さとうまじめ 4
エレベーターで一階まで行き、二人で支えながらハルをレストランまで運んだ。椅子に座らせてみたはいいものの、ハルも他の三人も誰も目を覚ます様子はない。
「これからどうするか……」
幸せが逃げてしまうと言われても、こんな状況でため息を吐くなという方が無理だった。
「何か、飲む? さっき、ここの奥に飲み物が置いてあるのを見つけたの」
「あ、じゃあ俺が取ってくるよ」
「ううん、大丈夫。私が行くよ。はじめ君はハルのことお願い」
彼女はそう言って奥へと消えていった。
隣に座るハルを見る。見れば見るほど、ユキとハルは瓜二つだった。髪の長さが同じならば、どっちがどっちだか分からないかもしれない。
そういえば、昔ハルに突然声をかけられたことがあった。
「お前が佐藤一?」
確か、最初の言葉はこれだった気がする。
「え、ユキちゃん? ……じゃない」
ユキと同じ顔をしているが髪型も違うし、そもそもユキは“お前”なんて言葉は使わないだろう。
「あっ、兄貴の方か。ユキちゃんとは双子なんだよな?」
問いには答えず、俺をじっと見つめるハル。そして、一言。
「……気に食わない」
「っ!?」
突然何だよ。俺、嫌われたの? こいつに何かした覚えはないし、そもそも話すのだって初めてなのに――。
「初めて喋った奴にそんなこと言われる覚えはない」
自分でも珍しく言い返していた。ユキと似ている容姿が言い易さを煽ってそうさせたのか、自分と同じようにあまり感情を表に出さないような彼が纏う空気感がそうさせたのか。前に彼女が自信満々に言っていた。絶対にはじめ君とハルは仲良くなれる、と。
だけどごめん、ユキちゃん。こいつとは仲良くなれそうにないわ。
双子なのにここまで性格が違うとは。この顔でこの口の悪さは詐欺だ。なんて、敵意ともまた違う感情を向けられたことを俺は思い出していた。
◇
「お待たせ。何がいいか分からなかったから、無難にお茶にしたよ」
思い出に浸っている間にユキが戻って来ていたらしい。彼女はテーブルにグラスを置くとハルを挟んで反対側の椅子に座った。
何から手をつけていいのやら、さっぱり分からない。この状況をどう動かせばいいんだ。ぐちゃぐちゃになった頭をどうにか働かせようと俺は、お茶をぐいっと喉に流し込む。
「ねぇ、はじめ君。はじめ君は私のヒーローだよ。貴方はそんなことないって言うかもしれないけど、あの頃の私は貴方に救われてたの。頭が良くて、優しくてあったかい貴方に」
ユキの顔をじっと見つめる。笑ってる。なのに、何故だか彼女がそのまま泣き出してしまう気がして。何か言わないと――。そう思うのに頭がぼーっとする。あぁ、目蓋が重い。何か言わないと――、何か――。
「ユキ……。俺、は……」
グニャリと視界が歪む。目の前のユキが俺に向かって何か言っているみたいだったけど、何を言っているかまでは分からなかった。
「…………はじ……っ……、……ちゃ……と……、見つ……てね」