ユキと“ハル”は、ハルと“ユキ”で 6
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レストランに戻ると、一が丁度三人の身辺調査を終えたところだったらしい。このまま夢の話に持っていけるように会話の流れを作らないと。
「まだ、他の人達は目を覚まさないんだね」
椅子に座りながら話を振ってみると、“俺”がぼんやりと上の方を見ながら、話し始める。
「俺ね、夢を見てた。すごくリアルな夢だった。父さんと母さんの葬式の日の夢」
一の様子をちらりと窺ってみると、早速自分も同じものを見たと気付いたのか、戸惑っている様子だ。
「そこには、何故か一もいてさ。最初は違和感なく受け入れてたんだけど、絶対、居るはずのない一がそこに居ることがおかしいことに気付いて。だって、父さんと母さんが死んだのは俺達が六歳の時だったから。何でここに一が居るんだろって思った瞬間に、ああ、これは夢なんだって気が付いたんだよね」
目を細めて俺を見る“俺”。
その視線で俺は悟った。ここにいる“俺”も妹がもう実際には存在しないって事に気が付いている。ここが現実世界じゃない事も分かっているんだ。死んでしまった妹がここにいるはずはないんだから。それでも何も言わないのは夢でもいい、何でもいいから一緒にいたい。俺がずっと思い続けてきたこと。ここにいる“俺”も同じなんだ。
“俺”がどこまでこの世界の事について認識しているかは別として、それでも、俺の正体がバレない限りは現実世界に戻る心配はないってことだよね。それなら、俺は全力で“ユキ”を演じるまでだ。
俺が何やかんや考えている間にも“俺”の話は続いていた。
「その瞬間に目が覚めた。それで気が付いたらこのホテルにいた」
戸惑いが確信に変わったのか、一は“俺”と同じ夢を見たと言った。それなら次はお前が他人の夢の中に入れることを分かってもらわないとだね。そう考えていると“俺”がいい具合に仮説を立ててくれる。うん、やっぱり流石だよね。
「あのさ、もしかしてこの人達も何かしらの夢を見てるんじゃない? 俺が夢だって気付いて目が覚めたみたいに、この人達も夢だって気付けば――」
「目を覚ますかもしれない!」
ここは後一押しすれば、いいだけかな。
「ねぇ、二人の話を聞いてて思ったんだけど、はじめ君はね、きっとハルの夢の中に入り込んだんだよ。ハルははじめ君の存在をきっかけに、現実とは違う矛盾を何か見つけた。それで、これは夢なんだって気付いた、とか? ほら、夢見てる時にあるじゃない? これ、夢だって思うこと。夢だって気付いた瞬間、目が覚めちゃうんだよね」
“ユキ”の笑顔は無敵だから。ここも笑顔で押しきれるんじゃないかと多少強引な気がしないでもないけど、可愛い可愛い“ユキ”に成りきってみる。自分で言うのもなんだけど、俺も一もつくづく単純だよね。
「でも、ユキの言った通りだとして、一はどうやって俺の夢に入ってきたのかな? ユキの仮説だと、一が他の奴の夢に入り込める人間だってことだよね。だとして、その方法が分からないんじゃ、この人達の夢にも入り込めないじゃん」
「確かに……」
おっと、また躓くか。疑われない程度にヒントを与えて誘導するしかないな。
「うーん、はじめ君がハルの夢に入り込む前って何か変なことなかった? ちょっと気になったこととか何でもいいから、頑張って思い出してみて」
“ユキ”と会って、“ハル”を見つけて……視界がぼやけて、気付いたら彼処にいたと話す一。……マズい。お茶に混ぜた睡眠薬の存在に気付かれる前に話を進めないと。
「ってことは、はじめ君が眠るか気を失うかした時に他人の夢の中に入り込めるってことじゃない?」
「今のところは、その線が濃厚だな」
“俺”が賛同してくれたお陰で一もこの後何をすべきなのかが分かったようだ。
「これって、俺がやらなきゃ駄目なのか?」なんて渋るから――
「うーん、他人の夢に入ったことあるの、はじめ君だけだし」
あくまでも、純粋に“ユキ”としての意見を述べる。
お前しかいないんだよ。というか、お前じゃなきゃ意味ないんだよ。
「俺が一発で送ってやるから安心しなよ。まさか、ユキのこと殴るわけにもいかないしね」
後は黙っていても勝手に話が進むだろうとその場を見守る。
「これで当てが外れたら、その時は一発殴らせろよな」
「分かったから。ちゃんと歯食いしばっといてね」
気に食わない男に拳を入れられるチャンスなんてそうそうない。ちょっとだけ“俺”が羨ましかったり。なんて思っている間に準備は整ったようだ。
「一、歯食いしばれ!」
“俺”に殴られて盛大に倒れていく一に心の中で合掌。ここまでは順調だ。ここまで来て強制送還なんてごめんだから、慎重に行かないと。
きゅっと拳に力を込めた俺を“俺”が見つめていたことなんて、この時は全く気付いていなかった。




