さとう まじめ 3
◇
ユキと二人で、もう一度ここにいる人達を起こしてみようと声をかけて回ったが、誰も目を覚ますことはなかった。
「だめだ。やっぱり、起きないな」
「どうしよう、はじめ君」
不安そうにしている彼女を少しでも安心させたくて、俺は精一杯の笑顔を向ける。ちゃんと笑えている自信はないけど。
「そうだな。とりあえず、ユキ達が泊まってる部屋に行ってみないか? もしかしたら、ハルも部屋にいるかもしれないし。それに、このホテルの中で何が起こっているのか俺も自分の目で確かめたい」
「うん。ありがどう、はじめ君」
俺達はスマホのライトを頼りにハルを探しながら、ホテルの中を調べることにした。
一階にあるレストランルームを出ると、フロントに繋がっている。先程彼女が言っていたように、エントランスやフロントには誰一人としていなかった。玄関口を確認してみるが、自動で開くはずのドアは開かず、センサーも反応しない。力ずくで、とも思ったけどドアは固くて開けられなかった。
「はじめ君……。電話してみたんだけどね、全然繋がらない。フロントの電話も使えないみたいだし」
「そうか。まぁ、とりあえず部屋に行ってみよう。301号室だっけ?」
「うん」
階段を使って三階まで上がる。非常灯すら点いていない廊下は真っ暗で不気味だった。彼女から鍵を預かり、差し込んで回すとカチャリと音が鳴る。中から人の気配は感じない。
「ハル……。いるの……?」
ユキが俺の背中越しに呼び掛ける。服を掴まれた背中に意識を向けながらも恐る恐る中を確認するが、部屋には誰もいなかった。
「やっぱり、いないね。どこに行っちゃったんだろう」
ユキはベッドに腰掛け、俯いてしまう。
「ユキ……」
こんな時、気の利いたことでも言えたらいいのに。彼女にかける言葉が見つからなかった。
◆
「戻ろっか。この部屋にいても何もできないし。もしかしたら、下にいる人達も目を覚ましたかもしれないし」
彼女はにっこりと笑った。
「無理してないか? 大丈夫?」
無理していることは明らかなのに、ありきたりなことしか言えない俺。
「うん。くよくよしてたって仕方ないもんね。大丈夫だよ、私は。だって、はじめ君が一緒だもん」
強いな、と思った。彼女は昔からどこか凛とした強さを持っていた気がする。俺なんかよりよっぽど強い。自分で自分が情けなくなることしかない俺は、きっとそんな彼女の眩しくてキラキラした強さにずっと憧れていたのだと思う。
「一緒にいるってだけで、俺なんて頼りにならないよ」
「そんなことない。はじめ君は私のヒーローなんだから。ほら、行こ」
ネガティブな感情さえも全て包み込むように俺の手をぎゅっと握りしめた彼女に、早く早くと部屋の外へと引っ張られる。そのまま廊下を進んでいくと突然彼女が足を止めた。
「どうした?」
「見て、はじめ君。エレベーターのランプが点いてる。動くんじゃないかな、これ」
先程は階段を使ったから気付かなかったが、表示は三階を示していて、確かに動きそうだ。
下行きのボタンを押すとチンっと軽快な音と共にドアが開いた。すると、彼女はハッとしたようにエレベーターの中に駆け込む。
「ハル!」
スマホのライトで中を照らすと、そこには同じ顔が二つ。彼女は名前を呼びながら倒れている人物を抱き起こした 。
「ハル、ハル! ねぇ、起きてよハル!」
しかし、目は固く閉じられたままだ。
「ユキ、このまま此処にいるわけにもいかないし、とりあえずハルを下に連れていこう。このエレベーター、電気は点いてないけど、動くみたいだし」