第97話 ネズミの歯より愛を込めて
「で、歯が生やせるって、本当なの?冬華さん」
話が脱線したが、本題に戻ろうと冬華さんに話を振ると、当の冬華さんが全力で脱線した。
「アロイス様、私のことは冬華とお呼びください」
「え?」
「私のことは、冬華と」
「は?」
歯の話をしていたから、は?と言ってしまったわけではない。ああ、自分で言い訳するのが寒いな親父ギャグ擬き。
「今の私ではまだ、他の巫女御三方や、桜様、サマンサ様程には、アロイス様のお傍に侍ることができません」
「あのね冬華ちゃん、別に侍ってるわけじゃないから」
「なんなら側にいないことも多いしな、ハナちゃんと大して変わらんぞ」
あと、サマンサさんをその枠に入れるのは、本人的にはかなり不本意なんだと思うが。ほら見ろ、あの嫌そうな顔。気持ちは分からんでもないが、ちょっとは隠せよ、おい。
「ありがとうございます。でも、これは私の思いの問題なのです」
冬華さんは、春香さん、夏織さんにお礼を言ってから、また俺の方を向いた。
「ですから、一番お傍に居られるように、これから精進いたしますね」
そう言って、彼女は微笑んだ。その時だった、俺の背筋に悪寒が走った。こ、これはあれだ、かつては嫁様、そして最近では桜さんにやられたやつだ。
『お前は私の獲物だ、覚悟しろ』というやつです。
え、冬華さんそっち系なの?可愛い癒し系じゃないの?
「そ、そうか、あまり無理の無い範囲で、ね」
俺は必死に取り繕った。
で、結局歯の話と呼び捨ての話と傍に侍る話と、何がどう繋がっているのか良く分からんが、本題に戻ろう。
と思ったら、冬華さんの話は続いていた。
「私は、今はまだ、アロイス様の信頼を得られているとは思っておりません。契りも交わしておりませんし」
「こいつに信頼されても全くもって嬉しくないが」
秋音さん、話が進まなくなるから、ね?
「そんなことはない、冬華さ、冬華は俺の為に命を削ってまで働いてくれたじゃないか」
おっさんがこんな可愛い娘っ子相手に言うと、絵面的には最低ヒモ発言だな、おい。
「まあ、そのように言っていただけると、嬉しいですわ」
花がほころんだような笑顔だ、何言ってるか分からない?俺もだ。
「でも、心から相手を信頼できていない、そんな状態で苦痛を伴う術を受けるのは、きっとお辛いと思うのです」
「へ?」
「なに、苦痛を伴うだと?」
「ハナちゃん、ちょっとそこんとこ詳しく」
秋音さんと夏織さんが、俄然興味が湧いたらしく、身を乗り出してきた。
俺そっちのけで話始めた三人の横で聞いていると、冬華さんは歯に限らず身体欠損を修復することはできるらしいが、どうやら、相応の痛みを伴うらしい。
「ほうほう、では、歯の再生だと、一旦抜けて、そこから生えてくるような感じなのか?」
「そうですね、元の歯が残っている場合は、まずそれが抜けるときの痛みがあります。次に、歯が生える部分に急激に負荷が掛かりますから、その痛みも伴いますね」
「ほーん、それでは二重で痛いわけか」
「これは姉御、アレですな」
「…そうだな、主殿には頑張ってもらうことにしようか」
え、何か秋音さんが俺を主呼ばわりしてるんだけど、何か凄く嫌な予感が。三十六計逃げるに如かず、ここは戦略的撤退を敢行し、巻き返しを図らんとす。
「うーん、まあ冬華さんも疲れただろうし、そんな急ぐ話でも無いし、またの機会に」
「逃がすか」
いつの間にか後ろに来ていた夏織さんに、俺は羽交い絞めにされた。
「ちょ、どうしたの夏織さん、えらく積極的だな、今夜が待ちきれないか?」
普段の夏織さんなら、こう言えばあたふたと取り乱してくれるのだが、今日はそうでもなかったらしい。
「そ、そうだな、今夜が楽しみだが、ちょっとお願いがあってな」
「そんな、密着されて照れながらお願いされるとか、色々と我慢できなくなりそうなんだけどな」
「っ!で、お、お願いというのはな、すぐに歯を治して欲しいんだ」
夏織さん、きっと真っ赤になっているのだろう、囁かれた耳のすぐそばに熱を感じる。
「可愛いお願いだな、だが断る!」
俺としては言い切った。が、前から悠然と俺に話しかけてきたのは、秋音さんだった。
「何故断るの?主様の歯が尖っていると、私たち巫女の身体に傷が付いて痛いのだけれど」
何か前提とか全部すっ飛ばして、ぶっこんできやがりましたよこのエロフ。
その痛みもご褒美では?とか冬華さんが言ってるけど、でも確かに今の状態で突起を甘噛みされると痛いときもあるんですよね、とか桜さんが言ってるけど、その横で春香さん頷いてるけど!
