第94話 色々飛び過ぎ
「と、冬華さんは、大丈夫なの、か」
どう見たって大丈夫ではなさそうだが、俺は聞かずにはいられなかった。青い炎を全身に纏う彼女の、全身を覆っていたケロイド状の火傷痕は光り輝き、バラバラと剥がれ落ちていた。あまりに火傷痕の面積が広かったので、まるで彼女自身が崩れ去っていくようにも見えて、俺は寒気を感じた。
そう言えば、こんなに勢いよく燃えているのに、全然熱くない。
「冬華様は、自らの命を燃やされているのですよ、アロイス様」
俺の心を読んだように、桜さんが言った。
「命、を?」
「これが冬華様の選ばれた道です。凄い方ですよ、冬華様は」
どういうことだ、情報が少な過ぎて、さっぱり話が読めない。しかし、さっきから嫌な予感が止まらない。このままでは、きっと最悪の結末に向かうのだろう。
「あ、アロイス様を、受け入れなさい、秋音様」
冬華さんが、秋音さんを見据えて告げた。その様は、まるで青い炎を纏った断罪の天使だ。はっ、その者青き(以下略)
「ふ、ふざけるな!こ、こんな、こんな」
秋音さんが猛抗議している。そりゃそうだろう、いきなり呼び出されたかと思えば、毛嫌いしてる男と寝なきゃ住んでる村ごと滅ぼしてやる、って恫喝されてるわけだからな。荒唐無稽もここに極まれり、な話だ。
「さもなくば、私が、この手で貴女の、里を消し飛ばします」
そしてこの冬華さんの変貌っぷりは一体何だと言うんだ。違和感しかないんだが、そこまでしてでも俺に巫女を揃えさせたいのか。桜さんの指金、そればかりでも無さそうなんだが。
俺が不思議なくらい冷静に考えていると、横から声が聞こえた。この声は、サマンサさんかな。
「た、耐えるどころか、制御しつつあるなんて、本当に人間か?」
「アロイス様は人間ですよ、サマンサ」
え?俺の話なの?さっきから耐えてるとか何とか言ってるけど。まあ痛みには必死に耐えてるけど、って、あれ?
「し、しかし桜様、これは既に人間の領域では無いのでは」
「ふふっ、それは、きっとアロイス様のお体と、そしてこの場所にも、それを可能にする要素がある、ということでしょう」
桜さんは、冬華さんからサマンサさんに向けていた視線を、改めて俺に向けた。それは、蕩けるように俺に絡んだ。
「場所に拠るとは言え、それは不完全な状態だからこそです。逆に、よもやこの段階で、と思いますよ。素晴らしいですわ、アロイス様」
場所、場所、…場所ねぇ。俺が場所について思いをはせていると、まさしくその話題が飛び出した。
「…ぐ、こ、こんな面妖な場所で、そんな血迷い事を言われても信じられんわ!」
「では、ここではなく天蓋付きのベッドの上なら、股を開いても良いと言うのですか?雰囲気が大事だと?意外とロマンチストなのですね、秋音様」
「な、そのベッドとか、ロマンチストとかいうのは何か分からんが、そういう問題では無い!!」
話が思いっきり明後日の方向に飛んだな。しかし、どこでそんな言葉仕入れたんだ冬華さん。ってまあ、アレしかないか。
「まあ、これは私としたことが配慮不足でしたわ。夏織様のときは布団に白襦袢までご用意いたしましたのに、何たる失態。冬華様、すぐに準備いたします」
「お願いいたします、桜様」
「だから、そういう問題ではないと言っている!!」
桜さんと冬華さんとの会話に、秋音さんが突っ込む。しかし、効果が無いようだ。
「ふぉっふぉっふぉ、私もお手伝いいたしますぞ」
「お部屋は奥の休憩室でよろしいですか、桜様」
「はい、それでお願いしますね」
桜さんは、師匠とサマンサさんを連れて、そそくさとレジの奥に入っていった。そこの扉、スタッフ以外ご遠慮ください、って書いてあるけど、まあ今更か…。
「ねえ夏織、布団に白襦袢って、どういうこと?」
「はわ、あ、あれは何と言うかな、成り行きというか、仕方なくというか、って散々言ったろ!」
「へぇ、そうなんだ」
「ああ、心配しなくても、一番情婦の座を奪うつもりは毛頭ないから安心しろって、な?」
「誰が一番情婦よ!っていうか情婦じゃないって!」
「まあまあ、これからは、穴兄弟ならぬ、さ、竿姉妹?ってやつにゃんだから、な?」
「自分で言っといて、茹で蛸みたいに真っ赤になって恥ずかしがるの、相変わらずねぇ。そんなこと無理して言わなくてもいいから、はぁ…」
場外では、相変わらずな会話を繰り広げている二人がいた。夏織さんはやっぱり自爆癖でもあるのだろうか、実はMっ気旺盛とか。今度言葉責めでもしてみようかね。
「だから、誰か私の話を聞け!!」
アニメショップのビデオコーナー、床に転がった中年オヤジ、ローアングルから見上げるミニスカエロフハンターと、全裸で宙に浮き青く萌える少女。
…息子たちよ、息災だろうか。今日もこちらは平和で、お父さんも元気です。
入れようかどうか悩んだ小噺はこちら。
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夏織「なあ同志春香、これって修羅場なのか?それとも辻劇みたく笑うところなのか?」
春香「そんなこと私に聞かないでよ、来たばっかりで分かるわけないでしょ」
夏織「そうだな、朴念仁春香に聞いても仕方ないよなぁ」
春香「何よそれ、私が色事に疎いって言いたいわけ?」
夏織「違うのか?」
春香「私だってね、色々と経験してるのよ!」
夏織「そうなのか?じゃあ、どんな経験してるんだよ」
春香「そうねぇ、例えば…」
夏織「…(ぷしゅう)」
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人生楽しんだもん勝ちです、はい。




