言えなかった、言いたかった 5
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いつだって彼女には敵わないんだ。俺がヒーローなんて烏滸がましい。いつも救われていたのは俺の方なんだから。
「っ、ハル……。ごめん……。いつの間にか俺は君のことを受け入れられずに“ないもの”にしてっ……」
「――泣いてるの? はじめ君?」
「っ……」
聞こえた声に顔を上げるといないはずの君がそこにいた。
「……んで、……っ、なんで、いるんだよ?」
情けなくも震えている俺の声。
「呼んだでしょ、私のこと」
優しく微笑む君は俺が好きだったあの頃の姿をしていた。
「…………ハル」
「うん」
「……っ、ハル!」
堪らず、目の前にいる君を抱き締めていた。
「っ、ごめんな」
「どうして謝るの?」
「ずっとハルのこと、受け入れることが出来なくて……、俺……、っ……、俺は……」
ハルは俺に抱き締められたまま優しく優しく俺を包み込んでくれる。
「はじめ君は私のヒーローだよ」
「俺なんてっ……」
「ダメだよ。そんなこと言わないで。私ね、はじめ君にずっと救われてたんだよ」
顔を上げて俺の好きな笑顔を見せるハル。
「小学校の時からね、私女の子に嫌われちゃうことが多かったの。ずっと、笑顔でいるのも男の子に媚売ってるんじゃないかって言われてた。でも、何言われても人前ではずっと笑顔でいるようにしてたの。お父さんとお母さんが言ってたから。ずっと笑顔でいれば必ずハルを助けてくれる人が現れるよって。本当だった。だって、はじめ君が現れてくれたんだもん。はじめ君がずっと、一緒にいてくれた」
本当に嬉しそうに笑うもんだから堪らなくなる。好きが……、好きが溢れて止まらなくなる。
「私ね、ずっとはじめ君やユキのこと羨ましいって思ってた。二人とも周りに関心なんてないように見えるのに、本当は誰よりも他人のことを見ていて、他人が困ってる時に助けられるだけの余裕があって。優しくて、温かくて人間が大好きで、自分なりの他人との関わり方を持ってる。そんなはじめ君やユキのこといいなって思ってた。私は二人みたいに余裕なんてなくて、優しくなれなかったから」
「ハルは優しいよ」
誰よりも君は優しいことを俺は知ってる。なのに君は俺の言葉を否定する。
「優しくなんてないよ。女の子達のやきもちとか陰口とか面倒くさくてくだらないって思ってた。そんな事やってるから相手にされないんだよって心の中でバカにしてた。それにね、貴方達には興味ないけど、はじめ君もユキも私とは仲良いんだからって、ちょっと優越感に浸ったりもしてたの。ね? 嫌な奴でしょ、私」
無理してそんな風に笑わないで。
そんなに不安そうにしないで。
大丈夫だから。俺はそんな事で君から距離を取ったりなんてしないよ。
「そうだなー。でも俺、本当に興味無かったからな。ハル以外の女の子」
そう伝えると目を丸くするハル。やっぱり可愛いよ、君は。
「きっと、ユキも俺と同じだよ。ハル以外の女の子に興味無かったんだって。興味ない奴と馴れ合うようなタイプじゃないでしょ、俺も彼奴も」
「――ほら、やっぱり。はじめ君は私のヒーローだ」
「どこが?」
「嫌なことがあってもね、はじめ君と一緒にいられるだけでどうでもよくなっちゃうんだよ。どれだけ陰口言われても嫌がらせされても一人じゃないんだって思えた。一緒にいるだけで嬉しくて楽しくて、自然と笑顔になれたの。はじめ君は私の心を救ってくれるヒーローだったよ。それに、今だって沈んでた私のこと、掬い上げてくれた」
「大袈裟じゃない?」
「そんなことないよ」
一緒にいて救われてたのは俺もだよ。今だってさ、君の笑顔に俺は……。
「はじめ君が見せてくれようとしてた星空ね、実は私も調べてたんだよ」
「えっ?」
「はじめ君と二人で見たいなって思ってたの。でも、誘う勇気なくて言い出せずにいたら、まさかのはじめ君からお誘いが来て。とっても嬉しかった」
彼女は空を見上げ、目を細める。俺も同じように空を見上げた。生い茂る木々が空を覆う中、ぽっかりとそこだけ切り取ったように空いている場所があって。このベンチの丁度真上がそうなっている。そこから見える星空は、あの時俺が彼女と見るはずだった空そのままで、俺が彼女を待つ間に一人で見ていた空だった。




