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1話

1話までは続きました

 暗い。


 狭い。


 何がどうなっている。何が起きている。俺は...。

 そうだ。神。...無垢、転生、怪物。

 ...ダメだ。断片的な言葉しか出てこない。



 ──いや、思い出した。確か調停者として転生したんだ。力を与えられて。


 とりあえずここから出なければ。暗くて狭くて何もわからない。

 ここは狭すぎる。どうなっているんだ。何かに閉じこめられているのだろうか。


 とりあえず蹴ってみる。...体は問題なく動く。若干人間の体と構造が違うようだが。

 蹴った所に少しヒビが入った。これなら壊せそうだ。


 何度も蹴るとやがて穴が空き、そして穴はさらに広がり、俺は外に出た。


 俺が入っていたのは卵だった。無地の卵だ。


 だがそんな何の変哲もない卵からは直ぐに視線は離れた。


 ...ここは、洞窟か?

 疑問形なのは、俺が洞窟の定義を理解できていないからではない。余りにも巨大すぎたからだ。


 崩れないのが不思議な程広く高い天井に不自然に空いた大きな穴。穴からは木漏れ日の如く光が差し込んでいる。とてつもなく大きな壁には所狭しと苔や木が生えている。


 そして水分補給や水浴びに丁度よさそうな泉を見て俺は察した。ここは神によって用意された場所だ、と。どう考えても自然にできたものではない。


 ここから見える出入口は天井に空いた穴だけだ。そして、俺の背中にはそこまで飛べるであろう翼が備わっている。


 本能的に体の動かし方はわかる。試しに飛んでみるか。

 背中の筋肉を動かす。もう一対手足ができたような感じだ。


 翼を広げる。ミシミシと音がする。気持ちがいい。

 そして羽ばたく。ものすごい速度で垂直に上昇していく。


 気持ちがいい。...ただこれ、飛んでいるにはずっと翼を動かし続けている必要があって面倒臭いな。疲れるし。



 そして結構飛んだのだが、穴はまだ遠い。どんだけでかいんだよここ。俺はこの洞窟が丁度いいくらいのサイズになるってことなのか?


 翼を広げて滑空しながら、端にある泉へ向かう。自分の姿を確認しておきたかった。


 地面に着く直前に一度羽ばたき、ゆっくりと降りる。...大分様になっているんじゃないか?


 さてさて、俺の姿は...。


 ...。


 気持ち悪。



 狼のような頭に体。鳥の鉤爪のついた手足。そして竜の翼。蛇のように長い尾。


 キメラじゃねえか。


 なるほどな、これなら見た目だけでビビらせることができ...ってふざけんじゃねえよ。生まれたての生物はもっと愛らしくあるべきだ。


 人間とも交流したい...のに...。



 そういえば神が妙なことを言っていた気がする。

 確か...


『夜だけ、君は人間となる』


 とか。


 それが本当なら人間とも仲良くなれるかもしれない。どういう原理かわからないが、神様なんてものを見ちゃったらもうなんでも信じられる気がしてきた。



 とりあえず、ここから出るか。外を見ておきたい。


 さっきの感覚を思い出しながら、穴へ向かって一直線に飛ぶ。

 コツを掴めた気がする。ずっと羽ばたかなくてもいい。一度力強く羽ばたいたら、あとは翼の角度を調整すれば暫く羽ばたく必要はないことが分かった。風を切るように、というのがしっくりくる。



 数十秒そうしている内に、穴から空が見えた。


 綺麗な青だ。風が強く、雲は見当たらない。

 中天には太陽が輝いている。


 辺りは草原だった。それも、とてつもなく広い。

 地の果てまで草原が広がっている。本当にこの世に人間が存在するのか疑問すら抱いてしまう。



 そして左を向くとそこには山が。

 後ろを向けばそこには森があった。


 ここは草原と山と森の境目らしい。位置的には森の直下に空洞があるような感じか。


 俺にできるのか、“調停”なんて。広い世界を見て改めて自分のすべきことの重みを感じる。

 そもそも、何を調停すればいいのかすら聞かされていない。


 ...え、それってまずくないか?




 とりあえず今やるべきことをまとめるか。

 まずは食料探し。何を食べたいのかすらもわからないが、まさか補給なしで動けることもないだろう。

 次に...。


 ...。


 俺は何をすればいいんだ。


 ...止まっていたって仕方ない。とりあえず食料を探しながら考えるか。



 まあ、食料なら森か。俺が草食でも肉食でも森に行けば解決するはずだ。


 腹は減っていないが、急がなければ夜になってしまう。

 この目で見なければ...というか、体験しなければ信じられないが、どうやら夜になれば人間になってしまうようだし。


 迷ってしまったら飛べばいい。草原と山と森の境目なら見つけやすいはずだ。


 覚悟を決めて森に踏み入る。

 森に入った瞬間、空気が変わった。何者かに見られているような、包まれているような、そんな感覚を覚える。


 生暖かい風が吹く。


 …気にしたって仕方ない。というか俺はすごい力を与えられているはずなんだから、こんな最初に入った森でお陀仏なんてことにはならないだろう。


 少し進むと赤い実を見つけた。

 見ても何も感じない。すり潰して匂いを嗅いでみたが、なんとも思わない。少し舐めてみるが、別に美味いとは思わない。

 うーん、果実ではないか。なら肉か?


 鬱蒼とした森の中を足音をなるべく立てないようにして進む。今のところ違いは感じないが、狼の頭であれば嗅覚が優れているのかもしれない。匂いにも注意してみる。


 しかし獣は見つからない。いや、獣どころか虫すら見つけられない。


 不自然なほどの静けさだ。この森に果たして自分以外の動物はいるのだろうか。


 必死に探したが、もう辺りは夕日で真っ赤だ。そろそろ帰らなければ。


 飛ぼうと翼を広げる...が、そこで俺はまだ試してないものを目にした。


 草だ。草食という線を考えてなかった。

 試しに草に齧り付いてみる。


 ...。


 体が、熱い。...体が痛い。


 パキパキパキ。


 遠くで、いや体からパキパキと音がする。


 なんだ、この感覚。


「キ、キャアアアアアア!」


 そして知らない女の子の声が聞こえる。


 ...一体何が起こっているんだ。

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