いやいやいやいや、貴女たち真昼間から何ちゅうことを。
「乙女の身体に傷を付けるなんて、主として、男としてどうかと思うわ」
秋音さん、ド正論ですが、自分で乙女とか言っちゃうんですね。
「あんたの前で取り繕っても、もう仕方ないからな、言いたいように言わせてもらうわ。あ、あんなことまでさせられたからな!」
初めてだったのに!と色々ぶちまけて憤慨している秋音さんの隣で、私のときも散々だったと春香さんが便乗暴露している。
「ちょ、ちょっとそんな話は後でしてくれないか!同志春香!」
「あ、貴女には刺激が強かったわね、夏織」
夏織さんとは、割と普通に、だったからなぁ。
「ふー、ついうっかり本題を忘れるところだったわ、押さえていてね夏織さん」
「さっきから押さえてるよ、姉御」
いつの間にか長椅子に横向きに座らされていた俺の上に、秋音さんがのしかかってきた。こ、これはパイサンド!
「では、冬華さん、お願いしていいかしら?」
そう言うと、秋音さんは俺の口を強引に開いた。おおう、凄い握力だな、ナニを握られたら潰れそうだ。
「ふがっ」
「で、でもアロイス様は大丈夫でしょうか?」
器用にも俺にくっついたままの冬華さんが、困惑気味に顔を覗き込んでくる。いや、大丈夫じゃないよ、うん。そんな、麻酔も無しに歯を何本も抜くって。連続絶頂しちゃうから、逝っちゃうから止まらないからやめようね。
「大丈夫よ冬華ちゃん、コイツには多少痛い目くらい見てもらわないと、乙女の覚悟が浮かばれないわ」
「そういうことよ、冬華さん、貴女もどうせ契るなら、貴女が頑張ったみたいに、主様にも頑張ってもらって、ちゃんとした状態で噛まれる方が良いでしょう?」
「それはそうですね」
いやそこ即答するところでも内容でも無いから。なんで楽しそうなのよ貴女たち、ちょっと待て。
「はひぇ、ひょひょひひひははふんひゃ!」(訳:待て、そこに慈悲はあるんか!)
「んー?聞こえんなー」
そんなところで降臨するなや夏織獄長!
「男だろ、根性見せろや」
すみません根性無いです早くてすみません。
「…それにな、大丈夫だ、頑張ったらご褒美をやるからな、情婦春香をやるから頑張れ」
「な、何で私がご褒美になってるのよ!」
いや、それは確かにちょっと嬉しいかも、ってそうじゃない。
「やっておしまいなさい、冬華さん」
「はい!」
待って、それは駄目だ、光らせてはいけない憎しみの…
ああああーーーーっ!!!
全力でネタに走っております
楽しいです(ぉぃ)




