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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、覇(歯)道を往く
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第93話 混沌が混沌を呼ぶ

「では、冬華様。冬華様はどうされたいのですか?」


 桜さんの抽象的過ぎる質問に、冬華さんは少し思案したのち、答えた。


「私は、自分の心に正直に生きたいのです。もう、心を殺すのには疲れました」

「そうですか、それはとても良いことかと思いますよ、冬華様」

「ありがとうございます、桜様」


 笑みを浮かべる桜さんに、冬華さんは、しかし悲しそうに微笑んだ。


「でも、私の心のままに生きることは、もう難しいのです」

「何故ですか?」

「私の体は、もう、アロイス様を受け入れること能いませぬ故」

「大丈夫だ、冬華さん。前が駄目なら後ろが「大丈夫ですよ、冬華様。問題はありません」


 俺の言葉を遮り、桜さんが優しく告げた。


「し、しかし私は自ら油を被り火を付けたばかりか、あまつさえ女の部分を焼いたのです。私の体は、もう…」


 そう言うと、冬華さんは桜さんから目を逸らした。周りがどう、という話ではなく、彼女自身がそう思っているのだ。心に刻まれた痕が薄くなるには、時間が掛かるのだろうな、きっと。とか俺が思っていると。


「冬華様、今、貴女様の体には、火傷痕などありませんよ」

「えっ?」


 桜さんの言葉を聞いたその時になって、冬華さんは、やっと自分の格好を顧みた。彼女の中では、一糸纏わぬその姿を晒しているという羞恥の感情以上に、驚きが勝ったようだった。


「こ、これは、浄化の炎?え、何故」


 浄化の炎って何?ねえ、さっきから知らないネタが多過ぎる気がするんだけど誰か教えてよプリーズ。


「しかし、冬華様、今の冬華様の状態は非常に不安定なのです」


 冬華さんの戸惑いを他所に、桜さんは言葉を続けた。説明する気は元から無さそうだが、そういうことを言ってはいけないのですね、はい。俺は空気が読める男です。


「このままでは、程なく冬華様の法力が暴走し、ここ神霊の森や、森霊族の里が吹き飛びます」

「な、そんなことが…」


 自分が無関係な人たちを傷付ける可能性があると知り、冬華さんの表情は見る見るうちに沈んでいった。桜さんは、次に俺を見て言った。


「ですがアロイス様、今の状態の冬華様と契りを交わすことは出来ません。お二人に掛かる負荷が高過ぎるのです」

「ま、まさか、だからって、秋音さんに無理強いするのは違うんじゃないか?」

「しかし、現状それしか方法は無いのです、アロイス様。それとも」


 桜さんは秋音さんを一瞥すると、無慈悲にもこう告げた。


「森霊族を見殺しにしますか?」


 ど、どこから突っ込めばいいんだ、ちょっと難易度高過ぎないか?俺は思わず秋音さんを見やった。彼女は、顔面蒼白だった。


「わ、私が、こ、この変態と契る、だと?ぐぅっ!」


 秋音さんがまた悶え始めた。まさか、また冬華さんが圧を掛けているのか?


「いけません、アロイス様、このままでは、冬華様が暗黒面に囚われてしまいます」


 なんと、ダークサイドに堕ちるというのか、冬華さん。彼女を見ると、左目の闇が深くなっていた。ある意味火傷痕のあった冬華さんなら、イメージ通りと言われればそうかも。


「でも仮面が無いからまだ駄目だ!」

「そういう問題じゃないでしょ!」


 乳神様に突っ込まれた。何故だ、暗黒面と言えば、シュコー、シュコーの人しか思い浮かばないだろ。


「なんか、アロイス殿の意味不明さが増してないか、同志春香」

「そうね、ここまで来ると、意思疎通も怪しくなってくるわね」


 急に現れた春香さんと夏織さんは、目の前で繰り広げられる非現実的な状況にも動じることなく、落ち着いて観察し、話をしている。俺もそうなのだが、この二人も、なんでこんなに冷静なの?俺は、もっと他に考えることはあるのは分かっているのだが、先ほどからどうにも思考が振り回されてる気がする。流石の俺も、こんな状況下で下らないジョークを飛ばしたりなど、しない程度の常識は持ち合わせていたはずなのだが。


 やはり、何かおかしい。


 俺は桜さんを見た。彼女と目が合う、そして、満面の笑顔を浮かべた彼女は、とてつもなく、黒かった。俺は確信した。ああ、これは、絶対に。


「桜、俺が秋音さんを巫女にすれば、良いんだな」

「なっ、貴様勝手に話を進めるな!」


 秋音さんが吼えたが、俺は顧みることなく桜さんを見ていた。


「そうです、ご賢察のとおりですわ、アロイス様」


 桜さんは、こうなることが分かっていたのだろう。そして、冬華さんを暴走させることで、秋音さんを追い込んだ。


 夏織さんのときと、同じじゃないか。


 違うのは、夏織さんは冬華さんその人を慮った。秋音さんは、そこまで情に脆いわけではないだろう。冬華さんの境遇に同情こそすれ、知り合って間もない冬華さんの為に自分を犠牲にするなど、考えないだろうな。

 だが、共に生活してきた里の人間を人質にされたら、どうなるだろうか。姉御肌だという秋音さんなら、きっと。


「俺が秋音さんを巫女にすれば、森霊族の里は吹き飛ばずに済むんだな」

「その通りです、秋音様」

「なっ!!」


 俺の問いに対し、桜さんは秋音さんに返した。当の秋音さんは、戸惑うどころの騒ぎではなかった。


「わ、私が、そんな無茶苦茶な、荒唐無稽な話を信じて、このへ、男と契れば、いや、契らなければ、里が吹き飛ぶと、本気でおっしゃっているのですか、桜様、いや、さ…」

「それ以上はお控えなさいませ、秋音様」


 秋音さんが桜さんの名前に続いて、何かを言おうとした瞬間、凄まじい圧がその場を覆った。その後続いた桜さんの言葉は、やんわりしたものだったが、そこには声音とは全く合わない、有無を言わせない強烈な力があった。


 それと同時に、俺の頭の中で、何かが外れたような感覚があった。


 一気に、熱が頭の中心、そして前頭葉に集まる。まるで火箸を突っ込まれたような、ハンマーで殴られるような、灼熱と痛みの感覚が、俺の脳内を暴れまわった。天断さんを抜いた時の感覚を更に酷くしたような、そんな苦しさに、俺は頭を抱えて思わずその場に崩れ落ちた。


「ぐああっ、さ、桜、何をした!」


 頭を両手で押さえつけながら、俺は吹き飛びそうになる意識を必死に保ちつつ、桜さんに詰問した。一瞬視界に入った桜さんの顔は、俺の方を見ていて、驚愕と、そして恍惚に満ちていた。


「し、信じられない、まだ耐えるのか…」


 こ、これは桜さんじゃない、サマンサさんの声だ。一体何が起きているんだ、もう痛くて熱くて、何も考えられなくなりそうだ。


「やはり貴方は素晴らしい方です、アロイス様。でも申し訳ありません、今は詳らかにしている時間は無いのです」


 桜さんは微笑みながらそう言うと、俺から視線を外した。彼女の視線の先には、轟々と青く燃え盛る冬華さんがいた。

今回のあらすじ?

冬華は暴走するのか、しないのか。

どっちにしろ秋音は逃げられない。


推敲する時間が無いよう…

※タイトルは筆者の頭だったり(ぉぃ

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