6話『出発と誕生』
1つ思ったことがある。
さっきの俺、やけにノリよかったなって。
だいたいブラッドが剣抜いたからって焦って戦う必要もなかったんだ、なんであんな、まるで戦わなければいけないっていう大前提があるかのように俺も剣を抜いてしまったのか....
っていう風に思うのはブラッドとの戦いが終わって2時間後くらい。俺はあれから神殿の神父から説教を食らっていた。一番気に入らないのはここにブラッドがいないこと。あいつが先に剣を抜いたってのに、神父は信じちゃくれない。くそが。
「んじゃまぁ今日は帰って、明日の準備をしなさい。今日みたいなことを明日はしないように」
「うす。さーせん」
ようやく終わり、適当な挨拶を済ませて外へ出る。もう日はだいぶ傾き、夕方に差し掛かろうとしていた。
早く帰ろうと神殿を出て家の方向へ10歩ほど進んだ時、視界に人影が入った。その人もこちらに気づき、呼びかける
「あ、ルシア!やっと終わったの〜?」
「え、なんでカレンはここにいるの?お前ここに残る必要無くない?」
待っていたのは唯一の女友達、カレンだ。ブラッドもカレンを狙っていたように、男子からの人気は高い、いわゆる『美少女』だ。
ただそのルックスに対して頭脳の方が付いていけないので、俺から言わせれば『残念系美少女』と言うわけだ。そこがいいじゃないか!って言ってた男子を見たことはあるけど。
「なんでって、ルシアを待ってたんだよ〜!明日について話し合いもしときたかったし」
「あぁ、そらどうも」
「思ってないでしょ」
カンは鋭い。でもまぁわざわざ待ってくれてたんだ、きちんと感謝はしなければ。口にすると調子に乗るから言いはしないけど。
「んじゃ帰ろっか」
「おう」
帰りはどんな説教食らったかとか、なんで俺がブラッド吹き飛ばせたのか、二人の能力についてなど、色々なことを話した。
あと、明日の集合時間も決まった。朝の9時である。休みの日の俺にとっては早い時間だ。絶対遅れるなって言われたから、遅れたら何をされるかわかったもんじゃないので、寝過ごすわけにはいかない。
朝が来た。自分で起きた。
「ん〜....!完璧だ。やはり早起きというのは大切なのか、体の調子がいいな。この朝は、これからの冒険に対しての希望の朝には相応しい....」
希望の朝は、部屋の時計を見て崩壊した。
『8:51 A.M.』
昨日ベットの下に準備していた新品の冒険用の服を着て、ドアを体で突き破るようにして部屋を出て、下へ行くとテーブルにトーストと昨日の晩飯の残り。母の言葉を聞いているようで聞かないまま、何も考えずに食べ物を口へ押し込む。入ってきたものを噛む運動をする顎には休憩をさせない。食べ終わって、洗顔、歯磨きを2分くらいで終わらせた。
「間に合っててくれーーー!」
そう言いながらドアを勢いよく開けると、その先は真っ暗で......
気づいたら玄関の天井を見ていた。
ここであるものに気づく。
「痛っ?!?!」
顔面と背中がとてつもなく痛い。何が起こった?!
「そりゃいたいよ〜。私のスキルだもん」
体の痛さに耐え、なんとかドアの方を見ると、昨日見たばかりのカレンがそこに立っていた。
「.....今何時何分?」
「9時10分!レディを待ち合わせから10分も待たせるとは、度胸があるじゃない」
起きてからそんなに経ってたか?!めっちゃ急いだし、そんな筈はないんだけど......
「お前、俺起きた時部屋の時計8:51ってなってたぞ。準備に20分もかからんぞ俺は」
「ルシアの部屋の時計10分遅れてるって前言ってなかったっけ」
「あっ.....」
起きた時にはもう手遅れだったようだ。
「でもまぁこのスキル強いな〜。全力の1/5で打ったのにこれだけ飛ぶんだもん」
「え、今なんて?!お前今日から共に冒険する大切なパートナーに対してスキル使って殴ったの?!」
「大切なってところはさておき、スキルは使ったね、うん」
「悪気は?」
「逆に悪気しかないよ〜!遅れた罰で、実験台になってもらったの!」
パートナーをスキルの実験台にだと....しかも笑いながらいいやがってこいつ.....
「俺の綺麗に整った顔が汚く歪んじまうだろ?!やめろよな....」
「ルシアって鏡で自分の顔見たことある?」
「毎日見て惚れちゃうぜ☆」
「それ鏡じゃなくてイケメンの人の写真だと思うよ」
「お前なんてことを?!」
「まぁそんなことどうでもいいから軽い出発式しようよ」
「そうだな」
出発式と言っても、俺とカレンの家族で集まってちょっと話をした後見送るだけだ。
出発式は俺の家の庭で行われた。俺の家族と、カレンの家族、それぞれの親戚数人で10人くらい集まった。
嬉しいことに、冒険には必要だからと、親戚たちからお小遣いがもらえた。俺は12000K、カレンは13000K程だ。これくらいあれば隣街に着いてからも2、3週間ほどは難なく生活できるだろう。ありがたい。
「んじゃ、そろそろ見送ることにしましょうか」
「そうですね。カレン、ルシア。死ぬなんてことがないようにしてくれ?」
「うん!死ぬの私も嫌だし!」
「みんなそうだな!ハハハ!」
親戚のおじさんあるある、どう反応していいかわからない笑いが発動したな。話をあわせて俺も苦笑しておく。
「んじゃ、ルシア行こーか!」
「ん、わかった」
さてじゃぁ出るか。まずは隣街まで歩き。それで1日が終わる予定だ。途中でモンスターと遭遇するのはあまりしたくないものだ。
「おい、ルシア」
背後から声を掛けられる。父さんだ。
「どーした?」
要件を聞いたはずが手招きさせる。指示通りに父さんの所へ行った。
それは、本当に小さく、周りには絶対に聞き取れない声であった。
「魔王相手に死ぬなよ」
「え....どういう....」
「ほら、カレンちゃんが待ってるぞ。行ってこい」
「ルシア〜!行くよ〜!」
その言葉の真相を聞きたかったが、2人に急かされるので仕方なく従う。
その、父親としてではない、元勇者としての言葉を。
そこは、廃れた土地。もうこの場所での栄光は数人の人間達によって途絶え、滅されている。ただ、一般に呼ぶ栄光とはまた別にするべきであろうが。
そんなところに、1人の人間と思われる者がいる。人間でいえば14歳くらいの少年。だが、彼の額からは禍々しい、相対する2本の角。これが彼が人間ではない証拠。
彼は、瓦礫の中で、淡く光るものを見つけた。光ると表現してよいのか、世の中では有り得ない、黒い輝き。それが、この世界の理に反した物であることがひと目でわかる。
「あったあった。これだよ、探してたのは」
彼はそう呟きながら、それを手に取る。黒い光が、さらに禍々しく輝きを増す。それを確認し、少年は口角を上げ、嗤う。この世界を嘲笑うように。
そこは、魔王城跡。勇者フレイと、魔王レオンが最後に闘った場所。15年前に闘ったはずであるのに、まだここには魔王の闇の魔力と、勇者の光の魔力が混在していた。
少年は呟く。
「所詮、ここも過去の産物だな」
そしてまた嗤う。世界を嘲笑って。
ほんとに間が開きました、青物です。
2ヶ月ほどこれに飽きて、別の作品読んでました(笑)。勉強です。
これからまた投稿していけたらなと思います!