2話
2話までは続きました
「な、何をやっているの! この変態!」
「へ?」
え?
お、おお落ち着け。とりあえず俺は草食ではない。美味しくなかった。
草から口を離し自分の体を見下ろす。...今までの体の構造なら自分の体を見下ろすなんてことはできなかった。
体は肌色。腹に毛は生えてない。そして股間にはあるべきものが。
咄嗟に木々の間からギリギリ見える地平線を凝視する。
まだ少し明るい。...日は沈んでいるが。
そうか、日が沈むのが条件...。
「だから、何故ここで裸で草を貪っているのか答えなさい!」
緑のワンピースを着てマントを羽織った金髪碧眼の美少女が、赤くなった顔を片手で隠して剣を突きつけてくる。
ひどい状況だ。
...落ち着いて考えろ。この状況を打開する策を!
「えと、その、賊に身ぐるみを剥がされてしまいまして、食べるものもなく...」
…我ながら苦しい。が、混乱した今の頭で思いつく策はこれくらいだ。
「そ、そうだったのね...ごめんなさい。変態の類かと思ってしまいました」
すると女の子は数瞬固まった後、しおらしい顔をして剣を収めてくれた。チョロイン。
そうか...変態の類か...。
「これでも身につけておいてください。この辺りは夜は冷えます」
「あ、ああ。ありがとう」
罪贖いのつもりか、そう言って身につけていたマントを寄越してくれた。いい匂いがする。
空から見た時ここは深い森だった気がしたが、近くに集落でもあるのだろうか。こんなか弱い(剣を持ってはいるが)女の子がいるということは、そこそこ住んでいるところは近いのだろう。
「ところで貴方、何処の国の出身なのですか? 見たところ刻印もないから、行商人かなにかだとは思うのですが」
“刻印”? 身分証明にはそういうものがあるのか。覚えておこう。
しかし、なんの知識もないから下手も言えないし、どうしようか。
...ちょろかったしこれでいけるか?
「すいません、記憶を失っていて...覚えているのは言葉だけなのです」
「そんな...」
左手を口にあてて、見事なまでの哀れみの目で見てくれる。ちょろ…申し訳ない。
俺が彼女の立場なら信じないぞ。そんな言葉だけ覚えているなんて都合のいい...。
…待てよ。言葉だけを覚えている...正に今俺はその状態じゃないのか?
何かを思い出そうとすると何かに阻まれたかのような感じがして何も思い出せない。
いやしかし、覚えているのは言葉だけではない気がする。今までの思考の中にも...頭が混乱してきた。言葉ってそもそもなんなんだよ。
「──の、あの!どうかしましたか?突然固まって」
「ああいや、なんでもないです」
考えるのは後にして、今は対応を考えなければ。
...。
「「あの」」
静寂に耐えかねた俺と彼女の言葉が重なる。気まずい。
そちらから、いえいえそちらから、という押し問答の末、折れたのは彼女の方だった。
「では...。今晩は家に泊まりに来てはいかがです? 記憶もなければ服も金もない。そんな状態じゃなにも出来ませんよ」
これはありがたい申し出だが、不安要素が残る。
夜明けの時のことだ。
まだ夜明けを一度も体験していないから、というのもあるにはあるが、そこは想像がつく。今さっきのように変身をするのだろう。
いちばん不安なのは抜け出す時だ。
見つからずに抜け出せるかどうか。それが不安なのだ。
見つかって抜け出す理由を聞かれたら答えられる気もしない。
だが断る理由も見つからない。
「ではありがたく。一晩だけ宿をお借りします」
「では着いてきてください!」
妙に張り切っている。かわいい。
夜明けの不安と、女の子の家に泊まるという期待を胸に着いていく。
暗闇を揺れる彼女の長い髪に目を奪われる。