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騎士爵さまの野望  作者: 黒じょか
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 ゴブリンの奴らが水門のかんぬきをこじ開け始めている。

 小鬼と呼ばれているが、“オーガ”のそれとは、個体の性能パワーはさほど大したものではない。むしろ、なぜ小鬼とよばれるのか不思議なほど、1vs1ならば農兵でさえ打ち負かすことができる。俺のような一般に毛の生えた程度の戦士程度でも、十分に対抗ができる相手だ。

 ただし、そう、()()()だ、やつらを群れで相手をしてはいけない。

 奴らは狡賢い、ひとつひとつの戦力は大したことがなくても、集団で事に当たる能力は人間以上に脅威だ。だから、奴らは絶対にサシで戦うことを嫌うわけだが。

 おそらくは本能なんだと思う――詳しいことは知らんし。

 小鬼相手に癪な話だが、奴らの不意を突いて一網打尽、これが小鬼を倒す定石になっている。



 かんぬきを相対に対峙している中、にじり寄りながら水門へ近づいているのが見える。

 草場というほど町中に変な丈の草地はないが、物陰に身を潜めている俺は、ゴブリンの妙な雰囲気に目を奪われちまった。

 小型――やつらにすれば、長剣なんだろう。ショートソードを構えて展開する軽歩兵。

 あれは、弓? いや、弩弓ボウガンか?

 俺もそんなに知識が豊かじゃない。

 少しは記録に目を通しているって程度のことで――それは、帝国の東にある端の国が開発した機械式の弓だ。俺の元居た世界でも珍しく、実物を見たことはない。

 大柄の小鬼?は、別の種なのかトロく感じた。


《殿、御免!!》

 声を掛けられたので、真横にいたはずの騎士に視線を向けた。

 あれ? いない――と思った瞬間、我慢しきれず、供回りの騎士たちが俺にとびかかってきた。

 トロいのは俺の方だった。

 ――矢が風を切って飛ぶ。

 飛距離、おそらく百とちょっとしか飛んでいない。

 そんなに距離もない間を、ひょひょーって風切り音を奏でる。

 その軌道の矢を騎士たちは、華麗に避けて進む。

 あいつらには、アレが見えているのか?ってくらい平然と、歩みを進めている。いや、俺の目が凡人以下のものだから、草地から出ることができなかった。

 足がすくんで、なんてちょっと言えないな。

 俺を押し倒した騎士は、丸くて大きな盾を胸より上に掲げて、飛び交う矢から守ってくれている。


「いや、助かった」

 兵士の背中に手をついて、彼の鼓動を感じる。

 こういうときは落ち着いて行動してくれる部下に感謝だ。

「なんでもありませんが、自重、それだけはお願いします」

 自重――耳の痛い話だ。

 剣の腕も、弓も槍も、あと、魔法も使えない俺にできることは指揮くらいか。

 その指揮も実は怪しいときた。

 それなのに無我夢中で走って、敵と鉢合わせした訳だ。

 指揮も碌にしないで騎士より先に飛び込んでいった俺――何をする気だったのだと、騎士はいかに叱られてもお粗末な話だが、俺に反論できる余地は何もない。


 さて、騎士たちの個体戦力は今更、分析するまでもない。

 こいつらとは、1年、とにかく野戦から暗殺まで多くの場数をともに熟してきた仲間だ。

 断言できる、未だ多少、分からないこともあるが心強いといえる。



 放つ矢を潜り抜けてくる騎士からは、重圧を感じているはずだ。

 数で上回っていたゴブリンが、閂を諦めて守戦に回り始めたのが証拠といえるだろう。

 地下道のような場所で、地の利の利く縄張テリトリーり内であったなら、また違った展開もあったかもしれない。城砦の開けた地の水門という場では、やつらの連携攻撃もたかが知れている。

 ところどころの隠し通路から、腕を伸ばして切りつける。

 敵の意表を突く攻撃でなら、どんなに手練れでも必ずどこかでミスをする――それを待てば、ゴブリン必勝の型に相手を導くことができる。奴らの敗因があるとすれば、なぜ地上に出てきたのかだろう。

 

「これは勝負あったかな?」

 俺の目からも、弓によるけん制が多くなった。

 供回りの騎士が10いや、20くらいか。ゴブリンのが30を少し上回る雰囲気だろう。

 水門にひっついていた、大柄のゴブリンを盾役に回す族長。

 それが、大降りに腕を振り回す。

 獲物がないらしいが、騎士も距離を詰めてから大型のゴブリンより先に進むことができないでいた。

「そうでもないですね...」

 盾を構えている配下が告げた。

 ゴブリンの陣形は崩れている。

 だが、弓兵が矢玉を番い終えると、再び斉射を加えて騎士を脅かす。


 騎士の目が伏している俺に向けられた。

《そんな目をするなよ、こんな状況で何ができるってんだ》

 肉薄している仲間をどう、助ける? いや、走る前にもっと仲間を募るべきだったんだ。

 せめて30いや、50の騎士があれば――角笛の音色が響き渡る――来た、ご都合ボーナスターンの到来だ!

 俺様の強運、ここに極まれり。

 音色とともに、俺は城のほうを見る――リフルが騎兵を連れてきたのだ。

 短槍兵も多いようだが軍旗が見えた。

「宰相まで、きやがったか」

 心強いと思ったが、これはあれだな...リフルに継承権が戻った時のデモンストレーションだろうなと、思えた。少なくとも彼女に軍を率いて戦うイメージを植え付ける戦略だと理解できた。


「待たせた...かな?」

 彼なりの配慮だと思いたいが。

 ゴブリンにとっては、オーバーキルな戦力だろう。

「城壁のほうは?」


「六皇子が気を回してくれてな、自己陶酔の演説と鼓舞で死兵が息を吹き返して居るところだ。いや、それは表向きでな...エセクタ―嬢が懸命に回復魔法ヒールを唱えまわって治療しているから、持ち堪えておるだけだな」

 変な溜息を吐く。

 宰相の動かせる兵で1000を援軍として回してくれた。

 俺の目は慧眼じゃあない。

 普通だと思うが、周りが慧眼だと思っている節がある――そんな俺でも、1000の兵は多すぎる。

 もっと回すべき場所があるだろうと思いはしたが、パッとでは出てこない俺の頭。

「エセクターが? 今夜は眠らせてくれそうにないな」

 宰相の引き攣った笑みはわりと好きだ。

「一匹だけで良いんだが、事情の分かる奴を捉えてくれ」

 俺の注文は、共通認識だ。

 ゴブリンが人里を襲撃する理由がこれで分かればいい。

 

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