終わったらしい。続々と出口に向かって人が流れていく。特にめぼしい情報も得られなかった俺は流れに逆らって最初にいた場所まで戻ることにした。途中で親族らしき連中が集まっているのが目に止まる。そして、聞こえた会話に俺は思わず物陰に身を隠していた。
「ねぇ、あの子達どうするの。誰が引き取るのよ」
「俺のところは無理だからな」
「私だって、嫌よ。自分の子どもだけでも大変なのに更に二人なんて、そんな余裕ないわ」
「おいおい、そんな言い方……」
「だったら、お前のところで引き取れよ」
「いやいや、うちもそんな余裕はないさ」
「だったら、いい人ぶってんじゃねぇよ」
醜い言い争いだ。恐らく親戚であろう人達が子ども達を誰が引き取るのかということで揉めている。その後ろには、恐らくその話の中心になっているであろう子ども達。大人達は話に夢中で肩身が狭そうなその子達の様子に誰一人として気付いてはいない。
それぞれ事情があるにしろ、話をする場くらいは考えろよな。呆れた大人達の会話に俺の心は益々覚めていく。そんな俺の心の声を代弁するかのように、一人の女性がその会話に割って入った。
「あんた達、場所を弁えなよ。子どもの前でみっともない」
その場にいた全員がその女性を見る。
「だったら、母さんが引き取るって言うの?」
そっちだって同じでしょ、とその内の一人が女性に突っ掛かる。その他の大人達もそうだ、そうだと言いた気に視線を向けていた。
「ああ、そうだよ。この子達は私が面倒を見る。だから、下らないこと言い合ってないで早くやるべきことをやっちまいな」
諌められた大人達はまだ何か言いたそうにしながらも、そそくさとその場を離れていった。そんな彼等をを見送ると女性は子ども達と目線を合わせて優しく声をかける。
「ごめんね。ハルちゃん、ユキちゃん。二人ともおばあちゃんのお家においで。家からなら今の学校にも通えるしね」
「おばあちゃん、もう僕小学生になったんだよ。だから、ちゃん呼びは止めてよ」
「ああ、ごめんね」
ふふっと笑って二人の頭を撫でている女性は優しくて温かくて、本当に二人のことを思っているのが伝わってくる。
「「ありがとう、おばあちゃん」」
去っていく背中に向けられたその小さい声は離れた場所にいる俺にも聞こえたぐらいだから、きっと祖あの女性にも届いていることだろう。