表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/60

泣いてないよ、泣いてない 2




 父さんと母さんの葬式の時、君と一緒に泣けばよかった。自分のことで一杯一杯だった俺は君の優しさに八つ当たりしたんだ。




◯月◯日

 今日、お父さんとお母さんとおわかれした。大人の人たちは泣いていたけど、私もユキもおそうしきの間は泣かなかった。私は泣かないようにしようとおもって、えがおでいた。かなしいって言ったら泣いちゃいそうだったから、ユキにかなしくないのってきかれても、かなしいって言えなかった。私が泣いたらユキは泣かないから。私はえがおでいようとおもってがんばった。明日はユキと仲なおりしたいな。




 ハルの日記を見つけた時、初めて君の気持ちを知った。今までどうして、気付けなかったんだろうって自分が情けなくなった。


 俺が泣けるようにってハルは笑ってくれていたのに。辛いのは、悲しいのはハルだって同じだったのに、俺は君を傷付けた。俺はただ、ハルに頼ってもらえる兄でいたかっただけなんだ……。


 “何、笑ってるの!? こんな時に笑うなんて、バカじゃないの!?”


 “……ユキ、泣いていいんだよ”


 “俺の前でも無理して笑ってるハルに言われたくないよ!”


 この時の悲しそうな君の顔が忘れられなくて。そのまま何となく謝るタイミングも逃しちゃって。結局、俺は謝れないままだった――。


 自分よりもずっと温かくて優しい瞳がそこにはあって、ずっと求めていた君がそこにいて、何とも言えない気持ちが心の中を支配する。


 ハルの前では、格好いいお兄ちゃんでいたいのにな。


「……っ、泣いてないよ。……泣いてないっ」


 目の前の小さな身体を抱き締めて、今だけはとその存在を噛み締める。


「そっか……」


 優しい君は何も言わずただ俺の背中を撫でていた。


「ごめんっ。ごめんね……。ずっと、ずっと……、俺はどんな形でも良いから君を守ってあげたかった……。ごめんね、……ハル」


 ここにいない妹の名前を呼んでしまう。できればずっと、君とここでこうしていたい。ハルとずっと、一緒にいたいよ。


 だけど、そろそろ(はじめ)があの場所に辿り着く頃だろうから行かないと。


「ごめんね」


 妹の頭を一撫でして背を向けた。そして、扉に向かって歩き出す。扉が閉まる直前、思わず振り返ってしまった。


 ぎゅっと唇を噛み締め、寂しそうに此方を見る妹が見える。


 “泣いて”


 “泣かないで”


 “笑って”


 “無理して笑わないで”


 ――矛盾した感情がぐちゃぐちゃに入り乱れて、もうよく分かんない。


 扉に両手を付き、額をくっつけて目を閉じる。


「ハル……」


 扉の向こう側にいる君を思って、君の名前を呼んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