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アキラの彼女 1




 パッと目を開けると目の前にハル達はいなかった。それにここはホテルのレストランでもない。どうやら見事他人の夢の中に入り込めたらしい。


 残念だ、当てが外れていればアイツを殴ってやれたのに。


 それは、さておき――。ここはどこだろうと辺りを見回してみる。


 ここは、学校?


 まずは誰の夢なのかを突き止めた方が良さそうだ。同年代の男性なのか、もしくは夫婦のどちらかか。とりあえず校内を見てみようと周りに気を付けながら歩いていると曲がり角の向こう側から話し声が聞こえて足を止める。


「木崎、遅ぇーよ」


「そうだよ。パン買うだけなのに何分かかってんの?」


「ご、ごめん足立。購買混んでてさ……」


 おそらくここの生徒だろう。男子生徒数名の声がする。


「お前これ、コロッケパンじゃん。俺頼んだのヤキソバパンなんだけど」


「う、売り切れてて……」


「そうか、そうか。売り切れてたんじゃ、仕方ないよな。あ、ごめーん。手が滑って落としちゃったわー」


 足立と呼ばれたボスらしき男子生徒の声に続いて「俺も滑ったー」と次々にパンが落とされていく。


「勿体ないから、これ木崎が食べてね」


「えっ……」


 戸惑っている木崎という生徒以外は、じゃあなと言ってその場を離れていった。残された男子生徒がパンを拾っていると気の強そうな女子生徒がやって来た。


 こう言っちゃ、失礼かもしれないが見た目だけで言えば、先程の足立と呼ばれた奴と同じような立ち位置にいそうなタイプだ。クラスの中心にいて空気を作る側の奴。――そう、つまりは俺の苦手なタイプだ。


「木崎、大丈夫?」


「ああ、美月。大丈夫だよ」


「足立達もエグいことするよね。木崎はこれでいいわけ?」


「俺は、美月がいれば別に……」


 ふーん、と適当に相槌を打つ女子生徒は自分から聞いておきながら、然程興味が無さそうだった。


「昼休み終わるから、私は教室に戻るけど」


「ああ、俺今日はサボるわ」


「分かった。先生には適当に言っといてあげる」


「サンキュー」


 女子生徒が去ってからも木崎はずっとそこにいた。教室に戻るつもりは本当にないらしい。そして観察している内に俺はあることに気付いた。


 俺は彼奴を知っている。


 木崎亮(きざきあきら)


 アキラは俺を昔からかっていた内の一人だった。そういえば、アキラは中学の途中で親の都合で転校していた気がする。俺への風当たりは中学になっても大して変わることはなくて、周りで騒いでいる奴が一人減ったところで俺には関係なかったから。


 だから気付いた時には、いつの間にかいなくなっていた。俺のアキラに対する認識なんてその程度のものだ。


 アキラの制服は俺の見慣れないもので、恐らくここは彼奴の転校先の中学校なのだろう。俺をからかっていた奴が転校した先で、やられる側になっているとは皮肉だな。


 俺はそんなどこか冷めた気持ちで中学生のアキラを見ていた。




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